ニコンS型顕微鏡(model S)
ミクロワールドサービス『本日の画像』に掲載したS型顕微鏡(日本光学工業,当時)の記事を抜き出してまとめたページです。 2013年8月31日
今月は依頼作業を優先的に進めたため,ニコンS型のメンテナンスに集中することとなりました。最初は拭き拭き作業の連続で修行のような日々,そして珪藻プレパラートを検鏡しながらの調整の日々,そのあとはベストの光源を求めて昼は秋葉原,夜ははんだ付けの日々。何か一つの作業に集中する,というのはいろいろなことを生み出すもので,最近のLED事情もリサーチできましたし,昔は見当たらなかった電流レギュレータなども発見できて,筆者の研究用顕微鏡にフィードバックできる情報も多々得られたのでした。じつに有り難いことと言わざるを得ません。 2013年8月27日
この顕微鏡はいっけんニコンS型(SFR-Ke)に見えますが,L型(LFR-Ke)といいます。相違点は少なく,レボルバがクランプ一つで外れて交換可能なこと,ステージについても同様です。またS-Ke型では視野絞りの心出しはフィールドレンズで行いましたが,L-Keではコンデンサの心出しができるようになっています。S型の上位機種という位置づけですが現場ではあまり見かけることがなかったように思います。機種名こそ違いますが,S型ファミリーの一つとしての位置づけでよいのではないかと思います。筆者がL型を所有していないことを嘆いていたら,ある方から,「L型なんてどこにでも,あるじゃん」と言われてしまったのですが,その言葉を聞いてから半年程度でL型をメンテナンスしているのですから巡り合わせというのは不思議です。中年オヤジになると欲しいものがある日突然に転がり込んでくる,その有り難さを感じるきょうこの頃です。部品も足りないし動作上の不具合もあるのですが,そんなことは気になりません。在りし日の日本光学が設計した顕微鏡をとくと眺めることにいたしましょう。 2013年8月25日
ニコン顕微鏡S-Keを各部点検清掃をするにあたって,どこが最も難しいかと聞かれれば,「Keの部分」と答えます。S-KeはS型にケーラー照明装置(Ke)がついたものですが,この『Ke』の清拭が大変なのです。数十年経過した本機種はとうぜん照明光学系も曇り,カビが発生し,チリも積もっています。これらの汚れは,適切に照明を施せる人にとっては,光学的な意味で分解能には影響しません。しかし照明ムラやゴミの原因となるのです。特に低倍対物レンズでの観察時ではピント深度が深いので,視野絞りの近くに存在するゴミが見えます。そこでこれを取り除く必要があるのですが一筋縄ではいきません。 2013年8月24日
これはカミツキガメをひっくりかえしたところ…ではなくて,ニコンS-Keの底部です。筆者の所有する顕微鏡のほとんどには,この画像のような『カグスベール』を貼り付けています。ゴム足の径を測って,その径と同じテンプレートでカグスベールにしるしをつけて,ハサミでチョキチョキ。じつに簡単な作業です。ゴム足は水拭きのあとにエタノールで繰り返し拭いておきます。そこにカグスベールをペタリ。カグスベールにはコルク層があるので古い顕微鏡のへたったゴム足を補完する上でも好都合です。 2013年8月23日
黒いボディでおなじみのニコンS型顕微鏡は,いくつかのタイプがあるようです。よく知られているのは先日紹介した一軸粗微動タイプですが,きょうの画像のように粗微動が別々の2軸タイプも存在します。こちらの方が古いのですが,微動と粗動の耐久性はよく,現在でも現役の機種が存在します。画像のタイプは照明切り替えをフィールドレンズのin/outで行うというものです。ハネノケコンデンサなき時代には,ハネノケフィールドレンズとでもいうべきもので照明切り替えを行い,先玉の大きなコンデンサで照野を確保したようです。なかなかの工夫だと思います。こうして画像に撮るとそんなに古くは見えない気もしますが,この顕微鏡が販売されていた頃は,まだ多層膜コートも一般的ではない時代です。薄いモノコートがついていれば良い方で,レンズやプリズムはノンコートに見えるものもあります。そんな時代のものが現役で動くのは大したものです。なお,このS型は後期のものより重い感じがします。軽量化よりは耐久性第一で作ったように見えます(画像/MWS)。 2013年8月21日
