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ミクロワールドサービスが顕微鏡の世界を伝えるコーナーです。
日々の業務メモやちょっとした記事もここに記します
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お知らせ
リサーチグレード,教育用セット等につきましては,今月半ば程度から順次製作の見込みです。DL-TESTにつきましては,仕様を変更の上,今月末には販売再開します。お急ぎのお客様には個別に対応できることもございますのでご相談下さい。
2017年5月31日
有限鏡筒長の水浸対物レンズで比較的多くの中古が出回っているのがLOMOで,きょうの画像のレンズは古くから知られたものです。設計もひじょうに古いものですが,設計値通りに見えるなら,それほどひどい像にはなりません。しかしこの画像に写っているレンズは残念ながらまともな像を結びません。壊れているのです…。
いろいろなメーカーの古いレンズを見ていると,メーカーさんごとに,劣化の仕方が違うようにも感じます。せいぜいn=500の間くらいの経験でものを言ってはいけない気もしますし,正確な情報ではないことを断った上で書けば,バル切れによる接合部分の剥離,ガラスの白濁,ガラスの変色,ガラス表面への結晶の析出,割れ・欠け,貼り合わせへの異物混入,カビ,貼り合わせ部分の濁り,これらを起こしやすいメーカーさんが存在します。あるメーカーさんは,これらのうち一つだけ。他のメーカーさんでは,これらの幾つかが起こる。またあるメーカーさんは,対物レンズではこれらの現象をほぼ起こさずに優秀なのに,接眼レンズやリレー系レンズで問題を起こしている…といった具合です。あまり劣化が見られない,といったひじょうに優秀なメーカーさんもあります。
これらは,材料選びと工作技術によって生じてくるもので,実用的な時間内ではほぼ劣化が生じないので(顕微鏡の減価償却時間を考えてみてください),ユーザーがメーカーを責める材料にしてはいけないような気もします。売られている顕微鏡は,「顕微鏡」であって,「永久顕微鏡」ではないのですから。レンズの貼り合わせは,バルサムでガラスとガラスをくっつけるのですから,これで「永久」の耐久性を持たせることがどのくらい困難かは,標本製作の立場からは十分理解できます。
でも,せっかく入手した水浸対物レンズが,次々と故障品…というのは,いくらそれが中古だとはいえ,残念むねん…なのです。詳しく調べると,両方とも同じタイプの劣化です。レンズ製作時の材料選びで,耐久性という観点での検討が足りなかったように見える劣化です。一番大事なエレメントがやられているので,像が濁ってよくみえません。うーんざんねんだ(画像/MWS)。
2017年5月30日
画像はアオウミウシ。まだ子どもです。石がごろごろしているような沿岸で,干潮時に石をひっくり返すと見つかったりします。あるいは,干潮時に汀線付近の水面下の海藻や石ころを丹念に見ているとくっついていたりします。筆者の主なフィールドである浦賀水道から相模湾東部〜西部,どこでも見つかりますので,それほど珍しいものではありません。これをはじめて見たのはたぶん小学校にあがる前くらいで,きれいだな〜と,この世のものとは思えない姿に魅了されたのでした。
そこで,これを捕まえた現場近くにいた4歳と8歳の女の子に,このウミウシさんを見せたところ,たぶん初見だろうと思うのですが,「きれい!」というレスポンスを拝受したのでした…。
青に黄色に橙色,なかなか完璧な組み合わせに見えます。動物の本能的には,黄色と黒の組み合わせは「危険」を意味し,スズメバチやアシナガバチ,トラ,などが分かり易いところですけど,青に黄色に橙色というのは,何を表すのでしょう。たぶん,「これは鑑賞するもので,食べ物じゃあねえよ」というところでしょうか。わぁきれい!と思ってもらえたら,次の瞬間にガブリ,とやられる可能性は低下しそうな気がするので…。
今年は大潮が土日に重なっていることが多く,基本,平日にしかサンプリングをしない筆者も,今年は仕方なく出向いたりしてました。さすがに休日の海辺はどこも混んでいて,サンプル採集には不向きなのですが,あっちでばちゃばちゃ,こっちでばちゃばちゃやって水遊びに興じている子どもたちを見ると,なんか,ほんわかとして幸せを分けてもらった気になります(画像/MWS)。
2017年5月29日
NHK放送技術研究所で一般公開がありましたので見てきました。テレビを所有せず,見ることもない生活を20年以上続けているにもかかわらず,この研究所に用事があったのは,NHKの誇る8K技術を応用した,8K顕微鏡の展示があったからでした。ただの映像展示だけでなく,カールツァイスの最高級電動顕微鏡を使った標本観察ができるということで,当サービスとしても標本の提供で技術協力致しました。
8Kでも1Kでも,適当に拡大率を選べば,物体の細部を表示でき,対物レンズの分解能を犠牲にすることなく表示ができます。では8Kのメリットは何かというと,物体の細部を表示しつつ,1Kよりもずっと視野を広く取れるのです。そのメリットを体感するのに最も適しているのが珪藻標本なのです。最小構造をモニタに出すと,珪藻の一部分しか見えなかったのが,8Kを使うと全体も見えるのです。
そのことを示したのがきょうの画像。当サービスの誇る珪藻洗浄,並べ技術で大量のミスミケイソウとクモノスケイソウを並べ,高精度に平面出しをしています。画像2枚目は8Kディスプレイの全景をNikon1J1で撮影したもので,ノートリミングで横700ピクセルに縮小したもの。レンズはプランアポクロマート40倍(0.95)明視野です。画像3枚目は,中央付近の等倍切り出し。大型珪藻がいくつも映っているのに,0.4μm近い最小構造が表現されています。しかも,ディスプレイを複写した画像とは思えない写りの良さです。
…ということで,展示時間は短いものでしたが,世界最先端を行く8K顕微鏡の展示に,珪藻標本が少しはお役に立てたのかもしれません(画像/MWS)。
2017年5月28日
レザー(西洋剃刀)もお手入れ。入手はしたものの盛大が欠けがあって放り投げておいたものが2本。これの修復。1本はKaufmannと書いてあるドイツ製で手触りは炭素鋼。もう一つはKentと書いてある,内田洋行のハンドミクロトーム付属品でおそらくハイカーボンステンレスです。Kaufmannは,まずはシャプトン1000番で欠けがなくなる手前まで研ぎ下ろします。細かいことはあまり気にせず,刃と背を砥石にぴったりつけて往復させてしまいます。次にスエヒロの工具用#3000で一方向(背に向かって)に研ぎます。1研ぎごとにひっくりかえして両面を均等に研ぎます。最初はある程度,押さえの力を加えますが,終わり頃には刃物の重さ+α程度の軽い圧で研ぎます。その次はスエヒロの仕上げ化学砥石#8000で一方向に研ぎ。
