本日の画像
MWSが顕微鏡下の世界を伝えるコーナーです。
日々の業務メモやちょっとした記事もここに記します
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2011年3月31日
今月の「本日の画像」コーナーは,ほとんど原子力災害特集になってしまいました。読者の方々に顕微鏡下の世界を楽しくお届けするのが本コーナーの目的なのですが,面白くもない,原子力関連の記事を延々と書いてしまい,読者の皆様にはご迷惑をおかけすることになったかもしれません。済みません。
しかし私たちは安全と安心の土台の上に乗って,はじめて種々の活動を正常に行うことができます。大地震により大きな損失を被ったところに,原子力災害が起きて,多大な不安が払拭されずに残れば,楽しい活動もできなくなります。そのため,筆者は,読者が自分で考えて判断するための材料を提供することが必要と思い,情報提供に努めました。読者やお客様への,筆者なりの恩返しのつもりです。
これまでの経過を振り返ってみても,原子力について問題を感じ,何らかの形で勉強してきた人は,やるべきことがわかっていて,模様眺めをしているような方が多いような印象を筆者個人としては抱きました。放射線量とリスクの関係も判断もできますし,飲食物の摂取の可否なども,数値が与えられれば自分で判断できるからです。一方,分野外の方や,国の言うこと,ニュースの言うことを信じてきた方々は,「安全」「食べても飲んでも大丈夫」という情報しか得られず,大きな不安を抱いているようです。無理もありません。
不安を抱くと,人はそれを解消しようといろいろな行動を始めます。中には,「自分の頭で考えたつもりになって情報の受け売りをする」人まで出てきたりします。
ある人は友人知人に,「風は基本的に西から吹くから福島県内でもほとんど健康被害は出ないと思う。今のレベルはまったく問題ない。チェルノブイリと違って深刻にはならない」というメールを送信しました。まだ放射線量の測定値もよくわかっていないのに,こう言っています。まるでテレビに出演している専門家のようです。いっしょうけんめいネットで調べてお考えになったのだと思います。よほど不安なのでしょう。
筆者は避難している福島県民の方々を想うと,なんて軽々しい意見なんだろう,何が言いたいんだろうと驚きました。
放射線は,自然レベルでも,遺伝子に傷をつけますから,絶対安全ということはありません。自然放射線のレベルが高いところにも人が住んでいるから大丈夫,という意見がありますが,そういうところの生物を調べてみると,自然放射線レベルの低いところと比較して染色体異常が多くなっています。放射線がDNAを損傷させ,染色体異常を引き起こしているのです。
原子力発電所の周辺でも,正常運転をしていてプラントに何の異常もないときでも,発電所周辺の生物に染色体異常が起きていることが知られています。ガス態で放出されている放射性物質の内部被曝の影響と考えられています。ヨウ素131の生物濃縮係数は10万〜100万倍といわれています。正常運転ですらこの状態ですから,空間線量が測定可能なほどに上昇した今回の事故では,健康障害として認知できるかどうかは別として,生物のDNAに対して自然放射線以上の放射線損傷を与えることは明らかなのです。
ですから,人間は,自然放射線は許容するとしても,それ以外に,環境から過剰に浴びて良いことはないのです(*1)。特に,人工放射性核種は,天然にはほとんどないものが多く,それらは生物濃縮されやすいという特性を持ちます。天然の放射性核種よりも体内に濃縮されやすく,内部被曝しやすいのです。
一般人の許容レベルが一年あたりで+1mSv決められているのも,こうした過去からの知見に基づいているのです。福島県内では,現在でも,自然放射線の100倍〜1000倍のところがありますから,ICRPの基準,あるいは日本の法令で考えてみても「まったく問題ない」という言葉を使うことができません。放射線管理区域となるような値だからです。東京でさえも,あと少しで放射線管理区域になるほどの降下物があったのです。ちなみに,放射線管理区域は成人男性に対しての基準です。
福島第一原子力発電所のBWRがチェルノブイリ原子力発電所と原子炉の特性が異なることは明らかで,事故のタイプも違います。しかし深刻にはならない保証などどこにもなく,むき出しの核燃料,次々と爆発,発火する建屋(とされています),発電所全体で持っている放射性物質の量,どれを考えても深刻にならない原因を探せません。
重大な爆発や火災が起きたのは,3月12,13,14,15日です。このうち,12日と15日には東よりの風が吹きました。しかしもっとも深刻な3号機の大爆発(水素爆発と表現されていますが真相は不明だと考えます)は14日で,このときは北西の風に見えました。もしこの大爆発で生じた粒子が内陸側に運ばれれば,現在の10倍から100倍の汚染になっていてもおかしくありません。幸い風向きに助けられましたが,もし爆発が12日や15日に起きていれば,想像を絶する事態になっていたと筆者は想像します。その確率は,風向きから考えれば,25〜50%あったわけです。
こうした事実をみると,不十分なお勉強に基づく「安全だ」「大丈夫だ」という話は,それまで蓄積されてきた研究データ・情報や,国際機関が定めてきた基準までも隠蔽してしまう,有害な情報になりかねないわけです。「全体安全とはいえないが,リスクは低い」「10μSv/hが続くようなら,頃合いを見て避難するのも一つの考え方」「ヨウ素131が暫定基準付近になったら,念のため子どもには飲ませるな」という情報の方が,判断基準になると筆者は考えます。
こういう事故が起きたのですから,原子力災害について語り合うよい機会だと思います。「本日の画像」の読者は,色々なお話に遭遇したときに,どこに根拠があって,どこが雑な議論なのか,注意しながら聞きましょう。くれぐれも,不安でにわか勉強した意見(専門家を含む)に惑わされることのないように。きょうの画像は,筆者が海の放射線マークと呼んできたカザグルマケイソウです(撮影/MWS)。
*1 医療で浴びる放射線も身体には悪いのです。でも,それ以上に病気が悪さをしている場合は,放射線の助けを借りて,透視したり,細胞を殺したりして,治療効果を上げます。すぐ死ぬかもしれない人に対して,CTスキャンのリスクは比較にならないほど低いので被曝が許容されます。じゅうぶん健康な人に毎年CTスキャンを行ったら,かえって危険です。医療による被曝は,バランスがきちんと考えられているのです。
2011年3月30日
きょうは昔話に現在進行形の話を混ぜてだらだらとおはなしします。学校教育機関などでは,原子力=安全ということになっています。検定を通過した教科書には原発の危険性を十分に記述することは許されず,一方的に安全だと記されています。むかしJCOの臨界事故が起きたときには,すぐに,原子力は安全だというパンフレットが学校に配達されました。とにかく,雨が降っても風が吹いても,地震が起きても津波が来ても,地下に断層があろうと電源が喪失しようと,何があろうと,何十もの防護壁があり,バックアップがあり,原子力は安全なのです。
テレビでも,連日専門家が出てきて,安全だ安全だ問題ない問題ないを繰り返しています。そりゃぁ原子力は安全だと言ってきたのですから,危険だとはいえませんよね。
今回は事故が起きましたし,爆発もしたので,多少なりとも危険かも…と思った人がおられるでしょう。しかし,こんなことでも起きなければ,原子力発電は安全だと思っている人が大多数なのだと思います。国を挙げて安全だと教育し,危険性に関する情報は一切遮断されてきたからです。筆者もその一人です。
原子力が危険なものではない,と最初に認識したのは,東京電力が各家庭に配布したパンフレットに,原爆と原子力発電の違いという説明があって,原爆は100%濃縮ウラン(235),原子力発電は3%濃縮ウラン,だからピカドンにはなりませんよ,と書いてありました。それを鵜呑みにしたのです。12歳の夏でした。
ちょっと考えれば,原子力発電では,ウランの「量」が桁違いだということに思い当たるはずですし,その桁違いの「量」の放射性物質をどうするんだという問題にも想像が及ぶはずなのですが,考えなかったのです。当時の筆者はすでに原子力電池やカリウム40が長寿命核種であることは聞きかじって知っていた,知ったかぶり少年でしたので,放射性物質が大量に発生することは簡単にわかるはずなのですけど,パンフレットを見て安心し,自分で考えることをしなかったのです。やはり単なる知ったかぶりで,いま考えても恥ずかしいです。
お勉強を始めて,知ったかぶり病から回復が始まると,いろいろ見えるようになってきます。
そのむかし,動燃という機関がプルト君という,プルトニウムのキャラクターを作り,プロモーションビデオまで製作しました(上の画像)。このビデオは,化学や原子力に詳しい人が見ると,それなりに事実に基づいていて,過激な内容には見えない,と思うこともできなくはない内容です。一方,化学や原子力の分野に触れたことのない,一般の方々が見ると,「なーんだ,原子力発電で使われるプルトニウムは,安全に扱えるものなのかー」という印象を抱くようになっています。
このキャラクターは,国際的にはかなり厳しい批判を浴びたようで,すぐに見なくなってしまいました。まぁ,事実であるとしても,「プルトニウムは飲んだって排泄されるから大丈夫」などと言っているんですから(画像2枚目),やりすぎでしょう。画像の2枚目は,そのあまりの話題性に,Natureに取り上げられてしまった記事のコピーを撮影したものです(*1)。筆者はこの記事をみたとき,「ここまでやるのか〜」とある意味感動して,コピーしておいたのです。
このプロモーションビデオの中でも,プルトニウムは,吸入したり血液中に入れば,排出されにくく,体内でα線を出し続けます,と説明しています(だから危険,と書かないところがニクイですね)。今回の事故で環境中からプルトニウムが検出されたということは,吸入の恐れがあるということです。
筆者は3/21付けの記事の脚注*11番で,環境中にプルトニウムが漏れ出ている可能性を指摘しましたが,やはり出ていたわけです。でも,現在の検出量は微量です。3号機の爆発に対して風上からサンプリングしているように思われますので,風下方向の分析結果,爆発で生じた大量の粉塵が飛来した海域の分析結果が出るまでは,汚染規模に関しては何もわかりません。
なお,プルトニウムは地球上のいたるところから検出されます。日常的にも,水産物などにも,きわめて微量ながら入っていることがあります。プルトニウムの検出は今にはじまったことではなく,検出されたからといって慌てる必要はありません。今後の汚染の広がりを注視しましょう。
原子力災害が起きてから,この問題に取り組む方々が増えたことと思います。ぜひ,これまで受けてきた「安全以外にあり得ない」「事故は起こりえない」教育から脱して,国の原子力政策の歴史や,未だに解決策のない放射性廃棄物の処分問題,労働者被曝の問題,今回の事故処理の費用負担(我々の税金から払われることになるでしょう)など,いろいろ調べてみて下さい。一方的に「安全だ」と情報提供されたことを信じるのは,少なくとも,お勉強とはいえません。筆者がむかしそうであったような,醜悪な知ったか君は減ったほうがいいのです(撮影/MWS)。
*1 Nature 368, p9, 3 March 1994
2011年3月29日
都内でも,早咲きのソメイヨシノがちらほらとひらきはじめました。満開まではまだ2週間くらいかかるかもしれませんが,一日一日,楽しみですね。東京都区内は世界的に見ても緑の少ないコンクリート砂漠ですが,桜だけは例外で,各所で素敵な並木を見ることができます(撮影/MWS)。
2011年3月28日(2)
Jシリーズ用の珪藻在庫は,全体としては十分な量があるのですが,種によっては残り少ないものが出てきています。狙ったものだけを採取できればいいのですが,そんな簡単にはいきません。上の画像はでっかいヒトツメケイソウですが,相模湾東部から採取したものです。そろそろ出動しないといけません。津波の影響はあると思いますが,この時期でも珪藻の増殖は続いているので,よい場所を選べば何とかなると…,なるんじゃないかなぁ〜,なるといいなぁ〜という気分です(撮影/MWS)。
2011年3月28日
原子力災害関係の記事に関心が高いようで,何人もの方々からコメントや情報をいただきました。ありがとうございました。きょうは原子力というものの時間スケールについて考えてみます。
皆様がいちばん気になるのは,この事故がこれからどうなるのか,ということだと思います。でも,これからどうなるのかは,誰もわからないでしょう。原子力発電は,失敗が許されない技術です。起動中の原子炉をスクラム状態にして,ECCSを作動させず,実験的に炉心溶融を起こして,原子炉や施設がどのようになるのかを「実験」することはできないのです。ですから,技術者や専門家の方も,科学的合理性に気を付けながらも,推測するほかはないものと思います。
