研ぎ特集記事

「本日の画像」コーナーに掲載した研ぎ関連記事のうち,主要なものを抜き出したものです。砥石にご興味ある方はこちらこちらもご覧下さい。



2014年6月5日(2)


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これからトマトがおいしいシーズンになりますので,トマトの果汁を逃がさない切り方を再掲しておくのも大事かと思われます。大切なことを繰り返し伝えるのは教育技術のイロハのイです。本ページの2011年11月17日をご覧頂くと,その詳細が記されていますが,要するにトマトの皮をむくと見えてくる色の濃いラインに沿って包丁を入れると,果汁が封じ込められるというわけです。きょうの画像はそのようにして切った夕飯のトマト。だらだら液だれしないのは本当に良いです。

筆者の大嘘な調べによれば,全世界で生食されるトマト推計5000万トンのうち,果汁漏れによって失われる部分は20万トン程度です。これは国内のトマト総生産の1/3にも匹敵する重さで,これを有効利用するのであれば,少なくとも数千万人の栄養改善に役立ち,水系の汚染,ゴミの増加を食い止められます。イグノーベル賞をもらえないのが不思議なくらいの大発見ですので(笑),当サービスのHPをご覧の皆様は,研ぎのページばかり見ていないで,まねして,広めましょう…(画像/MWS)。








2014年5月30日


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カッターナイフによる事故の例を書きましたら,よくみている自然科学系ブログさんが,きちっと刃が固定できるカッターの話を書いてくださいました。ねじ式のカッターも参考になりますが,ホルダの先端をつぶすという話が目からウロコ級の発想でした。ふだんカッターは使わないのでこういった発想が浮かばなかったといえばそれまでですが,でも,どうして今まで気づかなかったんだろうと,恥ずかしい気もします。ちゃんと観察していないんですね。。というわけで,以下はリンク。

NT S203 −ミクロ・マクロ・時々風景

ねじ式 −ミクロ・マクロ・時々風景

ここで紹介されているようなカッターナイフを使って,刃を少しだけ出して,しっかりと刃を固定できれば,事故は減るように思います。何も考えずに,カチャカチャと刃を出して使う今のやり方よりははるかにマシなことは確かです。

画像は,そんな話題とは関係のない,エネルギースーパーのホタルイカ。これで250円は破格な上に,相変わらずのおいしさです。どうもこのスーパーは火曜日が攻めどころのような気がします。セールを打つ日にいくと,あんまりよい物がなくて,そうでない火曜日に行くと,よさげなホタルイカ君に出会う気がします…。だんだんぷっくりとしてきて,シーズンも終わりが近づいています。せっせと楽しみませう(画像/MWS)。








2014年5月26日


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珪藻や放散虫の試料処理過程では大量の精製水を使いますので,からの容器がたくさん出ます。価格の内訳で見れば,「水付きポリエチレン容器」を購入しているという方が正解で,水を使ったから容器を捨てるというのももったいないのです。それで当初からいろいろな用途に転用しているのですが,とても便利なのはポリビーカーです。容器のラベルをはがして,カットするだけです。もとが精製水ですから,内側は完璧にきれいで,薬品溶解用のカップとしても使えますし,シリカのコンタミを嫌う場面でガラスビーカーの代わりにも使えます。ちょっと面白いところでは,缶ビールがちょうどよいサイズで入りますので,保冷性アップにも使えます。よく冷えたビールを,このポリカップに入れて飲めばいいのです。

さて,このポリカップを作るにあたって,容器をカットする必要があるわけです。このとき,ぜひとも注意して頂きたいことは,できるかぎり,カッターは使わないことです。きちんと刃を固定できるナイフか,よく切れる包丁か,とにかく刃が曲がらず,ハンドルをきちっと握ることができる刃物でカットしてください。カッターナイフは,たいていの人が刃を出しすぎてしまい,それでこのような曲面をカットすると刃がしなり,予測しない方向に刃が走って,大怪我となることがあります。もし,刃を3ミリだけ出して固定できるようなカッターナイフでしたら,それでも十分に使えますけど,そのようなカッターナイフをお持ちの方は刃物に詳しい専門家でしょう。一般の方はラチェット式の刃がきちんと固定できないカッターをお持ちの方がほとんどと思います。そのようなカッターは(刃が固定できないのですから)紙一枚だけを切るような力を入れない用途に限定したほうが良いでしょう。

