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ミクロワールドサービスが顕微鏡の世界を伝えるコーナーです。
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2018年2月28日
この画像の真ん中に写っているヤブレガサのようなものは海綿骨針です。珪藻土を大量処理すると,放散虫と一種に出てきます。重いのである程度の沈降分離は可能です。微小なシリカのパイプである海綿骨針が主ですが,イカリ型や鉤針型など,いろいろな形状があるようです。で,このヤブレガサタイプは手持ちの試料からはけっこう貴重で,それほどの数は出てきません。放散虫リクノカノマも珍しいですが,それより数が少ない感じです。
希少ということは,集めるのに大変な労力が必要ということに他なりませんが,だからといって,このようなものにニーズがあるはずもなく,価格はつけようがありません。1個5,000円でも,少しもおかしくありませんが,それでは誰も購入しないでしょう。かといって使わないのももったいない。ので,涙をのんで,微化石セットに忍ばせたりするのです…(画像/MWS)。
2018年2月27日
家庭用包丁は謎が多いような気がします。。三徳包丁は万能といわれますが,家庭で魚を下ろしたり骨付き肉をさばいたりといったことが珍しくなった現代では,三徳包丁でなくても事足りることが多いでしょう。菜切りも,あの形に意味があるとは思うのですが,そして確かに野菜を刻んでいるときには使いやすいのですが,三徳と使い分ける必要がある場面は少ない気がします。そして三徳包丁も形状がいろいろです。鋼材もいろいろ。使い勝手もいろいろです。どんなものが使いやすいかは,使ってみなければわかりません。
きょうの画像は手元にある包丁をいくつか並べてみたもの。左の2本はステンレスの安物で1本千円程度のものです。しかし形はよく考えられていて使い勝手はそれほど悪くはありません。ただ鋼材がやわらかすぎて,すぐに研ぎ減ってしまいますので,効率が悪いのです。一本は数年で研ぎ潰してしまい,三徳は二本目です。最近は三徳も菜切りも完璧な両刃に刃付けして,果物用に使っています。メロンもスイカも真っ直ぐに切れます。
真ん中の手打ち三徳は堺の高級品。毎日使うからよいものを買おうと定評ある老舗ブランドを購入したものです。ところがこれが使いにくく,鋼材の焼きが硬すぎてポロ欠けします。相当に研いで減らさないと粘りは出てこないと思います。先端の形状と刃線のバランスも今ひとつです。鏡面化したあとに内曇りをかけて日本刀のように丁寧に手入れをしていましたが,最近では飾りです。
その隣は廃品から回収した三徳。これは割り込みの利器材を使ったもので切れ味は悪くありません。使い勝手はまあまあなのですが,ハンドルと峰側の形状,先端の形状が今ひとつです。焼きは適当で,硬さと粘りのバランスはよいので,ゴボウなどを切っていても簡単には鈍らない感じがします。アゴの部分の角度がバランスが悪く,ここは切り落としたいところです。
そして右端は廃品から回収した船行包丁。安価な合わせで,焼きが甘く鈍るのが早めですが,ポロ欠けしないので硬めの食材でも安心感があります。先端の形状と刃線のバランスがよく,また,柄と刃の重さのバランスがよろしいです。重量は軽い感じです。これを使うと,ふしぎと他の三徳には戻りたくない感じがします。手になじむというのはこういうことを言うのでしょうか(画像/MWS)。
2018年2月26日
レンズを拭くときにどんな溶剤を使えばいいのかは自明ではありません。むしろ,よくわからない…のです。古い時代のレンズはキシレンで拭くと書いてあるものもありますし,エタノール不可と書いてあるものもあります。最近のレンズでは純エタノールで何ともないレンズ(接眼レンズなど)があるかと思えば,指定の溶剤を使ってもバル切れが起こるらしいものもあって頭を抱えます。
きょうの画像はツァイスさんが供給しているレンズクリーナー液。昔のものは酢酸エチル/エタノール/ジエチルエーテルの混合物でよく知られたものです。その後に供給されているものはノルマルヘキサンにイソプロパノールの混液。こちらの方が溶剤としてはマイルドですね。ただ,ノルマルヘキサンは毒性があるので換気にはじゅうぶんな注意が必要です。
オリンパスさんはEE-3310などの溶媒を取り扱っていますし,ツァイスさんも光学用の溶媒を扱っているのに,ニコンさんでは光学用の溶媒をカタログ等で見たことがありません。存在しているのでしょうか?
