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原子力災害関連情報
2012年2月28日
放射能は数値でわかった気になってはダメだと,いろいろなところで口を酸っぱくしつつ訴えています。東京でも0.07μSv/hなんだから,1.9μSv/hくらいなら住んでも問題ないだろうと思っても,それは数字をみて脳内に浮かぶイメージから導かれた結論で,別の感覚から脳内にイメージを作れば,違う結論に達するかもしれません。
1.9というのは,0.07の27倍です。もし昼間の明るさが27倍になれば,直射日光によって焼かれて死んでしまうでしょう。食事の量が27倍になれば,食べきれないでしょう。騒音が27倍になれば精神が破壊されるでしょう。27倍というのはそれほどインパクトがあります。
筆者は,理科系の話はアレルギー的に拒否している方々にも放射線の話をする機会があるのですが,そういう方々には,放射線というのは,うんと玉が小さいピストル(の玉)だと思って下さい。人を撃ち抜くのではなくて,遺伝子に対するピストルです。遺伝子が撃たれてもすぐに修復して何の問題もありません。これは小さな切り傷がすぐに治るようなものです。しかしたくさん遺伝子が撃たれれば健康を害する可能性があります。極度にたくさん撃たれれば人体の生理機能を維持できなくなり死にます,といような比喩で説明します。
その説明のあとで,放射線を音に変換して聞いてもらいます。たとえばこんな感じです。ピ音が出ますのでご注意下さい。
東京都内の放射線量(0.07μSv/h)
飯舘村の低めの放射線量(1.9μSv/h)
これは,大人の親指第一関節から先の部分だけに降り注ぐ放射線を音に変換したものです。全身に当たる放射線の量は,これの1〜2万倍です。この量の放射線が体を貫通し,細胞の分子レベルの損傷を引き起こしているのです。いくら遺伝子が二重らせんでエラーを修復する機能があるとはいえ,分裂中のDNAが2本まとめて切断されると,修復でエラーが起こる可能性が低いながらも生じて,晩発性障害を生み出すもととなります。そして子どもは細胞分裂が活発なので,二本鎖切断の可能性も増加します。
もちろん,放射線以外にも二本鎖切断は起きています。細胞内に発生するフリーラジカルで分子レベルの損傷は至るところで起きています。ですから放射線照射だけがDNAの二本鎖切断を引き起こすわけではありません。放射線が照射されれば,日常的に起きている二本鎖切断が,さらに上乗せして起こるということです。
ちなみに,自然放射線のレベルでも完全に無害というわけではなく,米国のガン発生の2%くらいはあるかもしれないという見積もりがあります。
こうした知識をもとに,上の「放射線の音」を聞いてみれば,0.07μSv/hと1.9μSv/hの違いが,また違ったイメージになるかもしれません(画像/MWS)。
2012年2月27日
福島第1原発:帰村か移住か、共同体に亀裂 飯舘
東京電力福島第1原発事故で計画的避難区域に指定され、全村避難する福島県飯舘村。自然を生かし、助け合って暮らしてきた共同体に亀裂が入りつつある。村は除染を進めて5年後に希望者全員の帰村を目指すが、一部の住民からは「新村」への集団移住を望む声が上がり、「理想の山村」の再興に向けた道筋は見えないままだ。
「約50戸の除染モデル事業で6億円かかる。無意味だ」「放射線量が下がらないかもしれないのにやるのか」
1月末、福島市に避難する村役場の会議室に、村内20地区の区長らが顔をそろえた。厳しい質問を浴びた菅野典雄村長は「やってみないと分からない」と答えるだけだった。
人口約6000人の飯舘村は独自の村づくりを進めてきた。創造的な田舎暮らしを楽しむ村民の表彰、肉牛のブランド化。03年からは、方言で「丁寧に」を意味する「までい」をキャッチフレーズに自然エネルギーを生かしたスローライフの村を掲げた。
村は今後、約3200億円をかけて住宅は2年、農地は5年、森林は20年で除染する考え。帰村を望む住民も多いが、福島市の借り上げ住宅に避難する農業、菅野哲(ひろし)さん(63)の目には、村の形の維持にこだわり、村民の生活をないがしろにしていると映る。「限界の暮らしを強いられる村民を助けてほしい」
約20年前から村に協力してきた糸長浩司・日本大教授は、2拠点居住構想を提案する。国や東電の費用で30〜50年暮らせる分村を設け、線量が下がったら戻るという内容。糸長教授は「国が避難区域を見直せば、村はまた分断される」と指摘する。だが、菅野村長は「国が移住の面倒をみる保証はない」と、構想に否定的だ。
移住を望む村民らは「新天地を求める会」を結成し、昨年11月から署名活動を始めた。村は直後、村の施設に「(施設内で)政治活動および各種署名活動を一切禁止する」と掲示したが、署名は200人分集まっている。
村は帰村を巡り、住民の意向調査をしていない。移転を望む住民との対立は解消しないままだ。【泉谷由梨子、北村和巳】
毎日新聞 2012年2月26日 13時58分(最終更新 2月26日 16時36分)
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20120226k0000e040134000c.html
飯舘村はチェルノブイリの強制避難地区と同等の汚染を受けているのですが,チェルノブイリでもできなかった『除染』を飯舘村村長はやろうとしています。200年待てば村には帰れます。それを2年で帰り,5年で農地を復活させ,20年で森林を除染するというのですから恐れ入ります。金さえかければ可能性がないとはいいません。しかし村民一人5千万円程度の予算でそんなことができるかどうかは,まだ,誰もわからないでしょう。3200億円という費用は,中型〜大型ダム1基の建設立案から完成までにかかる金額とほとんど同額です。
その程度の金で,住居をすべて除染し,表土をすべてはぎ取り,すべての森林を伐採して土壌ごと除去し,それの捨て場を作り,捨て,拡散しないような処置を施し,はぎ取った代わりの客土を施し,土壌を再生させ,山の土壌流出を防ぎ,植林を施し,村内のすべての地域で環境放射線を年間+1mSv以内に収める。これが3200億円とはとても信じられません。森林をすべてはぎ取るのなら,足尾のようなことになることを覚悟しなければなりません。飯舘村から森林はなくなり,はげ山の村になります。ゼネコンが大量の砂防ダムを作りに流れ込んでくるでしょう。砂防ダムが一基3億円とすれば,たった千基しか作れないのです。
放射性物質は消えないのです。もし除染と称して,放射性セシウムを除去して積み上げたら,その場所は大変高い空間線量を示すことになります。そして,風雨から遮断しなければ,拡散して環境汚染の源となります。山に置けばふもとが,谷に放り込めば下流が,海に投げ入れれば海洋が汚染されます。除染という言葉が一人歩きしていますが,それは恐ろしく困難なことなのです。
この村長は,村民を2年以内に帰村させようとしていることから,除染作業は村民にも負担させようとしている可能性があります。もし,そうだとするならば,「までいの心」どころではありません。住民の意向調査を拒否し,政治活動を禁止してまでも「村の形の維持」にこだわり,放射線作業従事者でも何でもない村民に,過剰な放射線を浴びせながら除染させるというのは,独裁者の雰囲気が漂います。放射線というものがどういうものなのかを実感したことがないのかもしれません。
村を残したいなら,やり方があるでしょう。移住を望む住民だって,村に対する愛着はあるでしょう。すべての村民の意向を聞いた上で,将来設計をしてもよいと思うのですが。アンケートが6000通あったとしても,それは一人が一ヶ月あれば読める分量です。急ぐことはないでしょうに(画像/MWS)。
2012年2月26日
飯舘村の村長がニューヨークで講演したそうです。日刊スポーツの報道によれば,「いつまでかかるか不安だが、災害としっかり向き合い、必ずふるさとを取り戻したい」と話し「次の世代のためにいい国を造ろう、何度でも」と締めくくったらしのですが,不思議な話ですね。なぜ福島県飯舘村の村長がニューヨークで講演しなければならないのでしょうか。ニューヨークは放射能が少ないので,保養になるからでしょうか。
この村長は何が何でも村を守ることに固執して奔走しているように見えます。確かに,一生懸命努力して村民とともに築き上げてきた村がばらばらになっていくの見るのはつらいでしょう。しかし,放射能汚染の現実を見れば,無理だということもあるのです。「何が何でも」という考えはまずいのです。
マスコミは,この村長が国に対して戦いを挑むヒーローのように扱っているように感じられます。でも,実際に現地調査に入った方からは,村長が村民をがんじがらめにして,村を守るために村民に被曝を強要しているかのような,全然違った評価を聞くことができます。筆者には,村長よりも村民の方がはるかに放射能汚染の実態について深く理解しているように見えます。参考までにいくつかリンクをあげておきましょう。
こちら
こちら
こちら
こちら(きょうの画像)
こういったことをこのページで(お節介にも)述べるのは,報道だけをみてこの村長さんが立派だと思い込んでいる人が多数いるように感じられるからです。この村長を立派だと思うか,おかしいと思うかは,どちらでもいいです。しかしニュースをちらっとみて雑誌を少し読んだくらいでわかった気になるのはやめた方がいい,と老婆心を働かせたくなります。なぜなら,その程度の思考しかしないのであれば,それはかつて「原子力は絶対安全」を無条件に信じていた頃の思考方法と変わらないからです(画像/MWS)。
2012年2月23日(2)
青森の雪「被曝が不安」 那覇、避難者の電話で催し中止
沖縄の子供たちに青森の雪を体験させてあげようと、那覇市が23日に企画していた恒例のイベントが中止になった。東日本大震災で被災して沖縄へ避難している人たちから「被曝(ひばく)を恐れて避難したのに、危険性のあるものを持ち込まないで」との訴えが寄せられたという。青森市内の21日の積雪は140センチ。「残念だ」と青森県の担当者は肩を落とす。 (後略) http://www.asahi.com/national/update/0221/SEB201202210017.html
青森の雪に「被曝が心配」…那覇でイベント中止
那覇市は21日、海上自衛隊第5航空群(那覇市)が青森県から持ち帰った雪を使い、市内で23日に予定していた子ども向け雪遊びイベントの中止を決めた。
東日本大震災で市内に避難している人から「放射性物質が含まれ、被曝(ひばく)する可能性がある」との声が相次いだためという。
市などによると、雪は同県十和田市で集められた約630キロ。海自八戸航空基地(青森県)での寒冷地訓練に参加した隊員が16日、段ボール25個に詰めて哨戒機で運んだ。隊員が同機への搬入と搬出の際に放射線量を測定したが、いずれも問題ない値だった。
那覇市は20日、市内の集会場で避難者に安全性を説明したが、「政府や自治体の説明は信用できない」といった意見が出て理解は得られなかった。イベントは今回が18回目の予定だった。
(2012年2月21日23時39分 読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120221-OYT1T01116.htm?from=main3
いろいろなことを考えずにはいられない記事ですね。
まず最初に指摘しなければいけないことは,2月16日現在の青森県内の雪は,心配は皆無だということです。いま青森県は雪深くなっていますが,環境放射能の水準は全国でも有数の低さとなっていて,その実測値を見れば,この雪が安全なことを否定のしようがありません。2ページ目を見れば,地面からの放射線をクリーンな雪が遮蔽しているように見えるデータです。このデータから放射性セシウムの含量を計算することはできませんが,ひじょうに高い汚染を仮定(10ベクレル/kg)を仮定しても,総量は6300ベクレルにしかなりません。雪を300グラム食べてもECRR基準内です。しかもこのイベントは通年やっているわけではないので,何も気にする必要がありません。実際は0.01ベクレル/kg以下の可能性が高く,一年かけてこの雪をすべて飲み込んだとしても被曝はできません。
では,被曝を心配した人たちがおかしいのでしょうか? それはイエスともいえますし,ノーとも言えます。被曝の不安を訴えた人たちは「被災者」なのです。読売も朝日も,どこから避難してきたのかは書いていません。しかしきっと被曝を恐れて避難してきた人たちなのでしょう。放射能が怖くて逃げたのです。目に見えない放射能をこわがるのは間違っていません。その意味では避難してきた人たちの感覚は普通です。けれども,安全確保のために測定した値を受け入れられないというのは,論理的・理性的ではありません。
その判断を「おかしい,間違っている」と指摘することは簡単です。でも,ふるさとを捨てて逃げてきた人たちなのかもしれません。もしそうならば,その苦しみは大変なもので,PTSD状態になっていても不思議ではありません。3.11原発災害を思い起こさせるものに対して,強い拒絶反応を引き起こしたとしても,誰がそれを責められるのでしょうか。避難した被災者への心理的ケアの必要性があるようにも思われます。
「政府や自治体の説明は信用できない」この言葉をもって,狂信的な原発アレルギーと結論するのは簡単です。しかし今まで「原発は絶対に安全」と信じ込まされていたことが覆され,ふるさとを汚されたことには疑いがありません。長い間,だまされ続けてきて,信用を失ったのですから,もう一度信用してもらうには心が落ち着いて情報を受け入れられるように,時間をかけた誠心誠意の取り組みが必要になるでしょう。誰でも,一度裏切られたら,その人を簡単には信用しませんよね?