それが終われば水洗いして,次は革砥。適当な革に青棒を塗ったものを平面な板に貼り付けてあります。これで一方向に,表,裏を1回ずつ均等に研ぎます。適当な回数(10〜20回)かけたら,次も革砥です。こちらはGCの#30000の粉を振ってあります。こちらも適当な回数,表裏を1回ずつ均等にかけます。これで終わり。研げたかどうかは実体顕微鏡でNA=0.2,100倍以上で簡易的に確認します。これで粗が見えるようではよろしくありません。ほんの少しでもカエリが見えていたり欠けが見えていたら切れ味は本来のものではないと思いますので,研ぎ直しです。このときは#8000からはじめます。
カミソリの研ぎではカエリを無理にとってはいけません。砥石を細かくしていって,最終的には革砥をかけて,その段階で微少なカエリが取り除かれます。そしてその段階で切れ味が出ます。石研ぎだけで仕上げることはできません。微少なカエリが残っていて取れないからです。革砥をかける段階で先端が蛤刃になる感じがしますが,革砥のかけすぎはよくない気もします。ちょうどよいポイントを探すのがコツかもしれません。
研ぎ上がったら髪の毛をつまんで刃に当ててみます。くっと食い込むような抵抗を感じてポキポキと切れ,髪の毛のささがきができるようなら一応OKということにしています。
今回の研ぎは実用的なもので,しかもミクロトーム用の研ぎです。ナイフマークが見えてはいけないので,刃先は滑らかになっている必要があります。そのための研ぎ方の一つが,こんな感じです。床屋さんが毛剃りに使うための研ぎ方ではないので,その点はご留意下さい(床屋さんは好みの刃がそれぞれ違うので,単に切れればよいというものではないようです)。
画像はハイカーボンステンレスっぽいKentブランドの刃先。画像はいずれも対物レンズは40倍,NA=0.55で撮影。刃先のようす,髪の毛をのせたところ,髪の毛が乗っている刃先のようすです(画像/MWS)。
2017年5月27日
とつぜん春の不眠まつりが始まったかのような眠れなさ。頭がぼーっとするので顕微鏡いじりはやめて刃物の点検をしました。レザーを手入れしなくては…と思って手に取った肥後守からサビが発生していました。このサビ,放射状に,細い線で広がっています。なぜこうなるのかというと,カビの菌糸上に発生したサビだからでしょう。なぜカビが発生したのかというと,この肥後守は,出先で果物切ったり刺身切ったりといった使い方をしていたからです。きれいに洗ったつもりでも,わずかな有機物が付着していて,そこで胞子が発芽して菌糸を伸ばしたものと考えられます。
このカビ,おそらくレンズカビなどと同類なのでしょうが,特に湿気のあるところでなくても発生します。ひじょうに高性能な吸湿性を持っていて,湿度が60〜70%もあれば大気中の水分でじゅうぶんに菌糸を伸ばせるようです(詳しくは『続・光の鉛筆』を参照していただければと思います)。この種のカビが珪藻土に生えたことがあって,それを伸ばして観察していたら,一度も水など与えたことがないのに,菌糸に水滴がついていて驚いたことがあります。高湿度の空気から水を生成するほどの能力があるのだろうと思います。
この高い吸湿性により,菌糸の周辺は常に水分のある状態になり,そこで空気中の酸素と接していれば,サビの発生は起きやすくなるでしょう。さらに悪いことに,カビが産生する有機酸などによって鉄の表面が腐食されれば,サビの進行はさらに早まることとなります。…ということで,鉄の刃物をサビさせないためには,単に乾燥しているだけではだめで,表面にカビのエサがないことも重要,といってよいかと思います(画像/MWS)。
2017年5月26日
ひっさしぶりの ターャジス 。いいことありそうだ(画像/MWS)。
2017年5月25日
よい対物レンズを中古で手にすることができても,それで終わりではありません。対物レンズと接眼レンズは決まった組み合わせで使わないと著しく像が劣化することがあるので,パーフェクトな補正になるように接眼レンズも探さなくてはいけないのです。ところがこれが難物で,中古市場でも数は多く出回っているのですが,状態のよいものが少ないのです。接眼レンズの観察側は,素人がゴシゴシ拭いたようなものが普通に出回っており,まるでスリガラスのようなものもあります。コーティングに多量の傷が入っているものも普通です。
きょうの画像1枚目はツァイス有限鏡筒長時代の接眼レンズKPLとライツの有限鏡筒長時代のペリプラン。ぞれぞれ,ツァイスとライツの対物レンズに組み合わせて使うものです。なかなか入手ができず,ようやく揃えたものですから,丁寧にメンテナンスして大事に使っているのです。
有限鏡筒長時代のツァイスの対物レンズはコンペン系ですから,接眼側で倍率色収差を打ち消しています。その度合いは大きなもので,例えばニコンのCFやHKW接眼レンズをつけて観察すると頭が痛くなるような滲んだ像が見えます。オリンパスも合いません。ひどい像になります。それを見たあとにツァイスKPLに付け替えて観察すると,脳内が澄み渡るようなクリアーな像が見えます。正しい組み合わせは絶対なのです。
ツァイスとライツでは,倍率色収差の打ち消し方が似ている気がします。ライツの対物レンズにツァイスのKPLをつけても実用レベルの補正になる場合があります。これも正しい組み合わせといえるかもしれません。昔の先端的な顕微鏡ユーザーは,よりよい組み合わせを求めて,種々のメーカーの対物レンズと接眼レンズの組み合わせを試していたと聞いたことがありますが,確かにそう思える像が見えることもあり,奥の深さを感じます。その先には泥沼が待っていそうなので足を踏み入れたりはしませんが…(画像/MWS)。
2017年5月24日
本ページは毎日更新ですが,特に決まった予定とか計画などというものはなく,その時々で読者の方々に伝えたいことなどを書き散らしています。そのときに大事にしていることは,心に浮かんだことに忠実にという感じでしょうか。facebookやmixiやツイッターやインスタグラム(というのかな)などのSNS系メディアには手を出していませんので,本ページをいくら毎日がんばって更新したところで,「いいね」がつくわけでもありませんし,「何百回リツイートされた」という反応を目にすることもありません。それが大事だと思っています。