このような話を書くのは,大事故の例を知っているからです。大学院の当時,同室の若い教員が,ポリエチレン容器に入った凍結試料を早く取り出そうとして,中身が凍ったまま,カッターナイフでポリエチレン容器をカットしようとしたのです。最初はうまくいったのかもしれませんが,途中で刃が滑って,カッターナイフの刃は手首に突き刺さり正中神経を切断しました。筆者が現場にいれば,そんな使い方はさせなかったのにと思っても,すでに遅し。研究室に戻ったときには,その教員は救急車で運ばれたあとでした。神経は接合してもらったそうですが,機能が完全に回復することは難しいのです。

カッターナイフというのは不思議な刃物で,つねに新鮮な刃が供給されて切れ味が保たれるのは素晴らしいのですけど,刃物としての目的が今ひとつはっきりしないのです。きちっと握れない,刃がぐらつく,刃がしなる,刃を引っ込みすぎたり,出し過ぎたりする,刃が薄すぎる…など,刃物としてはかなり中途半端で,きちっと使いこなすには技術経験と器用さが必要なもののように思います。紙工作などで,器用にカッターナイフを使いこなしている人を見ると,とても真似ができないと感心します。ですので,不器用な筆者はカッターナイフは,まず使いません。怖いのです。段ボールをカットするときでも,立派なナイフをしっかり握って使います。

そういうわけで,きょうの画像はポリ容器をカットしたところと,カットに用いたオルファクラフトナイフL,それにカッターナイフです。クラフトナイフLの方は,実際に切断に用いたときの刃先の出し方そのままにしてあります。カッターナイフは,刃先を出し過ぎの例です。見た目そうでもないと思われるかもしれませんが,これでもひじょうに出し過ぎで,これでポリエチレン容器を実際に切ってみると,刃がしなるのがわかります。危険です(画像/MWS)。








2014年5月15日


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ここのところ研ぎの話が全然ないじゃないか,という声も聞こえて来そうなので,きょうの画像はボンナイフ。1960-1970年代の小学生なら,筆箱に一個入っていたであろう,鉛筆削りナイフです。むかしは,小学校一年生でもこんなものを持っていて,教室で鉛筆を削っていたのですが,現代はどうなっているのでしょうね。画像のボンナイフはみての通り,BONと書いてある本物です。10年くらい前に,どこかで捨てられたものが運良く拾われて,筆者のところまできました。プラスチックは脆化していて,だいぶくたびれているのですけど,刃は問題ありません。何しろカミソリの刃がそのままついているんですから,筆者の手にかかれば,シャプトンオレンジ→スエヒロ工具用#3000→スエヒロGC竹色#8000と研ぎ直しして,新品と遜色ない刃になっています。蛤刃になっているので刃がぐらつき,鉛筆を削るにはコツが必要ですが…(画像/MWS)。








2014年4月13日


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すぐ近所で骨董市をやっていたので研ぎ材料を探しに出かけました。技術というものは,日々,それを維持する人にしか宿ってくれないので,研ぎ材料を探しては研ぎ続けなければいけないのです(^_^)。よさげな材料が見つかることは滅多にないのですけど,12日はめずらしく切り出し風の金属片が三つもみつかりました。値付けもやすいのにさらにまけてくれるという。へっへっへ〜とうれしい気分になりつつ他の道具をひっくり返していると,横にいたお客さんが,それ買ってどうするの?と。「研ぎに使うんです」 砥石何持ってるの? 「中砥はシャプトン,仕上げは丸尾山中心」 シャプトン高いね,丸尾山は最近のものだね。 「シャプトンは高いからその前に赤レンガとGCで形は作っておくのです。それでちゃっちゃと載せて,あとは仕上げ。丸尾山はよくおろすよ。」 ふーん。切り出しはほかに何持ってるの? 「ほとんど骨董品。でも加藤さんのは一本ある。も作も欲しいけど高いよね」 まあでも高いって言っても2,3万じゃない? 「そうだけど,ここいらへんに転がっている骨董品でも,同じレベルの刃がつくものがありますからねぇ」 などと刃物談義が延々と続き,ちょっと面白い春の昼休みとなったのでした。

画像二枚目は収穫品。ひじょうに厚みのある切り出し風で,裏すきも浅く,筆者好みです。一本は左利き用です。この切り出し風,形は作ってあるのですが,刃がついていません。刃先は切り取って整形した断面がそのままです。しかし裏出しは行った形跡があって,謎の物体となっています。鍛冶屋が,できそこないとして放出した品物,あるいは,研ぎ屋に回す段階の品物を骨董屋さんが持ち帰り,素人研ぎでさび落としと裏出しをしたと解釈するのがもっともらしいと思います。こういったものは練習用として最適なのですが,果たしてまともな刃物になるのでしょうか…(画像/MWS)。