つまり「科学」の問題ではなく「感情」の問題が大きいのです。そしてこの「感情」の問題を抜きに,避難者の言動を「おかしい」と決めつけてしまえば,正しい理解に導く道筋を断ち切ることになってしまいます。まず「聞く耳」をもってもらうために,感情的なわだかまりを解きほぐし,長い時間をかけて理解してもらうほかないように思います。
*1 それにしても不思議なイベントが行われているのですね。雪が体験できないのが沖縄の良いところなんですから,わざわざ青森の雪を運ばなくてもいいと思いますが。沖縄の温かさを青森の方々に運ぶことはできませんしー。
*2 「何が何でも放射能はダメ!」と思っている人は,被災者以外にも,かなりいらっしゃいます。でも,「ダメ!」と叫ぶだけでは,頭がよくなりませんので,「どうダメなのか」を勉強するのがよいかもしれません。単純に反対するよりもはるかに知識がついて,その知識は単に原子力に反対するだけでなく,事故の場合の自衛や,ほかの環境汚染を未然に防ぐために使えるかもしれません。
*3 被災者の方々も,PTSDの症状から解放されたら,「安全なものを安全」と受け入れられるようになって欲しいものです。安全なものも危険に見えてしまうようでは,正しい判断ができません。原発がイヤならきちんと反対した方が力になります。放射能は何が何でもダメ,と連呼するよりも,30ベクレル/kgのお魚を「安全」と理性的に判断しつつも,様々な根拠をあげて堂々と,「原発はダメだ」と言った方が遙かに説得力があるというものです。
2012年2月21日
なごや環境大学での講演に用いた資料『福島第一原子力発電所事故 放射性物質の海洋への広がりを読む』を情報コーナーの購入者向けテキスト(限定配布)にアップしました。海の放射能汚染,水産物の汚染などについてたくさんの情報を集約しましたので,ぜひご覧下さい。当サービスのお客様はお手持ちのログイン番号とパスワードで,各自でダウンロードしてご利用下さい。今回のテキストは教育用配布物の位置づけで,お客様=受講者の考えにより配布するものです。二次配布は固くお断りします。ログイン番号とパスワードを紛失した方はメールで請求して下さい。その際は,お名前と購入製品を明記して下さるようお願い申し上げます。また資料をお読みになりまして,ご意見,ご感想などがありましたらお寄せ頂ければ嬉しく思います(画像/MWS)。
2012年2月19日
18日は『なごや環境大学』の共育講座の講師として,海洋の放射能汚染について講演をしてきました。講演依頼は6月中旬にいただきましたが,この時点では,海洋汚染の動向について全く先が読めない状態でしたので頭を抱えました。しかしこの分野でまとまった話ができる人材は限られていますし,じゃぁ筆者が逃げたら一体誰が,原子力災害に関する広範な情報を集約して,海洋汚染の状況を概観できるのか?という問題もありましたので,話ができるかどうかは考えずに,講演依頼を引き受けました。
とにかく,災害の全体像を把握するのが容易でなく,専門家でも今回の災害をきちんとトレースできた人は少ないと思います。情報が断片的にばらまかれ,その量が膨大だったからです。筆者も日々,目まぐるしく変わる情報を前に,何が真実なのか判らなくなり振り回された日々もありました。それなりに勉強をしてきた人間でこの有様ですから,今回の災害で原子力というものに関心を持った方々は,何が何だかわからない状態に追い込まれた方々も多いのではないかと思います。
講演資料は,我慢して,一月までは手をつけないようにしました。さきにストーリーを作ってしまうと,どうしてもそれに引きずられるからです。かといって,先延ばしにしていると,講演に十分な情報を提供できなくなってしまいます。そのバランスをどうするべきかに,だいぶ悩みました。結局のところ,年明けからしばらくウオッチングしても,水産生物の放射性セシウム汚染が収まる気配がない,ということがはっきりした時点で,半年間の情報収集と勉強成果をまとめ,海洋の放射能汚染として,全体を概観できるような話にまとめました。スライドは130枚ほどになりました。
参加自由,定員45名の講座に対してどのくらいの受講者が来るのか不安でしたが,話をはじめる頃には満席になり,多くの方々が海洋の放射能汚染に関心を持っていることがわかりました。これは本当に嬉しいことでした。ついつい力が入り,休憩なしの120分講演になってしまいましたが,皆さんとても熱心に聴いて下さいました。休憩を挟んでの質疑応答の時間も,60分間途切れることなく質問が続き,筆者も知恵を絞って答えました。参加者の皆様に少しでも根拠ある安心,根拠あるリスク,そういった判断に役立つ情報提供ができたのなら幸いです(画像/MWS)。
1* きちんとした情報提供を行うと,受講者から次々と質問が出てきてとても有意義なディスカッションとなるのです。皆さん心の中にはいろいろな不安や疑問をお持ちなのです。それに対してやさしく答えてくれそうな講師がいれば,いろんな質問が飛び出して,その情報が参加者全員で共有できるのです。そこでつくづく思うことは,原発災害のような大切な議論は,国民みんなが参加すべきだということです。みんな心配だったんでしょ?みんな怖かったんでしょ? だったら話し合いましょうよ,ということです。
2012年1月27日
こういう記事は注意して読まねばなりません。タイトルだけ見ると読み誤る可能性があります。燃料を取り出す前に一兆円,そこからいくらかかるかは予想もつかないのです。しかも,廃炉は最長40年などと言っていますが,そんな短期間ですべての放射性物質を取りだして,隔離して,廃棄物として管理できるというのは,甘いを通り越して非常識な見通しです。燃料を取り出せもしないのに一兆円かかる,という見出しにしなければなりません。
一兆円という額は,例えば大型多目的ダムが2基できるようなお金です。あるいは,原子力発電所が2基,新規に建設できるような額です。それだけの金額を投じても,核燃料の取り出しもできず,当然,投入金額は一切の収益を生まずに消尽してしまうのです。放射性物質というのは,管理を誤れば,土地を失い資本を食いつぶす,ブラックホールのような存在なのです(画像/中日新聞HPのスクリーンショット)。
記事出典:http://www.chunichi.co.jp/s/article/2012012601000987.html
2012年1月9日
ベランダに溜めておいた落ち葉を集めました。東京にも大量の放射性セシウムが降下しましたので,雨のあたるところに置いていた植木鉢は汚染され,排水溝近くに置いたアロエが放射化していたことはすでに述べました。とうぜん,落葉も放射線を発しているはずなので,すべて枯れて落ちるのを待っていたのです。掃き集めて買い物袋に半分ほどの量となりました。上の画像のように,フカフカの落ち葉に測定器をのせると高い放射線が検出されるという,見たくもないようなこととなっています。バックグラウンド(下の画像)よりもはるかに高く,明らかに,買い物袋の中身が放射線を発しています。この内容物は,
・ヤマノイモの枯葉,ムカゴ
・ツユクサの枯葉
・サルナシの枯葉
・モミジの枯葉
・ブルーベリーの枯葉
・溝にたまった土
となっています。溝の土(泥)は,昨年9月に一度かき集めていてきれいに掃除しました。なので,それ以降に新たに生成した土ですが,量的には多いものではありません。土も放射線を発しているでしょうが,主な放射線は枯葉が発していると考えて間違いないでしょう。
関東各地で,落ち葉焚きが中止され,東京都内の保育施設でも,たき火で焼き芋を作る恒例の行事が中止されたと聞きました。当サービスから近い文京区根津では,小学校の落ち葉で作った堆肥から1500ベクレル/kgの放射性セシウムが検出されたとのニュースも報道されていました。都内でもこの有り様ですから,栃木から福島にかけての高レベル汚染地域では,どんなにひどいことになっているのでしょう。新年を迎えても放射性物質は減るわけではありません。低線量でも,なるべく被曝しないように,国民的な取り組みが必要だと感じます(画像/MWS)。
2012年1月7日(2)
あれこれ検索していたら,安藤はるみ氏のページに行き着きました。共産党系の方々は原子力の問題点についてとてもよく勉強していていつも感心します。上の画像は安藤氏のページの一部ですが,マスコミの最先端で原発推進を担う田原氏の,腹の底が覗けるような記録になっています(画像/安藤はるみ氏のサイトからスクリーンショット)。
(追記 1/7,23:45) 安藤氏のサイトはasyuraから辿り着きました。このサイトには,この日の田原氏の講演料が110万円であることが明らかにされています。原発マネーを頂戴して講演するわけですから,原子力発電に反対するような方々の発言には真面目に答えず(ココがポイント,議論の土台にはのせないのです),ハエを追い払うがごとく,目の前から消し去るのです。こうした即興的な技術に優れた田原氏は,さすがプロだけあって,なかなか巧みな受け答えです。依頼に忠実な仕事ぶりです。
2011年12月20日
福島第一原子力発電所事故について,すこしずつ,現場の声が見られるようになりました。筆者はマスコミ報道のいい加減さは,事故以前からさんざん味わってきましたので,マスコミを通じての情報はどのまま信じるものではないと思っています。このコーナーでも,報道に隠された意図を説明してきたつもりです。上の画像はきょう,こちらのリンクで見つけたものです。東京電力の経営体質を知る上で,かなり貴重な記録になっていると思います。オリンパスも幹部が腐敗していましたが,東電はその比ではありません(画像/Tech-Onのスクリーンショット)。
2011年11月9日
栃木県内のクリタケ(露地栽培もの)から相次いで暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されています。クリタケは晩秋のきのこで,紅葉も始まる頃に山歩きをしていると,登山道の脇にある切り株などからひょっこり顔を出す,素敵なきのこです。秋の味わいとして秀逸で,筆者も幾度か採集して食べたものです。機会があれば栽培してみたいと思い,十数年前に栽培のテキストも買い,菌糸の販売コーナーを横目で見ては,広い庭のある家が羨ましくも思ったものでした。というのも,クリタケは原木に種駒を打ち込んで菌を成長させたら,あとは土に半分埋め込んで栽培するのです。条件のよい庭が必要になるわけです。
露地栽培も同じ手法を用いているところが多いと思います。したがってクリタケ菌は,周囲の土壌から放射性セシウムを吸い込んで蓄積します。苦労して育てた,見かけ上なんの問題もない立派なクリタケが出荷できないとあっては,栽培農家の方々はほんとうに残念なことでしょう。放射性セシウムは,そう簡単には消えませんので,この問題は来年も続きます。また栃木県内だけでなく,放射性セシウムが降り注いだところなら,どこでも,このような残念な事態になる可能性があります。それどころか,来年,再来年になって,暫定基準値の引き下げが行われれば,これまで出荷できていたクリタケも再び出荷停止になる恐れすらあります。ほんとうにひどい苦境で,きのこ栽培農家には(も),かける言葉もありません。どうしたらいいのか,筆者もよくわかりません(画像/MWS)。
2011年11月3日
少し前にNKHのあさイチという番組で,食卓の丸ごとの放射能を測定するという放送がありました。筆者はそもそもテレビを持っていないですし,地上デジタルチューナーも買っていませんので,そのような番組は知らなかったのです。しかし誰だかに,こんな放送があったよ〜。放射能はぜんぜん入っていなくて,福島よりも東京の方がちょっとだけ入っていたんだって〜と聞きました。ふんふん,そんなこともまぁあるかもしれないと,あまり気にもしなかったのですが,きょうネットでこの番組に関する情報を見つけて,ふーむ,これはマズイと思いました。
番組の書き起こしはこちら
NHKからダウンロードしたPDFはこちら
測定データのところを見て欲しいのですが,これは,ツッコミどころ満載どころか,それ以前の状態に見えます。工学屋さんであれば,一目見て,このデータは信用しないでしょう。これでは,そもそも測定できているかどうか,わからないのです。
筆者なら,このデータを一目見て,機械が信じられないことを確信し,まず機器を試運転します。放射性セシウムを豊富に含む試料を用いて典型的なピークが出ることを確認し,次にその試料を希釈していって,測定器の信頼性を自分で確かめます。可能であればほかの機械とクロスチェックします。
番組で用いられたデータにはいろいろ変なところがありますが,まず検出限界の設定がよくわかりませんね。ゲルマニウム半導体を用いた測定器で,鉛を100〜200kg使った遮蔽箱の中で,低バックグラウンド対策を熟知した技術者であれば,サンプル量200g,7200秒の測定時間で1ベクレル/kg程度のものを検出できるでしょう。が,測定値ゼロ,検出限界ゼロ,誤差ゼロというのはあり得ません。こんな数字,生放送で見ていたら噴飯しそうです。ふつうの感覚をもっている自然科学系の人間であれば,ここには数字が入るのです。
わずかに検出されているセシウムの値についても不自然です。今回の原子力災害で放出されたセシウム134,137の比率はおおよそ1で,わずかにセシウム137が多いケースがほとんどです。低バックグラウンド対策をきちんと施していれば,この比率は数ベクレル程度でもそれほど大きくはズレません。が,このNHKの番組では,セシウム134のみが検出されていて,セシウム137がゼロになっていたりします。ちゃんと測れていないことを告白しているようなものです。
さすがに疑問に思った人も多かったようで,NHKには問い合わせが殺到したようです。そしてNHKのホームページには上の画像のような「言い訳」が掲載されるに至りました。
測定者が未熟で,大学の先生がそれをチェックできないシロウトで,番組製作者がそれを見抜けないシロウトで,意味があるとは思えないデータが「科学的事実」として全国ネットの番組で放映され,視聴者が誤った情報に「ぬか喜び」する。そして番組内容に誤りがあったことを指摘され,番組のホームページがこっそりと修正される。
これはほとんど犯罪です。
危機感を煽りたいのではありません。念のため付け加えて言えば,筆者は,福島県内といえども,毎日,数百ベクレルもの放射性セシウムを摂取するような事態にはなっていない可能性が高いと考えています。しかし,子どもの体内から放射性セシウムはすでに検出されているので,一日あたり数ベクレル〜10数ベクレル程度の摂取は起きている可能性が高いと考えます(その場合,体内には数百から千ベクレルほどの放射性セシウムが存在することになると予想されます)。
低レベルの放射性セシウムを測定するには,それなりの経験と設備が必要で,またデータの取扱も注意深く行わねばなりません。放射線は測定器さえあれば誰でも測ることができますが,「正確な値を得る」ことは,誰にでもできることではありません。大学のセンセイも,自分で測定できないのなら,ほかの測定のプロに意見を仰ぐなどして,測定値の意味を知るよう努力すべきです。今回の事件は(も),プロの仕事にしては,あまりにもお粗末と言わざるを得ません(画像/MWS)。
2011年10月31日
29日,30日は原子力災害と環境経済の勉強会に出席してきました。会場となった東京大学(駒場)では,放射性物質の沈着は文京区や江戸川区などよりも少ない値とされていますが,空間線量(1m)は0.07μSv/h〜0.09μSv/h程度で,排水パイプの下は0.7μSv/h以上の数値を示しました。金網の上に積もった堆積物の薄い層が発するガンマ線にこれだけ反応しているのです。南関東や関西からの参加者に見せたところ驚いていました。放射性セシウムが降り注いだと知識では知っていても,測定器がないと,なかなか実感できないのです。