もし毎日SNSに勤しんでいたら,いいね!の数やリツイート(というのかな)の数などはどうしても目にすることになってしまい,そうすると,「こういう画像がうけるのか…」などといった考えが発生してしまい,その考えは心の自由空間を狭めていってしまうでしょう。自分がそのとき思ったこと,それを素直に書き記すという行為のはずが評価を気にする依存性の行為になってしまいます。それは仕事の上ではよろしくないのです。
ということできょうの画像はライツの鏡筒長160mmの蛍光用対物レンズ(水浸)です。レンズの画像を掲載すると喜ぶ人もいるよなーという考えが「心に浮かんだ」ので,それを題材にしたわけです。このレンズ,中古市場でたまに見かけますが,結構なお値段です。なかなか手が出ませんでしたが辛抱強く探して,ようやく三本揃えました。うち一本は分解修理が必要でしたが無事に済ませました。どれも現役で,生きているプランクトンなどの観察に使っています。昭和の時代のレンズですけれども,まだまだ活躍してもらうつもりです(画像/MWS)。
2017年5月23日
顕微鏡標本をつくる人が読まなくてはいけないのは光学書のような気がします…。もちろん組織切片や蛍光染色のテクニックも重要なので論文や本を読むことが役立つ場面はたくさんあります。けれども,そういった標本製作の本だけでは,一番大事な顕微鏡光学の知識を得ることができません。アンティークの標本などを検鏡していると,その標本製作者が顕微鏡のことを知っているのか否かがわかります。あまり多くの経験がありませんが,1920年代くらいの標本に,よく考えられて作られたものが多数あるなぁとの個人的な印象を持っています。
うんと古いものになると,雲母の薄片で封じられていたりして,光学云々どころではないものもあるのだそうです。そういったものの中に,種査定の基準となる生物が封じられていたりすると,その崩れた像を見ながら果たしてそれが正しいのか検討しなければなりません。そういった難しい研究分野もあります。現代の我々がつくる標本も,なるべくよいものにするように心がけ,次の時代に残すようにしたほうがよろしい気がします(画像/MWS)。
2017年5月22日
数ヶ月にわたって続いている封入法検討の一つが終盤をむかえています。その様子がきょうの画像。珪藻をまずカバーグラスに散布して,そこに封入剤を浸透させ,カバーグラスをかけます。カバーグラスはマウント側と被せる側で大きさを変えてカットしてあります。封入剤が固まったら,こんどはひっくり返して,特注の専用基板に貼り付けます。ひじょうに手間のかかる作業ですが,光学的に考えると,現在のところほかによい方法がなさそうです。
このような面倒な作業が標本関係の教科書に載っているはずはありません。光学的な要請に基づいて,それを実現するための物体の配置を考え,その配置を実現するための製作法を考えるのです。そうすると,どんなものを作るべきかが明らかになり,それを作るための方法が決まるのです。画像はカバーカバーで封じたものをエイジング中の様子です(画像/MWS)。
2017年5月21日
珪藻敷き詰め標本はいくつかのレスポンスをもらいまして嬉しく思っています。こういった標本の価値を即座に理解するユーザーさんに恵まれているというのは,幸せなことなのです。
ところでこのプレパラートに使っている珪藻は数年以上昔の採集だったかと思います。最近,このような上質な群集が入手しにくくなっていて,過去の大量ストックから使うことが多くなってきています。クモノスケイソウやミスミケイソウは,紅藻に付着していることが多いような気がしているのですが,最近,紅藻が減っています。ウニなど,海藻を食べる生物が増えているのかもしれません。
きょうの画像は微分干渉のカラーモードで,比較的平面性のよい個体をねらって撮影したもの。なんの工夫もない撮影ですけれども,自然の作り上げた造形ってのはよくできてるなーと感心するのです(画像/MWS)。
2017年5月20日
こういったものは作るのがうんと難しいのです…。それは同じ種の珪藻を大量消費するからだということもありますし,その大量の珪藻の品質が一定していなければならないということもありますし,完璧に洗わないと同じ種でも見た目が変わったりすることがあるからです。しかし最近気づいたのは,この種の難しさは,石積職人系のそれなのかも…ということ。隙間をなるべく小さくして組んでいくというのが,えらい大変なのです。。
こうして広く敷き詰めると,画面のどこでも,各種の空間周波数分布となっていて,いろいろな画角での性能テストを行うことができます。一種のチャートみたいなものです。これを使って各種の対物レンズでテストを行うと,対物レンズの像面が傾いているのが判明してしまったり,中心部と周辺部での像コントラストが異なっていたり,像が崩れていたりと,いろいろなことが見えてしまいます。なかなか恐ろしい物体です。ただ,像面の傾きは,標本のマウント面の傾きの可能性を排除できないので,そこは注意深く調べる必要があります。なるべくスライドグラスと平行をとるように注意してはいますが,封入剤が均一に盛れているかわかりませんし,固化するときに均一に固まっているかもわかりません。正確なサイズのスペーサーを入れて平行を取るという手もありますが,そのスペーサーが硬すぎると,封入剤の固化に応じて応力残存→剥離の最悪パターンになる可能性もあります。
などといろいろ高度なことを考えてこういったものを一生懸命つくるのです。まぁ,この種のものを完成度高く作るにはある意味,技術的な誠実さとでもいうべきものが必要なことは確かだろうと思います。そしてこれを使いこなすにも,やはり深い経験と技術的な誠実さが必要になってくることでしょう。幸い,当サービスのユーザー様は本当によい人たちばかりです。標本の価値を理解した上でそれを求め,喜んで検鏡するような方々は,このような標本も高度に使いこなすのは当然だろうと思います。
何しろ,永年やっていて,ユーザーさんの対応にはいつも感心するのです。当サービスは後払いを採用していますが,これは,見たこともない顕微鏡標本を,間違って買ってしまい返品できなくなるのを防ぐ意味もあるのです。検品していただいて,じゅうぶん満足,それならばお振り込みください,ということです。ところが当サービスのユーザーさんは,レターパックプラスが届くと同時にもう,お振り込みを済ませてしまう方々が多いのです。そんなに急がなくてもいいと思うのですが,それだけ信頼されていると思うと嬉しくもあります。