しかし現時点でも確実性をもって言えることもあります。それは,この事故を収束させ,放射性物質の漏出が止まる状態に持ち込むまでには,とても長い時間がかかるということです。これからどのくらいの放射性物質が漏れ出すかは,誰にもわかりませんが,量の多寡は別として,封じ込めには時間がかかることは断言してよいといえます。どんなに早くても一年では難しいと思います。うまく封じ込めることができても,そのまま管理区域とするなら,一万年〜百万年以上は管理が必要です。
原子炉は正常に停止しても,冷やしてすぐに燃料交換するような簡単なものではなく,崩壊熱を除去する必要があります。臨界運転中に生じている不安定核種の崩壊熱が一段落するまで待たなければなりません。そして冷えたといっても冷たくなるわけではなく,取りだした使用済み燃料も水に浸けて冷却し続け,そのあとに再処理や処分に回されます。高レベル廃棄物(ガラス固化体)になっても,まず30年から50年間は水に浸けて冷やし,じゅうぶんに発熱が収まってから地層処分(貯蔵管理)されることになっています。貯蔵管理は,重大な放射性物質漏れを防ぐために,最低でも1万年必要です。
原子力施設は正常運転時でも,このような途方もない時間スケールで動いていますので,今回の事故のように,原子炉の冷温停止もできず,炉内は高温が推測され,燃料の一部も融解している可能性が高い(ほとんど必然と予想します)では,冷えるまでにさらに長い時間がかかります。そして燃料集合体が原形をとどめていない状態では,炉から取り出すことは不可能ですし,水素爆発(と報道されている)の影響で建屋も破壊されていますので,作業は困難です。
加えて,飛散した放射性物質により敷地が汚染されていますので,原子炉が完全に冷却できたとしても,除染作業に時間を要します。除染といっても放射性物質を消すことは理論的にできませんので,取り除いてどこかに積み上げるか,ドラム缶に詰めるか,丸ごと大きな容器に入れるか,そんなことしかできません。
ここまででも,まだかなり甘い想定です。今後,原子炉から放射性物質が多く漏れだし,近づくことができなくなると,放置せざるを得なくなります。筆者は,28日0時現在で,核燃料が大規模な再臨界を起こした大きな塊になり,水蒸気爆発を起こす可能性は低くなってきたかもしれないと想像しています。ほとんど手つかずの状況がこれだけ続いても何とかなっているように見えるからです。また臨界を起こして圧力容器に穴をあけるような事態になったとしても,種々の物質の溶融塊になって臨界は途中で止まるものと想像しています。いずれも科学的な根拠はありませんが,使われている素材などの物性から,そう考えています。しかし部分的には臨界状態が続いている可能性も否定できないように思います。28日時点でヨウ素134が検出されているからです(*3)。すでに(報道が事実とすれば)数百ミリSv/hレベルの汚染が確認されつつありますので,その領域では,一人の作業時間は5分も与えられないでしょう。それ以上の汚染になれば,作業継続は不可能になります。
*3 その後の東京電力の発表では,ヨウ素134は検出されていないと訂正されました。もう,何が何だかわかりませんね。
さて,この仮定があっているとすれば,いちばん恐ろしいのは火災です。高温の溶融した核燃料と周囲の種々のものが接触して火災が発生すれば,煙が出ます。煙には微粒子が含まれていて,その大きさは様々ですが,1ミクロン程度のものも多く含まれます。この程度のサイズになると,簡単には地表に落下しませんので,風で,簡単に数十キロメートル程度は運ばれてしまいます。風向は,偏西風の影響もあって平均的には西風ですが,北東気流になることも珍しくなく,また南東方向の風もたまには吹きます。
このようなことを考えれば,まだまだ安心できる状態とはほど遠いのです。待避の目安については,3月18日付けの記事(3月17日夜のアップ)ですでに述べましたが,放射線の値を絶えずチェックして,数値が1μSv/h以上に上昇するようなら洗濯物などは待避してなるべく外に出ないようにするなど自衛し,10μSv/hを越える日が続くようなら数ヶ月以内の待避も考え,100μSv/hレベルになれば,風向きにも注意しながら早急に逃げなければなりません。何十万人が何世代も住むような条件ではなくなるからです。
ここから話が変わります。
原子力利用が生み出す利益と不利益を誰が受けるのかという問題について考えてみます。原子力発電は,発電された電力を利用します。電力はほとんど溜められませんから,リアルタイムに利用されます。つまり,原子力発電により生まれた利益を受けるのは,同じ時間軸で暮らしている人々です。何を当たり前のことを言っているんだと思わないでください。放射性物質は,使用済み燃料の形になっても,強い放射線を出します。これを捨てなければならないのです。
使用済み燃料は高レベル放射性廃棄物として処分されますが,これはガラス固化体という形にされます。環境中に拡散しては困るので,ガラス溶融物にして,簡単には拡散しないようにするわけです。これは,固化体製造直後は,表面で10,000Sv/h以上という放射線量となり,固化体の横に人がいれば1分間で100%,死ぬことができます。このままでは危険ですし,発熱もして崩壊しますので,上に述べたように,30年〜50年間水冷して,それから,ひじょうに深い(最低でも300m以深)地層に処分されます。実際には30年の冷却では足りないと考えている専門家もいます。
30年後にはガラス固化体表面の放射線量が500Sv/h程度になると言われていますが,これでも10分間も密着していれば,100%の人が死んでしまいます。こういったものを地層の深いところに運び込んで,ウラン鉱と同じ程度の放射線量になる一万年後まで管理するわけです。2030年頃には,こういったガラス固化体が7万本に達するという試算もあります。
ところで,ウラン鉱は,長くてもあと100年ももたないだろうと言われています。最近でも,ウランの価格が上昇気味で,経済性を圧迫しています。資源量というのは埋蔵量だけで安心できるものではなく,価格が重要です。確認埋蔵量が豊富でも,価格が高騰すれば資源として成立しません。日本には石炭が豊富に埋まっていますが,価格が高くなりすぎてみんな水没させてしまいました。
こういった状況の中,未来の人々は,「原子力発電」から電力を得ることは不可能です。しかし放射性廃棄物の管理を拒否することはできません。漏れだしたら環境が汚染されて,自分たちが生きていく空間が狭くなります。漏れる危険がなくても,テロリストが放射性廃棄物を盗み出して,ぶちまける危険があります。何らかの形で管理を続けなければ安全が確保されません。処分地の地下水は,放射性物質を含む危険があるので,100年後でも,もっと後でも,利用が制限されます。それまで自由に使えていた「水」が,処分地になったとたん,未来永劫に近い時間軸で利用できなくなるのです。
ここで筆者が書いていることは,予測でも何でもありません。「事実」といって差し支えありません。なぜなら,現在すでに蓄積されている高レベル廃棄物や使用済み核燃料が,将来1万年以上にわたって放射線を出し続けることは,物理法則に従ったことであり,変えようのないことだからです。
我々の世代は電力を豊富に使ってトクをしますが,将来の世代の方々は,放射性物質の山だけが残され,それの管理を託されるのです。これ以上の不公平が世の中にあるでしょうか。
こういった,世代を超えて起こる不公平を,「世代間の不公平」といいます。年金受給の問題などでよく使われる言葉ですが,環境問題,特に核燃廃棄物の問題を考えたときに,もっとクローズアップされてよい言葉です。
100年後に生まれたというだけで,放射性廃棄物の管理を強要される社会で暮らし,そこから何の受益も得られずに,税金が吸い取られ,管理し続けなければならないのです。100年後の世の中でも,地震や水害が起こります。そういった災害対策だけでも大変なのに,数万本を越える,放射性廃棄物も安全に管理しなければならないのです。
将来世代は,子どもを除外すれば,まだこの世に生まれていません。この世に生まれていない人と,現在生存している人の間には,法的な責任関係は生じません。したがって,現在生きている人は,生まれていない(存在していない)将来世代に対して,どのような害悪でも,罪に問われることなく行うことができます。原子力発電を推進する方々は,こういった不利益や害悪を将来世代に強いることに対して,問題を感じないという立場におられるということになります。
もう一度繰り返すと,これは筆者の個人的な意見ではなく,放射性物質の性質に基づくものです。原子力発電が安全だと考えている人は,高レベル放射性廃棄物の処分まで含めて,考え直してみてはいかがでしょうか。技術というのは,不要になったものをきちんと捨てられて,はじめて完結するものです(文責/MWS)。
*1 安全だ安全だ。冷静に冷静に。と言っている人には,1)いまの人にすぐ健康障害が生じることはないかもしれませんが,では福島県の自主避難推奨区域に1万人が10世代住んでも安全でしょうか?,2)高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の物理的性質と管理方法についてご存じですか? と聞いてみましょう。1)の質問に関しては,「内部被曝」と「具体的な放射線量」ということが考慮されない時点で失格です。2)の質問については,ガラス固化体(新品)から発する放射線量,水冷の冷却期間が答えられない時点で失格です。理由は記しません。考えてみて下さい。
*2 初等,中等教育機関で教育者として働いている方々には特別にお願いがあります。もし本ページをの原子力災害関係記事をお読みなのであれば,同じトピックを最低10回は読んで下さい。1回読んで全てが理解できたら天才です。そんなことは,すでに知っていた内容が書かれていた場合を除けば,あり得ません。初めて知る内容であれば,10回は読まないと理解できませんし定着しません。ひと言ひと言,意味を確認しながら,用語の意味を検索で調べるなりして,ゆっくりと読んでください。決して字面(じづら)を上滑りするような読み方をしないでください。
これは筆者が高等学校時代の恩師から教わったことです。書く方は何十回と書き直して仕上げるんだ。1回読んだくらいで分かった気になるな。10回読め。それでも分からなかったら,ほかの文献を探して同じ項目を10回読め。それでも分からなかったら,さらにほかの文献を探して10回読め。それでも分からなかったら,最初に読んだ文献に戻って10回読め。「わかった!」思える時が必ず来る。それまではあきらめるな。ちょっとくらい読んで分からないのは当たり前だ,書く方はもっと大変なんだ!! ちょっと読んだくらいで,「分からない」なんて軽々しく言うな!!。 恩師からは化学の授業でこう教わりました。これは,至言です。筆者はこれを25年間実践してきました。この言葉は,心の宝物です。もっと楽しい話題のときならよかったのですが,こんな形で紹介することになるとは思い及ばず,いまこうやってキーボードを叩いていてもtear…。筆者は恩師の教えを守り,本日の画像でも,本を書くときでも,大事な記事は何度でも推敲してから掲載しているのです。
この恩師は,ご子息が病気になったときに,医者に連れて行き,そこで診断を下してもらい,すぐに2件目の医者に行き診断を下してもらい,さらに3件目の医者で診断を下してもらい,どこも同じ判断だったので,一番最初の医者で治療してもらった,という話をしてくれました。今から27年前の話で,セカンドオピニオンなど,誰も知らなかった時代です。実体験をもって,このような話をしてくれた恩師は,筆者にとっての本物の教育者だと思っています。授業内容など覚えちゃいません。そーんなことよりも大事なことを教えてくれました。
2011年3月27日(3)
美しいものを眺めていると頭の中が澄み切ってくるような,凛とした感じがあります。種々雑多な情報にまみれて暮らしていると,頭の沈静化が起こらないのかもしれません。こういうときに珪藻などを眺めていると,自然災害に巻き込まれつねに怯えて暮らしてきた人類が,心を落ち着けて明日への活力が沸くように,芸術が生み出されたのではないかと思ったりします。上の画像は相模湾から採取したトリケラチウムの一種で,明視野で撮影したものを反転して暗視野風にしたものです(撮影/MWS)。
2011年3月27日(2)