勉強会ではいろいろな報告がありました。福島の除染現場で指導してきた方からは,構造物に染みこんだ放射性セシウムは除去困難なこと,特に屋根に降った放射性セシウムが瓦やスレートに吸着してしまい除去できないことがなどが豊富な事例とともに紹介されました。時間の経過とともに汚染がひどくなっている場所もあるとの事例も報告されました。避難指示を出してくれないことに対して大きな不満を持っている村民や市民の感情についてもレポートがあり,報道で述べられていることと,現場で起きていることの違いを見せつけられるような講演もありました。ある支援グループの方は,関西で福島の子どもたちを受け入れ,短期間から中長期のキャンプ生活でありながら,子どもたちが放射能汚染のない土地で,泥だらけになり川に飛び込んで遊んでいる様子を紹介していただきました。たくさんの方が「見えない敵」と戦っています。本来なら他のことに使えるはずだった貴重な時間が,放射能が降り注いだがために,多くの人から奪われてしまったということに戦慄を感じずにはいられません(画像/MWS)。
2011年10月30日
28日は八王子市西部の放射線を測定してきました(CsIシンチレーションカウンタ)。放射性セシウムの降下物は,当サービス所在地よりも少ないことが判明していますので,低めのガンマ線量を予想していました。実際,空が開けた土地の地表面は0.07〜0.1μSv/h程度のところがほとんどで,原子力災害前よりは高い値ですが,汚染レベルとしては低いものでした。室内のガンマ線量も,0.05〜0.06μSv/h程度で,筆者の作業空間(0.08〜0.09μSv/h)より若干高い程度でした。
ところが,雨樋下の測定結果は予想に反して高い値が出ていました。小さな車庫の屋根の雨樋下で0.2μSv/h程度を記録,一般家屋の雨樋下では0.6〜0.7μSv/h程度はふつうで,大きめの建築物の雨樋下では1.39μSv/hを記録しています。これは豊島区や文京区内の一般家屋の雨樋下で見られる値とほぼ同じです。都区内から西に50km離れた八王子市でも,確実に放射性セシウムの雨が降り,それが地面に固定されているのです。そして,屋根と雨樋により濃縮されれば,希薄に降ったはずの放射能も高いレベルになってしまうのです。
筆者は上の画像に見られるような夕焼けの里のふもとで育ちました。ここの空,空気,川,自然は師匠であり,現在,筆者がこのような活動を続けられるのは,ここの自然が筆者の背骨に筋金を入れてくれたからだと思っています。八王子の自然を味わい尽くしてきたからこそ,環境汚染の防止に心を砕く人生を送ることになったわけです。
それがこの現状です。
皆さんも考えてみて下さい。放射能まみれの世の中で,世間の大人たちが放射能放射能と騒ぐ世の中に育った子どもたちは,どうやって自然を味わいますか。どうやって郷土への愛着を培いますか。彼らに,無心になってヨシノボリを追いかけ,川エビと戯れ,採ってきたきのこを図鑑で調べて食べる経験をさせてあげられますか? (画像/MWS)。
2011年10月26日
小中学生の体内から少量のセシウム 福島・南相馬で検出
福島県南相馬市の市立総合病院は、9月下旬から検査した市内の小中学生の半数から少量の放射性セシウム137が検出されたことを明らかにした。事故直後に呼吸で取り込んだものか、事故後に飲食物を通じて取り続けたものか不明のため、病院の責任者は「定期的に調べて健康管理につなげたい」と話している。
小中学生527人を最新の内部被曝(ひばく)測定装置で調べたところ、199人から体重1キロあたり10ベクレル未満、65人から同10〜20ベクレル未満、3人から同20〜30ベクレル未満、1人から同30〜35ベクレル未満のセシウム137を検出した。
セシウム137が半分になるまでは約30年かかるが、体からは便などとともに排出されるため、大人で100日程度、新陳代謝が高い小学校低学年生で30日程度で半分が出ていく。
http://www.asahi.com/national/update/1024/TKY201110240656.html
放射性セシウムは大気経由で大地を汚染し,生態系の流れに乗ってしまったので,福島県に限らず,多くの人の体内に取り込まれていることは疑いようがありません。もちろん,筆者の体内にも放射性セシウムは入り込んでいることでしょう。あの原子力災害からこれだけの時間が経過して,ようやく放射性セシウムによる体内被曝が明らかになってきました。上の記事の数値が正しければ,一人の体内に1000ベクレル程度の放射性セシウムが存在することになります。体内の放射性カリウムの存在量(6000-8000ベクレル)からみて,それほど多い量ではないので,健康上のリスクは個人の被曝としてはまず問題にはならないだろうと思います。
しかし南相馬の子どもさんたちは,皆,放射性セシウムを取り込まないように努力して生活していたはずです。それでも放射性セシウムが体内から検出されると言うことは,いかにこれらの物質の排除が難しいかを示しています。
もし事故直後に呼吸で取り込み,その後の取り込みがないとするならば,概算で,事故直後は一人の体内に1万〜10万ベクレルの放射性セシウムを含むという値になります。このときは放射性ヨウ素も多量に存在していましたから,数十万ベクレルもの放射性物質が体内に存在したことになります。事故直後の取り込みが少なく,主に毎日の食事などから入り込んだとするならば,毎日の摂取量は概算で数ベクレルから10ベクレル程度でしょう。その程度の摂取量でも,体内からの排出に時間がかかるので,多少は蓄積されてしまうのです。
今回のような調査が数多く行われ,放射性セシウムの体内への蓄積が明らかになれば,食品の放射性セシウム暫定基準値の見直しも行われる可能性があります。いまの子どもたちには,放射能にまみれた日本しか用意されていません。彼らの体内に入る放射性セシウムをできるだけ少なくするよう大人が行動しなければなりません(文責/MWS)。
2011年10月24日
千葉・柏の高線量、文科省「原発の影響の可能性強い」
千葉県柏市の空き地から毎時57.5マイクロシーベルトの高い空間放射線量が測定された問題で、近くの側溝が破損し、そこから漏れ出た雨水が地中に浸透しているとみられることが文部科学省の23日の現地調査で分かった。雨水に含まれた放射性物質が地中に蓄積された可能性があり、同省の担当者は「東京電力福島第一原発事故の影響の可能性が強い」との見方を示した。
柏市は22日、地中30センチの土壌から1キロあたり27万6千ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。文科省によると、側溝はコンクリート製で、破損部分の周辺の土壌から高い線量が測定された。採取された土壌の中のセシウム134と137の比率が福島第一原発事故で汚染された土壌のものと似ているという。
2011年10月23日17時29分
http://www.asahi.com/national/update/1023/TKY201110230180.html
これはなかなか説得力のある説明です。道路表面や屋根に落ちた放射性物質はその多くが側溝などを経由して下水に入ります。当然,側溝や下水管が破損していればそこから染みだした放射性物質により周囲が汚染されます。現在,関東周辺では地表面で測定して0.1μSv/h程度のところが多いですが,生活排水の流路では高濃度の汚染になっていて,それが地下であるために見えないだけです。この記事の説明が正しい場合,このような場所は他にも見つかる可能性があることになります。また面倒くさい現象の一つが明らかになったということでしょうか。
上の記事の説明は放射性物質の濃縮については合理的に見えますが,57.5μSv/hという高線量の説明としては弱いように感じられます。まだほかの原因もあるかもしれませんので,事態の経過を見守りたいと思います(文責/MWS)。
2011年10月23日
柏市の市有地、地下土壌からも27万ベクレル
千葉県柏市根戸の市有地で毎時57・5マイクロ・シーベルトの放射線量を検出した問題で、市は22日、地表から約30センチ下の土壌から、1キロ・グラムあたり最高で27万6000ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。
市は「原発事故との関連は低いとみられるが、非常に高い数値なので国の指導の下で特別な対策を考える」とし、文部科学省と共に原因を解明する方針。
土壌サンプルは地中30センチで2か所、地表面1か所で採取。最高値の内訳はセシウム134が12万4000ベクレル、セシウム137が15万2000ベクレルだった。地中の別の1か所は19万2000ベクレル、地表面は15万5300ベクレルだった。放射性ヨウ素などは検出されなかった。
柏市の清掃工場では6月、焼却灰から7万800ベクレルのセシウムが検出されたが、今回はこれを上回る高濃度。国は、10万ベクレルを超す焼却灰を埋め立てる際、放射線遮蔽(しゃへい)のためのコンクリート壁の厚さを確保し、長期の安全性に配慮するよう都道府県などに通知している。
(2011年10月22日20時41分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111022-OYT1T00707.htm
今回の原子力災害により放出された放射性セシウムの同位体比は,セシウム134とセシウム137で1:1程度とされています。この比率は放出時のもので,セシウム134は半減期2年程度で,セシウム137は29年程度ですから,だんだん比率が変化していきます。ところで,上の記事の放射性セシウムの同位体比はほとんど「1」に近い値です。しかもγ線を放出する主要な核種はセシウムのみのようです。ということは,「原発事故との関連が濃厚」と見ることもできます。なぜこのようなことが起きるのかは推測の域を出ませんが,
・原発由来の放射能を含む物体を誰かが埋めた
・放射能を含む昆虫が飛来して30センチ潜った
・鳥が放射性セシウムを含むフンをした
・特別にセシウムを濃縮する生物が存在した
などが考えられます。もちろんどれも当たっていないかもしれません。今回のマイクロホットスポットは,これまで報道されているものよりも一桁高いレベルのものなので,もし原発由来のものであったなら,由々しき事態です。ぜひとも原因究明をしていただきたいと思います(文責/MWS)。
* アップ後にニュースを見てみると,原発との関係も疑われはじめたようです。当然です。(201110222350)
2011年10月22日
河川・井戸水への影響小=放射能調査結果を公表−文科省
東京電力福島第1原発事故で、文部科学省は20日、福島県内の河川や井戸水に含まれる放射性物質の濃度を調査した結果を公表した。検出濃度は、セシウム137で最大1キロ当たり2ベクレルで、同省は飲食物摂取制限の暫定規制値(同200ベクレル)と比べ非常に少ないとしている。
文科省は、原発20キロ圏内を除く、放射性セシウムの蓄積量が比較的高い場所から、河川水50カ所、井戸水51カ所の採水場所を選定。梅雨を挟んだ6月下旬〜7月初旬と8月初旬の2回、同じ場所から水を採取し、放射性物質の濃度を調べた。
その結果、河川では43カ所からセシウムが検出されたが、最大でセシウム134が1キロ当たり1.9ベクレル、同137は同2ベクレルだった。井戸水は6カ所で検出。セシウム137で同1.1ベクレル、同134で0.85ベクレルが最大だった。(2011/10/20-20:46)
このような調査報告が誰でもアクセスできるようになったのは評価できることです。また関係者の努力にも頭が下がります。さて,原発から20km以上80km以内の地点から採取された河川水,井戸水の汚染状況が上記の記事です。確かに,暫定基準値よりもずっと低く,これを毎日飲んだとしても,半年後の体内への蓄積は最大200〜500ベクレル程度でしょうから,放射能汚染としてはそれほど大きな値ではありません。それは記事が語る通りです。
しかし同じ土地に住む人が,地元の野菜などを食べて,毎日10ベクレル程度の放射性セシウムを取り込むとすると,これらの足し算で効いてきますので,体内への蓄積は1000〜2000ベクレル程度になる可能性があります。人体は放射性カリウムなどを元々もっていて,これが6000ベクレル程度はありますので,それから考えると危険性を議論できる値ではありませんが,体内の放射能レベルに対して有意な値の放射能を付加するのは,良いこととはいえません。
生物濃縮を考えるとさらに問題があります。1キロあたり1ベクレルの放射性セシウムを含む水であれば,すでに本欄の5/15の記事で述べたように,魚類には1000倍から10000倍に濃縮される恐れがあるのです。
確かに,水に含まれる放射性セシウムの値だけ見ればかなり低いのですが,放射能汚染が過ぎ去ったと考えるレベルからはほど遠いというのが筆者の認識です。なお,発表資料はこちらになります(文責/MWS)。
2011年10月14日
都内近県各地で"高放射線量"の場所が見つかったとニュースが騒いでいますが,これは当然のことです。筆者もすでに八月下旬に,文京区内の民家で画像のような値を得ています。道路脇などの地面上では,0.5μSv/h程度の値は,100メートル圏内でもどこでも見つかります。小学校に面した道路でさえ,高い値が見つかります。小さな面積であれば,関東以北にはこのようなホットスポットはどこにでもあると思った方がよいでしょう。
今回の原子力災害以前における東京の放射線量は,0.036μSv/h程度です。現在は,筆者の身近なところ(文京区内)で,空の開いている,放射能の集まらないところの地上の値を測定すると,0.15μSv/h程度がふつうの値です。すると,大雑把にみて,筆者の周囲では0.11μSv/h程度の放射能が新たに降ったことになります。もし屋根に放射能が振り,これが雨樋に集められ,一ヶ所に溜まるようなことがあれば,当然,その場所の放射線量は高くなります。
たとえば,100平方メートルの屋根に降った雨が,4本の雨樋で排水されるとして,それぞれが一平方メートルの土に染みこむとすれば,放射能が100%輸送されるとして,濃縮率は25倍です。筆者の周辺の値で計算すれば,0.11μSv/h×25=2.75μSv/hということになります。不思議でもなんでもありません。
関東の大都市圏はコンクリートや屋根が多く,放射性セシウムが雨に流されやすいといえます。土に直接固定される放射性セシウムは,郊外よりは少なかったと思います。しかし雨に流された放射性物質の行き先が問題です。都区内では雨樋の多くが下水管に接続されています。下水管は放射能の通り道になっています。下水処理場には高濃度の放射性物質が集積することになりますし,放流先の水系にも,洪水時には放射性物質がたれ流しになります。
現在,福島第一原子力発電所からの放射性物質の放出はかなり少なくなっていて,周辺地域に大きな影響を及ぼす量ではありません。しかし汚染を受けた地域では,放射性物質の再移動,拡散,濃縮など複雑な現象が起きており,今後も新たな汚染地域が発見され続けることになります。長期間にわたるモニタリングが必要です(画像/MWS)。
*1 世田谷区の放射線騒ぎは,その発生源の一つが民家に保管されていたラジウムのようです。放射線騒ぎを聞いたとき,地表よりも空間線量が高いとのことだったので,これは原発以外の線源だろうと思いました。雨水を大量に集め,その沈殿物を地上から離れたところに集積するような構造がないと,今回の騒ぎのようなことにはなりにくいからです。原子力災害以降,国内では,放射線源を隠すことは難しくなりました。過去のいい加減な管理により放置されている線源は,これからも見つかることと思います。
2011年10月11日
今回の原子力災害で降り注いだ放射性物質は,その多くが降雨と一緒に落ちるレインフォールアウトの経路をとったようです。このことは各自治体が発表している放射性降下物のデータをみてもわかりますが,身のまわりの放射線を測定してみてもわかります。画像一枚目は,室内の観葉植物(ベンジャミン)の植木鉢が発するガンマ線量ですが,10月9日時点でバックグラウンドと全く区別のつかない0.08μSv/h程度の値を示します。画像二枚目は,ベランダ南側で雨のかからないところに置いてあるキンカンの植木鉢が発するガンマ線量ですが,これもバックグラウンドと区別がつかない値を示します。画像三枚目は,雨があたる北東方向のベランダに置いてあるユズ(ハナユ)の植木鉢が発するガンマ線量で,こちらは有意に高い値になっています。画像四枚目は,同じく雨があたる北東方向のベランダに置いてあるサルナシの植木鉢が発するガンマ線量で,こちらも有意に高い値になっています。外に置いてある植木鉢のうち,雨に曝されたものだけが放射性セシウムに汚染されています。