今月半ばから取り組んでいたS型メンテンナンスがおおむね終わりました。何十年もホコリを被った状態でしたのでメンテナンスは相当に面倒なものでした。劣化した部品も多く,ストック機材の中からネジやレンズなどを追加しての修復となりました。状態がよかった部品も多く,コンデンサは十分使用可能な状態で,これはラッキーでした。断熱ガラスは白濁していましたが,これも研磨である程度きれいになりました。プリズムは手の届かないところが濁っていましたが,細く折ったレンズペーパーを差し込んで清拭しました。この作業は効率がわるく一面拭くのに80枚くらいのペーパーを使いました…。ステージの汚れもひどいものでしたが,主にグリスとちりの混合物でしたので,EE-3310で溶かしながら清掃可能でした。粗微動のハンドル,ステージのハンドルは各種のブラシとアルカリ洗剤で汚れを落とします。古い顕微鏡の掃除は,言ってみれば,台所の換気扇の掃除みたいなものです。やる気がしないけどいつかはやらなければならないところまで似ています(笑)。 2013年8月19日
ニコンS型をメンテナンス中です。この顕微鏡の一軸粗微動タイプは,デルリン樹脂製のギヤが破損して使用不能になるという運命を辿るのですが,ギヤを真鍮製のものに交換してくれる専門家がおられるので,修理してもらいました。樹脂製ギヤが真鍮製になる気分は,レンズ付きフィルムからニコンFに換わるくらい快適な気分です。シャフトに組み込まれたギヤを本体に戻せば,スムースに動く一軸粗微動の復活です。バンザイ三唱の気分です。 2013年8月18日
顕微鏡を末永く利用するためには日頃のメンテナンスが大事です。乾燥した南側の部屋で,机の上などに保管し,ホコリよけをかけて,ときどき使用するというのがもっとも理想的な維持方法かもしれません。顕微鏡の大敵はいろいろありますが,湿気,薬品,それに水試料などが一般的なものです。化学系の実験室では,薬品庫から遠いところに顕微鏡を保管することを推奨します。硝酸や塩酸は徐々に蒸発して部屋を漂っていますから,長い時間のうちには顕微鏡を腐食します。試料の場合は,酢酸系の標本や海水試料が特に腐食性が高く注意を要するものです。これらの酸類や塩分を含む標本を検鏡したら,ステージやベース部分を水拭きして乾燥させ,対物レンズは蒸留水を染みこませたレンズペーパーで清拭して付着している可能性のある塩分などを除去しておきましょう。きょうの画像は悪い例です。海水試料をベースにこぼして,それが下部に染みこんで腐食が進行したものと想像されます。堅牢さが売りのニコンS型でも,取扱が悪ければひとたまりもありません(画像/MWS)。 2012年7月2日
ニコンS型の光源内蔵型のベース部分には,照明切り替えレバーがあります。L,M,Hとレバーを切り替えると,低開口数広視野から高開口数/限定視野に照明を切り替えできます。Lでは内部に拡散板も入っていて,低倍対物レンズで観察するときもムラのない照明ができるように工夫されています。この機構により,ハネノケコンデンサがなくても,4倍〜油浸までの照明がレバーひとつでできるようになっています。なかなか便利なのですが,照明法をきちんと理解していないと,特に高開口数対物レンズ使用時に性能を低下させてしまう恐れもあり,完璧に使いこなす人はちょっとした玄人かもしれません。そのためか当時ニコンでは,このレバーの使い方や照明の調整について記した下敷きを配布していました(画像/MWS)。 2012年7月1日(2)
ニコンS型の鏡基にはコンデンサの下にフィルタ受けがついています。これがけっこう絶妙な位置にあって重宝します。画像のようにアクロマートコンデンサの直下に丸い遮光板を置けば,暗視野コンデンサのできあがりです。遮光板の大きさを変えれば輪帯照明も可能です。もちろん偏斜照明もできますが,偏斜照明装置はコンデンサ組み込みなので,変形偏斜照明が必要な時に限られますが…。このほか,このフィルタ受けに凹レンズを置けば,コンデンサのパワーを弱めたLWDコンデンサのできあがりです。3mmの台ガラスに試料を載せなければならなかったときにこの方法が活躍しました。大学院時代は,このS型を使いこなすことによって,じつに色々な勉強になったのでした(画像/MWS)。 2012年6月30日