ニコンの使用説明書などを読んでいると,ショートバレル時代や携帯顕微鏡H型では,レンズはキシロールを用いて拭くようにと書いてあります。CF対物を使った顕微鏡のごく初期の説明書(BIOPHOT)には,CF対物(油浸)もキシロールで拭くと書いてあります。これがOPTIPHOTの説明書になると,同じCF対物でも,石油ベンヂンで拭くと書いてあります。
レンズ製造,設計データを持たない我々には,レンズ清拭に適した溶媒を判断することができません。なので,メーカーさんは,各種の対物レンズについて,使用可能な溶媒を販売するか,使って良い溶媒一覧を開示すべきと思うのです(画像/MWS)。
2018年2月25日
24日はドイツ発祥の世界的顕微鏡メーカーの幹部(日本法人)と,顕微鏡映像会社の代表2名の訪問を受けまして顕微鏡の午後となりました。以前からお申し込みを頂いていたのですが機会がなく,ようやく実現となりました。仕事内容をご覧頂くということで種々の作業について実演しました。その道なんじゅうねんの大先生のご訪問ですから,それは大変な仕事ではあるのです。でもその道の大先輩でも,見てみたい未知の領域があるからこそ当室に来て下さるわけです。ならば,手の内をさらけ出して,大サービスをして何でもみてもらいましょう…となるのです。
もちろん,そのあとはささやかな宴会となり,そこいらへんのスーパーで売っている食材でも,包丁がよかったら,けっこう食えるものになったりする実例をご覧頂いたりして,多量のアルコホールをアセトアルデヒド→酢酸にしながら,あっというまに7時間を超える顕微鏡の午後も終わりを迎えるのです。
画像は終わったあとの機材の様子。片づけにたっぷり2時間くらいはかかりますね。これは…。余韻に浸るにはちょうど良い感じです
(画像/MWS)。
2018年2月24日
きょうの画像は高分解能イメージングをするときの拡大率の例。微細構造の情報を劣化させることなく素子上に伝えるには,写したい最小構造を素子の画素ピッチよりもじゅうぶんに大きく拡大する必要があります(サンプリングの定理)。またそれだけでなく,素子のノイズによっても像は劣化するので,ノイズがじゅうぶん目立たなくなる程度の無効拡大も有効です。もちろん,ノイズは平均化によっても減らせます。
画像に写っている珪藻の最小構造は180nmラインアンドスペース程度です。重ねてあるスケール(対物ミクロ)は10μmです。web掲載の画像は横700に縮小してありますが,イメージング時には,横1280で撮影しています。この程度の拡大率であれば,対物レンズが分解した最小構造を劣化することなく素子上に伝えることができます。ただ,あまりに拡大すると視野が狭くなります。大型センサを使えばいいのですが,モノクロ/高感度で手頃なセンサが見あたりません…(画像/MWS)。
2018年2月23日
二つあるゴニオステージの動きが渋いのでメンテナンス。気温が高ければいいのですが,暖房のない当室で使うにはグリスが固すぎてよろしくありません。顕微鏡など精密機器は冬場に無理に動かすと壊れるというのは,たびたび本ページでも指摘してきたところです。ので,ゴニオも冬向けにしてしまおうというわけです。
こういったものが固くなってくるのはリチウムグリスが固化してきているというのがよくあるパターンなので,EE-3310で溶かしつつ,グリス交換をしてみます。それで一個は調子よくなり,まあいいか,という感じになりました。ところがもう一つは,グリスを洗い流してみても固いままです。ふーむ。
ゴニオステージは構造を見ればわかるように,「これを分解すると泥沼になるぞ!」という格好をしています。じつに分解したくない。単純な構造だけに,ネジの締め方一つで動かなくなることは容易に予想がつきます。さーてどうするべえか。。。しかし考えるに,グリスを落としても動きが固いということは,分解履歴があることを示している可能性があるので,もしそうならば分解して調整しなければなりません。えーいやってしまえ…というのがきょうの画像。
分解すればグリス交換は簡単。組み立ても構造的には難しいことはない。さてネジをしめてみましょう……orz
予想通りに泥沼です。ほんの少しの締め具合で動かなくなります。ネジをきちっと締めないで,ゆるく締めた状態で使えば問題ありませんが,そんなインチキが許されるはずはありません。干渉顕微鏡で見れば干渉縞が暴れ回ることでしょう。ということで何度もネジを締め直し,ネジの締め方の法則性を発見し,最終的に満足行く仕上がりになるまで十数分かかったでしょうか。まぁ終わりよければ全てよし,なのかも。片側を締めて反対を外して締める。その反対を外して締める。その反対を外して締める,ということを繰り返すと回転部分の心出しができることを発見し,組み付ければバックラッシュもなく,事なきを得たのでした(画像/MWS)。
2018年2月22日
当サービスでは珪藻や放散虫の個体を納品することも可能です。全ての手持ちサンプルで応じられるわけではありませんが放散虫では乾燥試料の提供も可能です。イメージング用,SEMなどの展示用,X線CTのサンプルなどとして納品実績があります。洗浄済みで傷や破損の少ない個体を拾い上げ,金属缶に入れての納品となります。画像は今年に入ってから納品したもの。良質な放散虫個体が金属板の上にのっています(画像/MWS)。
2018年2月21日
出版業界は不況に突入してから,大手取次を銀行代わりにして,カネを引き出すために本を出版するという本末転倒なことになってきています。よく知られているように,全体の売上げは減っているのに出版点数は増えているのです。売れなくても取次に出荷すればカネが引き出せるので,売れない本を大量に作って換金しているのです。
もちろんこれはマクロで見た場合の平均的な話であって,個々の本に目を向ければ良書はたくさんあります。しかし問題は,洪水のように出版される大量の本の中が出回る現状において,人々に良書をうまく宣伝するよい方法がなかなかないのです。よい本でも認知してもらえない。出版されて数年を経てから,こんな本があったのか! という経験は皆さんも何度も経験しておられるかと思います。
こうした現状で威力を発揮するのが各種のメディアで,特にテレビは強力です。出版業界では『徹子の部屋』に出演するのが効果的というのは有名な話ですが,ほかの番組でも,よほど深夜や早朝でもなければ多くの人が見ていますので,効果は見込めます。出版社側もそのことをよく知っていて,著者のテレビへの出演が決まると増刷をかけ,営業さんが売り込みをかけて,書店では「著者が○○に出演!」などとポップを立てて販売体制を整えます。レギュラー番組の場合は,テレビ出演はだいたい3ヶ月前には判明しますから印刷屋に発注して刷り上がるまでの時間はあるのです。