放射能汚染を受けてしまった植木鉢は,5000ベクレル程度の放射性セシウムを含むであろうと思われます。これの10パーセントが植物体(樹木全体)に移行したとしても,500ベクレル程度なので,仮にその1%の重量のユズの実を丸ごと食べても,危険となるような放射線量にはならないだろうと判断することはできます。実際には植物体にはあまり吸収されず,鉱物に吸着されたままになると予想されますので,まず気にすることはないと思います。しかし,都内でも,植木鉢に雨があたっただけで,この程度の放射性セシウムで汚染されてしまうというのは,じつに不愉快な出来事と言わざるを得ません(画像/MWS)。
2011年10月10日
上の画像は筆者が育てているアロエの根が発するガンマ線を測定しているところです。このアロエは雨水の有効利用の一環として,雨水の排水パイプを水源として育てていたものです。排水パイプの水が植木鉢の皿に入るように置いて数年経過したところ,アロエの根が鉢からはみ出てきて,直接排水パイプの近くに絡んできました。その部分を切り取って測定してみたのです。土は少しだけ付着しています。
測定結果はご覧の通り恐るべきもので,0.488μSv/hもあります。当室(東京都豊島区南大塚)のバックグラウンド値は0.08程度なので,アロエの根が発しているガンマ線は0.408μSv/hということになります。0.007μSv/hが500ベクレルに相当するという,かなり大雑把な換算係数がありますので,これを適用して計算してみると,この泥付きのアロエ根は2万9千ベクレルということになります。
じつに驚異的な値ですが,これが放射能汚染の現実です。残念なことに,放射能の雨が降ったところでは,雨を集めれば,それは放射能を集めることになってしまうのです。雨水を集めたり溜めたりして,散水に利用している人も多いことでしょう。家庭菜園に使っている人もおられるかと思います。心配な人は,土の放射線量を測定したほうがよいと思います(画像/MWS)。
*1 このアロエは時々食べていましたが,今回の原子力災害後は利用していません。よかった…。多少の放射性セシウムの蓄積はあるだろうと甘い見込でいましたが,実際測ってみて卒倒しそうになりました。これが土ならセシウムを吸着しやすいので驚かないのですが,植物本体からガンマ線が出ているのが計測できているので,とんでもないことです。
*2 この記事はアロエなので大したことがないと思っている人もいるかもしれません。しかしこの200グラム程度の根からこれだけの放射線が出ているということを重く見て下さい。この200グラムがイモだったら,ぺろりと食べてしまうでしょう。じっさい,このアロエの横では,雨水栽培でヤマノイモを育てていますが,200グラム以上の収穫になります。収穫して食べたこともあります。もしそれに3万ベクレルの放射性セシウムが入っていたらと思うとぞっとします。これだけの強力な放射能になると,測定器を当てただけで,いまお腹のどこに放射性セシウムがあるかわかるほどのものです。筆者が500ベクレル/kgを越える放射能人間になってしまいます。シャレになりません。この10年間の努力と楽しみは,放射能によってすべてゴミとなりました。
2011年10月9日(2)
乾燥シイタケ、再検査も基準超す 静岡産、セシウム検出
2011年10月9日0時49分
静岡県伊豆市内で収穫、加工された乾燥シイタケから、業者の自主検査で国の基準を超える放射性セシウムが検出された問題で、静岡県は8日、登録機関による再検査を行い、基準値を超える放射性セシウムが検出されたと発表した。230キログラムが同県東部、横浜市などの神奈川県、東京都の小売店などに出荷され、一部が消費されたという。
基準値は1キロ当たり500ベクレルで、検出されたのは599ベクレル。静岡県によると、乾燥シイタケから基準を超える放射性セシウムが検出されたのは全国で初めて。県は伊豆市内で3月11日以降に収穫、加工された乾燥シイタケの出荷自粛、自主回収を関係者に要請した。
http://www.asahi.com/food/news/TKY201110080669.html
きのこが放射性セシウムを濃縮しやすいことは本欄で繰り返し述べてきたことです。当然,上の記事のようなことも起こりうるのです。ただし,注意して欲しいのは,この記事の値は乾燥重量あたりということです。これまでの,きのこの放射性セシウム蓄積の記事では,ほとんどが,質重量あたりなので,直接比較してはいけません。上の記事のシイタケは,もしも,生シイタケなら,一キログラムあたり数十ベクレルで,出荷可能なものです。乾燥すると濃縮するので,高い値に見えるだけです。
もちろん,今回の原子力災害以前でも,チェルノブイリ原子力発電所事故のときに決められた暫定輸入基準値(370Bq/kg)というものがあり,これを越えた乾燥きのこは輸入禁止になったのです。ですから,現在の暫定基準値(500Bq/kg)を超えた干しシイタケを流通させないのは,当然の措置です。
不幸にしてこのシイタケを食べてしまった方は,どのように考えればよいのでしょうか。筆者は,次のように考えればよいと考えます。まず,干しシイタケをそのまま囓って食べるのが大好きな人で,干しシイタケを一週間に一キログラムも食べてしまうような人は(そんな人は見たことありません),あまり良いこととは思えませんので,もうちょっと控えましょう。ふつうに,干しシイタケ数個を水に戻して,きのこと戻し汁を煮物に使ったような人は,暫定基準値よりもはるかに低いシイタケを食べたと解釈し直してください。水に戻すというのは,湿重量の測定状態にもどすということです。シイタケなら,収穫時の状態よりも重くなります。干しシイタケ数個は数十グラムで,そこに含まれる放射性セシウムは,数十ベクレル以下です。体調を損ねるのでは?という意味では,筆者は,まったく気にするレベルではないと思います。
さて,この記事はもう一つ重要なことを暗示しています。伊豆半島で,シイタケの湿重量あたり(つまり生シイタケと同じ)で数十ベクレル/kgのレベルの汚染が確認されたということです。筆者は以前から,福島や北関東以外でも,暫定基準値を超えるようなきのこが生えているだろうということを主張してきました。この記事から推測すれば,伊豆半島のシイタケ汚染レベルは,たとえば茨城県鉾田市や千葉県我孫子市と比較して,数十分の一程度だと考えられます。放射性セシウムの含有量がゼロとまではいきませんが,伊豆エリアまでいけば,現時点での腐生菌の汚染レベルは低いようです。菌根菌のデータが欲しいですね(文責/MWS)。
2011年10月1日(3)
福島第1原発:注水38時間停止で核燃料再溶融…東電試算
余震などで東京電力福島第1原発への注水が38時間止まると、核燃料が再溶融するとの推計結果を、東電が1日、発表した。東電は「現在の注水系はバックアップ機能を備え、単一トラブルの場合は30分程度で注水を再開できる」と説明し、万が一の有事対応のための分析としている。
分析では、注水停止1時間当たりで炉心温度は50度上がると推計。18〜19時間後に炉心温度は約1200度に達し、水素爆発が起こりやすくなるという。その結果、放射性物質が漏れ、原発から退避する目安線量(毎時10ミリシーベルト)を超えるとした。
さらに、38時間後には約2200度となり、再び核燃料が溶融して圧力容器が損傷し、格納容器に落下する恐れが出てくる。
松本純一原子力・立地本部長代理は「現在の核燃料は崩壊熱が低く、格納容器内で冷えて固まるだろう。燃料が地下に向けて溶ける『チャイナシンドローム』はない」と述べた。【中西拓司】
毎日新聞 2011年10月1日 20時29分(最終更新 10月1日 20時37分)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111002k0000m040087000c.html
核燃料の現在の状況を推測して対策に役立てるという意味では,このような発表は意味のあることだと思います。具体的な数字が出てくれば,危機の状況についても,ある程度は想像可能なものになってくるでしょう。この報道発表では,核燃料は,あの事故から半年経過しても,注水が停止すれば50℃/時で昇温する発熱量があるということです。すでに圧力容器は破損しているでしょうから,上記の記事は若干おかしな点がありますが,まあそれはいいでしょう。大切なことは,現在でも,冷却を止めれば,崩壊熱を除去できず水素爆発さえも起こりうる状況だということです。そこに人間が存在できなくなるほどの放射能汚染が,2日間冷却を停止しただけで,これからも起こりうる状況なのです。
そしてさらに,この記事には書いてありませんが,部分的な臨界も全く起きていないと仮定して,現時点での崩壊熱のかなり多くの部分が,放射性セシウムと放射性ストロンチウムだろうということです。これが何を意味するのかというと,あと10年間冷やし続けても,発熱量はせいぜい半分程度にしかならないだろうということです(正確な計算は専門家にお任せします)。つまり,10年間,完璧な冷却ができて,その間に圧力容器や格納容器に一切の腐蝕(劣化)が起こらないという理想的な条件のもとでも,10年後には,4日間冷却を停止しただけで燃料溶融が起こり,水素爆発の可能性があるというわけです。こんなものを,誰が取り出せるのでしょうか(文責/MWS)。
*1 要するに,未だに大事故の途中ということです。筆者が以前に「事故はまだ始まったばかり」と書いたのは,原子炉の撤去などそう簡単にはできないことを予想したからです。管理ができているときには危険性がなくても,管理できなくなったら甚大な危険が生じるのが原子力の特徴です。これは,今回の事故に限ったことではありません。国内のどこの原子炉も,使用済み燃料プールも,再処理工場も,冷却を停止したならば大災害となる危険があるのです。
2011年10月1日(2)
臨界事故12年 茨城・東海村長「金のために魂を売ってはならぬ」
2011.9.30 13:52
茨城県東海村の核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)」の臨界事故から12年となる30日、同村の村上達也村長は職員に向けた臨時朝礼で「原子力に向き合う以上は姿勢をただし、金のために魂を売ってはならぬ。このことを改めて思った」と話し、“脱原発”の姿勢を鮮明にした。
村上村長は東京電力福島第1原発事故への国の対応の不備について「人に冷たく、かつ無能な国では原発を持つべきでない。その資格はないと考えるに至った」と痛烈に批判。「村民と東海村の将来を思うと、曖昧な妥協は許されない。日本初の住民避難を引き起こしたJCO臨界事故を体験したものとしての今の心情だ」と述べた。
ただ、村上村長は「原子力全てをノーと言っているわけではない。21世紀型の科学技術研究に力点を置いた新しい原子力センターを目指す構想は原発事故を経験してますます重要であると考えている」として、原子力に関する学術研究は推進していく姿勢を示した。
臨界事故は平成11年9月30日に発生。作業員2人が死亡し、住民ら約660人が被曝(ひばく)した。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110930/dst11093013550014-n1.htm
臨界事故から12年 再稼働は厳しい姿勢で(茨城県)
作業員2人が死亡した「ジェー・シー・オー(JCO)」臨界被ばく事故から、30日で12年となった。事故があった茨城・東海村の村上達也村長は、「日本原子力発電」東海第二原子力発電所の運転再開には厳しい姿勢で臨む方針を強調した。 村上村長は30日の朝礼で「原発による数十年の経済的繁栄は、一炊の夢と終わったのであり、その結果は全てを失うということを福島原発事故は証明した」と述べ、福島第一原発事故への政府の対応を批判した。その上で、停止中の東海第二原発の運転再開には厳しい姿勢で臨む方針を示した。 村上村長は、原発の運転再開には技術的な安全対策だけではなく、政府が周辺住民の生活を保障する必要があると話している。
[ 9/30 12:53 NEWS24]
http://news24.jp/nnn/news89022413.html
報道というのは,起こった事象という「全体」から,「部分」を切り取って周知するという作業といえます。この「部分」の切り取り方によって,報道記事の「印象」を操作することができます。部分が全体を表すことはありえず,切り取られた「部分」が「全体」と同じニュアンスを正確に表現することはまれです。きょうはそのことを示すために,同じ事象を扱った二つの記事を並べてみました。上の記事の方が長くて,ていねいに説明している印象がありますが,下の記事の方が,「部分」の切り取り方が適切に思えます。読者の皆さんはどのように感じられるでしょうか(文責/MWS)。
2011年9月28日(2)
シイタケからセシウム 規制値超え 我孫子産露地もの
県は二十七日、我孫子市産の露地栽培のシイタケから、暫定規制値(一キログラム当たり五〇〇ベクレル)を超える一九五五ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。出荷前で流通しておらず、県は同市にシイタケの出荷自粛を要請した。
二十六日に五市町でシイタケを二キロずつ採取し、検査機関に検査を依頼。この結果、我孫子市以外の市原、成田、香取三市と東庄町産は規制値を下回った。四市町産はハウス栽培だった。
県内のシイタケ農家は百五十七戸で、うち六十八戸が露地栽培をしている。露地栽培のシイタケは秋から冬にかけて出荷されるため、県は我孫子市を除く六十七戸が所在する十二市で検査に当たるとしている。
(堀場達)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/20110928/CK2011092802000051.html?ref=rank
本欄では,千葉でも埼玉でも東京でも,きのこの放射性セシウム濃度は暫定基準値を超えるだろうとの見通しを述べてきましたが,その通りになっています。これは本当に当たり前のことなのですが,まだ,多くの人には実感されないようで,その証拠にきのこの露地栽培が続けられています。あの事故で大量の放射性セシウムが降り注いだのです。行政が,空間線量率が平常に戻ったと強調したところで,放射性セシウムが降り注いだという事実がなくなったわけではありません。生活空間から洗い流されたということはあるにしても,土壌や生物体内に含まれるものは,そこに残り続けているのです。
上記の記事ではシイタケを採取して測定したとしか書かれていないので,たぶん湿重量での測定でしょう。これで2000ベクレルですから,干しシイタケにすれば一万ベクレルを軽く越えます。シイタケが好きな人は,一食で100ベクレル程度の放射性セシウムを取り込むことになってしまうので,出荷自粛は当然です。露地物は当面,利用できないと考えられますので,栽培法そのものを見直した方がよいと筆者は考えます。
上の記事で注目すべきは,ハウス栽培のものでは「規制値を下回った」と書かれていることです。つまり放射性セシウムが検出されている可能性を否定していません。この「ハウス栽培」がどのような方法なのか書かれていませんが,もし菌床栽培なら,材料のおが粉に放射性セシウムが含まれていた可能性があります。しかし菌床栽培は空調管理のもとで通年で行われることも多いので,たぶん原木栽培なのだと想像します。
原木栽培なら原木に汚染が及んでいることになります。しかしこの秋に収穫するシイタケであれば,どんなに早く発生する品種であっても,種駒の打ち込みは2011年3月以前です。つまり原発事故以前の原木を使っていることになります。汚染のない原木を使ってハウス栽培し,それでも放射性セシウムが検出されるとするならば,ハウス内まで汚染が広がっているか,原木の伏込みなどの作業でハウスから出したときに汚染されたか,散水に利用した水に放射性セシウムが含まれていたということになります(文責/MWS)。