ニコンS型のステージについている標本押さえにプラスチック製のカバーを作って取り付けました。昔からの謎なのですが,古今東西の高級顕微鏡において,プレパラートやスライドグラスはガラス製がふつうで,標本押さえは金属製,それもステンレスや鋼鉄+クロムメッキなどがふつうです。この組合せは最悪で,スライドグラスの角が欠けてしまうのです。いいや,オレはていねいに扱っているから欠けたことがない,という方は,ぜひスライドグラスの角を顕微鏡で覗いてみましょう。微小に欠けていることがあるのです。当サービスでは,顕微鏡ももちろん大切なのですが,標本がもっとも大切にすべきものです。二度と作ることのできない貴重なものも多いですし,特注品で一枚しか製作できないようなものは,それはそれは気を遣います。標本押さえにストッパーをつけたり,クレンメルにストローでカバーをつけたりする工夫はこれまでも本欄で掲載してきました。今回はニコンS型ですが,書類挟みのプラスチックをカットしてカバーを作りました。これを両面テープで接着してあります。動作も問題なく,スライドグラスの角が欠けることもなくなりました。小さな工夫ですが,効果は大きいのです(画像/MWS)。 2012年6月28日
ニコンS型の時代の顕微鏡には,偏斜照明装置が標準で付属しているものもたくさんありました。偏斜照明装置とは,コンデンサを中央に向かって絞り込む代わりに,周辺に向かって絞り込む機構のことです。コンデンサ絞りを絞り込むと物体のコントラストが上がることは誰でも知っていますが,これは,コンデンサの中央に向かって絞ったからコントラストが向上した,と,ひと言で片づけるような現象ではありません。コンデンサを周囲に向かって絞り込んでもコントラストは向上するのです。この偏斜照明装置は,低倍率では物体に陰影をつけて立体感のある作画をするために利用価値がありますし,高倍率では,分解能を低下させない照明法として大切なものです。現在では偏斜照明装置は,ひっくり返るほど高価な価格設定になっていて,何も知らない人はそれを買うわけですが,顕微鏡光学を知っている人なら,紙一枚で偏斜照明を実現したり,あるいは旧式のニコンS型で満足したりしています。画像はS型で撮影した放散虫で,偏斜照明を施しています。ガラス細工の質感が美しいですね(画像/MWS)。 2012年6月27日
現在市販の白LEDは青色発光体と黄色蛍光体の蛍光で白色としていますから,スペクトル成分としては青色を多く含んでいます。肉眼の視感度からみても青色の感度は悪いので,多くする必要があるわけです。このことが顕微鏡のイメージングには有利にはたらきます。適当なフィルタで緑〜赤色光をカットしてやると青色光成分が残るわけですが,白LEDにはもともと青色成分が豊富なので,暗くならないのです。タングステンランプでこのようなことをすると,極端に暗くなります。タングステンランプは熱で発光していて黒体輻射的な光成分で,青よりは赤,赤よりも赤外を多く出しているからです。 2012年6月26日
改造記事ばかりではいけませんので,結果も掲載しましょう。ニコンS型にNSPWR70AS(白色LED)を光源として使用したときのデジタル画像です。鏡基も対物レンズも接眼レンズも35年以上経過した古いものです。しかし1970年代にもなりますと,顕微鏡は理論分解能を満たすように設計製作されているものがほとんどで,レンズはコーティングされ,像のキレも悪くありません。標本は,当サービスのプレパラート群の中でもクリアだとの評価の高いDDM-STDです。 2012年6月25日
結局のところ,ニコンS型(SFR-Ke)顕微鏡のLED載せ替えは,DC-DCコンバータの定電流電源を廃止して,乾電池電源とする案を採用することにしました。この方が持ち運びに便利で,コンセントを必要とせず,LED側で電流制御できるので自由度が増すからです。電流制御はCRDで行うこととして,フィラメントの面積と同等の発光面積を持つような(持たせられるような)LEDを選んで使うこととしました。できあがりが上の画像です。一つはNSPWR70ASでこれは発光部が一つで輝度が高いタイプです(定格40mA)。CRDを2個並列で30mA定電流としています。もう一つはNSDW570GS-K1で,これは発光部が2つで輝度が低いのですが,全光束は大きいので,拡散板をかぶせることにより面光源としています。これの定格は70mAなのですが,CRDを4本並列で60mA定電流としています。いずれのLEDも6V30Wタングステンランプを割って作った台座に固定していますので,ニコンS型の電球ソケットがそのまま使えます。 2012年6月23日