これまでの最高記録は,Jシリーズがまだ品物も請求書も届いてもいないのに,むかしの伝票を取り出して,合計金額+αを上乗せして送金してしまったという方です。あまりにも恐縮ですが,そのような,何とかして心を伝えてくれる方もおられるのです。なんと有り難いことでしょう。
ということで,当サービスでプレパラートをお買いあげになった方はたくさんおられるのですが,債権回収に困ったことは皆無です。自分から品物を注文しておいて,入手したのに連絡なく債務不履行,それを放置などというような非常識な人には,出会うのは相当に困難な感じです。きっと顕微鏡を覗くような人,技術の追求を行うような人は,ピュアな心をお持ちだからなのかもしれません(画像/MWS)。
2017年5月19日
優秀な編集者や記者さんにふつうに巡り会える,というのはなぜなのか。口約束でも契約でもきちっと守る職業人が普通なのはどうしてなのか。それはたぶん,日本だからなのでしょうね,という気もします。もちろん海外でも契約社会ですから,契約書を提示してその通りに履行するのが普通ではあります。でもむかし,海外の顕微鏡アマチュアの精神科医とやりとりして,オマル湾の珪藻化石と当サービスの現生試料を交換,まずウチから送るから届いたらウチに送ってね,ということで合意になって,オマル湾の珪藻化石が入手できると喜んで,MWSの誇る高度に洗浄したクモノスケイソウや各種の珪藻化石を送ったところ,こちらのEMSはちゃんと届いたのに,その精神科医からは何のレスポンスもなく,そろそろ9年を経過…ということになるのでした。この精神科医はニコンのコンテストにも常連でジャミンレベデフの干渉顕微鏡で派手に色づけした珪藻で入選している,それなりに知られた顕微鏡観察家です。
信義を重んじない人は,国内外関係なく,相手にするだけ無駄なので,この不誠実な精神科医も放置です。黄色いサルから珪藻をもらって,自分の義務を果たさず喜んでいられるあんたの精神性は,まぁ,それなりにまじめに生きてきたオレとは対話不能だよ,ということです。はじめに約束したのにそれを守らず,催促しないと行動しないというような人は,脳みそが腐って変質してしまっているので,相手にしない方がいいのです。おっ,いいものを頂いた。これはすぐに対応しなければ,と思う人たちと交友関係を築いていけば,人生は幸せになるのです。これは幸せの第一法則かもしれません。なぜなら,人生は有限であり,有限の時間内で不誠実な阿呆とつきあうことは人生時間の損失そのものだからです。
ごくふつうの人は,自分の依頼によって相手に負わせた業務上の重荷を知っています。相手にそれだけの重荷を負わせた,その意識は,契約を何が何でも守るという意識につながります。もしキャッシュフローの理由で契約が守れなければ,とにかく心から謝罪して,取引先との,これまで温めてきた人間関係を維持しようと努めます例1。ときには謝罪だけでなく,損害を与えてしまった相手に,個人で弁償する場合さえあります例2。仕事といえども,その発案は個人の発想に根ざしているわけで,自分の発案で依頼した仕事で,相手先に迷惑をかけたなら,個人である程度弁済するという思考は,その相手先との人間関係を維持したいという意味で理解可能ですし,誠意のある考えとも思います。
こういった人たちは日本の世の中にはふつうに存在しています。だから出会うのも難しくないのです。このような優れた人たちと仕事をしていれば,学ぶことは多く,信頼関係を損なうことなど起こるはずもなく,お互いに助け合って,さらなる成果を出せることと思います。日本社会は世間の縛りかキツイ窮屈なところという論評もありますが,仕事をしていて思うのは,大多数の仕事人は誠意ある方々ばかりだということです。
きょうの画像は,詐欺的なアメリカ人に送付したものと同じ試料に入っていたクモノスケイソウ。微分干渉での撮影です(画像/MWS)。
2017年5月18日
よい仕事を頂いた出版社や新聞社の中でも,法的な面も含めてきちんとしていらしたのが『朝日小学生新聞』でお馴染みの朝日学生新聞社でした。取材申し込みの連絡からはじまり,日程打ち合わせ,取材,契約書の提示,連載原稿の打ち合わせ,原稿のチェック,ゲラのやりとり,掲載紙の送付,連載終了の挨拶,果ては丁寧な賀状まで頂き,契約通りの入金,どこをとっても完璧というほかはなく,いま思い出しても感嘆します。これは記者さんの才能に負う面も大きいと思いますが,会社のコンプライアンスも背景として効いているのだとも思います。
フリーランスというのは吹けば飛ぶような立場の人間で,こういった人間に大企業が仕事を発注する場合には,仕事の内容にもよりますが下請法が適用されます。逐次指示して原稿を書かせ,画像を提出させ,写真撮影をさせて本を一冊つくる,などいうのはまさに下請法の適用になるでしょうし,新聞の連載で週2回の記事を一ヶ月書く,というのも下請法の適用となってもおかしくない案件です(下請法の適用外でも,個人事業主保護の観点から,同様の契約を行うことが望ましとされています)。
下請法では,資本金1,000万円以上の企業が個人事業主に仕事を依頼するとき,契約書の提示を義務づけていて,違反すれば50万円の罰則もあり得ます。朝日学生新聞社は高い順法精神で運営されており,取材時にきちんと原稿書きの依頼とともに,契約書の提示がありました。そこには著作権利用に関する事項,支払に関する事項,二次利用に関する事項など,必要な項目が簡潔に記載されていて,また,その内容について記者さんから丁寧な説明がありました。このことで著作権法と下請法の2つをきれいにクリアしているわけで,とても流麗な仕事の仕方でした。
記者さんは,こちらにかかる負担をとても気にしていて,原稿料のほかに,特集記事に使う画像の使用料金を上乗せてきないかかけあってくれて,規定の原稿料+画像使用料金という対応をしていただきました。額面ではわずかでも,こういった心遣いは本当に有り難いのです。そして校正能力は恐るべして,当方が四苦八苦して書いた文章をきれいに流れるように添削してくださるのです。しかもその添削が,自分で書いたのかと思うくらい,筆者のクセと同化していて違和感のないものでした。
極めつけは,画像のチェックです。連載最終回には,珪藻を319個並べた大型標本の画像を使うことにしたのですが,しばらくして記者さんから,「320個あるようです」と連絡が来ました。仰天しました。慌てて数え直したところ,何度数えても320個でした。2年前に制作して319個だと思っていた標本が,じつは違っていたのでした。。有り難く訂正を受け入れ,キャプションには「320個の珪藻が並びます」と入れさせて頂きました。