*1 本欄で予想したように,放射性セシウムを含有するマツタケが見つかり,福島県外でもイノシシやシカの高レベルな汚染が明らかになっています。ついには,二本松市でコメから暫定基準値を超える放射性セシウムが見つかるほどに,汚染が広がっています。筆者は,コメは可食部分にそれほど放射性セシウムを濃縮しないので500ベクレル/kgを越える値はそうそう出てこないだろうと思っていましたが,予想を越える汚染があったようです。
*2 食品の放射能汚染のニュースをみて考えなければならないことは,「そこで収穫された農産物を利用できないということは,本来そこには住めない」ということです。人間は文明生活を謳歌しているようにも見えますが,土にへばりついて土から生み出された食物を利用して生きている,生態系の一員です。コメを育てても食べない方がよいものができてしまうような場所には,本来住むべきではないのです。しかし現実には,ふるさとを捨てられない方々がたくさんいます。放射能を浴びることを受け入れて,地元で暮らすことを選択しておられる方々もいます。そこで農業を営む人が,丹精込めて農作物を育て上げ,そしてそれが利用できないというのは,あまりにも悲惨なことと言わねばなりません。
2011年9月14日(2)
茨城・高萩のキノコ、基準超セシウム 県が出荷自粛要請
茨城県は13日、同県高萩市の山林で採取した野生キノコのチチタケから国の基準値(1キロ当たり500ベクレル)を超える8千ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。
これを受け、県は、同市で採れたチチタケやマツタケなど土から発生する菌根性キノコ類は出荷や摂取を自粛するよう、同市と地元のJA(農協)に要請した。
菌根性キノコ類に関しては、福島県棚倉町で採れたチチタケから2万8千ベクレルの放射性セシウムが検出され、今月6日に政府が同町で採れた菌根性キノコ類の出荷停止や摂取制限を指示している。
http://www.asahi.com/national/update/0913/TKY201109130561.html
昨日繰り返して指摘したところですが,さっそく福島県以外のきのこからも放射性セシウムが高濃度で検出されました。これは当たり前のことです。南関東から東北まで,みんな放射能に汚染されているのです。空間線量が平常になったと自治体がいくら報告したところで,汚染があった事実は否定できませんし,汚染はそこに残っているのです。きのこのように,地中からセシウムを吸い上げる生物は,放射性セシウムも一緒に濃縮してしまいますので,どうしても,高濃度の放射性セシウムを含むことになってしまいます。
チチタケを1キログラム食べることは,まずあり得ませんが,このきのこは条件が良いと広葉樹林に点々と発生してけっこうな収穫があります。100グラム程度をナスと油で炒めて,きのこそばを作るなど,ふつうの利用法です(おいっしい〜のです)。そのたった一食で,千ベクレル近い放射性セシウムを摂取することになるという,厄介なことになっているのです。些細なことと思ってはいけません。むかしの日本人は,山野に生えるきのこを利用することは,スーパーで食材を買うのと同じくらい,当たり前のことだったのですから。
ともかく,菌根性のチチタケ類でこれだけの濃縮が起こることが明らかになったのですから,関東から東北にかけて,早急に調査を行い,しかるべき対策をしなければなりません。何も知らない(気にしない)爺様が山に入り,数万ベクレルの放射能きのこ汁を作り,それを孫に食べさせるというようなことがあってはなりません(文責/MWS)。
*1 筆者もきのこ狩りをすることがあるので,いろいろな方々の振る舞いをみてきましたが,きのこ狩りの得意な年寄りには,採ることがメインで,採った物は人に食べさせるタイプの人がかなりの数,存在します。このタイプの中で,分類ができていない人が少なからずいます。こういう人からもらったきのこを食べて中毒しないのは,単なる偶然です。このタイプの人は放射能など気にしないだろうし,何でもかんでも「大丈夫大丈夫」といって振る舞います。絶対食べてはいけません。
*2 毒きのこはどこにでもあります。1本食べればまず助からないだろうというようなきのこも,そこらの雑木林でふつうにみられます。こういったきのこの危険性は,今回の原子力災害どころではありません。野生のきのこを利用する場合は,数冊の図鑑を片手に分類を試み,可能であれば顕微鏡観察を行ってからにすべきです。
*3 筆者も遠い昔,ハタケシメジを見抜くことができなくて捨てたことがあります。凄い量でした。あとから思いついて残りを採取しにいって,顕微鏡観察したところハタケシメジと同定してOKでした(翌年から食べました)。いま考えるともったいないの極みでしたが,判断としては安全側に振っていたわけで,間違っていません。
*4 茨城県でこのレベルの汚染が確認されたということは,同県のイノシシも高濃度に汚染されることを意味します。数万ベクレル/kgレベルに行くでしょう。放射能汚染は,生態系のエネルギーの流れが汚染されるということなので,単純にきのこだけを考えてはいけません。
2011年9月13日(2)
県全域の出荷停止検討=福島キノコのセシウム検出で−厚労省
厚生労働省は12日、福島県内で採れた野生キノコから食品衛生法の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を上回る放射性セシウムが検出されたことを受けて、県内全域の野生キノコを出荷停止と摂取制限の対象にする方向で検討を始めた。同県、農林水産省と協議した上で週内にも結論を出す。
出荷停止や摂取制限となった場合、福島県内では秋のレジャーであるキノコ狩りの自粛を求めることになる。県側は県内一律の制限に難色を示し、市町村単位にするよう求めている。(2011/09/12-22:49)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011091200877
本欄では何度も指摘してきましたが,当然,この記事のような方向に行かざるを得ないのです。東京都内でも,道路脇の砂から0.5μSv/hの放射線がふつうに検出されるのです。大雑把な換算では,10000〜30000ベクレル/kgに相当するでしょうか。福島県内では,少なくとも都内の10倍から100倍の汚染を受けているので,そこに生えるきのこを利用することは,放射性セシウムを体内に取り込むことを意味します。まずは全県レベルで出荷停止,摂取制限するのが安全側に振った対応だと思います。
そして大事なことは,福島県以外のきのこについても十分調査を行うことです。福島県ほどの汚染を受けていなくても,放射性セシウムが集積すれば,そこは福島県と同じレベルの汚染域になってしまいます。ホットスポットについても同様で,局部的に放射性セシウムが多く降り注いでいる地域があります。こうした場所で発生するきのこは,高濃度の放射性セシウムを含んでいる可能性が高いので,利用を見送った方がよいと筆者は考えます。
汚染がそれほどでもない地方では,全県レベルでの出荷停止は受け入れられないかもしれません。しかしまずは,調査が進んで汚染の全容が見えてくることが大事です。福島県内に限らず,きのこ採取を行う人は,きのこを採取場所の放射線量を簡易計測して記録し,きのこは保存して,放射性セシウムの測定サンプルとして協力するというのも一つの方法かと思います。今回問題になっている核種は,現時点ではセシウムだけですので,たとえば塩蔵/冷凍保存して,放射線測定を行い,基準値以内であれば利用可,といった対応も考えれらます(文責/MWS)。
2011年9月9日
筆者が放射能汚染の問題を扱い続けるのは,それなりのリスクがあると考えているからです。すでに何回か書きましたが,「自分が病気になるかもしれない」という意味での個人のリスクは,現時点ではかなり低いと想像しています。しかし,集団の中では犠牲者が出るかもしれない,という意味でのリスクなら,確実にリスクがあるものと考えています。放射線によるDNAの破壊は,事故以前と比較すれば,数倍から数十倍以上になっていることに疑いはなく,体が修復してくれるからこそリスクは低くなっているのです。これまで以上にDNAの破壊が起きているという事実は否定のしようがありません。運の悪い人は,放射線を過剰に浴びたことにより病気になる可能性が否定できないのです。
個人のリスクと集団のリスク
ですから,集団全体の被曝量を少なくすることが大事です。そのためには,個人が努力する必要があるのです。放射線の話題はもう飽き飽きしている人も多いと思います。福島市で1μSv/hと聞いても,そんなもんかと思う方もおられるかもしれません。でも,慣れてはいけないのです(文責/MWS)。
2011年9月7日(3)
クリからセシウム=福島県
福島県は6日、同県南相馬市の農家が収穫したクリから、国の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を超える2040ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。
同県のクリの検査は初めて。この農家のクリは出荷されておらず、県は出荷自粛を要請する。県は、福島市など16市町村のクリの検査を8日までに行う方針。(2011/09/06-21:36)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011090600872
本ページでは5月14日(2)の記事において,樹木から検出される放射性セシウムについて,菌根菌との関係を指摘しています。この記事に対して,読者から,秋には「栗」でも出るだろうとの指摘がありました。この指摘をもとにして,6月3日(2)の記事において,筆者は,
しかし人間が利用する植物に限ってみれば,菌根形成するものもあればしないものもあり,放射性セシウムの濃縮に種特異性が見られるという結果になるのではないかと想像します。メールをくれた方によれば,秋には「栗」から放射性セシウムが検出されるかもしれませんね,とのことでした。栗はあまり密集して植えませんし,当然菌根も形成しているでしょうから,広い範囲から放射性セシウムを濃縮する可能性がありますね。さて,どうなるでしょうか
と記しています。結果は上の記事の通りです。早い段階での読者の指摘に敬服する次第です。これまでも,ドングリの仲間は放射性セシウムを濃縮する傾向があることが知られていて,これら菌根と深い関係のある樹種は,菌類と栄養交換しながら,放射性セシウムを溜め込んでいったものと思われます。栄養物の通り道は樹皮の部分ですから,この部分は当然,放射性セシウムを含んでいるとみて良いでしょう。これがどういうことを意味するかというと,クヌギ,コナラ,クリといったきのこ栽培の原木となる樹種が,ことごとく放射性セシウムに汚染されているだろうということです。そしてドングリはイノシシの好物です。もちろん,ツキノワグマやリスといった動物も利用しています。
いったん生態系内の物質循環に乗ってしまったものは,その循環系のなかで回転し続けます。系外への流出により失われる部分もありますが,放射性セシウムは動きにくく,その場に留まる傾向がひじょうに強いことがチェルノブイリの調査でも明らかになっています。生態系内の物質循環を止めることはできません。その物質循環経路に存在する生物が,次々と放射能に染まっていくことになります。人間は放射能を測定することにより,放射性セシウム汚染を防ぐことができますが,人間も生態系内の循環系の一部を構成している以上,あらゆる経路に目を光らせないと,体内に放射性セシウムを取り込むことになってしまいます(文責/MWS)。
*1 栗好きの人は1シーズンに10kg〜20kgも消費します(筆者の観察結果)。2000ベクレル/kgの栗なら,体外への排出を考慮に入れても1万ベクレルの放射性セシウムを体内に取り込むことになってしまいます。出荷自粛は当然です。
*2 それにしても,つやつやと膨らんだ旨そうな栗を,すべて廃棄しなければならない気持ちはどんなに辛いことでしょう。農水産物でも畜産でもそうですが,豊穣な収穫はそれだけで従事者に生きる喜びを与えるものです。原子力災害は,それを奪ってしまうのです。
2011年9月7日(2)
当室は東京都豊島区南大塚1丁目が所在地ですが,100メートルも歩かずに文京区なので,行動範囲は文京区内が多くなります。上の画像は文京区内の民家の雨樋下から採取した土です。雨樋下は放射性物質が洗われて流れ落ちてきますので高線量になります。土を採取させていただいた民家でも,雨樋下は1μSv/h〜2.3μSv/hを示していました。このくらいの値になりますと,とうてい安全とは言いがたく,また周辺の空間線量も高めになりますので,居住空間に近い場合は除染するという考え方もあります。
雨上がりでまだ土が濡れているときに,表層5〜10cmほどを削り取れば,最低でも放射性セシウムの7割ほどを取り除くことができるかと思います。除去した土は,掘った穴にビニールシートを敷き,そこに入れて,上からもビニールシートで包み,更に上から覆土しておけばいいでしょう。雨上がりに作業し,ビニールシートに包むのは,拡散させないためです。
当室付近から文京区にかけての空間線量は,道路沿いに測定しながら歩いていくと,0.07μSv/hから0.12μSv/h程度の値を指します。0.1μSv/hのところが多い印象です。道路の隅の地上を測定すると,0.2μSv/hから0.5μSv/hの値が普通です。放射性セシウムを含んだ土砂が溜まっているためだと考えられます。東京都の公式発表値は,地上18メートルの建物からさらに一メートル上方に置いた測定器の値で,カラスやハトなどのための値ですので,人間の生活空間である路上高さ1mの値と解釈してはいけません(文責/MWS)。
*1 道路の端は,「犬のさんぽ」のコースなのです。犬は高線量とも知らずに,道路の端を歩いて散歩します。都内でもこのレベルの汚染なのですから,北関東や福島県内ではもっと高いことは確実です。早期の除染を願いたいところです。
2011年9月7日(1)
きのう雨水利用について心配したのには理由があります。筆者はヒートアイランド化を防ぐためにも,健全な水循環を促進するためにも,雨水の積極利用を推奨しています。当室のベランダでも,雨水は,植物たちへの水源として活用しています。特にアロエは水耕栽培状態で,排水パイプの水で育ち,お化けのように伸びてきています。数年に一度くらい収穫して,太いものは食用にしていたのですが,当然ことしは×です。降雨排水は放射性セシウムをたくさん含んでいるからです。
そこで試しに,今年の収穫についてガンマ線を簡易計測してみました。上の画像がバックグラウンド,中段がアロエを盛りつけたところ,下段が測定器を載せてその上にアロエの幹をかぶせたところです。画像でお判りと思いますが,何度測っても数値が上昇します。これはバックグラウンドの変動範囲を超えていて,明らかに有意です。このアロエは,ガンマ線を放射する何かを含んでいる可能性があります。
ふつうは,このような含水率の高い検体を置くと,水の遮蔽効果により測定値はバックグラウンドよりも低くなるか,バックグラウンドと同程度の値になります。測定値が上昇するものはお目にかかれません。この測定で,アロエが高濃度の放射性セシウムを含むとは結論できませんが,その可能性は低くないと筆者は考えています。機会があればさらに調べてみたいと思っています(文責/MWS)。
2011年9月6日(2)
当室はマンションの一室で角部屋に位置しています。ベランダは東側と南側にあって,南側は頻繁に出入りするので,原子力発電所の事故後しばらくして放射性物質が降ってこなくなった頃に除染しています(水をまいてブラシをかけて水で流しました)。東側は福島方面からの風が当たる部分なのですが,植木鉢が並べてあることもあって,除染はしていませんでした。そこで先日,東側のベランダ掃除を行い,溝などに溜まった泥を取り除きました。とうぜん高い放射能を帯びている危険物ですので,いつもなら植木鉢に戻すところですが,今回はやめました。