2014年4月7日


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包丁で料理中に手を切ることは滅多にないのですけど,一年に0〜1回程度はやらかしてしまいます。面白いことに,指先を切って血がダラダラというようなケガは,決まって来客が在宅しているときに起こり,そしてその来客は筆者の右後ろにいるときにやらかします。包丁を引く動作を行うときに,人がいるとヒジを引くときに気になるので,それで手がぶれるのだと思っています。

ふだんは全くそのようなミスはないのですが,爪を切ってしまうことはよくあります。包丁がよく切れすぎるので,爪を薄く削いでしまうことがありますし,少し手が滑れば爪に刃がぐさっと入り込むこともあります。先日もネギを切っていたらやらかしてしまい,出血こそしませんでしたが爪が割れてしまってヤバイ感じになってしまいました。これで爪がべりっと剥がれれば,痛い一ヶ月となりますので,すぐさま爪を補修しました。専門の人はほかの方法をやるのかもしれませんが,筆者は瞬間接着剤と紙を使っています。封筒の用紙を適当なサイズに切ってツメと同じ曲面をつけて,瞬間接着剤で貼り付けます。これで1〜2日は大丈夫ですが,だんだん紙が薄くなってくるので,そうなったら同じようにもう一回貼り付けます。これの繰り返し。そうすると薄い紙と接着剤で補強されたようになって,具合良く爪を固定できます。水仕事や風呂の前には,紙の部分にパラフィン(ろうそくなど)を塗りつけてこすっておけばしばらくは大丈夫です。素人治療(修理)の類ですが,けっこう役立つので紹介してみました。なお真似しておかしなことになっても,それは筆者の知ったことではありませんですー(画像/MWS)。








2014年3月22日


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包丁なんて研いだことない。なぜ包丁が切れると良いのか? という方もおられるかもしれません。目的さえ達成できればよいので,やりたいことができていれば包丁なんて切れなくても問題ありません。最近はハサミで調理する人も増えていると聞きますし,それぞれがやりやすい方法で行えばいいだけのことです。筆者にとっては,すぱっと切れることが技術の確認になりますし,一日中顕微鏡を覗いていて疲れたときの夕飯作りは,何よりの気分転換です。気分転換は気分が良い方がいいに決まっているので,惚れ惚れするような切れ味が望ましいわけです。

特に切れ味を要求される食材,というのがいくつかありまして,その中でも筆頭にあげられるのが,ちくわと油揚げでしょうか。この二つは具材兼調味料としてよく使っているので,とにかく細くこまかく切る必要があります。ところが,ちくわの皮というのは相当に硬いので,刃がなまるとすぐに切れなくなります。油揚げも似ています。完璧に研ぎ上げれば,うすーく切れるので,調味料としては大変よろしい状態になるわけです。

もやし200gほどを電子レンジでチンして水気を切り,細切れにしたちくわと,キムチ少々,シラス干しを加えて,ごま油を垂らせば当店自慢のニャムルのできあがりです。市販のちくわにはアミノ酸がたっぷり入っていますので,そのまま食べるよりも,煮物や和え物などに少量加えてダシを利用するのが当店のやり方です。しつこくならないので,飽きずに食べられます(画像/MWS)。



*1 ウチでは化学調味料の類を置いていないので,化学調味料の代わりに,似たような成分の入った食材を利用するわけです。よく使うのはコンブ,めかぶ乾燥品,ちくわですね。化学調味料を否定しているわけではありません。ただ,あのような粉末になっていると,加減を調節するのが本当に難しく,使いにくいのです。具材のダシを調味料として使う方が失敗が少ない気がします。




2014年3月10日
















最近,研ぎの記事がないではいかーという声が聞こえてくるような気もします…。すみません。忙しくて,落ち着いて研ぎタイムという感じにならないのです。でも包丁はちょくちょく研いでいて,日々のごはん作りに使っているわけですので,きょうは料理の方を書くことといたしましょう。

アジはピンとしていて張りがあり,虹色が消えていないものを選びます(画像1枚目)。ウロコを落とさずに,ざっとたわしと流水で洗ってから,頭を落として腹を開き,ハラワタを取り去ります。背骨に沿った血合いに軽く切れ目を入れて,ブラシなどでこすりながら流水で洗ってきれいにします。ここまでできたら水気を拭き取って,きれいなまな板に載せませす(画像2枚目)。