こういった誠実としかいいようのない人々に支えられて,朝日小学生新聞は毎日刊行されているんだと思うと,それはとても大変なことと思われました。そして筆者のような人間を捜し出し,こういった世界を子どもたちに知らせてあげたいという思いを持つ記者さんが所属している,そこが素晴らしいと思いました。その記者さんは,レイチェル・カーソンの『センスオブワンダー』を当然お持ちでした。
やはり仕事というのは,ベースとなる人間的な力,勉強の蓄積と誠実に生きてきた継続力,口先だけでは決して築き上げることのできない信頼関係,そこが大事なんだなと思わされるような経験でした。だから,朝日小学生新聞は,それまでは読んだこともなかったのですが,いまでは,ぜひ皆様にお薦めしたいのです。
きょうの画像は今週製作したもの。クモノスケイソウとミスミケイソウを168個も敷き詰めたもの。解像力試験用で,大型機器のチューニング用/展示用を念頭に作っています。まともに使うには照明法,対物レンズ,カメラ,モニタ,MTFに関係するあらゆるパラメータを調整する必要がある,そんな標本です。すでに本日納品済みで,代表的な映像研究機関と顕微鏡会社で使われる予定です(画像/MWS)。
2017年5月17日
まともな仕事をしているところがほとんどの世の中ですから,時間をとって取材に応じたり,原稿を書いたりしても楽しいことがほとんどです。雑誌,ミルシルさんの編集部の対応は完璧ともいえるものでしたし,原稿料替わりに頂いた雑誌も素晴らしい仕上がりでした。毎日新聞社はとてもていねいな取材で,格調高い記者さんとのやりとりが思い起こされます。聖教新聞にも大きな記事を掲載して頂きました。こちらも礼儀正しいとても誠実な仕事を行う記者さんという印象で,記事のまとめ方もすばらしく,後味のよい印象が残っています。朝日小学生新聞の取材は,センスオブワンダーあふれる記者さんで,取材されること自体に喜びを感じるような,一緒に楽しく遊んでいるような素敵な時間でした。毎回の原稿のやりとりも,じつに心のこもったもので,「記事に必要だから原稿をよこせ」といった雰囲気は微塵も感じさせないものでした。たぶん本心で,「原稿をよこせ」などという傲慢な考えは持っていないのだろうと確信しました。仕事は「心」と「心」でおこなうものです。きれいな心の方と仕事をすると,こちらまで浄化されたような感覚になります。
新聞社の場合は原稿料なしから,謝礼・現物送付あり,原稿料+現物送付ありまで様々でしたが,いずれもリアルタイムで取引が完了して,当然のことではありますが,仕事への対価が滞るなどということはありませんでした。ほんと,日本は平和で優秀な人たちがたくさんいる国なのだと幸せに思うとともに,素敵な仕事を頂いた編集者さんや記者さんに感謝なのです。
きょうの画像は多摩六都科学館で展示に用いられた珪藻プレパラートの一部。こういった画像を見るとどのような思いが去来するのかというと,「いやーこれは面倒で作りたくない〜」とか,「ここにコレを置くにはこの方法しかないだろうなぁ」とか,つらさ,苦しさ,作業上の工夫,そんなものが浮かんでくるのです。特製マスコットが上を向いていますが,これはわざとやっていて,ツリーを見上げているようにしているのですが,この角度はこれでよかったのだろうか,などと,1/1000mmの精度のことが気になります。これはほとんどビョーキですね…(画像/MWS)。
2017年5月16日
きのう小学館さんの仕事の確かさを褒めたわけですが,もちろん他の出版社さん等もきちっと確実な仕事をしています。著作権使用料を支払うというのは出版社にとっては基本業務の一つであり,また「忘れた」では済まされない信用問題に関わる事項でもあるので,きちんとしていることがふつうです。期日通りの支払で済ませるところもあれば,現物を送付してくださるところ,現物を持参してくださる出版社まであります。これまでの取引実績で主なところかから,技術評論社さん,恒星社厚生閣さん,誠文堂新光社さん,中経出版さん,学研さん,秀文堂さん,丸善さん,東京書籍さん,技報堂出版さんなど,皆さんきちっと期日通りの取引となっています。個人事業主としては,予定通りにきちっと支払等を行っていただくと,よけいな仕事を発生させずに済むので有り難いのです。
きょうの画像は静岡科学館で展示に用いられた珪藻プレパラート・スターパターン。当サービスにはこういった画像がたくさんあります。これからもご活用頂きたく思うのです(画像/MWS)。
2017年5月15日
当サービスの珪藻画像も採用いただいている『ドラえもん科学ワールド』ですが,とうとう台湾翻訳版が完成しました。ドラえもんの人気にあやかり,海洋教育につながる内容の読本が,世界中で発行されるのは素晴らしいことです。小学館さん,イイ仕事してる! と思います。
当サービスの画像は有料で出版物にも利用可能です。恐ろしく安い料金設定なので,多くの方面から喜ばれています。出版物にご利用の場合は,画像使用枚数が1枚だと,支払いの手間ばかりかかって面倒なことになりかねませんので,現物送付ということで契約することもあります。ドラえもんシリーズは画像1枚の使用でしたので,まず国内版で2部頂き,その後,各国版が出ればそれを2部,著作権使用料として頂くことにしています。小学館さんはこちらの意向を快く受け入れていただき,契約書を送付してくださいました。
そして実際に,台湾版が出版されれば,速やかに送付下さいました。契約通りに著作権使用料を正しく支払うという,出版上重要な業務を確実にこなす辺り,さすがは小学館さんです。筆者も台湾版を受け取って,両者の表紙を見比べて,いろいろなことを学び取ってにっこりなのです。この本,小学生〜中学生くらいの方々には特にお薦めで,大人でも楽しめます(画像/MWS)。
*1 版型の違い,国内版では表紙にホログラム入り,台湾版ではなし,国内版ではKAGAKU WORLD,台湾版ではSCIENCE WORLD。タイトルの意味も違います。その姿勢の違いが興味深いですねぇ。
2017年5月14日
食事をしていたら閃輝暗点が発生。久しぶりです。2014年春にはじめて出て,そのあと1回出て,今回が3回目。閃輝暗点のはじまりみたいな点々はしょっちゅう出ている気もしますが,それらは閃輝暗点的な症状に発展しないので別のものだと思っています。今回は小さなチカチカが発生して,それが輪になって広がっていき,輪の形が崩れて,右半分の輪が広がっていって消えました。それで終わりかと思ったら,再び視野中心にチカチカが現れて,少し広がり,やがて小さな断片だけが残って視野下方に移動して消えました。典型的な閃輝暗点です。閃輝暗点はその後に偏頭痛を誘発することがあるようですが,そのような経験はこれまでもなく,今回もありませんでした。ただ,強い頭痛を鎮痛剤で抑えているのに似た感じ,がしますので,これも偏頭痛の一種なのかもしれません。