その泥のガンマ線量を測定してみたのがきょうの画像です。上はバックグラウンドで,筆者の作業部屋です。ベランダの溝にたまった泥は,0.6〜0.7μSv/hもあります。年間の値に換算すれば5mSvを越えますので,よろしくない数値です。筆者はベランダの溝の上に寝ているわけではないので,この線量を浴びているわけではありませんが,こういった高線量の場所があると影響は半径1メートルくらいに及びますので,狭い狭い当室ではけっこう厄介な問題です。
このような測定例からおわかりのように,東京都内でも,放射能汚染が続いています。いま現実に身近に起きていることなのです。都区内でしたら,雨水の排水パイプや雨樋などの近くは周囲よりも放射性物質が集まっていると思って間違いありません。雨水は利用価値が高く,溜め水にしたり,植物の散水用などに利用している方も多いと思います。そのような利用法は合理的で環境負荷も小さくでき,素晴らしいことなのですが,今回の原子力災害により雨水の利用が庭木や家庭菜園,プランターなどの放射能汚染に結びつかないか心配です(文責/MWS)。
2011年9月6日
野生キノコ出荷停止へ 農水省・福島県、放射線検査強化
福島県で採れた野生キノコから国の基準を超える放射性セシウムが相次ぎ検出されたことを受け、農林水産省などは、それらの地域のマツタケなどについて、原子力災害対策特別措置法に基づく出荷停止と摂取制限の対象とする方針を固めた。措置が決まれば入山が止められ、まもなくシーズンを迎えるキノコ狩りができなくなる。
基準の1キロあたり500ベクレルを超えたのはチチタケ。古殿町で3200ベクレル、棚倉町で2万8千ベクレルが検出された。福島県は両町に出荷や摂取の自粛を要請し、市場に流通はしていない。しかし、汚染濃度が高いため、農水省と県は両町周辺での検査を強化するとともに、この地域での出荷と摂取を法律で禁じる必要があると判断した。生きた木と共生して養分を吸い上げる「菌根菌(きんこんきん)」類全体を対象とする方針で、ほかにホンシメジなどが含まれる。
両町は福島第一原発から50キロ以上離れている。県が棚倉町の採取場所の空間放射線量を調べたところ毎時0.38マイクロシーベルトで、町中心部と変わらなかった。このため県などは、チチタケが腐葉土などからセシウムを吸ったとみている。
2011年9月5日8時0分
http://www.asahi.com/national/update/0904/TKY201109040352.html
この記事では菌根菌を対象としていますが,それ以外の菌類もセシウムを濃縮しますので,菌類全体を出荷停止と摂取制限したほうが現実的だと思います。だいたい,一般の人には,菌根菌かどうかなど,全く区別がつかないことでしょう。菌類が放射性セシウムを高濃度に蓄積することは過去からよく知られており,また,チェルノブイリ原子力発電所事故でも,事故後ひじょうに長い期間にわたり汚染が続くことがわかっています。日本だけが特別ということはありませんので,きのこは一切禁止にしてしまったほうがいいでしょう。
注意すべきは,農水省が福島県を対象としていることです。筆者の予想では,1キログラムあたり500ベクレルを越えるきのこは,栃木県や茨城県などでも見つかることと思います。きのこの種によっては,埼玉でも千葉でも東京でも見つかると考えています。放射性セシウムを摂取しないように努めている人は,福島県に限らず,放射性セシウムが降った地域では,しばらく様子を見るのが賢明です。
心配なのは栽培きのこの動向です。栽培きのこは広葉樹などを原料とした,原木/おが粉などを用いて栽培されますが,原木が放射性セシウムで汚染されていれば,それで栽培したきのこにも放射性セシウムが移ります。福島県はきのこ用原木の主要生産地なので,全国各県で福島産の原木をもちいたきのこ栽培が行われていると考えられます。原木に関しても,これから出荷停止などの措置が必要になるかもしれません。
本欄ではすでに紹介しましたが,菌根菌は樹木の根と結びついていて栄養物のやり取りをしています。菌根菌が土壌から吸い上げたセシウムは樹木にも移行するものと考えられます。菌根菌の出荷停止が政府の方針であるならば,菌根菌と結びついた樹木についても出荷停止を検討する必要があるかと思います(文責/MWS)。
*1 室内栽培のきのこについては,原木がある程度放射性セシウムを含んでいたとしても,基準値を超えるほどの汚染にはならないとの考え方もあるかと思います。しかし基準値以下でも,国内に幅広く放射性セシウム含有食品を流通させることになってしまうので,そのような事態が想定される以上,元を絶つのがよいと考えます。筆者など,毎日きのこを食べるほどのきのこファンで,市販品はもとより,そこいらへんに生えているものも顕微鏡でみたあとに食べてしまうのですけど…。原子力政策を推進し賛同した安全基準に手抜きした人たちのせいで,ながねんの人生の楽しみも奪われてしまいました。。
2011年9月4日(2)
上の画像はこちらから採取しました。すっかり有名になった山下先生が写っています。下の方をよくみてください,何て書いてあるでしょうか。
訂正:質疑応答の「100マイクロシーベルト/hを超さなければ健康に影響を及ぼさない」旨の発言は、「10マイクロシーベルト/hを超さなければ」の誤りであり、訂正し、お詫びを申し上げます。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。
本欄でも紹介したように,山下先生は次のように言っていたのです。
科学的に言うと、環境の汚染の濃度、マイクロシーベルトが、100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう、 5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。昨日もいわき市で答えられました。「いま、いわき市で外で遊んでいいですか」「どんどん遊んでいい」と答えました。福島も同じです。心配することはありません。
これが,福島県のホームページで,こっそりと修正されているのです。
専門家が根拠のないデマを流したり,専門外のことを平気で決めつけたりするなどの幼稚な振る舞いを行うことについては,本欄でも厳しく指摘してきたところですが,山下先生のこの行為についても,表に出し,真意を追究し,専門家としての資質を疑わなければなりません。
山下先生は,3月21日時点で,いわき市でも,福島市でも,どんどん遊んでいいと言ったわけです。この時点での福島市の空間線量は7μSv/hで,これは地表面の値ではありません。また,ホットスポットの値でもありません。これまでの測定でわかってきましたが,平均的な空間線量と比較すると,数十倍以上のホットスポットが地表面から見つかることは珍しくありません。この時点の福島市なら,100〜300μSv/hレベルのホットスポットがたくさん存在していただろうと思います。そして現在とは比較にならないほどの,内部被曝の危険性があったのです。
専門家であれば,そういったホットスポットの存在を指摘し,まだ汚染の実態はわからないから放射線の情報に留意するように,と述べるのが筋でしょう。しかし山下先生は,まだ原発が煙を噴き上げていて,東京には放射能の雨が降りはじめた3月21日の段階で,どんどん遊んでいいと言ったわけです。
そして一般市民に放射線を多量に浴びることを推奨し,浴びせたあとに,発言が修正されているのです。これが放射線健康リスク管理アドバイザーの専門家としての仕事です。こういう人が専門家として招かれる世の中自体に問題がありますが,それはともかく,山下先生の今後の仕事も,皆で追跡してゆかねばなりません(画像/MWS)。
2011年9月4日
チチタケから規制値大幅超セシウム…福島・棚倉
福島県は3日、同県棚倉町の山林で採取した野生のチチタケから、国の暫定規制値(1キロ・グラム当たり500ベクレル)を大幅に上回る2万8000ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。
チチタケはシーズン初めのため、市場に流通しているものはないが、県は同日、同町や販売業者に、チチタケを含む野生キノコ(菌根菌類)の摂取と出荷を自粛するよう通知した。
県によると、このチチタケは1日に採取された。県は今後、付近の野生キノコの放射性物質検査を行うとともに、摂取自粛を呼びかける看板の設置などを行う。
同県では、これまで野生のキノコで暫定規制値を超えたのは、同県古殿町のチチタケの3200ベクレルが最高値で、県は「ここだけ突然高い値が出たので困惑している。調査を続けて原因を調べたい」としている。
(2011年9月3日20時51分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110903-OYT1T00616.htm
筆者は4月3日付けの記事で,「さらに濃縮率が高くなる恐れのある天然きのこなどは,いったいどのような値になるのかと思うと,本当に恐ろしく思います。乾燥重量当たりでは,10万〜100万ベクレル/kgになる可能性もあります」と予想しましたが,上の記事はこの予想が正しかったことを裏付けています。記事には記述がありませんが,乾燥重量との断り書きがないので,湿重量での値でしょう。すると,このチチタケは,乾燥重量一キログラムあたりでは,20万〜50万ベクレルもの値になります。このくらいになると,ガイガーカウンターを近づけると激しく鳴り響きます。上の記事では,「ここだけ突然高い値が出たので困惑している」と書いていますが,筆者はこれが不自然な値とは思いません。放射性セシウムの降灰量や,地形的な効果,土壌の質などによって,濃縮率は様々に変わるでしょう。
本欄では,放射性セシウムの濃縮について,菌類の関与を指摘してきましたが,それは,上の記事のようなことが起こることが確実に予想されたからです。実際,ウメ,モモ,ナシ,チャなどの菌根を形成しやすい樹種からは低レベルながら放射性セシウムの検出が続いています。政府の野菜出荷制限の規制解除とは裏腹に,地面の下では,放射性セシウムの再吸収と移動が起きており,今後長い間,きのこや樹木,その果実などから放射性セシウムが検出され続けることになります。野菜や米の測定値が低かったからといって,放射性セシウムの汚染がなくなったわけではありません。
4月の記事でも書きましたが,福島県はきのこの名産地でもあります。県民の多くが秋になれば山に入り,きのこ狩りを楽しみます。冷凍庫には何キロもの天然きのこが詰め込まれ,山奥の宿などでは塩蔵品などを客に振る舞うところもあります。これは何百年と続いてきた一つの食文化であり,単なる趣味や嗜好品を楽しんでいるのとは根本的に異なります。こうした食文化が事実上,奪われたことになります。セシウムは100年くらいではなくなりません。
ところで,人間は放射能汚染を測定して避けることができます。しかし自然の中で暮らす野生生物はそうはいきません。このような高度に放射性物質を蓄積した食物でも平気で食べてしまいます。きのこを食べる代表的な動物は昆虫とイノシシです。放射性のクワガタが出てくるだろうという予想はすでに書きました。放射性のイノシシはすでに宮城県で見つかっています。イノシシはチチタケだけでなく地上に生えるきのこをたくさん食べます。またミミズも好物で,コケの下などを掘り起こしてミミズを食べています。ミミズは土壌の浅いところにいて,土壌を体内に取り込みながら中に含まれる微生物や菌類を食べています。つまりミミズも放射化していて,きのこも放射化していて,それを食べて暮らすイノシシも放射性物質が蓄積していくということです。このあきから冬にかけて,湿重量一キログラムあたり,1万ベクレルから10万ベクレルにも達するイノシシが,福島県を中心に見つかることでしょう。
これが海も山も川も湖も汚染し尽くす原子力災害の恐ろしさなのです(文責/MWS)。
*1 福島県が天然きのこにまで目を光らせるようになったのは評価できます。県民の数%がきのこ狩りを楽しむとしても,数万人のレベルになります。この方々のきのこの消費量は,湿重量で,1シーズン数キログラム以上になります。もし,2万ベクレル/kgのきのこであれば,最低でも数万ベクレルの放射性セシウムを,短期間に摂取することになります。これは,政府の定めた暫定基準値からみても容認できないことは明らかで,摂取量が少ないからといって無視できるものでもありません。残念ながら,今後一世紀以上にわたって,福島県の天然きのこを楽しむことはできないでしょう。
*2 筆者の予想では,関東地方のきのこでも,暫定基準値を超える放射性セシウムを含むきのこは次々と見つかることと思います。福島県だけが危ないのではなく,地上数センチのγ線が,事故以前のバックグラウンド値よりも高くなってしまったところでは,どこでも汚染の可能性があると考えます。
2011年6月29日
原発収益は賠償額下回る可能性 立命大教授、単価も割高
2011年6月28日 09時44分
東京電力がこれまでに原発部門で得た事業報酬(収益)は4兆円弱で、原発事故の賠償額はこれと同レベルか、賠償額に足りない可能性があるとの試算結果を、立命館大の大島堅一教授が28日までにまとめた。
原発の電気は水力や火力発電より割高だとの試算結果も得られ、原発の根拠とされていた経済性への疑問が強まった形だ。
東電の有価証券報告書を基に、原子力部門全体の報酬を試算すると、1970〜2007年度の累計が3兆9953億円と推計。賠償額は最低でも数兆円とみられ、8兆〜11兆円との試算もあり、原発事業の収益総額を上回る可能性もある。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011062801000127.html?ref=rank
原子力発電が果たして推進に値する価値があるのかという議論は,1970年代の後半から始まりました。それまでは当然エネルギーを生み出しているだろうという,「見込み」で原子力発電所が建設されてきたと思われるフシがあります。1980年代に入ると投入エネルギーと産出エネルギーの比が詳しく議論されるようになりました。学者によっては,原子力発電所の建設や運転に投入されるエネルギーの方が,発電で得られるエネルギーよりも大きい場合があるのではないか,という試算もありました。当然,電力産業側は,発電で得られるエネルギーの方がはるかに大きく,エネルギー節約的だから,原子力を推進すべきだという論調でした。
産業側は,原子力に不利な試算結果に対して,「現実的でない仮定を採用しているのでそのような結果が出た」という立場を崩さず,そのうちに,原子力が有利というデータをどんどんだしていきました。
こういった過去がありますので,どれほど優れた学者が誠実に計算して得た結論でも,その結果が原子力に不利であれば,そのデータは信用されないもの,というレッテルを貼られる恐れがあるのです。
そこに着目した大島教授は,東京電力の有価証券報告書そのものを使って,経済合理性について検討してきました。これは東京電力の公式なデータですから,産業界も文句はいえません。その結果,大島教授の計算では(試算ではありません),原子力が割高な電力であることが示されました。これは原発事故以前から知られていたことです。
そこに今回の事故が発生し,具体的な被害金額が明らかになってきました。その金額を,過去の有価証券報告書と照合した結果,過去37年間の原子力発電が生み出してきた利益も吹き飛ばすことが明らかになりました。原子力発電は,東京電力の企業活動を一撃で破壊する,エネルギーをたっぷりと溜め込んだ,パワーステーションだったわけです(文責/MWS)。
*1 そんなことは,原子力発電の危険性を訴えてきた人々には,当たり前のことでした。推進側でさえ,ありえない事故(仮想事故)により放射性物質が放出されたときの被害見積を行っています。それがどれほどの規模になるのか,どれほど危険なのかは,知らなかったはずはないのです。しかし事故が起きないことにして,危険性,被害の大きさを考えることを止め,原子力発電所を運転し続けたのです。
だいたい,ありえない事故ならば,被害見積を行う必要はありません。ありえないんですから。にもかかわらず,推進側の彼らがありえない事故に対してシミュレーションを行ったのは,「現実に起こる」ことを予測していたからにほかなりません。