筆者がいつも地震のことを心配している原因の一つが上の画像です。これは理科年表の地学の部で,日本の主な地震と津波の被害をまとめてあるページの一部です。小学生のときに天文少年であったので,理科年表はなじみ深く,よく見ていました(*1)。ある頃から,天文のページよりも,地震や水害のページが気になるようになり,繰り返し何度も過去の地震被害を読み続けて現在に至ります。最近では一年前くらいに読み返した記憶があります。
これを読むと,震度6クラスの地震は珍しくないこと。連続して大地震が起こることがあること,過去から10〜20m級の津波が何度も襲っていることなどがわかります。犠牲者の数も書かれています。そういった数字が頭の中に入っていると,地震の最中から被害が心配になってきます。今回の地震も,揺れている最中から,遠方の地震であることはすぐにわかりましたが,もしこれが直下型なら数十万人以上の犠牲を覚悟しました。やがて東北沖が震源とわかり,今度は津波で3万人は死ぬだろうと思いました。原子力災害も覚悟しました。何としてでも逃げろと沿岸の人々に叫びたい気持ちでしたが,もはや声を届ける術はありません。やがて次々と津波が押し寄せる様子がニュースに流れ,とても直視できませんでした。
理科年表は国民の必読書かもしれません。この本の地震と津波のページを読むだけでも,日本がどれだけ地震に襲われ続け,これからも襲われるのかがはっきりと認識できるからです。そういう認識が得られれば,防災意識も高まり,命が助かる人間が一人でも増えるかもしれません。とにかく,これ以上貴重な人命が失われてはなりません。いま生きている人は,これからも生きていくことが大事です。しっかり生きていること自体が社会貢献です(撮影/MWS)。
*1 この理科年表は,学級文庫だったか,教室の後ろのロッカーに置いてあったものです。こういった巡り合わせがなければ,理科年表を読むなどということはなかったかもしれません。なので筆者の不要な本,特に図鑑類は,学校教員に渡して,「読もうと読まずとも構わないから,教室の隅にでも積んでおいてください」とお願いしています。ひそかな恩返しのつもりです。子どもはパラパラと,けっこう見ているものです。
2011年3月27日
きょうは専門家のよい仕事ついて述べてみます。上の画像は,石橋克彦氏の『大地動乱の時代』(岩波新書)です。著者は地震学者であり,この本では過去の関東大震災をていねいに整理して,また地震学の基礎も説明した上で,このような地震が珍しいものではなく,近い将来必ず起きることを述べています。この本を読むと,明日にでも強烈な地震に見舞われるのではないかと身震いしましたが(*1),その認識は間違っていないことが実証されてしまいました。
石橋克彦氏は,1997年頃に,原発震災という言葉を考案し,単なる震災だけでも甚大な被害になるのに,そこに加えて原子力発電所が地震で事故を起こしたら,もはや手の施しようがない災害になることを警告しました。その後も,石橋氏は原発震災の危険性を訴え続け,画像2枚目で示すように,第162回国会衆議院予算委員会公聴会において浜岡原子力発電所と東海大地震について公述しています(PDFはこちら)。
文章にはすべて根拠があるもので,地震学の専門家として説得力ある論理を展開しています。そして全体を通して感じるのは,「起これば取り返しがつかないこと」を想定し,それだけは避けなければならない,という強い危機意識があるということです。
「起これば取り返しがつかないこと」を否定し,「そんなことはあり得ない」という専門家とは正反対に位置します。
石橋氏の文章からは,専門家の見地から,地震災害はどのように考えても避けることができないという科学者としての信念,その状況を受け入れた上で,日本が国際社会の一員であって責任ある国家運営をすべきであるという信念,そして何としてでも,国土の一部を失うような原発震災を起こしてはならないという信念を感じることができます。どこにも私利私欲など感じられません。きのう紹介した,机の上で書かれた浅薄な言葉と比べてみてください。
石橋克彦氏が一貫して訴え続けてきた原発震災の危機,これが現実となっています。氏の予測は当たりました。氏の言うとおりにしていれば今回の原子力災害は防ぐことができたでしょう。これが本物の専門家の仕事です(撮影/MWS)。
*1 この本は入手も容易でお薦めです。筆者はこの本を1998年頃に読みました。東海大地震の心配はむかしからしていましたが,この本を読むことで,震災を防ぐための意識が高まりました。都内に引っ越すにあたっても,「古いがしっかりしているマンション」が神戸では倒壊しなかったことを参考に物件を選び,家具類はすべて壁によりかけ,棚は揺れ止めを挟み,それができない棚はフックで引っかけました。長時間外出するときは顕微鏡を棚から下ろして床に置きました。それができない顕微鏡は,神戸での最大振幅46cmを参考にして,それより奥に引っ込めて収納しました。何もしないよりは被害は小くできたと思います。
家人にもこの本を読んでもらい,地震が起こることを共通認識としました。地震発生時には連絡が取れなくなり,移動もできなくなることがあるので,行動指針を決めておきました(仕事場,家などいくつかの拠点を決め,そこでできるだけの仕事をすること。連絡は後回しでよい。無理に帰宅せずに持ち場に泊まること。電気が使える場合はメールが相手に届く確率が高いことなど)。結局,行動指針の通りに動くことができ,家人の帰宅は翌日,筆者は連絡待ちと片づけで過ごして事なきを得ました。
*2 1998年頃に行われた原発震災関係のシンポジウムに参加して,懇親会の席では石橋克彦氏のテーブルに行き,そこで続きの話を(酒を飲みながら)聞いたのも,今となっては牧歌的な時代だったなぁという想い出となってしまいました。
*3 地震はこれからも起きます。東南海大地震は今回の地震とは別のメカニズムなので,発生しない理由はありません。すぐに発生するかどうかもわかりません。筆者は今回の地震でもうコリゴリという気分ではありますが,まだまだ来るぞ,と気を引き締めています。
2011年3月26日(2)
今年も海の珪藻をたくさん集める予定でしたが,相当に厳しいことになりそうです。東北地方の太平洋沿岸はほぼ壊滅,行きたかった松川浦も,もはや望みはありません。東京湾でも津波は1メートルを超えましたから,今後が心配です。ただ,珪藻という生き物はどこにでもいますし,なかなかしぶとい奴らであることも事実なので,どこかに行けば何かがいるさ,という楽観的な気分も少しはあります。今週初めの大潮はサンプリングを見合わせましたが,さて,来月はどうなることでしょう。上の画像は相模湾で採取したカザグルマケイソウの一種です(撮影/MWS)。
2011年3月26日
きょうは専門家の不思議について,上記の本で説明してみましょう。30年ほど前に,水環境の研究では定評のあった(過去形),中西準子氏が書いた『環境リスク学』(日本評論社)です。この本の最後の方に,環境リスク学の専門家としての,原子力に関する見解があります。そこには,実際は安全なのに,残念なことに市民がリスクに関して勉強不足で原子力に不安を持っているので,原子力発電所の建設が拒否されている,というニュアンスの一文があります。言い換えれば,原子力はリスクが小さくベネフィットが大きい,市民はそこを誤解している,ということです。驚くべきことに,この本を隅から隅まで仔細に検討しても,そのことに関する「根拠」が見当たりません。
読者の皆さんは,いまこれを読んで,どのように感じられるでしょうか。
この本は2004年9月の出版で,筆者はこの本を2005年の3月に読みました。そのとき,「原子力に関して何も知らない人(素人)が書く典型的な文章」と感じました。理由は簡単です。今回のように,地震が原子力災害に直結しますし,それ以外にも電源喪失の原因はあります。事故が起きなくても,高レベル放射性廃棄物を,どこが受け入れるのかさえ決まっていません。それどころか,再処理には途方もない危険や困難や放射性物質の日常排出があって,原子力発電所の平常運転自体が様々な困難を生み出しているからです。
しかし,素人なら,何も知りませんので,事業者からのデータだけをみて,「安全」「安全」を繰り返すことができます。
そしてこの,中西準子氏は,一時期,1997年頃,原子力委員会の委員を務めています。
筆者から見れば,中西準子氏が原子力に関する素人なのは明らかですが(昔から知っている人なので…),この人はとても正直で,自分が素人であることをこちらでちゃんと告白しています。
ウラン資源の寿命やプルサーマルの意味とか、そのことと放射性廃棄物との関係など、私はあまり知らなかったので、この本で教えられた。(2006.6.13)
つまり,原子力委員会の委員を務めていたときも,『環境リスク学』を出版したときも,原子力問題に関しては,新書一冊で得られる程度の知識も持っていなかったわけです。
原子力発電に反対してきた市民は,新書一冊どころか,100冊読んでいる人も珍しくありません。研究者が読むような専門書を読みこなしている「市民」もいます。筆者も例外ではありません。
ちなみに,中西準子氏は,環境リスク学の専門家としての活動が評価され,紫綬褒章(2003年)を受章したのちに,2010年には文化功労者の称号も得ています。文化功労者には,年間350万円のお金が終身支給されます。
いやー,専門家って,本当に素晴らしいですね(撮影/MWS)。
*1 原子力が安全である根拠を示して議論しているのであれば,その結論が間違っていようとも,仕方がない場合もあります。しかし何の根拠も示さずに「安全」だと書き,市民に対して否定的な書き方をしているのですから,これはほとんど宗教です。
*2 書籍の1行をとらえて突っ込んでも仕方ないだろうとお感じになった方もおられるかもしれません。しかし本物の専門家であれば,1行たりとも疎かにしません。政治家が不用意な一言で辞任するのと同じで,科学者であれば,許されない1行なのです。筆者もむかし専門書籍を出版したことがありますが,根拠なく,思いこみで書いた文章は1行たりともありません。
*3 福島県周辺で,現在のような事故を想定し,根強く原子力発電に反対して,何百冊という本や資料を読んで勉強を重ねてこられた方々が,結果としてこういう事故に被災し,住むところも,ふるさとも奪われたことを想うとき,その無念な思いはどんなに大きかったことでしょう…。
2011年3月25(2)日
ところで,野菜はどうすればよいのか,特に,葉物はどうしたらよいのかという点について考えてみます。
先の記事で書いたように,ヨウ素のイオン種は煮沸しても飛びませんから,加熱により濃度が減じるという可能性はほとんどなさそうです。しかし,ヨウ化物イオン,ヨウ素酸イオン,次亜ヨウ素酸イオンなどは,どれも水溶性ですので,大量の水で煮れば,一部が溶脱することは確実です。したがってホウレンソウなどは,まず適当な大きさに切ってから軽く湯がいて,湯切りしてから水にさらし,最後によく絞れば,かなりのヨウ素が除去できることが期待できます。どのように考えても,生のままサラダや炒め物に使うよりも,ずっとヨウ素が抜けるといえます。
ほかの葉物も同じ処理でよいかと思います。関東地方にはかなりの放射性降下物があったので,出荷停止地域以外でも,放射性物質による汚染はあるものと考えておかしくはありません。心配な方は,安心材料を得るためにも,上記の取扱をお薦めいたします。
これから山菜のシーズンになりますが,山菜のアク抜きも同様な手順ですので,怠らないようにするのも一法かと思います。なお,福島県やその近郊では,相当量の放射性降下物があったものと見込まれますので,今年の山菜はむずかしいかもしれません。少なくとも,調査が済んでいないところで採取,喫食することは推奨できないと筆者は考えます。特に,きのこ類はセシウム137を濃縮するものもあると言われているので,注意が必要です。あと一月ほどで,春のきのこが顔を出します(文責/MWS)。
2011年3月25日
東京都内では水道水中のヨウ素131含量が基準値を下回った一方で,千葉県や茨城県では基準値以上の高い値が報告されています。今後も,気象条件などにより,値が変動するものと考えられますので,情報取得に努めて下さい。
ところで,水道水中のヨウ素131を煮沸で除去できるのではないかという話が出回っています。結論から申し上げれば,その可能性は低いと考えられます。ヨウ素の単体なら煮沸により抜ける可能性がありますが,単体で存在しにくいのです。
原子炉中のヨウ素は気体の形で炉から放出されていきますが,これは揮発しやすい化学形と考えてよいと考えます(I2の形)。これが大気をさまよって,降雨などによって地表に運ばれ,水系に入る頃には,土や水に含まれる成分と反応して,ヨウ化物イオン,ヨウ素酸イオン,次亜ヨウ素酸イオンなどの形になると考えられます。生物は酵素の力によって,ヨウ化物イオン→ヨウ素→次亜ヨウ素酸の反応を行い生態に取り込むとされています。一部の生物はヨードメタンを作る能力もあります。こういった反応経路を地球化学的に考えみた場合でも,ヨウ素が水中に単体で存在する可能性は低く,イオンとして存在することがほとんどです。