多くの人が見ているゴールデンタイムともなれば,5分程度の時間でもかなりの効果が見込め,出版を知らなかった人にも認識して頂けます。制作費も含めれば5分程度の放映でも広告費に換算すると数百万〜1千万円の桁になるので,著者がテレビに出演するというのは,出版社は何の費用も支払うことなく,著者にそれだけの金額の広告をしてもらったことになります。新聞などでも同様ですが,著者がメディアに出るというのは出版社にとって大事なことなのです。
無事に放映されれば,例えば,誰も知らなかった1400円,4000部発行くらいの本が広く認知され,その本が多くの人の関心を惹きつけるなら,数万部の売上げになってしまうといったことが起こってしまうのです。これは一度に数百万人が視聴するテレビならではの現象です。著者がテレビに出れば,その本を製作した編集者は,よい本を作ったこと,テレビに出るような人材を見抜いて発掘したことに対して,高い評価を受け周囲から次々と祝福されることでしょう。
業界の平均として,売上げからの出版社の取り分は約60%ですから,1400円で4000部ならは336万円にしかなりません。しかしテレビ放映で4万部売れたとすれば3360万円が出版社の取り分となります(著者は10%の取り分とすると560万円です)。このくらいの金額になると中小出版社にとっては,それなりの大きな数字で,経営にも余裕が出ることでしょう。
この話からわかることはいろいろあるのですが,まずは営業戦略の大切さ。業界の構造は判明しているわけですから,作った→取次に託した,という従来の流れではどうにもならないことは明白です。Webを活用してSNS等を有効に使うことはもとより,新聞,テレビ,列車の吊り広告,あらゆる手段を使って人の目に触れさせることが第一です。「良い物を作っているのに売れない」とぼやいても仕方のない時代になってしまったのです。逆にいえば,営業努力をしない大多数の書籍は情報洪水に埋もれていくので,出版社と著者が緊密に協力してマスコミ・テレビ経由での売り込みを行えば,頭一つ抜け出すことができ,確実に効果が見込めるともいえるのです。
書店でたまに見かける○○(番組)に著者が出演!などと書いてあるPOPには,そんな背景があるのでした。
さてきょうの画像はそんな話題とは関係なさそうな九州らーめん桜島。最後に食べたのは昨年8月28日でしたが,なんとなくそろそろ食べたい気がします。半年に一度くらい食べたくなるようです(笑)。このラーメン屋を知ったのは,地元の広告紙『ショッパー』だったのでした。小学校の終わりだったか中学に入った頃だったか,便秘気味だった筆者は『ショッパー』をトイレで眺めて「流域紀行八王子」というすぐれたエッセイを読むのが常でしたが,そのショッパーにひときわ大きく広告が載っていて「ぼくの大好きなみそわかめ」と子どもがラーメンを前にニコニコしている写真が載っていたのでした。
それを見てみそわかめが食べたくなり,親に連れて行ってもらったのが最初と記憶しています。その後,このラーメン屋の近くの高等学校に通うことになり,何度も食べて味に慣れ,ギョウザのおいしさもわかり,30年以上を経過した現在もたまには立ち寄るのです。きっと10万円以上はこのラーメン屋に費やしていることでしょう。何人もの人に紹介もしました。 …というように,メディアを通して目に触れる,というのはとてつもなく大きい効力があるのです。わはは(画像/MWS)。
2018年2月20日
久しぶりに蔵書印を取り出しました。ツゲ材のものは学生時代に知人の印章店で作ってもらったもの。石材のものは親戚で篆刻をやっていた人に作ってもらったものです。大学院修士課程の頃です。学生時代はとにかく専門書を買い込む毎日でしたし,大学院生時代は研究室に本棚一つ分の専門書を持ち込んで皆に開放していましたので,蔵書印は必須でした。本は売っても二束三文なので売る気はなく蔵書印を押しても差し支えありません。
個人事業主になってから通学時間,通勤時間というものがなくなり,読書時間がなくなってしまいました。それに伴って書籍購入量が減り,人に貸すこともなくなってきて,蔵書印を押すことがすっかりなくなりました。しかし先日,田中阿歌麿の「湖沼の研究」を手にしてしまったので,これには押してもいいかもと思ったのでした。
筆者の活動のすべての出発点は,小学校にあがる前ころに眺めていた日本の湖沼の写真ではないかと思っています。北海道から九州までの湖沼の写真が掲載されたダイアリーだったのですが,飽きもせず眺めていました。その後に釣りをするようになり,渓流魚に魅せられ,水環境に興味を持ち,海洋系の大学に進学して,海洋化学系の講座を出て,といった経歴を辿ってきました。どこにでも「水」があるのです。
そんなわけで,吉村信吉の「湖沼学」には,特別重要な本にしか使わない蔵書印が押されています。田中阿歌麿の「湖沼の研究」が入荷したからには,これにも押すべきかな,と思ったのです。ハンコ一つ押すだけの作業でそんなに真面目に考えることもない気もちらっとしますが,こういった儀式的な作業は,アイデンティティの確認でもあるので,たまには真面目に振り返り,どんな仕事で世の中の役に立っていくべきなのかを考えることも必要なのかもと思ったりもしています(画像/MWS)。
2018年2月19日
自分でうみだした物は自分の手で始末しないといけないのかもしれません。それで書店に転がっていた自著を回収してきました。仕事で必要なとき以外は目をそむけて暮らしていますが,目をつむって買い物をするわけにもいかず,久しぶりに視界に入りました。見るといろんなことが思い出されますが,きょうは初回の話をしましょうか。
担当さんから最初の執筆依頼を頂いたとき,まずはメールで訪問の連絡があり,のちに当室で執筆依頼を頂くという流れでした。写真集を出したいというご要望でした。担当者が話すことがなくなったそぶりを見せたので一つだけ質問をしてみました。
筆者:一つだけ聞いてもいいですか?
担当:はい。何でしょうか。
筆者:この出版の話は,私がお金を払う出版ですか?
担当:は?
筆者:つまり自費出版ビジネスなのかということです。
担当:違いますよお〜。所定の印税をお支払いしますよ。
筆者:出版費用は貴社負担の商業出版と考えてよいのですね?