2011年6月26日(2)
福島第1原発:セシウム10万分の1以下に 淡水化も開始
東京電力は24日、福島第1原発にたまっている高濃度の放射性物質を含んだ汚染水の浄化システムの試運転で、放射性のセシウム134と同137の濃度がともに10万分の1以下になり、1立方センチ当たり100ベクレル以下にするとの目標を達成したと発表した。
また、濃度を低減した汚染水から塩分を除去する淡水化装置の運転も同日から開始。浄化した水は月内にも原子炉冷却のため注入し、事故収束に向けた当面の目標の一つ「循環注水冷却」を開始したいとしている。
東電によると、高濃度汚染水を米キュリオン、仏アレバ両社の放射性物質除去装置に通した結果、処理前は1立方センチ当たり200万ベクレル程度だったセシウム134、同137の濃度はそれぞれ18ベクレルほどに低下していた。
浄化システムをめぐっては、本格運転を始めた17日夜から約5時間後に想定より早く放射線量が基準値に達して運転を止めるなど、トラブルが続発。23日には汚染水が機器の一部を経由していなかったことが判明し、調整後に試運転を再開していた。
毎日新聞 2011年6月24日 18時49分(最終更新 6月24日 19時02分)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110625k0000m040023000c.html
福島第1原発:放射性物質10万分の1に 淡水化も開始
東京電力は24日、福島第1原発の高濃度放射性汚染水浄化システムで、放射性物質の濃度が10万分の1程度になり、目標の処理能力を達成したと発表した。濃度を低減した汚染水から塩分を取り除く淡水化装置の試運転も同日開始した。月内にも処理水を原子炉に注水する循環システムの稼働を目指している。
東電によると、汚染水から油分を分離後、米キュリオン社の装置ではセシウムの除去があまり進まなかったものの、仏アレバ社の装置で予定を上回る除去ができたため、低減目標を達成できたという。
東電は同日、大量の高濃度汚染水がたまっている2号機原子炉建屋で、千葉工業大などが開発した緊急災害対応ロボット「クインス」を使って水位計の設置作業を始めた。国産ロボットが建屋内作業に投入されるのは初めて。だが、ケーブル操作の不具合などで、この日は作業を中断した。
また、東電は1号機の使用済み核燃料プールの水から、放射性セシウムとヨウ素を検出したと発表した。1立方センチあたりセシウム134が1万2000ベクレル、セシウム137が1万4000ベクレル、ヨウ素131は68ベクレル。松本純一原子力・立地本部長代理は「既に分析している2〜4号機のプールの水の濃度と同じレベル。水素爆発などで建屋に放出されたもので、燃料に損傷はない」との見方を示した。【杉埜水脈、徳野仁子】
毎日新聞 2011年6月24日 20時56分(最終更新 6月24日 21時04分)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110625k0000m040085000c.html
今回の原子力災害に関しての報道は,めまぐるしくコロコロと変わり,トレースするだけでも相当な能力が必要な感じです。筆者もある程度は報道を読み解く訓練はしていますが,今回は,時間単位で記事が書き換えられたりしていますので,証拠を押さえるのがたいへんです。きょう紹介する記事は毎日新聞のサイトからの引用です。同じような記事が2つありますが,更新時間が異なり,内容も微妙に異なっています。こういった小細工が何を意味するのかわかりませんが,いろいろな報道関係のサイトで,アップされた記事がすぐに消えたり,書き直されたりといったことが起きています。
放射性物質の除去装置については,トラブルの連続で,東電の見込の甘さを批判する記事も多く出ましたが,筆者は個人的な見解として,試運転段階でいろいろ文句をつけても仕方がないだろうと思っていました。何しろ,誰もやったことのない事故への対応で,それをかき集めた人材で,事故後まだ3ヶ月過ぎの段階で,数万トンの放射能汚染水を処理するプラントが動こうとしているのですから,上出来だと思います。一ヶ月も試運転してちゃんと動けば,化学プラントの突貫工事としては驚異的な早さではないでしょうか。
ところで,上の記事にはかなり重要なことが書かれています。もしこの記事が情報も日本語も正確なものだとすると,高濃度汚染水はセシウム2種について,1mLあたりで400万ベクレルとなります。1リットルで40億ベクレルです。1立方メートルで4兆ベクレルですね。
4兆ベクレル=4テラベクレル
汚染水の量は10万立方メートルなので,汚染水に含まれるセシウム2種の放射性物質の総量は,
40万テラベクレル
ということになります。これは,現在公式に発表されている,大気中への放射性物質の放出量の52%に相当します。この量が,大気に放出されて拡散されながら希釈されるのであればまだしも,何らかの事故により,直接に沿岸へ放出されれば,きわめて深刻な汚染が起こることは間違いありません。汚染水浄化システムが正常に機能して,放射性物質の拡散が起こらないことを願わずにはいられません。
しかし不安要素がいろいろあります。原子力発電所の地下に染みこんだ水は,どうしようもありません。浅層地下水に混入すれば,すぐに海に向かって出てくるでしょう。ですから,巨大なダムを作って封じるよりほか方法がないのですが,幅数百メートル規模,深さ数十メートル規模のコンクリートで囲むのであれば,これは大ダム工事並みですから,最低でも数千億円が必要になります。
仮に浄化システムが正常に機能しても,汚染水の濃度が予想通りとは限りません。今回の注水作業では,最初に海水,あとから淡水を入れています。そして津波の海水も建屋に入り込んでいるでしょう。そしてメルトスルーした核燃料が,注水で圧力容器から漏れた水の中のどこかに存在しています。炉の中にも核燃料が残っていて,現在はそこに淡水が注がれて,それが漏れ出ている状況です。すると何が起こるかというと,建屋地下には低温の海水が溜まっていて,そこに,圧力容器で温められた淡水が上に乗っかっていくのです。両者は簡単には混ざりませんから,高濃度汚染水の深い部分,塩分の高い部分には,どのくらいの放射性物質があるのか,まだわかっていないのです。
心配事はこれだけではありません。上の記事では,セシウムについてしか触れていません。しかし今回は発電中の核燃料が直ちに壊れたわけですので,少なく見積もっても,50種類以上の放射性核種が冷却水にぶちまかれたことは確実だと筆者は考えます。これらの核種についても,どれほど除去できているのか情報開示を求めたいところですが,東電は拒否していると伝えられています(文責/MWS)。
2011年6月18日(3)
ウグイも出荷制限…福島・真野川で規制値超
政府は17日、福島県南相馬市などを流れる真野川とその支流でとれたウグイ、ヤマメについて、県知事に採取を含む出荷制限を指示した。
ウグイの出荷制限は初めて。ヤマメは同県内の阿武隈川などでは既に制限されている。
厚生労働省によると、10日にとれたウグイから暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を上回る放射性セシウム2500ベクレル、ヤマメから2100ベクレルが検出された。
県や自治体、地元漁協は、釣りに必要な遊漁券の購入者らに釣りが制限されていることを通知し、釣り人も制限対象の魚が釣れた場合は持ち帰ることができない。
(2011年6月17日18時46分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110617-OYT1T00909.htm
かなり高いレベルの放射性セシウムが検出されるようになってきました。ウグイ,ヤマメともにこれまでの最高値かと思います。これが,この河川に固有の値となるのか,それとも,セシウム降灰地域では,これからも生物への蓄積が続いて濃度が上昇するのか,モニタリングを継続する必要があります。同時に,セシウム濃縮プロセスを明らかにするために,水,水生昆虫,藻類,原生生物などに含まれる放射性物質を測定することも望まれます。陸地に降り注いだ放射性物質は今後長い時間残ることは確定していますから,一度汚された大地を流れる河川についても,長期間のモニタリングを継続する必要があります(文責/MWS)。
2011年6月18日(2)
6月14日の未明に福島第一原子力発電所の4号機付近で爆発があったのではないかという推測がネット上で出回っています。ライブカメラの動画を見ると,2:00付近から急に煙が立ち上っているのが判別できます。仔細に見ても霧の発生だけで説明できるような気がしません。そこで茨城県の放射能モニターを見てみると,6月14日の朝方に二つのピークが見えます。最初のピークはおおむね北風のとき,次のピークは東風のときです。ピークの形状は降雨のパターンとは違うように見えます。
このような状況証拠から判断すると,現場で大きな放射性物質の放出があったことは,間違いないように思われます。放射性物質はいったん海に出ながらも岸沿いを南下し,数十キロメートルも離れた地点の放射線レベルを上昇させました。これは隠してはならないことで,何が起きたのか説明が必要ですが,筆者の知る限りまったくニュースになっていません。小規模の放出だからと隠すつもりなのでしょうか(文責/MWS))。
2011年6月16日
福島市、子どもに線量計を配布へ
東京電力・福島第一原発の事故を受け、福島市は幼稚園から中学校までのすべての子どもに放射線の線量計を配布することにしました。
福島市が線量計を配布するのは、市内のすべての幼稚園児・保育園児と小・中学生のあわせて3万4000人です。
「待ってられませんので、やはり独自でできる範囲で、計測器の入手もなかなか難しいんですが、これをやっていかなければならない」(福島市・瀬戸孝則市長)
福島市によりますと、夏休み明けの9月から3か月間、子どもたちに線量計を身につけてもらい、放射線の影響を研究機関に分析してもらうとともに、今後の対策にいかすということです。(14日11:37)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4750683.html
筆者は4月11日付けの本欄で,もし子どもたちに最大20mSv/年を許容するなら,
1)内部被曝を可能な限り低くする施設を全校に配備
(シャワー,活性炭マスク,ゴーグル,防護服,着替えなど)
2)児童や生徒には線量計装着を法律で義務づけ。放射線管理手帳を交付
3)累積線量を国が管理し,子どもが平均寿命に達するまで国が健康管理を無料で行う
4)児童・生徒には放射線作業従事者の手当として1人あたり年間300万円(非課税)を支給
5)以上の財源は現在の年金受給額を削減することにより捻出
例えばこのような対策をすべきで,しかしこの対策よりも,放射線を浴びせないことが望ましいことを主張しました。現状では,行政の対処としては,土壌の天地返し以外はまだ何も行われてない状況です。そのような中,福島県伊達市,福島市が子どもに線量計を配布することを決めました。子どもの行動パターンは一人一人違いますので,個人に線量計を配布して被曝量を管理することには意義があると考えられます。
しかしこの記事の内容は,筆者の主張する2)とは異なっているような気もします。夏休み明けから冬休み前までの期間に被曝線量を測定してもらう,という内容になっていて,子どもたちの放射線防護に対して何ら前向きの内容となっていません。ただ,データを集めるだけということです。すでに年間数ミリSvの被曝が避けられない条件では,そんな呑気なことよりも,いかに被曝量を低く抑えるかを考えるのが重要でしょう。
いま現地で被曝量を低減しようと動いているのは一般の方々です。小学校などは こんな工夫 も見られます。涙ぐましい努力です。でも,子どもたちに,こんな思いをさせちゃいけませんよ。
2011年6月9日
都下水処理施設内で高放射線量…避難区域に匹敵
東京都大田区の下水処理施設内の空気中から、毎時約2・7マイクロ・シーベルトの放射線量が検出されていたことが、都の調査で分かった。
計画的避難区域の福島県飯舘村の放射線量と同程度で、文部科学省によると、都内でこれほどの放射線量が検出されたのは初めて。放射性物質を含む汚泥の影響とみられるが、都は「検出場所は屋内。敷地の境界では問題なく、誤解を招く恐れがある」とし、調査結果を公表していなかった。
都によると、この施設は都下水道局の「南部スラッジプラント」で、都内2か所の下水処理場で発生した汚泥を集めて焼却し、灰を東京湾に埋め立てるなどしている。都の5月の調査では、この施設の焼却灰から1キロ・グラム当たり1万540ベクレルの放射性セシウムを検出していた。
(2011年6月8日14時33分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110608-OYT1T00603.htm
こういったデータは,いち早く公表されなければならないのです。都内にも放射性物質が降り注いだのは事実ですし,吹きだまりなどがホットスポットになることも皆に知られつつあります。水道水からは一過性ではありましたが放射性物質が出てきました。水生生物からは放射性セシウムの検出が続いています。このような状況で,何が「誤解を招く」のでしょうか。理解できません。
下水処理施設は全国にあります。汚泥を焼却灰にする処理も各地でふつうです。もちろん放射性物質が降り注いだ東北〜関東でも下水汚泥の焼却はふつうです。ですから都内以外でも,下水処理施設内での空間線量がひじょうに高いレベルになっているという可能性が高いのです。いち早くデータを公表し,下水処理施設で働く人々の放射線防護に関して対策を講じ,施設外部への汚染の広がりを防止しなければなりません。
と,ここまで書いておいたら,夜になって下のニュースが飛び込んできました。
都の汚泥処理施設 付近の土から放射性物質
2011年6月8日
江東区の保護者でつくる「江東こども守る会」は七日、都庁で記者会見し、都の汚泥処理施設「東部スラッジプラント」(同区新砂三)近くのグラウンドの土から高濃度の放射性セシウムを検出したとする独自調査の結果を発表した。
調査は、同会が神戸大大学院の山内知也教授(放射線計測学)と実施。検出されたセシウムは一平方メートル当たり二三万ベクレルで、放射線障害防止法で、放射線管理区域からの持ち出しが制限される汚染基準の約六倍という。また、プラント周辺と同区の荒川、旧中川沿いでは、放射線量が毎時〇・二マイクロシーベルトを超える地点が多くあった。山内教授は「値が高い地域の位置と風向きを考慮すると、下水を通じてプラントに集まった放射性物質が処理過程で再び大気中に放出されている可能性が高い」と主張。同会は同日、プラントの稼働停止と調査などを求め、都に要望書を提出した。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/20110608/CK2011060802000025.html?ref=rank
山内教授の主張通りなら,汚泥処理施設が放射性物質の放出装置になっていて,その周辺に,二次的なホットスポットが形成されているというわけです。これは,これまであまり報告されていない種類の放射能汚染かと思われます。放射性物質は,現代にあっては隠すことができないのです。測定すればわかるのです。だから,どのような調査結果でも公表すべきなのです(文責/MWS)。
2011年6月8日
こちらのブログより引用
アーニー・ガンダーセン氏: 私はこれまで、今回の福島の事故はチェルノブイリよりひどいと言い続けてきましたし、その考えは今後も変わりません。事故後の2、3週間で膨大な量の放射性物質が放出されました。もしも風が内陸に向かって吹いていたら、日本は滅びていたかもしれません。それくらい大量の放射性物質が出たわけですが、幸運にも太平洋のほうに流れていきました。もしも日本を横断する形に流れていたら、日本はふたつに分断されていたでしょう。ですが、今では風向きが変わって南に向かっています。東京の方角です。今私が心配しているのは大きな余震が起きて4号機が倒れること。もしそうなったら、日本の友人の皆さん、逃げなさい。そんな事態になったらこれまでの科学はいっさい通用しません。核燃料が地面に落ちて放射能を出している状態など、誰も分析したことはないのです。