これらのイオンは,水の煮沸によっては蒸発しませんので,除去することはできません。長時間煮れば,水が蒸発して減る分,かえって濃縮する恐れもあります。
ところで,内部被曝のリスクについて簡単に記しておきます。
安全とされるレベルでも,発生確率から見ればリスクが上昇しているということがあります。放射性物質が体内に止まれば,その場所で放射線を出し続けますから,安全とされている量であっても,10万人に1人は深刻な健康被害を生じる可能性もあるのです。内部被曝はそこが危険です。どんなに少量でも,摂取して良い安全な量はないという研究もあって,余分な放射性物質はできるだけ摂取しない方がよいと考えられます。
では,内部被曝のリスクはどのくらいなのかというと,そんな実験はできないのです。その昔,放射性物質のリスクを評価するために,大量のマウスを使って実験を試みた研究があったと記憶していますが,マウス団地のようなものを作って1万匹単位のマウスを使っても1/10000のリスクしか評価できず,結局,うまく見積もることはできなかったと記憶しています(出典が思い出せません)。
すると,10万分の1のリスク評価は,最終的には疫学的な判断に委ねられることになります。しかし,母集団が100万人程度では,実際に放射性物質によってリスクが増大したのかどうかは,わからない可能性もあります。疫学的な判断ができなければ推測値を使わざるを得ないこともあるでしょう。
こういうとき,一部の学者は10万分の1の数字を根拠に,「安全」という言葉を使います。「この水を一生飲んでも大丈夫」「このホウレンソウを食べても平気」とのたまいます。
それは,確率という意味では間違っていないのです。しかし,運悪く,その10万分の1に該当してしまった人は,人生に深刻な影響を受けることになります。実際に病気になってしまった人には,10万分の1のリスクという言葉は,もはや意味がなくなります。母集団が,2000万人だったらどうでしょう。2000万人のうち200人が,内部被曝によりガンになり死ぬとすれば,統計的には小さなものでも,原発事故がなければ死ななかったという意味においては,避けられたかもしれない死であるのです。
飛行機が嫌いで乗らない人がいます。航空機事故で死ぬ確率など,計算するのが難しいほど低いのですが,それでも乗りません。しかし,その人は,確実に,自分が乗っている航空機事故で死ぬことはありません。
飛行機が好きでパイロットになり,世界のエアラインを駆けめぐって,何の事故もなく一生を過ごした人もいます。
その一方,飛行機嫌いで,普段は乗らないのに,仕事で仕方なく乗った1回の飛行で墜落し,死亡した人もいます。
今回の,放射性物質による水や食物の汚染は,人の一生から見れば,相当に低いリスクの段階ですが,疫学的には死者が出る可能性も否定できません。よく考えてみて,ご自身の対処法を決めるとよいかと思います(文責/MWS)。
2011年3月24日
これは水平に張り出したピアノ線にネオジム磁石を吸い付けた振り子です。高感度の地震判別装置です。ここのところ,あまりにも地震が多すぎて,自分が揺れているのか地震がきているのかわからない状態が続いています。そういった地震酔いの状態が続くのも好ましくないので,振り子の動きで地震を判別しようと思った次第です。これを眺めてみると,無感の地震(震度ゼロ)でもわずかに揺れるのがわかります(撮影/MWS)。
2011年3月23日(3)
http://www.asahi.com/national/update/0323/TKY201103230282.html
東京都水道局は23日、金町浄水場(葛飾区)から乳児の飲用に適さない濃度の放射性ヨウ素が検出されたと発表した。検出濃度は1キロ当たり210ベクレルで、厚生労働省が21日に示した乳児の飲用に関する指標値の100ベクレルを110ベクレル上回っていた。
都は23区と武蔵野、町田、多摩、稲城各市での乳児の飲用を控えるよう呼びかけている。ただ、「厚労省設定の数値は長期間飲用した場合の健康被害を考慮したもので、代替飲用水が確保できない場合は摂取しても差し支えない」としている。(2011年3月23日14時31分)
以上は,朝日新聞社のサイトからの引用です。都内でも基準値を超える放射性ヨウ素が水道から出てきたわけです。金町浄水場は急速ろ過+高度浄水処理を行っていて,生物活性炭処理なども併用しています。粒子状物質の除去は効率よく行えますが,溶存物質の除去はできません。昨日の雨で群馬県〜埼玉県の地表に降下した放射性物質が江戸川に流れ込み,高い値を示したものと考えられます。
厚生労働省が示した乳児の飲用に関する指標値の100ベクレルは,国際的に見れば,とんでもなく高い値です。あくまでも,原子力災害時の暫定基準値です。乳児のおられる方は,可能な限り市販の水などを利用し,飲ませることのないようにしてください(文責/MWS)。
(追記)
読者の方から次のリンク先を教えていただきました(ありがとうございます)。203ページの表でヨウ素131やセシウム137のガイドラインを見ることができます。
WHO飲料水質ガイドライン
http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf
(追記2)
飲んでも直ちに危険と言うことはありません。しかし放射性物質の放出は続いていますし,それらの摂取は水以外にも,食事や呼吸など,ほかの経路があります。総合的に考えて,リスクを減らそうとすることには意味があると考えます。
2011年3月23日(2)
当サービスのユーザー様は,すご腕の顕微鏡使いが多く,その中にはwebサイトをお持ちの方もおられるので,たまに巡回してみています。それできょう,きのこ関係のサイトを見ていたら,包丁研ぎの記事が出ていて,筆者も所有している正本の牛刀がでてきました。それ以前には刃物研ぎの記事は見当たらないので,ひょっとすると研ぎファンになったのかと勝手に喜んでいます。顕微鏡写真の腕前がプロ級なので,さすがに研ぎも素晴らしい。思わず筆者の正本を撮影してしまいました。もう,チビていますけど,全鋼製ですから切れ味は抜群です。刃幅が狭くなった分,鋼の厚みが増しますので,しのぎの幅を広げて切刃を薄くして,食い込みと切れ味を重視して8:2程度の片刃にしています(撮影/MWS)。
(つぶやき)
研ぎは,究めようとしても,究極の研ぎというものがわからず,追求し続けることになります。追求し続けることこそが,研ぎの達人であり続ける唯一の方法です。この点が顕微鏡写真と同じです。だから顕微鏡技術に優れる人は,当然,研ぎ技術もピカイチになります。筆者はそう思っています。
2011年3月23日
きょうは備忘録的に記します。福島県内で観測された高い放射線量は,12日の1号機の爆発により放出された放射性物質が原因の可能性が高いと,筆者は考えています。web上の情報によれば,13日午前中に,双葉町役場付近で,測定器の上限(1mSv/h)を越えたとのことです(*1)。この時点では,まだ3号機は爆発していませんし,ドライベントで高濃度の放射性ガスが放出されたのは,東京電力の発表が虚偽でなければ15日とのことなので,1号機の爆発が原因の可能性が高いといえます。
また,12日の爆発後に,原発から北西方向にある病院で,関係者が,綿のようなものが降ってきたとも証言しています。爆発時の画像を見ると,内陸の北西〜北北西方向に煙が移動しているのが確認できます。
その後の,16日以降に発表された測定値でも,浪江町,飯舘村,伊達市,福島市,二本松市,本宮町などで高い放射線量となっています。
3号機の爆発は,規模が非常に大きい上に,発生した煙の量も桁違いですが,これらは南西方向に流れているように見えます。このあとも同じ風が続きました。
これらの情報を総合して作図すると,上の画像のようになります。赤の矢印で示した部分が,1号機の爆発で生じた放射性物質の拡散方向です。
原子力発電所の一基の建屋で爆発が起こり,格納容器や圧力容器が破損していない(報道によれば)という状況で,福島県のこれだけの地域が汚染されたという事実は大変重いものです。3号機も2号機も同じタイミング,あるいは同じ風向きのときに爆発した可能性もあったわけで,そうなっていたら現在の数倍〜10倍以上の汚染もあり得たわけです。まして,格納容器や圧力容器が破損していたら,あるいは,燃料プールの燃料が熱で融解して煙を噴き出していたら,もっと過酷な汚染になっただろうと想像できます。
今のところ,偶然にも風が放射性物質の多くを海に運んでくれています。しかし風の向きによっては,放射性物質が60kmも内陸に運ばれ,安全とはいえない空間放射線量率になることが実証されてしまいました。今後も放射性物質が付着の放出が続きますので,目を離すわけにはいきません。
非常に気になるのは,12日夜〜13日朝にかけての,福島県内の放射線量がわからないことです。福島市で16日に20μSv/h程度で,これは放射性物質が到達してから3日程度経過しています。多くの物質は降下して地面にあるでしょうから,1メートルの高さで測れば相当低い値になると考えられます。放射性物質が運ばれてきた日は,どのくらい高い値になったのかが気になります(mapion地図から作製/MWS)。
*1 このニュースは,47nwesに数時間だけ掲載され,すぐに削除されてしまいました。なぜなのでしょう。
*2 福島県内の汚染状況から考えて,ところによっては年間+1mSv以上の過剰な被曝が起こることは明らかです。今後数十年以上,福島県民や,ほかのところでも被曝線量の多いところにおられる方は,すべて健康診断無料(東京電力負担)というのはどうでしょう。
2011年3月22日
専門家は独特の言葉遣いをしますので,解釈に注意が必要です。きょうは上の画像を例に,筆者がどのようにニュースを読んでいるのかを解説してみます。
高村教授は「福島市の現時点の空間放射線量で、健康上のリスクは全く考えられない」と語った。
まずこの部分ですが,筆者流に書き直すと次のようになります。
「福島県内の福島市の測定点に限った話だが,現時点の空間放射線量で,それを外部被曝して,内部被曝がなかった場合,発ガンなどの健康上のリスクは全く考えられない」
つまり,福島県のほかの地域には言及していないこと,福島市内であっても,全域の放射線量が判明しているわけでもないので,危険ではないにせよ,今後の情報に留意した方がよいと筆者は考えます。
現時点の値を7μSv/hとして,年間の「外部被曝量」を計算すると,61.3mSvとなります。疫学的には,この外部被曝量で,人が一生の間にガンを発生する可能性は0.1%もないでしょう。その一方で,放射線を浴びなくても,日本人は一生のうちに25%程度がガンになる可能性を持っているわけで,それと比較すれば「健康上のリスクは全く考えられない」といえるわけです。高村教授の言葉は,その部分だけ見れば正しいともいえます。
ところで,一般人は,せいぜい,平常時+1mSv/年の被曝に止めるべきで,原子力産業で働いている人々でさえ,年間50mSvも浴びることは(今回のような緊急時以外は)許されていません。直ちに健康被害を生じないからといって,放射線を取り扱っている方々も許されていない量を被曝する可能性があることを書かないというのは,報道の姿勢としてはよろしくありません。また,小さな子どもや妊婦の方は,一般労働者よりもさらに低い被曝量であることが求められますから,その点も配慮が必要です。「福島市」には,いろんな方が在住しておられるのですから。
低線量被曝の発ガンリスクについては不明な点ばかりですが,完全にゼロとはいえません。仮に,50mSv/年レベルの被曝を受け続けると,1万人に1人がガンになると仮定しましょう。すると,100万人の人口では100人の人がガンになるわけです。一人の人生を考えた場合,健康上のリスクは全く考えられないが,集団として見ればガンが増える可能性を完全には否定できない,ということは知っておいてよいかと思います。もちろん,この程度のガンの増加は,都道府県別のガン死亡率の変動範囲内に隠れてしまうかもしれません。
ですので,外部被曝で死んでしまうかも,という点では,深刻に考える必要はなさそうです。
しかし発達障害などについては,話は別ですので,そこのところも留意しましょう。妊娠時や赤ちゃん,小さなこどもが数mSvも被曝したら,学習面での遅れなど,将来的に何らかの障害が出るかもしれないという心配もあります。これは確定したものではありませんが,発ガンだけをみて全てが安心というわけではないのです。ですから,「健康上のリスクは全く考えられない」のが正しいとしても,「その他のすべてのリスクがない」ということではないのです。筆者なら,赤ん坊に年間50mSvもの放射線被曝は,それが健康上のリスクがないとされていても,到底認められません。