という感じのやりとりがありました。担当さんは熱心に仕事の依頼をしたわけですが,自費出版なのか商業出版なのか,その中間なのか,そして著作権使用料の支払いはあるのかないのか,あるのならそれは原稿料なのか印税なのか,印税なら刷り印税なのか売上げ印税なのか,印税率はどのくらいなのか,といった情報には一切ふれませんでした。仕事の依頼にあたっての書類は何もありませんでした。
このように情報を隠されてしまうと,ビジネスとして仕事を引き受けるかどうか判断材料がありません。下手に引き受けると,働かされた上に印刷代まで支払わされる自費出版ビジネスだったなどという可能性が否定できないので,失礼を承知の上で質問させて頂いたわけです。
人に仕事を頼むのに費用負担や対価の話を一切しない。隠す。出版業界ではけっこうあるんですよね,こういうやり方が。もし信頼関係をベースにした出版契約を結びたいなら,こういったやり方がプラスになるとは思えません。著者と出版社で情報の非対称を生じさせ,取引を有利に進めようとするなら,情報はなるべく与えない方がいいので,こういった旧来のやり方が役立つこともあるでしょうが。初回の打ち合わせで出版社さんがどのような情報を提供してくれるかということは,著者にとっては注目すべきポイントかもしれません(画像/MWS)。
2018年2月18日
せんじつタコを薄切りにした100年前のふぐ引きは,あまりにも痩せてしまっていて最後はベタ研ぎで使われていました。切れ味的にはベタ研ぎでも構わないのですが,できれば切刃をつけて包丁らしくしたいところです。ので,えいやとやってみました。きょうはその備忘録。
まずはサビ落とし。#320〜#1000程度の耐水ペーパーとコルク栓などを使って表をゴシゴシします。空研ぎです。空研ぎが終わった段階では表面が波打っているので,砥石で石研ぎして平面を出します。少し曇らせるため,シャプトンオレンジに大村砥を擦りつけた状態のものでピッタリつけて平面研磨します。
次に裏ですが,裏すきを壊すとまずいので,サビ取り消しゴムに耐水ペーパーを巻き付けて,中心線を掘るように磨きます。多少は裏すきが深くなるように慎重に削ります。峰側は多少削れても大丈夫ですが,刃先側を削ってしまうと使い物にならなくなるので注意が必要です。
表を空研ぎしていると,もともとついていた鎬のラインがうっすらと浮かび上がってくるので,そのラインを参考に切刃を再生することにします。しかし参考の形があるとはいえ,身幅がせまい包丁でベタ研ぎのものに切刃をつけるのですから,これは大変です。切刃の幅は指先の幅よりも狭いので,そこに切刃の面をつけるのがどれほど困難かは,経験者には想像できることと思います。
刃が薄く研磨量も多くはないので,シャプトンオレンジから研磨をはじめます。まず刃先を砥石に当てて,そこから少しだけ刃元を削る要領で縦研ぎしてみます。削られている部分を確認しつつ,刃先側の刃元側から徐々に切刃をつけていき,切っ先までつなげます。刃がしなるので手をきちっと決めないと波打ってしまい難しい作業です。切っ先までつながったら横研ぎして刃元から切っ先までの凸凹をならします。この時点での切刃は3〜4ミリメートルくらいです。
凹凸慣らしが終われば,ひとまず砥石の面だしをします。シャプトンオレンジと大村砥で三面法によるのが最速です。包丁の場合は鉋研ぎのような高度な平面は不要なので,あまり精密にやる必要はありません。面だしが終われば切刃をぴったり当てて「面」を感じながら切刃の幅を広げていきます。もともとベタ研ぎの状態ですから,少しでも手が滑ってしまえば鎬を通り越して見た目がおかしくなります。ので,慎重に刃先を意識する感じでゆっくりと切刃を広げます。
シャプトンオレンジで研ぎ終われば,スエヒロ工具用の#3000で光らせます。このときの輝き具合で切刃と鎬が見えやすくなるので,修正研磨も#3000で行います。かなり時間がかかりますが,鋼の砥石へのかかりはよいので,確実に研磨できます。
切刃をつくり終えたら裏研ぎします。錆が深く残っているので,シャプトンオレンジでどんどん削ってしまいます。次にスエヒロ工具用#3000です。この段階で一応,包丁としてはできあがっていますが,切っ先の形などを修正して,鎬のラインなどを微調整しておきます。
仕上げはスエヒロ化学仕上げ砥石GC竹色を使い,表,裏とも鏡面仕上げにします。錆が残っている包丁はできる限り鏡面仕上げにしてしまい,汚れの付着を防止したほうが錆の拡大を防げます。裏も切刃もピカピカにして,最後は少し立てて刃先を研ぎ,裏押ししてまた刃先を研ぎ,裏押しして終了です。このあと雑用紙でカエリ取りを行い,洗って拭いて乾燥して,ふぐ引きの切刃再生はお仕舞いです。
画像は再生後のもの。鎬が不明瞭です。これは元がベタ研ぎのところに切刃をつけたわけですので,きっちり鎬を立てるのは現実的ではないからです。何しろこの包丁,刃元の幅が22ミリメートル。切刃の幅が8ミリメートル。刃元の峰の厚み3ミリメートル弱。少しでも手が滑れば大怪我という恐ろしさ。さらに削り込んで鎬を立てるなどと考えてはいけません。危なすぎます。
切れ味テストに解凍もののビンチョウマグロを切ってみましたが,口の中でばらけてしまうようなマグロも,少しも身崩れを起こすことなく切れたといえば,切れ味を想像してもらえるでしょうか…。まぁ作業の甲斐はあったようです。
それにしてもふしぎなのは,こういった作業,誰にも習ったことがないのですが,まるで何かに導かれるように一心不乱に手が動き,最終的にはできあがってしまいます。研ぎは集中的にいろいろやってきましたので,ブランクがあっても体が覚えているという感じです。しかし体が覚えていても継続していないので筋肉は怠けていて,翌日は体の節々が痛いという,当然予想された事態が襲ってきたのでした(画像/MWS)。
2018年2月17日
ふだん使いの包丁はここ数年安定状態で出入りがありません。手持ちの包丁は東京,大阪,高知などがありますが,使用頻度では高知県勢がつねに上位を占めています。画像がその一部。いちばん左の包丁は数年前に廃品から回収した土佐の船行です。7年前に高知に行ったときに購入しようと包丁店を二件まわって店先の船行包丁を全部チェックしたのですが,どれも捻れていて購入は見送りました。なんとも残念だなあと思っていて数年,都内の廃品を回収することにより船行包丁がタダで入手できてしまったのです。中年オヤジの必殺技,「いつまでも忘れない」を発動した結果です…。