次に皮をむきます。三枚におろしてからの場合は「皮を引く」といいますが,おろす前にとってしまうので「皮をむく」と呼んでいます。正式にはなんと言うのでしょう。。方法は簡単で,背中側とお腹側の皮に浅い切れ目を入れます。包丁では切れ込みが入れにくいと思う人は,新しいカッターの刃を少しだけ出して使うとよいでしょう。そして頭の方から尾の方へペリペリと剥いていけば簡単に,しかもきれいに剥けてしまいます(画像4枚目)。この方法の利点は,腹側の銀皮もきれいに残り,ぼろぼろにはならないことです。三枚におろしてから皮を引くと,技術の差が出やすいように思います。失敗すればぼろぼろになります。

皮がむけたら,骨を身を切り離します。一気に大名おろしにすると,骨にたっぷりと身が残ってしまうので,ここは慎重に,骨に身を残さないようにしましょう。ペティナイフや小さな包丁を使って,背びれの方向から,刃先を骨に這わせて少しずつ切り開いていくと,骨と身が離れていきます。中落ちまで到達しても,そのまま切り進んで,まずは2枚におろし,反対側も同じように切って,三枚におろします。残った骨には身があまりついていません(画像4枚目)。

切り離した身は,腹骨をすき取り,小骨をとって,小さめのすしネタくらいに切ります。これに刻みネギとショウガを入れて,高級なしょうゆを適量加え,よくかき混ぜてなじませれば,筆者流のアジの叩きのできあがりです。これを暖かいごはんの上に載せて食べれば,幸せなひとときを過ごせることでしょう(画像/MWS)。



*1 このおろし方は,10年くらい前に,青森県の魚屋さんのホームページを見ていて発見したものです。合理的な方法と思いましてすぐにまねしましたが,じつに良いと思います。

*2 包丁は,小出刃でもいいですが,それほどの厚みは必要ありません。小さな包丁の方が扱いやすいと思います。きょう使ったのは,高知県で衝動買いした小さな包丁(105mm)です。本ページの2012年4月6日で紹介しているものですが,筆者が店先で選び抜いて購入しただけのことはあって,すばらしい品質です。

*3 研ぎはけっこういい加減で,骨董市で買った500円の石ころ(中砥っぽい)に青砥を名倉代わりに使い,軽く刃先を立てた程度のものです。これでじゅうぶん切れます。

*4 アジのたたきは細かく切ることが多いのですが,ちゃんと小骨が処理されていれば,大きく切った方がおいしいです。細かく切った方がよいのは薬味です。ネギとショウガは細かいみじん切りが良いです。

*5 しょうゆはよい物を使ってください。せっかく素材が最高なのに,調味料が品のないお味だと,残念な結果になりかねません。それから,入れすぎに注意。入れすぎたらもとにもどれません。少しずつ足していって,ちょうどいいかな,と思う一歩手前くらいにしておくと良い結果になるような気がしています。

*6 頭は振り塩してオーブンで焼けば素敵な酒のつまみになるでしょう。あるいは,骨と一緒に煮込んでダシをとっても有効利用になるかと。たいせつにいただきましょう。





2014年1月22日


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古本屋の愉しみは,思いもよらなかった本に巡り会えることです。ランダムとしかいいようのない組み合わせておいてある書籍を高速スキャンして,自分の脳みそが反応した活字に反応します。まったく予期しなかったことでも,脳みそが反応してしまい,数千冊の本から秒速で興味深い本が見つかったりします。じぶんの脳が何を考えて何を期待しているのか自分でもわかりませんが,古本屋はそれを教えてくれる機会でもあります。画像の本は,大きな古本市でみつけたもの。このような本があることも知らなかったし,このような本を探していたわけでもありません。しかしある本屋の店先で,数十秒で見つけ出し,数分後には連れて帰るわけですから,人間の行動というか,能力というものは,不思議です。「日本刀職人職談」,大変なタイトルですね。「職人談義」ではないのです。「職人」の「職談」なのです。猛烈に勉強になります…(画像/MWS)。








2013年11月29日


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当HPでは研ぎ特集の記事がよく読まれているらしいのですが,いったいどんな人が研ぎの記事を読んでいるのか不思議な気もします。顕微鏡が好きでついでに研ぎも…というよりは,たぶん「研ぎ」や「砥石」で検索して飛んできた方々なのかもしれません。。いずれにしても,刃物が切れるのは良いことです。だって,包丁がよく切れれば,キュウリが転がらなくなるんですから(笑)。上の画像はキュウリを切ってそのまま。揃えることもしていません。薄く切るとキュウリは貼り付いて山ができ,転がらないのです。薄ければ塩もみしなくても直接しぼって,ザーサイとちくわにゴマ油少々。これで一品ができてしまいます(画像/MWS)。