次に,内部被曝について考えます。内部被曝は先の「外部被曝」とは話は少し変わります。現在,「福島市」で測定されている放射線量は,すでに地面に落下したヨウ素やセシウムからのものが多いと考えられます。このヨウ素やセシウムは放射線源ですから,皮膚に付着したり,体内に取り込んだりすると,身体の内部から放射線を出すことになります。だから内部被曝と呼ばれます。
内部被曝は外部被曝よりも危険とされていますので,できるだけ放射性物質を体内に取り込まないことが大事です。このニュースでは,そのことに触れていないのが気になります。子どもが泥だらけになって遊んだり,赤ちゃんがそこらじゅうのものを口に放り込みながら這いずり回る,などといったことは,確実な情報がない現時点ではとても推奨されません。
次の文章に移りましょう。
山下教授は質疑応答で「洗濯物は屋内に干して」と呼び掛け、
これを筆者流に書き直すと,「洗濯物には放射性物質が付着して,そこから内部被曝が起こる恐れがあるので,リスクが低いにせよ,その危険は避けた方がよい。だから室内に干して下さい。」「長時間外出するのは,洗濯物を外に干すのと同じなので,推奨できません。」「外に漂っている放射性物質を吸い込む危険があるので,外出時は必ずマスクをしてください(粒子由来のものはカットできる可能性があります。ガスは吸い込んでしまいますが)」
となります。そのような状況なのですから,当然,「外に干してある洗濯物」と同様な農産物でも,内部被曝の恐れがあって,実際に一部は規制値を上回っていますから,出荷はできません。ですから
福島県産の原乳や一部の野菜の出荷制限について「政府の責任で安全宣言を出すまで待っていてほしい」と理解を求めた。
当然,このように言わざるを得ません。次の文章ではこう言っています。
さらに「酪農は続けられるのか」との質問に「必ずできるようになる。乗り越えてください」と励ました。
これは,筆者流に読み解けば,「わかりません」がホンネですね。とうぜん,いつかはできるようになるかもしれませんが,まだ放射能の放出は続いていますし,汚染状況の詳細もわかりません。農家は我慢しても1年以上先延ばしにされれば,経営的に耐えられないでしょう。だから「乗り越えてください」という表現にせざるを得ないのです。
筆者は不安を煽っているのではありません。言葉にだまされるな,といいたいのです。ニュースの文面を見ると,当面問題ないような印象を抱きますが,「何も問題がない」状態とはほど遠いのです。
そして,ここで読み解いてきたのは,「福島市」に限定した話です。浜通りの町や村では,この10倍の放射線量のところがあります。そこでは,すぐに健康上のリスクは生じないにしても,もっと事態は深刻なのです。
人はニュースなどの情報に接すると,情報を得た気分になります。しかし,ニュースは表面的なものです。書いてあることをそのまま信じると,とんでもないことになります。専門家の言葉ほど恐ろしいものはありません(画像/47newsのスクリーンショット)。
(つぶやき)
おタバコをお吸いの方々にはちょっと朗報かもしれません。タバコを一生吸い続けると,平均的には3〜6年程度,余命が短くなりますので健康上のリスクは明らかです。そういったリスクを怖れずに喫煙していらっしゃる方々は,けっこう勇敢だともいえます。それと比較すると,3月21日時点での,放射線による生命リスクは比較にならないほど小さいといえます。こういう安心のしかたもあるかと思います。
2011年3月21日(2)
ここのところ原子力災害関係の記事を書いていますので,筆者のスタンスを申し上げておきます。筆者自身は,1988年頃までは原子力発電に「何となく」賛成していました。しかしその後,自宅近くで高濃度のダイオキシンが検出されたことをきっかけに物質循環(=人間が使ったものは必ずどこかに捨てなければならない)の勉強をはじめ,その結果1989年頃から,原子力発電を肯定することができなくなり,現在に至っています。理由はいろいろありますが,
1)事故が起きたときの被害が大きくなりすぎる
2)深刻な事故(再臨界など)に発展した場合,手をつけられなくなる
3)安全に運転しても,放射性廃棄物が発生し,その管理を数千年以上継続しなければならない
4)こうしたリスクの割には経済性も効率もよくない
5)化石燃料が枯渇しても放射性廃棄物の管理は継続しなければならない
6)廃棄物処分地は,100年以上にわたって地下水の利用が禁止される
7)リスクは低いが,放射線の被曝には,これ以下は安全という値がない
8)二酸化炭素で地球が温暖化してもヒトは居住できる。農漁業もできる。
9)原子力災害が起きたら水と緑と土が利用できなくなる
10)被曝の危険がある作業は東京電力社員以外の人が行うことが多いこと
11)日常運転でも放射性廃棄物がどんどん蓄積していくこと
12)被曝者が健康でも,差別が起こる
13)核物質輸送事故の危険性
14)今回のような事故を想定している人は一笑に付された
15)小学校から高等学校にかけて,原子力の危険性を説明した教科書がない(検定を通らないといわれている)
16)ある電力社員が「原発に回されたら転職する」と言っていたこと
17)勉強する前は,国から安全だとしか聞かされていなかった
18)自然状態では決して存在しない毒物をまき散らしてしまい,それがなかなか消えない
19)廃棄物の長期間の管理を計算すると(バックエンド)負の経済性を持つ可能性もある
20)使用済み燃料のガラス固化体を貯蔵管理するまでに30年以上水冷する必要がある
21)全電源喪失の危険性は昔から知られていたこと(ラ・アーグ工場事故)
22)ウラン資源はもう残りがそれほどないこと(100年もない)
23)ウランが輸入エネルギーであることに代わりがないこと
24)石炭はまだ1000年分くらいあるので結局はそれを使う可能性があること
25)石炭の時代に突入しても,まだ放射性廃棄物の危険が減らないこと
26)国内では100万Kw級の廃炉の実績がないこと
27)採掘地の原住民が被曝していてその犠牲の上に成り立っていること
28)…
などと,いくらでも理由が浮かびます。考えても考えても解決が難しい問題に直面し,これはとても扱いきれる技術ではないと思わされ,現在に至っています。
しかし筆者は,単純に「原発反対!」と叫んだことはありません(個人として反対署名をしたことは何度もあります)。そうやって,いきなり結論だけを叫んでみても,何も力にならないと思っているからです。日本は民主主義の国とされていますので,国民の大多数が原子力発電を認めたのなら,その結論に従う他はないのですし,個人がどう考えるかは個人の自由で,じじつ,筆者宅で行われる年末恒例大忘年会には,原発推進と考えておられる方々,反対はしない方々(結果的に推進)がいらっしゃいます。どんな考えを持っていようとも,筆者と25年以上のつきあいのある,大切な仲間です。
こういった前提のもとに筆者がなにをしてきたかというと…。まず,原子力の問題に関しては,日本に住む一人一人の方が,
1)放射線とは何か
2)その現象を利用してどうやってエネルギーを得るのか
3)石油,石炭,天然ガス,バイオマス,地熱,ゴミ発電,太陽電池などとの比較
4)原子力の優位性
5)事故の危険性と対策,実例
6)重大事故の可能性
7)放射性廃棄物の管理
8)温暖化vs放射線
9)…
などについてきちんと勉強し,原子力発電とはどのようなものかを知ることが大切と考えました。それで環境リテラシー向上を目的として,知人と議論したり,原子力発電の講義を行ったりしてきたわけです。講義時にも,原発はダメだよとは一言もいいません。エネルギーとは何かから説き,化石燃料の特性や地球温暖化の講義も終えた上で原子力の特性を話します。そして,どのエネルギーにも長所と短所があることを話します。その上で,
「私自身はこういった勉強をした結果,原子力は推進すべきではないというように考えるに至った。しかし皆さんは別の考えをお持ちかもしれない。それはそれでまったく構わない。大切なのは,現在の社会で採用されているエネルギー供給システムの内容をきちんと勉強して理解し,皆さんが自分の頭で考え,何が必要かどうか判断することです。」
といって講義を終わります。上の画像は,そういった講義(5年ほど前で,文化系の私立大学)に学生が寄せた感想の一部です。放射線というものをまったく知らなかった受講者が,「考えてくれている」ことがわかります(画像/MWS)。
(つぶやき)
*1 あるとき男子学生(21歳)に原子力のお話をしていたところ「でも生活レベル落としたくないですねー」と言われ,話が続かなくなりました…
*2 地球温暖化対策として原発を,というのが推奨できない科学的根拠をセミナーで述べたところ,「でもっ,君っ,電気使っているんだろー!」と化学に詳しい教授が真っ赤になって怒りました…
*3 あるとき,女子学生(23歳)に,原子力の問題点についてお話をしていたところ,「生活レベルだけは落としたくない」と言われてしまいました。さらに「そういう考え方はファシズムと言うんじゃないの?」とまで言われてしまいました…。忘れられません。。
いずれも,20年くらい前の出来事で,筆者もまだ大学院生でした。あの頃は話し方が下手だったのか,若者ゆえに説得力がなかったのか…,はずかしいですね。。
*4 講義の感想を書いてもらい,それを翌週にすべてまとめて配布するという方法を筆者はよくやっていました。この方法は,受講者がどんな感想を持っているのか共有でき,自分の考えのレベルもわかるので,講義に集中してもらう良い方法だと思っています。友達や知人の考えというのは知りたくなるもので,皆さん,よく読んでくれましたし,プリントを配布したことを感謝されたりもしました。この方法を現代流にやるならば,講義中に携帯電話で講師に意見をメールして,講師はその場でメールを受信して,その意見を次々とプロジェクタに反映させる…という感じになるでしょうか。指名して意見を述べさせるよりも,ずっと意見が抽出しやすいと思います。
*5 原子力を数十年以上も強力に推進してきた政党は皆さんご存じかと思います。なので筆者は選挙権を持った頃から,その政党に投票したことがありません。建設国債を乱発して国を借金まみれにして,都市をコンクリート地獄にして,ヒートアイランド地獄にして,原子力産業に巨額の税金を投入し,若者の教育やにお金を投じない政党に票を投ずる理由が見当たらなかったからです。まぁ,学生だからなんの利権もなかったということもありますが…。その政党は日本に良いことをたくさんもたらしましたが,悪いこともたくさんありました。少々なら黙認できても,福島県民にこのような害を与えてしまったことはどうにも…。原子力のような,大きな環境問題は,最後は政治の問題になります。ですので,選挙のときによく考えないといけないのです。
*6 想定外,という言葉がよく使われているようですが,この程度の地震は珍しいことではありません。揺れは,加速度的にはあまり大きくありませんでした。新潟の大地震のときは,重力加速度を超える揺れがあり,停車中の鉄道車両が倒れました。それに比較すると相当に小さな加速度です。ただ,振幅が大きく,長周期でしたのでプラントへのダメージは大きかったと思われます。マグニチュードが最大級との表現もありますが,遠方の話なので,聞くに値するものではありません。実際,女川原発は何とか停止して事なきを得たのです。原子力発電所は,想定外であっても壊れては困るのです。まぁ,月が地球に衝突するような場合は仕方がありませんが。
*7 爆発時の風の向きから考えて,現在の福島県内の汚染は,1号機の爆発が原因かもしれません。風が北西方向に向かっているからです。2号機,3号機,4号機の爆発(火災)時にも同じ風が吹いていたら,このレベルの汚染では済まなかったことは覚えておくべきです。現在この程度のレベルの汚染で済んでいるのは,単なる偶然(幸運ともいいます)です。
*8 原子力施設は「捨てられない」のです。クルマは事故を起こせば廃車にして捨てられます。スクラップにして,タイヤはコンクリート産業の燃料にしてもらい,鉄板は電炉で再生するなどして,「物質循環」することができます。でも,原子力施設は,事故が起きたからといって,「捨てられない」のです。放射性物質が漏れるので,「管理」するしかないのです。
*9 想定外の大地震,という言葉を使ってはいけない理由がもう一つあります。それは,核燃廃棄物は,もともと,数千年〜数万年の保管を前提としている,ということです。高レベル放射性廃棄物の貯蔵管理については,数万年レベルでの地質安定性(活断層や大地震)も調査していると聞きます。これは,放射性核種の半減期を考えれば当たり前のことです。で,核燃廃棄物にはそのような配慮がされているのに,都合良く,運転中の原子炉には1000年に一度の地震は「想定外」と言い抜けるとすれば,それは分かりやすすぎる言い逃れです。