握ってみたときは驚きました。理想の形とはこういうものか,というのが直ちに理解され,それまで使っていた三徳包丁の出番がなくなりました。。鋼材は安価な鋼で焼き入れもいい加減で切れ味は大したことはありません。ただ甘切れな感じで,焼きが硬くてポロ欠けするようなものではないので,こまめに刃先を研げばじゅうぶん使えますし,天然砥石で究極の研ぎを施せば永切れはしないもののカミソリのような切れ味は出せます。しかしこの包丁の持ち味はなんといっても形状とバランスで,切れ味も重要ですが「形のよさ」がいかに大切かを知ることとなりました。
ほかの土佐包丁も便利に使っています。左から二番目のものは,黒皮がとれてしまっています。なぜこんなことになったのかというと,この包丁で毎日1個,リンゴをむいているのです。リンゴの果肉と接触したところが酸で溶かされて黒皮がなくなってしまったのです。包丁の黒皮を大事にするならリンゴやすっぱい果物など豊富に酸を含むものは切らない方が無難なようです(画像/MWS)。
2018年2月16日
神田の古本屋で転がっていたこの本,運良く通りがかり確保しました。長い長い古本人生ではじめてみました。この本の存在を知ったのは学部2,3年頃だったか,1988〜1989年頃のことでした。水環境系の専門家になろうと思っていたので,湖沼学の本は大学入学とともに集め始めていました。湖沼学の良書はほとんどが古書でしか入手できないので,神田や八王子の古書店をうろつくのが日課でした。吉村信吉の「湖沼学」を見つけるまでに2年,津田松苗の「日本湖沼の診断」を見つけるのに10年弱,当時はずいぶん時間がかかった気がしていましたが,いま振り返ると,ずいぶんあっさりと見つけているように思えます。それからずいぶん時間が経ちましたが,ついに田中阿歌麿の「湖沼の研究」に巡り会えるとは…。じつに感慨深いものがあります。
この本は,日本の湖沼研究において初めて出版された専門書で,価値ある一冊です。日本の湖沼学(=陸水学)は田中阿歌麿が書いたこの本から出発したのです(*1)。これを廃棄した図書館は,資料の価値を調べることなく放出してしまったのでしょうが,そのお陰で筆者の手元に転がり込んでくるのですから,まぁよしとしましょう。これも中年オヤジの必殺技「いつまでもあきらめない」が発動された結果です。皆さんも,1年や2年で手に入らないからといって,諦めてはいけません。
この本の出版は1911年。出版社は新潮社。こんな専門書を出していたとは,現在からは考えられませんね。100年以上前の本を大切に読みたいと思います(画像/MWS)。
*1 厳密にいえば こちら でうかがいしれるような過程があるわけですけれども,湖沼学が学問として成立していった背景には,田中阿歌麿の努力があり吉村信吉がそれを引き継いだという流れの理解でよろしいかと思います。こちら に知る人が読めばじつに興味深いエッセイがあります。
2018年2月15日
しばらくバタバタしていましたが仕事も徐々に通常モードに戻りつつあります。こういうときは体調を崩さぬよう,食事や睡眠にはじゅうぶん気をつけて過ごさなくてはなりません。といっても,いつも気をつけていますが…。
ここは一つ,タコからタウリンを補給して疲労回復効果を期待することにしましょう。ちょうど北海タコが手頃だったので,タコの薄切りしょうゆにしました。うすーく切ったタコにしょうゆをわずかに垂らして香りをつけるという至極単純なものです。ただ,包丁が切れないと成立しない料理なので,一般家庭では難しいと感じることもあるかもしれません。
きょう使った包丁は『正本』と銘の入ったもので,筆者が持っている唯一の本焼きです。ご先祖様から受け継いだもので,おそらく100年ものではないかと思います。背の厚みから判断して大正から昭和初期頃の正本のふぐ引きではないかと思うのですが,使い込んで痩せているのでほんとうのところはわかりません。しかし感心するのは,これだけ身幅が狭くなっても形を崩していないこと。むかしの料亭の大将は研ぎに関してもきちんとした技術を身につけていたであろうことが忍ばれます。
鋼材はわかりませんが,時代的に青紙ということはないので,白一辺りなのでしょう。磨くとよく光りますが錆は早いです。ぼろぼろに錆びていたものを引き取ってきて,各部を研磨して修正研ぎを施して包丁として再生しましたが,何も切らずに保管するだけで錆が進行します。使って管理しなければ維持できない道具の代表のようなものです。すでに包丁としての使命を終えたような形になっていますが,家庭用としてちょっとしたものを切るには差し支えなく,切りにくい北海タコもぺらぺらにできます。
たこぶつもいいものですけれども,この薄切りタコも捨てがたい味わいです。たこぶつにはわさびが合いますが,薄切りタコはなぜかわさびが不要な気がします。そのものの味がよくわかるからでしょうか(画像/MWS)。
2018年2月14日
きょうの画像は海外でブロックスコープなどと呼ばれている製品で,国内ではマジスコープの名で以前販売されていたもの。現在では『VIEW SCOPE』という名前で,サイエンス・アイ(株)さんから同等仕様のものが入手できるようです。この顕微鏡は素通しの筒,アクリルのライトガイド,頑丈な一体型ボディからできているシンプルなものです。筒のハメコミ部分が斜めに切ってあり,そこにガイドピンを当てて滑らせることによりピント調節を行います。400倍くらいまでなら,なんとか手動でピントを出せます。
筒は素通しですから,対物レンズと接眼レンズはコンペンの組み合わせ,またはニコンCFどうしの組み合わせで,TL=160mmのものを使えばOK。低NAならTL=170でも問題ないでしょう。結像レンズもプリズムもないので,けっこう鮮明に見えます。ただ,筒の内面反射が大きいのと,ライトガイドの照明は絞り込みができないのでコントラストをいじれないという問題はあります。でも用途を考えれば些細な欠点です。
ライトガイドは入射側の輝度が出射側でも保存される性質を利用したもので,この顕微鏡を11年前に環境研の先生から初めて見せてもらったときには感嘆しました。暗い室内でも,天井のどこかに照明があれば,そこにこのライトガイドの入射面を向ければ,けっこう明るい透過照明にできるのです。
きょうの画像は放散虫スライドをこの顕微鏡にのせてコリメート法で撮影したもの。特に問題のない写りです(画像/MWS)。
*1 ライトガイドはふつう光ファイバーを束ねたものをいいます。アクリルチューブは何と呼ぶべきか迷いますが,機能的には光伝送管ですので,ここではライトガイドと書きました。ひょっとすると不正確かもしれません。