現在市販でもっとも高効率な明るいLEDは日亜化学のNSDW570GS-K1ということで定評がありますが,まだ使ったことがなかったので,顕微鏡照明用に購入してきました。さっそく点灯して光強度を簡易測定すると,確かにこれまでのLEDよりもはるかに強い光が出ています。さっそくLED電球を製作して組み込み顕微鏡観察してみると明るくない。アレレ。光源をのぞき込むと青白い励起光発光体が二つ見えます。なるほど,このLEDは単に一個のパッケージに2個の白LEDを組み込んだものだったのでした。ルーペで拡大してみれば,配線が二組あります。顕微鏡で明るい照明を行いたいときは輝度が高いことが必要です。全光束が大きくても輝度が低ければ明るい照明はできません。このLEDは発生する光の総量は多いけれども,単位立体角あたりからの放射束はそれほど強くなかったのでした。LEDを並べていろいろ調べてみると,最新のものでなくても,ひじょうに輝度の高いものがあります。要注意なのです。ちなみに,この日亜のNSDW570GS-K1ですが,全光束の値は比較的大きいので,この特性を活かすならば,拡散板組み込みですね(画像/MWS)。 2012年6月22日
ニコンS型顕微鏡のLEDを更新しました。これまでは6V30W電球を壊して作った台座に日亜化学のNSPW510DSに拡散板をつけたものを使用していました。今回はFlux系のLEDにしてみました。NSPWR70ASというやや古いタイプなのですが,在庫豊富なLEDをひっくり返してみて,いちばん適当な形状でした。発光部の面積がそれなりにあって,S型のコレクターレンズでも問題なく高NAの照明ができることが条件です。それから,駆動回路を新規に作るのは面倒なので,常用の20mA定電流回路で使えることも条件です。一度はんだ付けを行い,鏡基に装着して心出しを行い,フォーカスを調節してみます。フォーカスが出なかったのではんだ付けをやりなおして再度調整。こんどはうまくいきました。発光部の位置決めは1mm単位の精度で行う必要があります。 2012年5月13日
ここのところ知人研究者が使用予定の機材をメンテナンスしているのですが,その関係で,頭がメンテナンスモードに入ってしまいました。さういうときには(笑),自分の機材も勢いにまかせてメンテナンスします。ニコンS型一軸粗微動が真鍮ギアにより復活してしまったので,ニコンS型(二軸)にも復活の可能性がでてきました。そこで故障中だったステージをバラして組み上げたら生き返ってしまい,あとは,もう一つのステージ(固着している,ストッパのピンが折損)を修理すれば部品は揃ってしまいます。そこでさっそく修理作業となったのでした。 2012年5月10日
いろいろな作業の合間に顕微鏡の修理を行いましたので備忘録的に記します。修理したのはニコンS型です。この機種は本格的に顕微鏡の勉強をはじめた1992年頃に使っていたもので,思い出深い顕微鏡でもあります。これの一軸粗微動タイプは,偏心ギヤにデルリン樹脂製のものが使われており,これが経年劣化で割れて使用不可能になります。手持ちのS型もそのような運命を辿りましたので,壊れたギアを使ってギアのコピーを作って(エポキシ)使っていた話は2012年2月23日の記事に書きました。しかしながら,手製のギアは少量のバックラッシュがあり,フィーリングも今ひとつで具合がよくなかったのです。それで2軸粗微動のアームを載せ替えて使っていました。ここのところ暖かい日が続いて作業がやりやすく,サンプリングの合間に工作の時間ができたので,ふるいギアを除去して新しい真鍮ギアの載せ替えとなりました。以下は備忘録です。 2012年2月23日
ニコンの黒い名機,S型顕微鏡はアマチュアの間でもよく使われている機種です。よく見え,スタイルもよくて,また塗装の質が極上です。しかしこれの一軸粗微動タイプは経年劣化が出やすく,デルリン樹脂製のギヤが割れて破損してしまうことがあります。最初はごろつきがある程度ですが,完全に破損すれば微動も粗動もきかなくなり,顕微鏡としての用を果たさなくなります。筆者のS型も10年以上前にギヤが破損しましたので,そのときに破損ギアを用いてシリコンで型取りし,その型にエポキシ樹脂を流し込んで硬化させ,ギアのコピーを作って修理しました。面倒な作業の割りには効果が芳しくなく,粗微動は機能するようになったものの,強度的に不安があり,油浸ではバックラッシュも気になります。 Copyright (C) 2018 MWS MicroWorldServices All rights reserved. (無断複製・利用を禁じます) 本ページへの無断リンクは歓迎しています(^_^)/ トップに戻る |