*10 いろいろ書いていますが,筆者は,原子力産業で働く方々の仕事ぶりは,プロの仕事として尊敬に値すると思っています。これまでも,危険な事象は数々ありましたが,レベル5-7クラスのアクシデントは起こさず,50基を越える原子炉の安全を確保したきた方々の努力は賞賛されるべきだと考えます。現場でプロの矜持を失うことなく,安全を維持し続けた方々の努力は評価されるべきで,原発推進/停止の論争とは,まったく別の問題です。
*11 3号機の爆発は,1号機の爆発と比較すると,とても同じ水素爆発とは思えません。1号機は,衝撃波は垂直に走っていますが,建屋の破壊は継ぎ目から起きています。しかし3号機では,水素爆発の発火が確認できたあと,垂直に黒煙が急上昇し,そのときに相当な重量物が一緒に巻き上げられているのが見えます。爆発に伴う粉塵の大部分は東南東方向に流されているように見えますので,海に落下したと考えられます。これが親潮に乗れば銚子沖付近で放射性核種としてキャッチできるでしょうから,海水や生物試料を採取し,MOX由来の各種を分析することが重要です。事実は,そうとう後になってから判明するでしょう。
*12 今回の事象が,柏崎で起こっていたら,放射性物質が関東から東北地方に広く拡散,降下する事態になったわけです。直下型なら,M7.5でも震度6にはなります。「想定外」とすることはできません。今回は,現時点までで,福島県の一部を汚染するという不幸な事態になっていますが,これでもかなり幸運です。もし柏崎で起こっていたら…考えるまでもありません。
*13 いくらでも書くことが思い浮かびますが,キリがありませんのでこの辺りで止めます。でも,気分次第で書くかも知れません。筆者は,web上に情報を発信するときは,論文執筆と同じ程度に吟味して書いています。したがって,議論の骨子について,あとからこっそりと訂正することはありません(骨子に関係のない部分で,わざと下品な表現を書いておいて後から消すことはあります。最近では,ウンコ顕微鏡と表現した「ウンコ」を消しました)。アイデンティティの統一性については,揺るぎないと考えていますが,ご意見がありましたらどうぞお寄せ下さい。
2011年3月21日
文部科学省のホームページは,一晩で変化しました。さすがに苦情があったのでしょうか。さっそく福島県をクリックしてみます。
やはり,反省の色はまったくないようです(画面を等倍で切り出したものです)。読者の皆様,数値がぱっと読めるでしょうか?。情報は最短経路でアクセスできなければいけません。
こちらを参考に,筆者が画像処理を施し,読みやすくしたのが下の画像です。
昨日と同様で,福島第一原発から北北西に汚染域が広がっています。多少の減衰は見られるものの,放射線量が50μSv/hを越えている非常に高い地域があります。チェルノブイリ原子力発電所事故でも,30μSv/h以上の線量で子どもと妊婦は避難したとされていますので(こちら),それに該当します。直ちに健康被害を生じるものではないことが明らかだとしても,念のため,しばらくの間は立ち入り禁止になるでしょう。本当に残念なことです。これ以上,放射性物質で汚染されないよう,原子炉の制御がうまくいくことを祈っています(文部科学省より引用,画像処理/MWS)。
2011年3月20日(2)
http://www.asahi.com/national/update/0318/TKY201103180577.html
4号機のプールでの発熱量は毎時約200万キロカロリー。約1400立方メートル入る貯蔵プールの水の温度を、単純に計算すると1時間あたり約2度上げることになる。 (上記URLより引用)
もしこの値が正しいなら,水の蒸発熱や貯蔵プールの水量,放熱の熱抵抗などを考慮して計算すれば,任意時間での水の残りを計算することができます。筆者がひじょうに大まかに計算したところ,プールに破損がなくても蒸発により300時間から500時間でプールは空になります(皆さんも計算してください。検算してください)。これを書いている時点で180時間以上過ぎています。火災が起きていますから,すでに水素爆発が起きた可能性があり,燃料棒は一部露出して破損していることと推測されます。
3号機にはMOX燃料が使われており,これにはプルトニウムが利用されていますので,これの行く末も気になりますが,4号機貯蔵プールの燃料棒も一刻を争う事態になっていることは明白です。現場では当然,正確な熱力学的計算が行われて作業の優先順位が決められていると思いますが,東京電力から東京消防庁や自衛隊に正しい情報が伝わっていることを祈るばかりです(画像/MWS)。
2011年3月20日
文部科学省のホームページには,上の画像のように,放射線モニタリングの結果が掲載されています。けっこう不親切な表示で,多くの方が知りたい,「福島県」が,ぱっと見るとないように見えます。よーく見ると,福島第一原子力発電所周辺,というリンクがありますから,なるほど,それは一応,福島県ですね。そこでクリックしてみますと,次の画像が表示されます。
これは画面を等倍で切り出したものですけど,読者の皆様,数値がぱっと読めるでしょうか?わざと縮小したjpg画像にして,数字を小さくして,地図の文字を薄くして,どこの地点がどのくらいの数値なのか,わかりにくいようにしてあります。情報操作のイロハのイです。多くの人は,この地図から,正確に福島市の放射線量を読み取ることをあきらめると思います。ほかのページには,きちんと読み取れるPDFが用意してあるのですが,それならば,トップページからきちんと見えるようにすべきでしょう。国民に必要な情報を最適な手段で与えることを怠ったやりかたは,卑劣としかいいようがありません。
そこで筆者が画像処理を施し,読みやすくしたのが下の画像です。
福島第一原発から北北西に汚染域が広がっていることがわかります。5μSv/hを越える高レベルの汚染域がかなり見られます。2,3,31,32,33,34,46,61,62,63の測定点では10μSv/hを越えており,この値が続くようなら(続くと考えられます)避難も考えなければなりません。この高レベルの汚染は,すでに15日夜の測定で認められていますので,かなり初期の水素爆発時(1号機?)に,放射性物質が風で運ばれてこれらの地点に降下したものと考えられます。
10μSv/hのところに一年間居住すれば,それだけで,一般人が一年間に浴びる放射線量の30倍を超える量を外部から被曝してしまいます。しかもそれだけでなく,居住すれば空気も吸いますし水も飲みます。食物も摂取するわけです。内部被曝を避けることはむずかしいでしょう。
直ちに健康被害が出る数値でないことは明らかですが,こんな放射線量の高いところには,国際的にも人が住む環境とは思われていません。こういった数値が出ているにもかかわらず,全然大したことないとか,冷静に判断すれば問題ないとか書かれたメールが飛び交っています。そういったメールを学校の先生が書いていたりすると,うのみにする人もいるかもしれませんね。
そーんな簡単なもんじゃねーよと,ひとこと言ってやりたいですね。地球上のどこに年間100mSv〜1Sv浴びて暮らしている村や町があって,そこの疫学データがどうなっているかを調べないと,「大したことない」「問題ない」という言葉なんて,簡単に使えるものではありません。お勉強のレベルが問われます(文部科学省より引用,画像処理/MWS)。
2011年3月19日 (2)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103180413.html
原発から北西に約30キロ離れた浪江町の計測値では18日午後1時32分に毎時150マイクロシーベルトを計測した。この地点付近は16日午前11時半は80マイクロシーベルトだったが、17日午後2時に170マイクロシーベルトに上がり、高レベルが続いている。 (上記URLより引用)
このニュースが正しければ,ここの住民はすでに,汚染のないところに住んでいて受ける線量の2年分を被曝していることになります。この線量がずっと続くわけではないと想像しますが,仮に150μSv/hを一年間浴びると,1300mSvを越えます。これは直ちに(数日以内に)避難を開始してよい(すべき)値です。
これだけ風が吹いているのに,すでに3日間,高い放射線量が続いていますので,すぐに減衰することは考えにくいです。放射性物質の降下物が大地を汚染している可能性が高いです。室内待避の限界を超えていると判断します。鉄筋コンクリートの室内であれば,この1/10程度の被曝になることもあり得ますが,浪江町では木造家屋が多いと想像します。
もしこの地域が,放射性物質の降下物により汚染していると考えるなら,歩いて10km移動するだけでも被曝量が減る可能性があります。西風のときに,西を目指して(あるいは放射線レベルの低い地域を目指して)早急に避難すべきです。移動するときは,福島第一原子力発電所を線源として,その風下にならない場所を目指さないと,予想外に被曝しますので,風向きに注意しましょう。レインコートで全身を覆い,ゴーグルやメガネ,マスクやタオルを口にあて,速やかに浪江町から退去することを推奨します。退去できない人は,室内の中央部,できるだけコンクリートの壁の影になるようなところで待機してください。部屋の換気はせず,室外に出た場合は,外気に当たった衣服をすべて脱いでポリ袋などに入れ,人気のないところに置いて下さい。そして放射線レベルの情報を集め,減衰しないようなら待避しましょう。
いまの(18日の)放射線レベルであれば,落ち着いてゆっくり歩いて待避しても,健康に問題を生ずる可能性はほとんどありません。しかし一年間いるのは生命に危険があります。まずは安全なレベルのところへ移動しましょう(MWS)。
追記:福島放送によれば,
「屋内退避指示エリアに入った浪江町では1万7793人、富岡町では1万5480人、大熊町では1万1363人が避難を終えている。また、南相馬市でも大規模な県外への避難計画が行われている。」
とのことです。1〜2日以内にすべての方々が無事に避難できることを祈りたいと思います。
こういった高濃度の汚染地域は,30キロ以上離れていても出現している可能性があります。まだ汚染の実態はほとんど判明していません。情報取得に努めましょう。
2011年3月19日
きょうは風のお話にしましょうか。今のところ,一般市民がいる場所では壊滅的な放射線レベルにはなっていませんが,これは風によるところが大きいのです。日本には偏西風が吹いていますから,大局的には西から東に風が吹きます。このおかげで,放出された放射性物質が太平洋に向かいます。もし,風が陸上に向かうと,現在のようなレベルの汚染では済まされず,避難区域はるかに大きくります。半径100〜200キロ圏内でも危険な場所になる可能性も否定できません。
現在,福島県などで比較的高い放射線レベルが観測されていますが,これは,14日〜15日にかけて風が内陸に向かったときに,放射性物質が運ばれて,陸に落下したものが一つの原因になっていると筆者は推測します。風の様子はこちらにあります(シミュレーションですが,大まかには正しいと考えます)。
地形的に空気がよどみやすいという問題もあると考えられますが,これだけ西風が吹いてもなかなか放射線のレベルが低下しないので,放射性物質が粒子として地上にあると考えてもおかしくありません。粒子として放射性物質が落下しているとすれば,そう簡単には減衰しませんから,しばらくはこの値が続く可能性があります。福島市の約10μSv/hという値は,すぐには危険ではないものの,年単位で,そこにいても良いレベルでもないので,避難の可能性を考えておくことが必要です。
これは福島県だけの問題ではなく,今後,風の向きと,そのときの放射性物質の放出状況では,いろいろな地域が汚染される(されている)可能性があります。放射線量とともに,気象条件,特に風向きに注意しましょう。
繰り返します。現在,各地がこの程度の放射線量で済んでいるのは,風が放射性物質を太平洋に運んでいるからです。それでも,たった一日の東風で福島県がこれだけ汚染されたのです。東よりの風が続けば,東北,関東一円が高濃度の放射性物質に汚染される可能性が高くなります。安全だと連呼している専門家の言うことを聞くか,自分で考えるか,皆さんはどちらの態度をとりますか。