2018年2月12-13日
3月10日の土曜日14時から,国立科学博物館(上野)地球館3階講義室において,産業技術史講座 「光学顕微鏡の技術系統化調査」 ミクロへの挑戦と世界一に向けた国産顕微鏡のあゆみ が行われます。講師は長野主税先生です。
申し込みは下記Webサイトより行えます。定員40名で申し込みの締切日は2月24日です。
http://www.kahaku.go.jp/event/all.php?date=20180310
長野先生といえば,オリンパスで光学設計を長いこと担当された大御所で,世界的ベストセラーとなったBH-2の高級レンズ群から,無限遠補正系になりイメージを一新したUIS光学系の初期までを開発した恐るべき人です。しかしとても気さくな先生で,筆者も一度だけお会いしてお話ししたことがありますが,6時間にわたり(笑),いろいろな質問ににこやかに応えてくれました。大変素敵な想い出として忘れることができません。そんな長野先生のお話を聴講することができ,ディスカッションもできるとなれば,本ページの読者としては興味津々というところではないでしょうか。
きょうの画像はBH-2の対物レンズ群。筆者はニコンで機材を統一していますが,特別な用途や像質が好みなものは他社製のレンズも手元に残してあります。きっとこの幾つかは(全部?),長野先生の設計によるものかと思います(画像/MWS)。
*1 重要情報につき2日間トップに掲載します。長野先生の顕微鏡物語を,一人でも多くの方に受講頂くことを願っております。
2018年2月11日
きょうの画像は背景を透過の明視野と暗視野の半々にしたもの。背景光の有無でどんなふうに見え方が変わるかを読み取れるので,こういった,研究などでは通常行わない照明も,表現法の練習としてはアリなのかもしれません。背景光だけを別に撮影しておけば,減算することも可能です。その場合は背景を一様にできます。
透過明視野や明暗視野同時照明との比較で見れば,透過の斜め入射の光が微細構造のコントラスト向上に効果的なことが一目でわかるかと思います(画像/MWS)。
2018年2月10日
きのうの画像と同じものを透過明視野・中央絞りで表現するとこの通り。まったく別物のようです。きのうの画像と対応させてみると,珪藻の厚みと反射強度の関係がよくわかります。また,照明法により,コントラストが強くなる部分と弱くなる部分の違いもわかります。色も異なります。このような違いを眺める習慣をつけておくと,他人の撮影した画像を見ても,どのような照明を施したのかが推測できるようになることもあります(画像/MWS)。
2018年2月9日
放散虫でよくやるガラスっぽく見せる照明を珪藻でやると,こんな具合。珪藻のガラスは薄く繊細なので,上面からの反射光でキラキラさせるのが難しく,また種によってもコントラストが大きく変わるので,放散虫のようにはいきません。でも,透過明視野よりはぐっとガラスっぽさが増した感じはします。見る人の好みは様々なので,いろいろな表現方法を知っていることが大事かもしれず,時々,あれこれと試したりもしています。珪藻プレパラートの楽しみ方の一つです(画像/MWS)。
2018年2月8日
封入剤との相性が悪くてきれいに封入することが難しい珪藻がたくさんあります。タラシオシラ,コスキノディスクス,プレウロシグマ,ディプロネイスなどは細心の注意を払っても一定の割合でNGなことになります。いちばんの問題は封入剤が入っていかないことと,エイジング後に発覚する微小な気泡などですが,パラメータをどういじっても完全な制御が難しく,検討を始めてからすでに7,8年になろうかというところです。マイナーな珪藻なら無視もできるかもしれませんが,どれも有名でマウントしないわけにはいかない珪藻種ばかりなので困ります。
たまにきれいに封入できることがあって,そのときになぜきれいにできたのか解明できればいいのですが,どうしてもそれがわかりません。顕微鏡で見える気泡なので気にしないという手もありますが,どうしても完璧を目指したく,ついつい検討実験をしてしまいそして敗北ということを年に数日以上も続けています。積算すれば一ヶ月か二ヶ月は無駄になっているはずで,なかなか恐ろしい領域に踏み込んでいる気もします。今年もすでに数日費やしています(画像/MWS)。
2018年2月7日
いつも便利に使っている丸尾山の「合さ」,包丁用ですが,さて使おうかと手に取ったら音もなく割れていました。ひび割れの両端から水が染み込んだあとがあり,ここのところの寒さでひび割れが進行したのでしょう。これで丸尾山の砥石で割れたものは3個目。たぶん2割くらいが割れている計算で,これは少し多いと思います。東物の砥石よりも粒子が少し粗く締まりも弱いことが原因しているのかもしれません。
修理は簡単で,瞬間接着剤を塗り,押さえて放置しておけばOK。ほかにもっと良い方法があるのかもしれませんが,普段づかいの砥石に手をかけすぎてもいけません。。接着を確認したら,段差がなくなるまで面出ししてお仕舞い。これでまた使えます。ただ,うんと細いヒビが残るので,その部分に刃を当てるときは角度に留意する必要があります。今回は裏面だったので気にもならない感じです(画像/MWS)。
2018年2月6日
補正環は対応するカバーグラスの厚みが刻印されていて,0.12-0.22などと書かれています。この厚み範囲内なら対応可能というわけです。しかしこれには条件があって,封入剤の厚みがゼロ,言い換えれば物体がカバーグラスに貼り付いていなければなりません。もし物体とカバーグラスの間に封入剤があれば,その分だけ,補正環の回す量が変化します。そして封入剤の屈折率が1.52付近なら,多少の封入剤があったところで良好な像質を出すことができますが,水(1.33)の場合は球面収差を補正しきれないのは昨日も書いた通りです。
世の中の現状はこういったレベルとは遙かに違っていて,補正環を回したことがない,という人もたくさん存在するということがだんだんわかってきました。何のためにあるリングなのかも知らない,という人の方がひょっとしたら普通なのです。メーカーさんに聞いたところでも,正しく扱っている例はひじょうに少ないそうです。
それはそうかもしれません。顕微鏡の授業などというものは国内の大学からは絶滅寸前です。心ある先生方が細々と,一コマくらいの時間をつかって授業しているのが実際のところで,これでは顕微鏡の取扱の実際まではなかなか届かないことでしょう。多くの人は,顕微鏡のまともな授業を受けたこともなく,カタログや価格表を読んだこともなく,本を読んだこともない。ただ研究室に設置された顕微鏡を,スイッチを入れてサンプルを置いてみたら見えてしまったので,そのままわけも分からず使っている…というのが主流派なのではないかと想像されます。この状況では補正環の意味もわからず操作など思いもつかないことでしょう。