あんまり愉快な症状ではありませんが,前2回は,その後なんともなかったので放置しました。今回もだぶん,何ともないのだろうと思います。下手に医者にかかると,自覚症状が何もないのに,何かを見つけてしまいおおごとになる恐れがあります(笑)。何ともないのなら,何ともなく生活するのが吉です。
きょうの画像は乾燥状態の珪藻を偏光法で撮影したもの。部分的に消光していて目が迷うような模様が出ています。このめらめらした雰囲気が閃輝暗点にどことなく似ているので採用しました…(画像/MWS)。
2017年5月13日
ニコンが7年振りに最終赤字とのニュース。まじめに良いものを作っているだけでは生き残れない時代なのかもしれません。厳しいですね。プレスリリースの資料を見ると,自己資本比率の推移と各事業分野の推移からみて,まだ健全に近い範囲のようですから,来年再来年に大きなことが起こる…という可能性は高くなさそうです。精機分野が意外に落ち込んでいないのが救いです。問題は映像事業ですね。インストルメンツ事業もよろしくない状況…。
この感じだと,Nikon1シリーズの行く先は厳しいのかもしれません。顕微鏡も,売上げがこれでは開発もままならないような気もします。20年弱ほど前に,顕微鏡部門の光学技術者がみんなステッパーの方に行ってしまったと,業界関係者から聞かされたことがありますが,それが本当なら,そのツケが今頃出てきてもおかしくありません。
この状況から抜け出るのは容易ではないように思われます。素人の思いつきでは,横並びの競争をやめて,独自路線を行くことが大事かと思います。誰も相手にしなかったキーエンスの顕微鏡が,とてもよく売れている…。これは独自路線を歩んで努力をやめなかった成果以外の何者でもないでしょう。ニコンも,横並びはやめて,ニコンのDNAみたいな部分で勝負してほしいものです(画像/MWS)。
*1 たとえば,カメラなら,Nikon Fのような存在をデジタルでどうやるのか。馬から落としても水に浸かっても北極でも宇宙でも写真が撮れた。何があっても記録する。それがニコンのDNAだったのではないのか。
*2 顕微鏡なら,光学設計の自由度を捨て,有限補正系への回帰,あるいは小型無限遠補正系の開発なども大事なテーマと思います。大した用事もないのに,F=200のレンズが組み込まれた鏡基を使うのは大げさすぎます。小学生でも持てる大きさで,最先端の研究用顕微鏡に匹敵する見え,視野数,各種のコントラスト法。そういった製品があれば学校教育でも有用ですし研究者でもつかうでしょう。
*3 なぜ未だにNikon FやF3をぶらさげている人がいて,なぜ未だに携帯顕微鏡H型が人気なのか,ニコンの経営陣はそこを考えてみることも必要かもしれません。
2017年5月12日
ヤコウチュウの話を書いていたら,知人研究者からメールをもらいました。それによると…。
夜に行ったので秋〜冬だったと思いますが、
大量のヤコウチュウが打ち上げられていたようで
干潟を歩くたび足元からぱあっと光が広がる夢のような体験をしました。
サンプリング地点まで光る干潟を歩いていった(興奮して走り回っていましたが)
貴重な体験です。
いや〜すばらしい。こんな体験してみたいですね。。見たい見たい見たい! 本ページをごらんの方は,筆者の前世がきっとカラスでピカピカ光るものが大好き,ということは周知と思いますが,いやーそれにしても光る干潟。見たいですねぇ〜。
鎌倉海岸でも,砂浜を歩くと光りました。踏んづけた瞬間に靴の周囲が光るのです。でも濃度が足りず,街灯の明かりがひどすぎて,鮮明といえるほどではありませんでした。干潮時の干潟ならば街灯からも遠いだろうし,秋〜冬で夜の干潮なら,ヤコウチュウも活きが良くてピカピカだったろうと思います。ううっ。見たい…。それにしても,素敵な体験をしている人がいますねー(画像/MWS)。
2017年5月11日
八王子市は,ニコンと同じ歳だったのか…(画像/MWS)。
2017年5月10日
9日午後は研究打ち合わせ&顕微鏡の夕方でした。光材料の先端的なエンジニアさんをお迎えして,光材料に関する技術的な討論を行いました。もちろん,当サービスの誇る珪藻/放散虫プレパラートも宣伝させていただきました。光材料は様々なノウハウが詰め込まれてできてきたもので,使用方法にもたくさんのノウハウがあります。さすがに専門家の方のご経験は素晴らしく厚みがあり,深い技術談義ができたことに,とてもうれしく感じました。ご指導頂きました先生には感謝申し上げます。
しかしまあ振り返るに,10年前では,光学屋さんや光材料屋さんと,こうした深い話ができたかどうか怪しかっただろうと思います。もともとは珪藻の生理生態屋さんだったわけです。その後,独立開業して日々,顕微鏡を覗き,光を操り,たまには光学書も読んで経験を積んできたことが現在につながっているのだろうということが何となく実感されるような気もします。これからも,1日に1mmでもいいから進歩して,何かを積み上げていければと思います。10年経過すれば,36.5メートルの高さに何かが積み上がるかもしれないからです…(画像/MWS)。
2017年5月9日
科学館の企画展では,プレパラートの実物展示とともに,パネル説明,スライド上映などもあわせて行い展示効果があったようです。これに加えて,ショップには書籍も置く予定だったのですが,絶版にしたことによって実現することはありませんでした。何人もの関係者の方々から残念がられました。絶版は筆者の意思で行ったことですので,お詫びするしかありません。すみません。多くの方々にご迷惑をおかけすることは分かっていましたし,全ての人にとって最善の判断とは,とてもいえないものであることも承知の上でした。むしろ,全ての人が不幸になる判断であったと言えるかもしれません。
画像は多摩六都科学館で展示したプレパラートで,三種のうちの一つです。展示担当者からは,プレパラートの評判はよく,来館者は喜んで顕微鏡を覗いているとのことでしたが,本の絶版が唯一残念だったと言われました。まことにその通りなのです。
なお絶版関係の記事は,本ページの2016年11月22日,2017年2月3日,2017年3月16日,2017年3月17日,2017年4月5日(2)で述べています。同じことの繰り返しのような内容ですが,いきさつを知りたい人はごらん下さい(画像/MWS)。
2017年5月8日