福島第一,福島第二原子力発電所にある放射性物質は,まだ,誤差範囲の放出量です。燃料プールでの爆発や,圧力容器の破損に伴う放射性物質の大量放出は,その可能性を否定することはできません。まずは鎮圧できることを祈ります。しかし鎮圧できたとしても,多量のMOX燃料やウラン燃料がある以上,放射性物質の封じ込めが終わるまで,環境への放出は続きます。封じ込めに成功しても,その後も永久に(数万年)管理しなければ,危険な状態になります。これは筆者が適当なことを言っているのではなく,放射性物質というものがもっている性質です。放射線を消す方法はありません。いまはまだ一部を除き安全な地域がほとんどですが,これからも安全であり続ける保証はないのです。
ところできょうの画像は,豊島区内から撮影したバラ星雲(NGC2237-9,46)です。関東地方では計画停電が今後も続きますので,月のない夜に計画停電になったら,夜空を見上げてみてください。辺りが暗くなり,いつもよりもたくさんの星が見えるかもしれません。どんなときでも,一服の清涼剤は必要です(画像/MWS)。
2011年3月18日
きょうは少し放射線の数字と避難に関するお話をしたいと思います。原子力災害においては,ある場所で,どのくらいの放射線量かが,安全を確保する上で決定的に重要です。ですから,放射線量に関する数字は,地球に住んでいる人はみんな知っておいた方がいいのです。
まず大事なことは,数値が「流れ」なのか「量」なのかを知ることです。
人間が1時間当たりに飲んでもいい水の量を0.1リットルとすれば,
0.1 L/h
となって,これは「流れ」です。1時間当たりに0.1リットルの水が通過したということです。
では人間が一年間に飲んでも良い水の「量」はどのくらいでしょうか。計算してみましょう。一日は24時間,一年は365日ですから,
0.1 × 24 ×365 = 876 L
となります。これも一年当たりの量という数値ですから,厳密には876 L/y (yはyearの略)と表記して,「流れ」と解釈してもいいのですが,ふつうは一年当たりの量というふうに書いて,「量」と解釈しています。
放射線量も同じ計算でOKです。一年間に浴びてもいい放射線量を仮に100mSv(ひゃくミリ シーベルト)と仮定します。「量」であることに注意。ここでmは単位換算のための表記で,1/1000を表します。1mgは1/1000グラムですが,その表記と同じことです。その千分の1がμ(マイクロ)という表記です。
一年間の限界線量100mSvをマイクロに換算すると,
100000 μSv
となります。これを1時間当たりに直しますと,
100000 ÷ 365 ÷ 24 = 11.4 μSv/h
ということになります。この値は「流れ」です。
ニュースなどでは,この値と,胃のレントゲンの値(600μSv)を比べて,安全だ,と言っていますが,胃のレントゲンの場合は,放射線600μSvが一発で与えられる「量」であって,それ以上の放射線を受け取ることはありません。これに対して,11.4μSv/hという放射線の「流れ」の中に身をおけば,53時間もいれば,胃のレントゲン1回分の放射線「量」に達してしまいます。
11.4μSv/h × 53h = 604 μSv
となるわけです。放射線の測定値は,μSv/hという単位で発表されることが多いので,その数値を見たら,上記のような計算をして,年間でどのくらいの「量」を被曝することになるのかを計算してみてください。すぐに危険ではないことが理解できますし,かといって,一年単位では好ましくない値ということもあるかもしれません。
現在,福島市では,10μSv/h程度の値が報告されています。このままの値が一年間続きますと,90mSv程度の「量」に達します。これは原子力産業で働く人の上限になりますので,何十年も居住するという観点からは,それほど安全とはいいにくくなります。しかしこれを逆に解釈すれば,あわてて走って逃げるような状況でもないことが明らかです。事態の経過を注意深く見守り,避難のタイミングも考えなければなりません。
50μSv/h程度の,比較的強い放射線の測定値が発表され,これが続くようなら避難しなければなりません。しかしこの場合も,あわててはいけません。汚染地域から,安全な場所に移動するまでに10日間かかったとしても,
50μSv/h × 24 × 10 = 12000 μSv(10日間で)
12000μSv = 12mSv
となり,これは医療用CTスキャン数回分の被曝量になります。被曝としては多いですが,すぐに健康障害になることは希です。敏感な人は下痢くらいするかもしれませんが。実際は屋内待避もできますし,もっと測定値が低い段階で避難命令が出るでしょうから,余裕があるものと想像できます。
つまりあわててはいけないということです。
怖い怖いと走って逃げて,電柱に頭ぶつけて死ぬ方がもっと恐ろしいのです。
放射線は目に見えませんから怖れるのは当然ですが,いろいろなところから測定値が発表されていますので,ほんとうに危険になったら逃げることは十分に可能です。
まずは放射線の測定値を怖れるよりも,自分で計算してみて,年間上限値(労働者の最大被曝量 一年あたり約100mSvと考えてください)との隔たりを確認して,心を落ち着けてください。
なお,小さなお子様や,妊婦の方々は,もう少し放射線に敏感です。それに,不安の解消の意味もあります。一年の上限は高くても25mSvくらいに考えて,早めに行動するのも良いかと思います。原発災害がなければ,空気や食べもの,大地から一年間に2.4mSvくらいの被曝量です。
移動するときには,西風が安定しているときにすれば,放射性物質が太平洋側に行きますので,被曝を小さくできる可能性があります。また,雨や雪の日に移動すると,雨や雪に溶けている放射性物質が身体に付着することもありますので,できるだけ避けましょう。
もう一度いいますね。少しだけは放射線を浴びますけど,生命に何ら危険なく移動できる時間はじゅうぶんにあるので,あわててはいけません。あわててケガをしたり,命を失うことがあってはありません。まずは,現在発表されている放射線の測定値を自分で計算してみて,程度を確かめてください。
もちろん,福島第一,福島第二原発から30〜100キロ圏内にお住まいの方で,それよりも遠方の家族や親戚の家に待避することができる方は,放射線レベルが現在の段階でも,安心のために待避しておくという考え方もあります。筆者はそれを否定しません。それぞれの人にほんとうに必要なのは,科学的データよりはむしろ,「その人が安心すること」という心理的な問題ですし,現在,放射性物質の放出が続いていて,今後も放出が続くことは明らかだからです。
これを書いている時点でも,福島県から避難しておられる方が1万人程度だと報道されていますが,それはそれで合理的な行動です。
ところで,今日の画像は神奈川県内で採取した海の珪藻です。珪藻を覗いていると頭がクールダウンされ,ストレスが和らぎます。ニュースを見過ぎてお疲れの方,5分くらい顕微鏡を覗いてみてはいかがでしょうか(画像/MWS)。
*1 ここで記述したのは,外部被曝を避けるために待避すべきかどうかを判断する基準です。緊急時の初動をどうすべきかという観点から書いています。年間100mSvの外部被曝が安全だと言っているのではないことに注意してください。また事故が長期化して,問題が内部被曝にまで広がると,別の考え方が必要になります。それについては,この記事より新しい日付の記事に書いてありますので参照して下さい(2011年4月13日)
2011年3月17日
筆者は環境リテラシーの向上を目的として,文化系大学において環境論を5年間ほど担当していました。その中で原子力利用に関する諸問題を2コマ行っていました。原子力と口を開けば「安全」「安全」「必要」といった世間の風潮は明らかに間違っているので,原子力の持つ正の側面と負の側面を詳細に論じました。講義を聞いた多くの受講者は,正の側面に感心しながらも,負の側面を避けることが重要だという感想を寄せてくれました。筆者は質問票を配布して,それに返答しながら講義を進めます。学生はいろいろな質問を考えてくれて,こちらも一生懸命に答えました。今日の画像は5年ほど前に講義を行ったときの質疑ですが,この欄をご覧になっている皆様も,学生になったつもりで,上の画像をしっかり読んでみてください(画像/MWS)。
2011年3月16日
福島第一原子力発電所に近い地域では,ヨウ素剤(ヨウ化カリウム製剤)の配布が始まっています。ヨウ素は甲状腺に貯蔵されますので,予め甲状腺をヨウ素で飽和させておけば,放射性ヨウ素(ヨウ素131)が大気に混じって飛んできても,体内から排泄され,内部被曝を低く抑えることができるという考え方です。この対策は,特に子どもにとって有用なことが知られています。このヨウ素という元素は特に海藻に多く含まれることが知られていて,日頃から海藻を多食する人は,それだけ甲状腺にヨウ素が蓄えられていますので,放射性ヨウ素を蓄積してしまうリスクはそれだけ低くなります。福島県から離れていても何となく不安だと思う方は,海藻類を食べて不安を和らげましょう。画像は神奈川県内の塩だまりに生えていた海藻です。こんな海藻でもヨウ素が含まれています(画像/MWS)。
2011年3月15日
ここのところの東日本の状況は上の画像のような感じです。最初の11日の大地震の直後は,数分おきに地震が続き,夜中も地震が続いて眠ることができませんでした。15日現在でも余震は続いていて,落ち着かない日々を過ごしています。夜には静岡で比較的大きな地震が起き,都内でもかなり大きな長周期震動を体感しました。この地震活動は,たぶん,当分終わらない気がします。大地震がきても対応できるように,気を引き締めていきましょう(画像/yahoo地震情報から転載,気象庁のデータにつき許可未取得)。
2011年3月14日
福島第一,第二原子力発電所では,現在も注水作業が行われ厳しい戦いが続いています。大量のホウ酸水が注入され海水で満たすことに成功すれば,短期〜中期的には安定な状態に持ち込めるでしょう。ぜひともそのようになって欲しいもので,祈らずにはいられません。きょうの画像は珪藻土を焼き固めたもの(提供:日本ダイヤコム工業株式会社)です。珪藻土は水酸基と水分を含みますので中性子の減速効果があり,さらにこれにホウ酸とある種の金属を含ませれば,中性子とガンマ線の遮蔽も効率よく行えることが明らかにされています。コンクリートと異なり,それ自体は放射化しにくいという特長もあります。この性質から珪藻土を放射線防護壁としての利用する研究が行われています。このような類の資材が必要になる状況が最小限になるよう,原子炉の冷却がうまくいくように,みんなで願いましょう(画像/MWS)。
2011年3月13日
ガイガー管を久しぶりに出しました。理由はおわかりかと思います。原発は炉心を冷やすことができなければ,放射性核種の崩壊熱で加熱され続けますので危険な状態になります。現在はまだ反応容器が残っているとも伝えられますが,ジルコニウム-水反応が起こった可能性が高い上,セシウムが検出されていますので,燃料棒が破損していることは間違いないと思います。無理やりにでもホウ素を放り込んで水で冷却できれば,再臨界を防ぎ沈静化できる可能性もありますが,バックアップ電源もポンプもまともに働かない状況ではハードルが高いと言わざるを得ません。
とにかく,制圧できることを祈るばかりですが,情報に留意し,念のため防災の備えをしておきましょう。原子力災害では初期の内部・外部被曝を低く抑えることが大事です。放射性物質の拡散が起きても対応できるように,居場所を確保し,飲料水,食糧を確保しておけば安心できます。余裕のあるときに準備されてはいかがでしょうか(画像/MWS)。
きょうも複数の方から連絡をいただきました。ご心配いただきありがとうございます。
2011年3月12日
すごい地震でした。筆者は冷えた体を温めるために研ぎ物をしている最中でした。水面が微妙に揺れ,それが数秒以上続いたのでP波を直感し,直ちに顕微鏡デスクに戻りました。念のため,微分干渉顕微鏡と透過明視野生物顕微鏡の入っている棚を押さえてS波にそなえました。まもなく周期の長い大きな揺れがやってきました。これまで体験したことのない大きな激しい揺れで,P波の長さと揺れの周期の長さから,巨大な揺れが長引くことを直感し,激しい揺れの中,微分干渉顕微鏡と透過明視野生物顕微鏡を棚からおろしました。揺れは収まらず,デスクの上の30kg級の顕微鏡が放り出されるように動いています。棚と同時に全力で押さえますが,デスクごと100kg以上の重量が動いているので押さえ切れません。じりじりと顕微鏡に押さえながら耐えていると,こんどは30kgある倒立顕微鏡が動き出し,Jシリーズ用の珪藻在庫が落ちそうになっています。必死に食い止めながら,次々と落ちる書籍や空箱などのの落下物の様子を見て,揺れが収まるのを待ちます。しかし揺れは収まらずかなり厳しい時間を過ごしました。