このレベルで研究上の支障がないのであれば,顕微鏡の限界性能を必要としていないとも言えるので,補正環付きの対物レンズを使わない方が幸せになると思います。大きく見えれば満足ならば,40倍でNA=0.55くらいの対物レンズを使い,15倍の接眼レンズで検鏡すれば十分かもしれません。このNA領域なら,カバーグラス等の厚みによる球面収差には鈍感です。水マウントでも問題ありません。暗視野にもしやすいですし,焦点深度も大きく,微細構造を見ないならほんとうに使いやすいのです。筆者も放散虫の検鏡では分解能を追求する必要がないので,NA=0.55程度の対物はよく使います。
高NA領域の対物レンズをより高いレベルで使用したい場合は補正環の取扱を練習する必要があります。このときに重要なのは,その対物レンズでぎりぎり解像する物体を用意することです。周期構造のある物体でコントラストの低いものが好適ですが,これに該当するものの代表は珪藻被殻です。封入が面倒ですがチョウの鱗粉も使えます。ほかにきのこの胞子でも細かい周期構造や粒状構造のあるものがありますがいつでも入手できるわけではありません。組織切片の場合は横紋筋が有用ですが入手が面倒です。なお染色標本はコントラストが高すぎて補正環の練習用には必ずしも適しません。
適当な物体が入手できたら検鏡してみて,たとえ良く見えたとしても補正環を回してみることが重要です。見た瞬間に完全に球面収差が補正されていることを見抜く「絶対視覚」とでも言うべきものを持っている人は,ほぼ皆無と言って差し支えがありません。ぱっと見た段階での「良く見えた」は「錯覚」です。
補正環を回してみて球面収差を発生させ,微細構造がぼけるのを確認し,こんどは補正環を逆に回して最良の像に合わせ,そしてそれ以上に補正環を回して像の劣化を確認します。これを繰り返して追い込んでいくのです。そうすると「ほんとうに良く見える」補正量がわかってきます。決まったプレパラートの同じ物体で練習すると,補正環の指示値がいつも同じ場所を指すようになってきます。筆者の場合は珪藻プレパラートで,0.005程度の再現性で補正環を操作できます。
もちろん,これらの練習において,ケーラー照明などの基本ができていないと意味がありません。当然ですがコンデンサを絞り込んで練習しても意味がありません。照明系を調節し,コンデンサ入射瞳面を光源で満たし,コンデンサは開き気味にします。照明の基本をクリアしている人は,高NAの輪帯照明や暗視野で練習してもさしつかえありません。
補正環付きのレンズでもよい像が出せないときは物体のマウントが不適切(メディアの屈折率のマッチングが悪い),対物レンズの先玉,標本カバーグラスの表面の汚れなどが原因のこともあります。特に先玉はわずかな汚れでも像が大きく劣化することがあり,これが球面収差に似ていることがあります。
マウントが不適切な場合は,マウントをやり直すか,それが無理な場合は補正環付き対物レンズの使用をやめて低NAのレンズに切り換える,あるいは長作動で補正環付きのものに交換する,などの対策を講じて少しでも良好な像に持ち込むようにします。
こういったことは顕微鏡を扱い慣れている人には,ごく当たり前で説明するまでもないことです。そういった方が研究予算でよい顕微鏡を購入し,研究室に設置して,素晴らしい像を得ていることも事実です。問題はその後です。その顕微鏡を購入した人が転職や退職したあと,新しく配置された人が顕微鏡の勉強をしていなければ,残された顕微鏡を正しく運用できるはずはありません。そうして補正環は回されなくなり,像質は劣化し,それに気づかず使い続けている…という状態になってしまいます。
ですから研究室の顕微鏡は,運用マニュアルを作成して,一定期間の研修を受けた人だけが使って良いというシステムにすることが大事だと思います。そうしないと補正環を回したことのない人を減らすことができません…(画像/MWS)。
2018年2月5日
きょうの画像で並んでいるのは補正環(ほせいかん)付きレンズ。たまに絞り環と勘違いしている人がいますが,この調節リングは絞りではありません。対物レンズの一部のユニットを動かして,標本で発生している球面収差と逆の球面収差を発生させて相殺するものです。このリングを正しく操作することにより,物体の像は対物レンズの設計値に近づきます。
補正環付きレンズは大きく分けて二つあります。一つは開口数(NA)が0.85以上のもので,カバーグラスのわずかな厚みの違いにより生じる球面収差を補正するもの。このタイプはカバーグラスを用いた標本専用です。もう一つは開口数0.4〜0.7程度で,カバーグラス領域からスライドグラス,シャーレの厚みまで球面収差を補正できるものです。このタイプの多くはノーカバーの表面検鏡からカバーグラス封入,倒立顕微鏡によるシャーレやプラスチック容器内部の検鏡,カバーグラス封入標本の裏側からの検鏡などに使えます。
これらの補正環付き対物レンズは,光学設計上は屈折率1.52付近のメディア内部に存在するものに対して球面収差が補正できるものですが,屈折率がずれていてもある程度の補正は効きますので,正式な使い方ではありませんが,水封入の物体に対して生じている球面収差をある程度弱めることができます。この効果はNA=0.95ではひじょうに弱いですが,NA=0.4〜0.7ではよく効きます。このため,例えば水深1mmのチャンバ内に沈んだプランクトンなどを,正立型の顕微鏡を用いて,補正環を操作しながら正しい像を得るなどといった使い方もできます。
補正環の理屈などについては,こちら も参考にしてください(画像/MWS)。
2018年2月4日
せんじつ撮影した皆既月食の画像を教育機関等で自由に使ってもらったところ,口々に感想が寄せられました。その内容を一言でまとめると,「いいカメラ持っているんですね」に集約されます。小学生も大人も,印刷された月食の絵を見て,「カメラが良いから月食が写った」という感想なのです。同じような感想はweb上でもじつに多数,見かけました。