ふたつの科学館の企画展も終了しましたが,展示されていた珪藻標本は多くの方にごらんいただけたようで,ほっと胸をなで下ろしています。静岡科学館の担当者からは,企画展の半期程度の時間で,入館者数が3万5千人程度との連絡を頂いています。入館者の1割が顕微鏡を覗いたとすれば,3千5百人が「珪藻を見た」ことになるわけです。それによって,顕微鏡を覗いた方に,新たな世界が広がれば標本製作者としても本望です。画像は静岡科学館で展示した珪藻クリスマスツリーで,展示用の顕微鏡で,展示会場でコリメート法で撮影したものです。当サービスの技術研修員による高度な展示・照明技術により徹底してチューニングを行い,実際にこのように見えるように持ち込んだのです。
科学館の展示用標本は,まず展示に使う顕微鏡についての情報をもらい,使用する対物レンズと接眼レンズの視野数にあわせて標本サイズを決め,デザインを決定します。大抵は貧弱な顕微鏡を使うことになり,視野数も狭いので,珪藻を詰め込む必要がでてきます。これの難易度が恐ろしく高いのです。でも,きょうの画像のような展示ができて,顕微鏡を覗いた人は,「おっ!」と思ったかもしれません(画像/Y.U., MWS)。
2017年5月7日
なぜ鎌倉付近でのヤコウチュウの大発生を見逃したのかというと,まぁそれは運気のなさが原因ではあるのですが,確かめたいことがあったからなのです。5日は,風向,潮流などを考慮して,ここにはヤコウチュウはいないだろう,というところに行ってみたのです(画像一枚目)。「ここにいるだろう」は当たったわけですので,翌日は「いないだろう」という場所に出向いて,読みの正しさを確かめたかったのでした。その結果,確かに読みは正しかった感じで,死んだヤコウチュウの残骸は泡となって打ち上げられていましたが,生きているヤコウチュウはほとんど存在せず,海面もまったく光りませんでした(画像二枚目)。
まぁ予想通りで,やっぱそうだよなと思いながら海を眺めつつ夕飯にして,夜行性のエビ,カニ,魚類が出てきた頃にタイドプールの生物観察をして,なかなか有意義な1日だったと深夜に帰宅し,予め書いてあった本ページをアップして,そのあとにニュースサイトをチェックしていたら,鎌倉でのヤコウチュウがニュースになっていて腰が抜けそうになったのでした。。
まぁ,早い話がアホだったということです。。
ちなみに,翌日(5月6日),鎌倉方面に向かい,砂浜を歩いてヤコウチュウを見に行きましたが,だいぶ発光が弱くなっていて,「ま,見えた」程度の感じでした。浜辺には,数千人では収まらないだろう規模の人出。道路は大渋滞でした。ひじょうに風が強く,微細な砂が飛んでいて,波しぶき,海塩粒子も飛び散っていて,カメラを出す状況ではありませんでした。メガネが数十分で雲って前が見えなくなるほどでした。高級なデジタル一眼を構えている人もたくさんいましたが,海水と砂粒子の恐ろしさを,これから味わうことになってしまうかもしれません(画像/MWS)。
2017年5月6日
ヤコウチュウの撮影はそれほど難しくありません。条件さえ揃えば,発光している様子をきちんと収められます。重要なのは群集の密度ですので,これはひたすら濃いところを求めて歩き回るしかありません。真っ赤に濃縮されたところを見つければ,次に大事なのは「暗い場所」であることです。漁港などでは照明がありますし民家に近いところでは街灯の光が入ってくるところもあるので,そういったところを避けるか,カサで遮ります。もう一つ重要なのは月齢で,半月でも明るさに影響します。満月なら相当に明るくなってしまい,発光とのバランスがとりにくくなります。曇っていれば半月程度なら問題ありません。
ヤコウチュウはかなり明るく光りますので,数メートル程度の距離で鮮明に光っているようなら,ISO200〜800,絞りF2.0〜5.6,露出は15秒〜30秒程度で試してみれば,どこかで適正露出になると思います。長時間露出なので三脚は必須です。暗いのでAFが効かないカメラもあると思いますが,そういうときはライトで水面を照らしてフォーカスを出します。ホワイトバランスは曇天かデーライト固定が無難だと思います。
そうやって撮影した画像がきょうの4枚。ヤコウチュウは細胞サイズが大きく,近づいてみれば一粒一粒が光っているのがわかります。それも相当明るく光るので,撮影していても飽きません。筆者は貧弱なカメラしか持っていないのでこの程度しか写りませんでしたが,高解像マクロレンズ+超高感度フルサイズカメラをお持ちの方なら,はるかに上等な絵が撮れることと思います。本ページの読者の方々には,ぜひ機会をみつけて挑戦して頂きたいとも思っています。
問題はヤコウチュウを見つけることですが,こればかりは足で稼ぐしか方法がありません。ただ,狙い目はあって,それは漁港です。漁港内をぐるっと眺めてみると,どこかの一角に濃縮されていることが結構あります。そのような場合は,風が弱ければ,夜までそこにとどまっていることがあると思うので,発光が見られると思います。漁港内は大抵明るいので,漁港で見つかったら,似た地形で暗いところを探してみるのも一法かもしれません。
あとは運ですね。むかし鎌倉辺りの砂浜で,夜にヤコウチュウの大群が接近し,風も比較的強く,波が砕けるたびに海岸一面が明るく輝くといった現象が起きたそうです。似たようなことは全国各地で起きているでしょう。最も見てみたい現象の一つですが,いつになったら巡り会えるのか…わかりません(画像/MWS)。
*1 カメラ:Nikon1J1,レンズ:1Nikkor 18.5mm F1.8,絞りF2.0〜5.6,マニュアルフォーカス,マニュアル露出(15〜30秒),ホワイトバランス:曇天
*2 ヤコウチュウと書くべきところが放散虫となっていましたので訂正しました。
*3 この記事をアップしたら,なんと鎌倉でヤコウチュウの大発生というニュースが。そのとき筆者は鎌倉から50km離れた海辺にいたのでした。筆者の運気のなさは本ページをごらんの皆様には深くご理解頂いていることと思いますが,まさに今回も運気のなさを身をもって証明したのでした。。。
2017年5月5日
4日午後は,ながねんの課題が片づけられる気がして海に向かいました。ヤコウチュウの発光の観察です。ペットボトルで持ち帰ったヤコウチュウを自宅で光らせたことはありますが,現場で濃密な赤潮になっているヤコウチュウが鮮やかに光るところを見ないことには,ヤコウチュウをまともに見たとはいえないでしょう。それで毎年春に,チャンスをうかがって早10年近くが経過してしまいました。