揺れは1,2分ではなかったと感じました。何度も「大丈夫だ,絶対大丈夫だ」と叫び,自分に言い聞かせました。未曾有の長周期震動で,まるで船にでも乗ったかのようです。やがて揺れが弱くなり,ケガや機器類全損の最悪の事態は避けられました。珪藻在庫も守ることができました。顕微鏡は必死に手で押さえても26cm動きました。まもなくやってくる余震に耐えながら重量級の顕微鏡をデスクから下ろし,珪藻在庫を余震にそなえて移動しました。その後も強い余震が数分置きに続いています。
筆者のところでは,震度5までは大きな被害が出ないように,棚はすべて壁によりかけており,積み上げているものはほとんど落下してもよいものにしています。つねに地震に注意を払い,どんなに微弱な揺れでも顕微鏡デスクに戻って棚を押さえつつ状況を見る訓練をここ5年間続けてきました。しかしそれでも実際に体験すると甘いものではありませんでした。顕微鏡の被害はなく,棚も倒れませんでしたが,書籍や小箱や小物が200個くらい落下しました。震幅の大きい長周期の震動でしたので,都内でも化学系のラボなどはたいへんな状態になっていると想像します。
東北地方の被害状況には絶句するばかりです。皆様の被害が最小限で済むように祈念します。一人でも多くの命が助かるように祈念します。どうか皆様もじゅうぶん気をつけてお過ごし下さい(画像/MWS)。
複数の方から連絡をいただきました。ご心配いただきありがとうございます。
2011年3月11日
今年も確定申告の時期がやってきましたので各種書類と格闘しています。どこまで精密にやるかによって作業時間が変わりますので,いつも悩みます。精密にやったところで,節税金額は知れているからです。かといって,大まかな金額を書き込むわけにもいきませんので,根拠を揃えなければなりません。ここのバランスが難しいですね。筆者は領収書類を見れば,それがいつ何に対しての支払いなのか思い出せますので,まず支払先の山をつくり,次に大体の項目ごとに山を作り,その山をまとめてポストインデックスで仕分けの内容と金額を記入していきます。何かに似ているなぁと思いつつ作業していたのですが,これはKJ法ですね。むかし,教育の分野で論文を書いていたとき,自分の考えを論理的にまとめるために,言いたいことを書き殴り,それを文ごとにハサミでチョキチョキ切って,同じことを言っている山をつくっていって整理したことがあります。まだワープロが高価だった時代の話です。いまはワープロで一文一文を数行置きにはなして,論理的つながりで組み替えられますから,とっても楽になりました。。などといろいろ回想しながら作業していると,結局,遅々として進みません…(画像/MWS)。
2011年3月10日
東北地方沿岸で地震があり,宮城県から岩手県にかけて津波を観測しました。上の画像は大船渡の潮位ですが,干潮時に+60cmを記録しています。かなりシャープなピークで震幅は80cmありますので,養殖施設に被害がないか心配です。昨年も2月28日に津波があり,このときは被害が出ました。二年連続で春先に津波というのは,単なる偶然とは思いますが,不気味な気もします(画像/気象庁)。
2011年3月9日
AAC-01などでは位相差検鏡でも珪藻の干渉色が楽しめることはこれまでも紹介してきました。COS-01でも位相差法で一部の珪藻に干渉色が出ます。たいてい珪藻の片側の縁に虹が出るのです。スペクトル色ではないので干渉によることは明らかだと思いますが,はて,これはどんな光の現象なのでしょうか。色の出ている部分は光学的厚さが連続的に変化しているように思えます。これが干渉とどう関係しているのかいないのか,今ひとつピンときません…。光学は歴史ある学問ですが,目の前にあることを説明するのもなかなか難しい学問でもあります(撮影/MWS)。
2011年3月8日
筆者のこれまでの経験では,大学等の教育研究機関では,実習用顕微鏡や研究室の顕微鏡が常に整備された状態にあることは珍しいといえます。今回の訪問先でも,学生実験に使う顕微鏡の状態はひどいものでした。油浸対物レンズは油まみれ,コンデンサにまで油が回っているものもありました。さらに乾燥系40倍対物レンズの先端は油膜が覆い,まともに観察できません。10倍対物レンズは指紋がついていました。この状態で微生物学実習が行われていたのだとすれば,顕微鏡という機器の真価は伝わらなかったでしょう。筆者が講師をするときは,対物レンズの清掃法も項目に含まれていますので,油浸系,乾燥系ともに清掃技術が身に付きます。このとき大切なことは,珪藻プレパラートを検鏡することです。珪藻を覗いて,機器の良い状態を知らなければ,汚れた状態も判別できないのです。珪藻プレパラートを常備して,同じ顕微鏡で繰り返し検鏡することで,その機器の整備状態がわかります。筆者はそのための材料として珪藻プレパラートを販売してもいるわけです(撮影/MWS)。
2011年3月7日
前日も朝から夜までの作業になりましたので,余裕をみてもう一泊。仕事もおわり,さて帰りましょか。近くの駅まで散歩を楽しみます。
この駅名を見て,講義の合間にもオヤジギャグを飛ばしたくなったわけですが,地元の人は聞き飽きていそうなので,ぐっとこらえました。
が,駅にこのようなものがあることから,地元の方もけっこうオヤジギャグ性のセンスを持っているようです…。
水平線近くの空に色がほとんどついていません。スモッグ・排ガスの類が少ないことを示しています。実際,とても空気が澄んでいて,市街地のこの辺りでも4等星が見えました。おおいぬ座の脚の部分もはっきりと見えます。夏なら,いて座の天の川が見事なことでしょう。羨ましいことです。
何か名物らしいものはないかと,数駅戻ります。いい天気ですね。駅に物産館がありましたので,覗いてみるとニギスやサヨリのの干物がうまそうでしたので,地酒とともに買い込みます。まもなく特急列車が入線しますので,さささと駅に戻ります。駅から半径100メートル以内,15分程度の観光が終了しました。筆者にとっての観光は,夕飯を探しに地元スーパーを覗くのがメインです。その土地の方々の暮らしを見るのが観光です。
さて,列車は始発駅を出るとすぐに山を登りはじめるのですが,発車20分もしないうちから,なんと雪が降り始めました。
雪はどんどん強くなり,何だか北国にきたようです。
白銀に彩られた吉野川渓谷を鑑賞できました。すばらしい。とてもトクした気分です。
ときおり現れる農村集落も冬景色です。
渓谷を流れる水も清らかで美しい。水色フォーレル5号というところでしょうか。筆者の目には,比較的貧栄養な水に見えます。
平野が近くなってくると雪も止んでいました。
あっというまに瀬戸大橋にさしかかります。画面右側に見えています。
海の上を列車が走る不思議を楽しみながら,瀬戸内海の風光明媚な島々を鑑賞します。
鉄骨の下にある瀬戸内海の水色を観察し,しばらくすればすぐに岡山です。滑り込んできたのぞみにさささと乗り込みました。そのあと,どうやら,こちらの管理人と相対速度540km/hですれ違ったようです…。
帰宅してすることと言えば,おみやげのチェック。なんともかわいらしい姿です。
こちらはかわいくないが,うまそうです。
で,やっぱしうまいんですねぇ。薄塩に苦みが調和して,焼きたての香ばしさがたまりません。
南国への仕事は,よい想い出とよいおみやげばかりの,素敵な6日間でした。お世話になりましたホストのY先生,お忙しいなか聞きにきて下さいましたA先生,これから卒論に取り組む3年次の方々,院生の方々,研究員の方々,ありがとうございました。楽しかったですよ(撮影/MWS)。
2011年3月6日
出張先では大学院特別講義を担当させていただきました。3日間で半期の授業に匹敵する時間の話をしましたが,朝から晩までさすがにヘビーなスケジュールで,受講者の皆さんは大変だったことと思います。しかしホスト役の先生が非常によい講義環境を提供して下さり,集中講義としてはかなり,良い条件だったと思います。筆者は顕微鏡の話をしていれば自然に楽しく時間が過ぎるので,長時間の講義も苦になることはありません。
参加者は学部学生,大学院生,研究員,教員と様々でしたが,今回も,とても熱心な受講者の方々でほんとうに嬉しい気分でした。講義や実習は参加者と講師でつくりあげるものですから,熱意ある受講者に助けられている面も多いのです。筆者が嬉々として顕微鏡の話ができるのも,それは受講者あってのこと。実は受講者が主役で,「とりあえず理解できたぞー」「何だかわかんないが面白そうだぞー」という表情を浮かべてくれないことには,前に進まないのです。
さて,講義がすべて終わったあとは,残された時間で顕微鏡のメンテナンスです。どこの大学でも,顕微鏡を購入する予算はありますが,メンテナンスにはなかなかお金をかけられないのが現状です。それで多数の人が共同で利用する機器は劣化が著しいことも多いのです。限られた時間ではありましたが,何とか一台を復調でき,研究に活用していただけるのではないかと思うと,今後が楽しみです(撮影/MWS)。
2011年3月5日
ここのところの長期休業は,高知空港に隣接する研究教育機関への出張でした。高知空港の真横ですから,もちろん列車で行ってきました(^^;。北のモンスターFurico283系,熱き想いHEAT281を乗った筆者としては,当然2000系気動車を見逃すわけにはいきません。瀬戸大橋を渡りながら瀬戸内海の島々を眺め,吉野川沿いの絶景を楽しみながら目的地に向かいます。列車で来たというと皆さん驚かれます。はて? 鉄道が通じているから鉄道を利用する。なーんにも不思議ではないと思うのですが…(撮影/MWS)。
2011年3月4日
顕微鏡写真撮影(デジタルイメージング)においては画像処理が欠かせませんが,画像処理自体は一般写真にも同じように適用できますので,日頃から画像の特性を見抜いて画像処理に親しんでおけば,顕微鏡写真にも自然と応用が効くようになるでしょう。上の画像は明暗差が大きく,暗部が潰れてしまった画像ですが,ガンマ補正(+1.9)を行うことにより,暗部を見やすい画像にできました(下の画像)。このような作業を日常行っていれば,自然に画像が「読める」ようになり,処理すべき項目が自然に浮かぶようになるのです。大切なことは,画像処理ソフトで画像を処理していろいろ遊んでみることです(撮影/MWS)。
2011年3月3日
位相差や微分干渉法の機材を持っていなくても,デジタル画像処理によって,それらの検鏡法に匹敵する画像を作ることが可能になってきています。上の画像は昨日と同じもので,イケメン珪藻(Auliscus)を透過明視野で撮影したものです。この画像だけを用いて,種々の画像処理を施すと,下の画像を作ることができます。微細構造が明瞭になり,構造の再現性も高く,コントラストの不自然な逆転も起こりません。こういう画像を製作してみると,デジタル画像処理というのは,本当に素晴らしい技術で,いろいろな可能性を秘めていると実感します(撮影/MWS)。
2011年3月2日
「本日の画像」で紹介している顕微鏡写真は,基本的には,明視野,斜光照明,暗視野照明で撮影しています。位相差や微分干渉の機材も複数所有がありますが,このコーナーではあまり使っていません。このコーナーを楽しみにしている方々が真似できるような方法を中心に紹介したいからです。しかしながら位相差や微分干渉法はそれぞれ特徴的な絵が得られますので,日々の検鏡では利用しています。きょうは筆者お気に入りのイケメン珪藻を明視野と位相差で載せてみました。上の明視野法では素直な像が得られますが,下の位相差法では珪藻被殻の厚みによってコントラストが異なり,同じ珪藻なのにたいぶ違った印象を与えています(撮影/MWS)。
※現在,臨時休業中です。大変恐縮ですが,頂戴しましたご注文分の発送につきましては,3/5頃に予定を連絡させて頂きますのでしばらくお待ち下さい。
2011年3月1日
デジタル時代に入って顕微鏡写真は劇的に効率が上がるようになりました。むかしはフィルムの浪費が避けられず,暗視野や蛍光顕微鏡写真をマニュアル撮影するのは相当な技術を要したものです。いまではデジタル撮像してその場で確認できますし,難しい被写体でもたくさん撮影することにより成功率をアップさせることができるようになっています。デジタル顕微鏡写真のコツは何と言ってもたくさん撮影することでしょうか。上の画像は炭化水素を生産するボトリオコッカスという緑藻を撮影したときのものですが,この日の撮影では,この藻類だけで572枚の撮影をしています。あとから見返すと,これでも,もうちょっと撮影しておけばよかったと思うくらいです(撮影/MWS)。
ところで,2月28日21時現在で,web上で初心者向けお薦めプレパラートを教えて欲しいという質問が回答受付中のようです。顕微鏡観察の先輩方,こちらにどうか答えをつけてあげて頂けませんでしょうか。筆者は珪藻以外には詳しくありませんので,先輩方のお教えを乞う次第です。
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