こういった感想は,フィルムカメラの時代にはまったく聞かれませんでした。当時は,「よく写っているね」「上手だね」という感想がほとんどで,天文現象そのものを喜ぶか,それを撮影した技術を褒めるか,という感じだったのです。あれから時代が進み,技術の重要さは人々の頭から消え去り,「写らないのはカメラのせい」という思考が安定多数になったのです。つまり製品が進化して技術の重要性が相対的に低下した,ともいえる状況です。
これは良いことと解釈するのが素直かもしれません。「いいカメラなら月食もバッチリ」の時代がついに来たのです。ぜひ,「カメラのせい」と気がついてしまった方々は,カメラ店に行って月を大きく撮りたいと相談し,ハイエンドのフルサイズ超高感度デジタル一眼レフを買い,明るい長大な望遠レンズや,フローライトの望遠鏡を買いましょう。「いいカメラ」に「いいレンズ」の組み合わせですので100万円くらいはしますが,きっと抜群に写ります。素子の感度向上は著しいのでよほどの拡大撮影をしなければ赤道儀も要らない時代になりました。
ところで筆者の機材は中古で買ったNikon1J5(二万数千円),プラスチックとカーボンのおもちゃの望遠鏡(BORG100ED)。13万円くらいだったかしら。この望遠鏡は25年以上前のものですが,当時,天文マニアからはレンズはいいがプラスチックのオモチャで最悪の望遠鏡だと酷評されたものです。三脚は十数年前に買った鳥見用のもの。クランプが甘く,固定すると月が逃げていきます(笑)。それでもきょうの画像程度は写せます。縮小のみで,見たままの感じに表現しています。この画像を処理をすれば こんな 感じに表現することもできます。
プラスチックの筒でマニュアルのピント合わせは至難を極めます。月は無限遠なのでシリウスでピントを追い込みます。リモコンも使えないカメラではセルフタイマーを活用するしかありません。鳥見用の三脚ではたわんで振動もひどく,追尾もできないので,日周運動で月が画面中央に来たときにシャッターが切れるようにセルフタイマーをセットします。月は太陽に照らされているのでホワイトバランスは太陽光にセット。感度は日周運動で星が流れないぎりぎりのところ。あまり上げると小さなセンサーの安価なカメラではノイズがひどくて見られません。自動露出は使えそうにないのでフルマニュアルシャッター速度をいじります。などという工夫で撮影しています。
が,しかしこれはむしろ前時代の変態技術と言うべきかもしれません。筆者にとっては簡単なことですが,「いいカメラ」でなくては写らないと思っている人に,筆者の撮影セットをポンと渡しても,月食をきれいに写すのは不可能です。その一方で,「よいカメラ」によいレンズなどがあれば,大半のことはカメラがやってくれます。ということで,「カメラが悪くて写らなかった」ことに気がついてしまった人は,ぜひ最高級のカメラを購入してメーカーさんを喜ばせて,販売店を喜ばせて,よい機材をインスタグラムで自慢して,素敵な月の写真をツイッターにアップしていいねを稼ぎましょう。手軽に素晴らしい絵を撮れますし,カネがかかること以外は良いことの方が多いのではないかと思います(画像/MWS)。
2018年2月3日
本ページでは昨年1月6日に,キムワイプはまともに引っ張り出せない欠陥商品のまま売られていることを書いたわけですが,あれから一年経過して,なんとこの欠点が改良されていました。過去20年くらいは欠陥があったと認識しているのですが,本ページで指摘してわずか一年で欠陥が取り除かれて使い勝手が著しく向上しました。昨秋のロットではまだ使いにくいままだったので,2017年末くらいに新たなパッケージになったのでしょうか。。。いずれにしても感謝です。
開口部が広がり,紙の両端がバサバサしなくなって紙粉の発生が減りました。紙質はまだ細かいところは確かめていませんがそれほどおかしな感じはしません(ロットによって紙粉の発生が微妙に違うのです)。大助かりなのです。
キムワイプは使う人を選ぶ紙でもあります。これを上手に使いこなす人はレンズも拭いてしまい傷もつけません。そういう技師を目撃したことがあります。その一方でキムワイプでレンズを拭いて盛大な傷をつけたという経験談も見聞きするところです。メーカーさんはレンズ拭きを推奨していないので,技量に自信がなければやめておくほうが無難です。
拭き取り紙をいろいろ試していると,キムワイプは,安価でありながら相当に高い品質であることがわかります。とにかく紙粉の発生が少なく,この点では,光学清拭用のシルボン紙よりも優れていることもあります。もっともシルボン紙でも,ローパスフィルタやレンズ拭きなどの,あまりハイレベルにならない拭きならじゅうぶんですが。しかしレーザーを当てて表面散乱を見るとか,Jシリーズのように完全に何もない清拭面を実現するとなるとシルボン紙ではよろしくない場面も多いです。キムワイプでも問題は起こりますがレベルは上がります。Whatman105が最もよろしいのですが価格が問題です。
ということで,安価ながらも安定した高品質となるとキムワイプは王座の位置にある優れたもの,ということになるのです(画像/MWS)。
2018年2月2日
やはりたまには多量のレンズを並べてみる,ということをやらないといけません。ので,並べてみました。レンズというものは,たくさん手元にあると,並べたくなるものなのです。。
きょうの画像は手持ちの20倍対物レンズのうち,ニコンの有限補正系でCF,NCF系のものだけを並べてみたもの。画角に収まりきらないレンズがあと数本あります。その数本を加えてみても,まだ足りない種類があります。これらのレンズそれぞれに用途があるので必要に応じて買い集めたのです。コレクターの趣味ではありません。その証拠に,ここまで集めるのに20年かかっています。コレクターなら,さっさと買い集めていることでしょう。
本ページの読者であれば説明の必要もありませんが,これらの対物レンズは乾燥系蛍光用,液浸蛍光用,像面湾曲の有無,その強さ,軸上色収差補正,開口数,作動距離,対応ガラス厚さ,位相差,位相差のコントラストの違い,微分干渉用,水浸…などとなっていて用途が異なります。本ページでは,掲載した顕微鏡画像に,撮影に使用した対物レンズを記していませんが,実際はサンプルに適した検鏡法,対物レンズの組み合わせで高いレベルの観察像を得ています(画像/MWS)。
2018年2月1日
皆既月食(2018年1月31日)。MWS天体観望センターによる撮影。BORG100EDカーボン鏡筒(D=100mm,FL=640mm),直接焦点。Nikon1J5,ISO 200-1600,追尾なし(画像/MWS)。
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