2013年11月19日


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ピンセットを研ぎ直したので備忘録です。愛用しているFONTAX Taxal No.3ですが,酷使している間にだいぶゆがみが出て,先が合わなくなっていました。主につまむのはカバーグラスとペーパー類ですが,ガラスは硬いのでピンセットの刃先が摩耗して歪んだのかもしれません。前回研いだのは2年くらいは前の気もするので,ちょっと放置しすぎました。ピンセットの研ぎ方は習ったことがないので自己流です。学生の頃から適当にやっていましたが,ピンセットとしての機能が復活すればよいので,自己流でもよい気がします。。

まず実体顕微鏡で刃先をよく観察し,ゆがみを直します。刃先が外側に開いてしまっている場合は,プラスチック板に押しつけて刃先が合うように少しずつ曲げていきます。軸がずれている場合は,根元に力を加えて軸が合うようにします。いずれも微調整で繊細な作業です。確認はかならず実体顕微鏡で行っています。刃先が合ったら,アルカンサス砥石で刃先を研ぎます(刃先にオイルをつけたくないので水研ぎにしています)。鉛筆の芯をとがらすような感じで,斜めのテーパーを崩さないように研ぎ減らします。先端は立て気味にして研ぎますが,力を抜かないとあっというまに削れてしまい,太くなってしまうので注意が必要です。

実体顕微鏡で確認しながらだいたい形が整ってきたら,耐水ペーパー#5000で研ぎます。新しいペーパーを使い,手のひらの上に載せて凹面を作り,そこで転がすように研ぎます。先端にRをつけるのも耐水ペーパーで行います。刃先をハマグリ刃のように曲面的に減らしたい場合は,烏口を研ぐように「8の字研ぎ」を行います。きれいなRにするのは至難の業なので,ほどほどのところでやめておきます。

形ができあがったら,裏研ぎ(合わせ面)を研ぎます。裏は平面なので,ここを下手に研ぐと刃先が合わなくなってしまいます。ですので,裏は研いではいけない,という人もいます。でも,ゆがみを直したときは話は別です。金属を曲げてゆがみを直したのですから,裏の平面が崩れているに決まっています。そこで,耐水ペーパー#5000をピンセットで挟んで,すーっと縦に引き,裏面を研ぎます。片側ずづこれを行って,1セットごとに顕微鏡で確認し,裏にきれいな平面が出て刃先がきちっと合わさるのを確認した時点でやめます。

最後はセーム革にピカール,またはほかの研磨剤をつけて乾燥させたもので磨きます。これはどこかにバリが出ていた場合,それを減らすおまじないのようなものなので,エッジを磨きます。どこかにバリがあると紙を挟んだときに繊維が刃先に引っかかり気分がよくないのです。

一連の作業を終えれば,あとは実体顕微鏡下でホコリをつまんでみて,問題なければOKということにしています。FONTAX Taxalシリーズは生産中止になってしまったので,こうしてメンテナンスして,末永く活躍してもらわなければなりません。画像はピンセットの研ぎ用品と,研ぎあげた刃先です(画像/MWS)。



*1 耐水ペーパーはむかしは#2000,現在は#5000を使っています。目の細かいものでゆっくり砥がないときれいに仕上げにくいです。荒い耐水ペーパーを使うと一発で刃先を壊すことがあるので要注意です。

*2 砥石はうんと硬い物が使いよく,ステンレス系のピンセットには,やはりアルカンサス砥石ということになります。大きいものは高価ですが,小さいものなら釣具屋さんに針研ぎ用のものが安く売っているので,それを使うのも一法かもしれません。筆者はポケットアルカンを買うまでは釣り針用のものを使っていました。むかしの話ですが千円しなかったと思います。






2013年11月15日


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筆者は右利きなので,刃物は台所の右側に収納してあると便利ですし事故も少ないのです。それで,キッチンの右側にある冷蔵庫の側面が包丁掛けになっています。大量に持っているフェライト磁石,ネオジム磁石,サマリウムコバルト磁石等を貼り付けて,磁石式の包丁置き場としています。たいぶ長いこと使っていますが,想像以上に便利で,お薦めの方法です。差し込み式の包丁ホルダは取り落とした時が恐ろしいのですが,磁石式で作業時と同じ高さに保管すれば取り落とし事故は格段に減るように思います。空間スペースの有効利用になり,場所を取らないのも大きな利点です。また冷蔵庫の側面は室温よりも温度が高いので刃の乾燥を促進するという点でも優れています。夏の初めに高級フランス料理店にお伺いしたところ,丸尾山砥石を超絶に使いこなすご主人の包丁は,やはり磁石でぶら下がっていました。それを見てひそかにうれしく思ったのでした(画像/MWS)。









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