ヤコウチュウは相模湾でも春にふつうにみられますが,濃い群集を形成しないと明るく光ることがないので,観察するにはかなり綿密に作戦を練る必要があります。多少雨が降ったあとに晴天が続いた条件のときに,ヤコウチュウが濃縮される場所を見つけ,当日ひるの天候,潮位,それに夜の天気と月齢,海岸へのアプローチを考えて,ここぞという場所に向かいました。
その結果がきょうの画像で,まさにこれが見たかったのだという素晴らしいブルーの発光。ひじょうに濃い群集を探し当て,そこで日暮れを待ちながら,だんだんと汀線が光り出す様子は,目を奪われる以外の何者でもなく,いつまで眺めていても飽きませんでした。画像はシャッター開放で露出を与えている途中で,小さめの砂利をひとつかみ放り込んだところ。リアルタイムでひじょうに明るく光ります。ことばで上手く説明することのできないふしぎな感動です(画像/MWS)。
2017年5月4日
むかしから使われてきて信頼性の高い封入剤といえばカナダバルサムがあげられます。19世紀にはふつうに使われていて,その頃に封入されたものが,保管が良ければ全く変質せず,剥離もせずに残っていたりします。100年以上の耐久性をもつわけです。このカナダバルサムも謎な物質で,中身が何なのかよくわかりません。また入手先によって微妙に異なっている感じがします。色調も明るい黄色っぽいものから,ウイスキーのような赤っぽいものまでいろいろです。この封入剤に詳しい先生によると,やはりいろいろなものが出回っているようで,良品は少ないらしいです。画像はビクセン(株)の市販品と,試薬会社の販売品。両者は違うものであろうことが一目でわかります。個人的な経験の範囲でも,むかしのカナダバルサムはトルエンに溶けた記憶があるのですが,最近入手したものは,トルエンに溶かすと濁ります(キシレンはOKです)。混ぜ物があるのか,樹種が変わっているのか,謎なのです(画像/MWS)。
2017年5月3日
手持ちの封入剤のほんの一部を並べてもこんな状態…だったりします。封入剤は銘柄が異なれば粘度も屈折率も透過率も蛍光性も固化時間も浸透性も接着性も異なるので,物体に適した封入を目指すと大変なことになります。一般に販売されている封入剤は主に組織切片用です。そのようなやわらかい組織の薄片を封入するのであれば問題は少ないのですが,厚みのあるバイオミネラルとなると,固化に伴う収縮の影響が大きく,経年的に劣化が起きやすくなります。このため特に放散虫研究者などは,最適な封入剤探しにずいぶん苦労をされているようです。
当サービスでは経年的に劣化しないことを第一優先としています。せっかく買った貴重な標本が数年後にはダメになっていた…というのは,ちまたではよくあることではありますが,あまりに残念ですので,そのようなことのないようにと思っています。しかし耐久性の確保というのはうんと難しい課題です。大丈夫と思っていたものが数年後に剥離したり白濁したりということもあります。検証に時間がかかります。…というわけで封入剤の検討は遅々として進まないのですが,今年は研究開発に重点を置いて,少しは前進させようと思っています。
画像に写っている封入剤は,アクリル系,ポリスチレン系,天然樹脂,合成樹脂など様々です。そのままだとまともに使えないものは調合テストもよくやっています。ほとんどが失敗に終わります。ごくまれに混ぜ混ぜ可能なものもあります。屈折率が自由に調節できて,浸透性がよく,固化もはやくて,耐久性もある,そんな樹脂は夢の中にしかないのかもしれませんが,理想に近づこうとする努力が副産物を生み出しますので,まぁ1ミリでも前進できればいいやと,時々思い出したように雲を掴むような作業を行うのです。
封入剤が増殖してしまった原因の一つは,メーカーがあやふやな記載をしていたことにもあります。多くのメーカーで封入剤の屈折率を記していますが,その値が,封入時の液体なのか完全固化後なのかがわからないのです。当初は,とうぜん固化後の屈折率(つまり検鏡時の屈折率)を記していると信じていましたので,屈折率の数値をみては購入していました。ところが多数購入して何となくわかってきたのは,屈折率の数値は封入時の液体状態の値のようなのです。ひどい,ひどすぎる…ということで散財したわけです。成分も書いてくれればある程度は推測できますが,詳細に記してあるものは少なく,封入剤というのは中身も明らかにせず販売されているふしぎな商品です(画像/MWS)。
2017年5月2日
サンプリング先の現場を毎年見ていると,同じ場所なのにだいぶ変化があります。いちばん目につくのは海藻類の様子です。大潮で干潮になれば大きく潮が引きますので,それまで海底だった場所の様子がわかるわけですが,紅藻にしろ褐藻にしろ,年ごとに伸び方も付着状況も大きく変化しているようです。たぶん大きな原因は,大潮前後の「風」があるのかもしれません。海が荒れているときに干潮だと,海藻類が根こぎに流れてしまい,さっぱりとなくなってしまうことがあります。あとは水温や日射の影響もあるのかもしれません。今年は関東沿岸では春先の日射は,やや不足気味だったように思います。それから人為的な問題でしょうか。海藻類のうち,漁業権該当種は,それを利用している地域では刈り取られていることがあります。
こういった問題以外にも,ここ10年ほど眺めていて,なんとなく海藻類が減っているような感じがしています。平均水温が上がってきたからでしょうか? データを取っているわけではないので,気になるかも,というレベルですが,今後どうなっていくのかをウオッチし続けたいと思っています(画像/MWS)。
2017年5月1日
特注対応などの仕事が片づいてくる感じて,今月中にはリサーチグレードなどの珪藻プレパラートも製作再開できると思っています。永らくお待たせしてすみません。一人で全ての仕事を切り盛りしていると,難しい仕事などが入ると,ほかの全ての仕事がストップしたりするのです。こればかりはどうしようもありませんので,順次作業を進めるしかありません。開発案件などは,時間だけがずるずると経過することもあってしんどいですが,だからといって尻込みしていれば技術を高めることは難しくなります。今年はえいやと,難しい課題に正面から取り組んでいます。
画像はサンプリング先で見かけたヤコウチュウ。このまま夜までいれば光るところを見られるんだよなーと,とても惜しい気持ちになりつつ引き返したものです。まぁ,規模が小さすぎて,夜になったことに少しでも風向きが変われば,雲散霧消して消えてしまうので,無理して残って観察するほどではなかったことは確か。でも,見たことないんですよね。ヤコウチュウが現場でピカピカ光るところ…(画像/MWS)。
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