風が内陸に向かっていたなら日本は滅びていたかもしれません…,これは筆者の認識とまったく同じです。筆者は震災当日に,電源喪失が報じられた時点で,燃料溶融は避けられないものと覚悟し,周囲の知人には放射線防護について連絡をしています(*1)。そのときに,最悪の場合は福島周辺の東北地方太平洋側は今後,人が住めず農作物も海産物も利用できなくなる可能性を付記しました。実際は,放射性物質が大量に放出されているときに,強い北西〜西の寒気が連続して流れ込み,放射性物質の大半を海に運びました。しかし,3/12の水素爆発時前後と,3/15の風,3/21の降雨により,放射性物質は内陸にも運ばれて汚染を残すこととなりました。
現時点でも,放射性物質の放出量については不確定要素が多いのですが,陸に落ちた量は海に向かった量の1/100程度ではないかと筆者は推測しています。現在,陸上がこの程度の汚染で済んでいるのは,大量放出時に西風が吹いたという偶然によるもので,事故の規模が小さかったということではないということは,決して忘れてはならないことだと筆者は思います。
そして,このわずかな量の汚染でさえ,福島県は全域で避難してもおかしくないレベルの放射線量になっており,またプリュームの内部被曝も相当なレベルになってしまいました。事故現場周辺では,非常に高い汚染レベルが続き,これは放射性セシウムの半減期を考えれば,100年単位で居住や農業などが制限されることになります。放射能汚染の残酷なところは,見た目には何も変化がないのに,危険性を物理的に測定することができ,しかもその危険性の持続時間が長期に及ぶことまでもがわかってしまうことです。
東日本大震災:警戒区域「人も家畜もすめないところ」 農水省職員、説明会で発言
◇住民抗議「夢を壊すな」
福島県郡山市の避難所となっているイベント会場「ビッグパレットふくしま」で2日、同県富岡町の家畜処分の説明会が開かれ、農林水産省の男性職員が福島第1原発から半径20キロの警戒区域を「現状では人も家畜もすめないようなところ」と発言、参加者から抗議を受けていた。同省職員はその場で謝罪した。
農水省などによると、説明会には同町の畜産農家約50人が出席。職員の発言は、家畜の処分方法や補償内容を説明後、質疑応答であった。参加者から「(区域内で)家畜の世話ができないか」などの意見が出たのに対し「20キロ圏内での世話は人の健康を考えると非常に困難。現状では人も家畜もすめないところ」と発言したという。
その後、参加者の男性から「帰ることを前提としているのに、否定的で夢を壊すようなことを言わないでほしい」との抗議を受けた。男性職員は「言葉が不適切で申し訳ありません」と謝罪したという。【蓬田正志】
毎日新聞 2011年6月4日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110604ddm041040155000c.html
20キロ圏内でも汚染の強弱はありますので,厳密に議論することは難しいのですけど,この農水省職員の説明は正しいのです。とても住めないから住民を避難させ,家畜を処分しなければならないのです。現状では。放射性物質による汚染は,住めるか住めないか,結論を出すことができてしまうのです。
参加者の男性は,抗議先を間違えています。否定的で夢を壊す放射性毒物をまき散らしたのは原子力発電所です。これを運転してきたのは東京電力です。原子力開発を推進し,補助金制度を生み出して自治体を補助金漬けにして,御用学者をたくさん育ててきたのは主に自民党です。夢を壊したのは彼らなのではないでしょうか。
この参加者の男性は,突然に住居も,大切な家畜も失い,ほんとうに可哀想です。恨みの気持ちを農水省職員に向けずに,何があっても絶対安全だ,放射能が漏れるのは隕石が落ちるようなものだ,という原子力関係者に向けていただければと思います。絶対安全が裏切られたのですから,口を開けば安全とのたまった原発推進学者や自民党員の玄関を一つ一つ叩き,降りかかった放射能で故郷も住居も家畜も一度に失った悲しさを,夜を徹して聞いてもらいましょう。大切なのは避難や補償だけではありません。正当な怒りのやり場を準備しなければなりません。多くの国民は安全とだまされていたのですから(文責/MWS)。
*1 「本日の画像」では3月12日の深夜更新分で,「念のため防災の備えをしておきましょう。原子力災害では初期の内部・外部被曝を低く抑えることが大事です。放射性物質の拡散が起きても対応できるように,居場所を確保し,飲料水,食糧を確保しておけば安心できます。」と書いています。原発事故では,壊変熱が多い最初の数日で爆発的な量の放射性物質が放出されます。そのため,最初の汚染で大規模な内部被曝,外部被曝量が起きます。「居場所を確保し」というのは,放射能が降りかからないところ,目張りができるところに避難できるようにということを意味します。「飲料水,食糧を確保し」というのは,高濃度の放射性物質が降り注いでいる状況では外出できませんし,水も汚染されて飲めなくなるので,その前に確保しましょうということです。
放射性物質の放出タイミングと風向きによっては,たとえば東京が現在の福島県内と同じレベルの汚染状況になる可能性はあったわけです。実際のところ,東京やその周辺では,放射線管理区域になる手前付近のレベルですが,場所によってはホットスポットもあり,放射線防護の備えをした人としなかった人では,リスクの議論は別にしても,被曝量には明らかな差が出たと思います。
2011年6月6日
海底土壌から9271ベクレル いわき沖漁場
福島県は3日、いわき市沖の漁場9地点の海底土壌に含まれる放射性物質量を初めて調べた結果、最高で1キロ当たり9271ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。県の1973年以降の調査では、海底沈積物の放射性物質の最高値は4ベクレルで、2000倍以上を検出した。
県によると、5月26日に採取した海底の土壌を調査した。いわき市四倉沖1.7キロの深さ20メートル地点の土壌から、9271ベクレルの放射性セシウムが検出された。
海底土壌の安全基準は定められていないため、県は「国に評価を求めるとともに、土壌と海底魚介類のモニタリングを続けて継続的に監視したい」と話している。
いわき、相馬市と新地町で5月16〜30日に採取した海水も調査。海水については、法令が定める周辺監視区域境界外の水中の放射性物質の濃度限界を下回った。県と国は、漁港や海岸から近い沖合などの海水と海底土壌の検査を今後も継続的に行う。
2011年06月04日土曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/06/20110604t63024.htm
放射能はただでさえ目に見えないのに,海の中のことはさらに目に見えませんので,地道に調べた結果を少しでも表に出して,記憶に留めていかねばなりません。福島第一原子力発電所から放出された放射性物質は,その大半が海洋に向かったと筆者は想像しています。当然,事故現場は非常に強い汚染を受けているわけですが,汚染の影響は徐々に南下して四倉沖の海底でも高濃度の汚染が検出されるに至りました。放射性物質が海洋中で三次元的に拡散してもなお,このレベルの汚染というのは恐ろしいことです。底魚などの魚介類もとうぜん要注意ということになります。海底の調査はサンプリングが大変で,時間もかかり,空間的に細かい情報を得にくいのですが,できる限りの努力をしてほしいと思います。
福島市などの雑草から高濃度放射能 原発事故直後
政府の原子力災害現地対策本部と福島県災害対策本部は3日、福島第1原発事故が発生した直後の3月15日に、福島市など4カ所で採取した雑草から1キログラム当たり30万〜135万ベクレルと非常に高い放射能を検出しながら、発表していなかったことを明らかにした。事故で放出された放射性物質が付着したためとみられる。
食品衛生法による野菜の暫定基準値は放射性ヨウ素が2000ベクレル、セシウムが500ベクレル(いずれも1キロ当たり)。付近で栽培された野菜を食べたり農作業を行っていたりすれば、放射性物質を摂取した危険性もあり、政府や県の情報公開の姿勢が問われそうだ。
最も高かったのは、福島市立子山でヨウ素119万ベクレル、セシウム16万9000ベクレルの計135万9000ベクレル。さらに川俣町役場近くでヨウ素123万ベクレル、セシウム10万9000ベクレルの計133万9000ベクレル。田村市船引町新舘でヨウ素86万2000ベクレル、セシウム10万6000ベクレルの計96万8000ベクレル、同市の阿武隈高原サービスエリアでヨウ素27万7000ベクレル、セシウム3万1100ベクレルの30万8100ベクレルを検出した。
政府と県によると、測定は県原子力センター福島支所が実施。データを政府の原子力災害対策本部に集約し公表するはずだったが、事故直後の混乱でデータが紛れるなどしたという。
県原子力安全対策課の小山吉弘課長は「公表されるべきだったが、結果的に抜け落ち、未公表自体にも気付かなかった。大変申し訳ない」と話している。
2011年06月04日土曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/06/20110604t61018.htm
政府や行政は人々の安全を守るために存在しているはずなのですが,こと原子力に関しては,できるだけ人々が危険に曝されるように情報を隠し,人の噂も75日経った頃に隠蔽された情報が出てきます。このレベルの汚染があったということは,何をさておいても優先順位一位で公表するべきデータです。公表する手段など,いくらでもあったでしょう。政府に集約しなくても,自分の首をかけて独自に公表したって良いでしょう。緊急事態なんですから。
福島県原子力安全対策課
福島県原子力センター福島支所
これを見ると,こういった部署は何のために存在しているのか,不思議に思わずにはいられません。公表すべきデータを隠蔽した責任は限りなく重いと,筆者は思います。可能な限りデータを早く公表し,自家消費も含む全ての農作物の摂取を禁止し,学校や会社を非常時休業として,可能な限り屋内待避を指示すれば,内部被曝を少しでも低くすることは可能だったと思うからです。筆者がいちばん驚くのは,こういったデータを公表しないで平気でいられる人間の存在です。何をどのように考えると,このデータが未公表であることに気付かないことができるのか,まったく想像できません(文責/MWS)。
2011年6月5日
原子炉建屋で4000ミリシーベルト
2011年6月4日 夕刊
福島第一原発の事故で、東京電力は四日、1号機原子炉建屋一階の放射線量をロボットで調べた結果、南東部で局所的に最大毎時四〇〇〇ミリシーベルトの放射線量を計測したと発表した。
大震災発生時、運転中だった1〜3号機の原子炉建屋内で計測された放射線量の最高値。ロボットが撮影したビデオ映像によると、この地点には地下一階の圧力抑制室につながる管があり、管と床の接合部分から湯気が立ち上っているのが確認された。
東電は「圧力抑制室内の水の温度は約五〇度あり、原子炉から漏れた高濃度の放射能汚染水がたまっている。この汚染水から湯気が発生して、床と配管の接合部の劣化部分から立ち上っている」と説明し、湯気に高い放射線量が含まれているとの見方を示した。
同じ地点を五月十三日にロボットが測定した際は、毎時二〇〇〇ミリシーベルトを計測したため、今回、東電が詳しく調査した。
東電によると、この地点は、今後計画されている原子炉の循環冷却に向けた作業では立ち入らない場所で、作業に直接的な影響はないという。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011060402000174.html
一時間あたり4000ミリシーベルトの放射線ということは,2時間で人が死ぬに十分な線量です。致死量まで2時間もの余裕があるのですから,こーんな低線量は願ってもない有り難さで,さっさと片づけてしまわなければなりません。もし,これをさっさと片づけられないとすれば,将来,たいへんなことになりますよ…。
未来の子どもたちが扱うことになるだろう,高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の放射線量は,1500000ミリシーベルトにもなります。人が密着すれば20秒で致死線量を超えます。一本500キログラムの,放射能溶融ガラスの缶詰で,内臓放射線量は2万テラベクレルとされています。これが2030年に7万本にもなるほどの,放射性廃棄物が溜まってきています。
詳しくは こちら を見てみましょう。
このガラス固化体が,ウラン鉱石と同等付近の放射能レベルに低下するには,数万年を要します。数万年の間には,何回地震があるでしょう。それとも,数万年後には,人類は滅亡しているはずだから,管理の必要はないのでしょうか。
いずれにしても,上の記事に書かれている放射線量は,高レベル放射性廃棄物の400分の1です。これに手こずっているようでは,使用済み核燃料の処理処分など,ほんとうにできるのだろうかと,誰しも疑問を抱くでしょう。
「もんじゅ」みたいに,吊り上げたガラス固化体を落としてしまったらどうするんです? 1500Sv/hのガラスが飛び散ったらどうするんです? 7万本,すべてパーフェクトに処理できるんですか?
東京大学のえらーい先生方は,放射能が漏れることは考えられない,隕石が落ちてくるようなものだ,プルトニウムは飲んでも平気だ,と言いそうですが(文責/MWS)。
2011年6月4日(2)
福島の23河川、放射性物質検出されず
福島第一原発の事故を受け、環境省は3日、福島県中通りと浜通り地方の23河川29地点で実施した水質と川底の放射性物質濃度の調査結果を発表した。
川の水は、全地点で放射性物質が検出されなかった。
調査は5月24〜29日に、原発の半径20キロ圏外で実施された。川底の土からは、通常は含まれない放射性セシウム137が全地点で検出され、1キロ・グラムあたり1万6000〜51ベクレルだった。最も高かったのは同県南相馬市の新田川・木戸内橋。水田の場合にコメの作付け制限の基準としている5000ベクレル超だったところも5地点あった。
同省水環境課では「濃度はすべての地点で周辺の土壌とほぼ同じレベル。今のところ、川の中で濃縮はされていない」としている。
(2011年6月3日20時51分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110603-OYT1T00903.htm
あまりにもいい加減な記事です。原子力=安全というデマを流し続けた,まともな記事を書く能力のない読売新聞を相手にしても仕方がありませんが,この記事を信じてもらっては困ります。筆者が書き直しましょう。
福島の23河川から放射性物質を検出
福島第一原発の事故を受け、環境省は3日、福島県中通りと浜通り地方の23河川29地点で実施した水質と川底の放射性物質濃度の調査結果を発表した。
調査は5月24〜29日に、原発の半径20キロ圏外で実施された。川底の土からは、通常は含まれない放射性セシウム137が全地点で検出され、1キロ・グラムあたり1万6000〜51ベクレルだった。最も高かったのは同県南相馬市の新田川・木戸内橋。水田の場合にコメの作付け制限の基準としている5000ベクレル超だったところも5地点あった。
川の水は、全地点で放射性物質が検出限界以下であった。微量とみられる。
水環境に詳しいミクロワールドサービスによると,「河川では放射性セシウムが生物に移行しやすく,濃縮率も高い。多くの放射性セシウムが藻類や水生昆虫に移行しているとみられる。この時期,河川の底質は藻類やバクテリアなどのバイオフィルムで覆われており,川底の土で放射性セシウムの値が高いのは,生物に含まれる分も同時に測定しているからだろう。河川水中の濃度が低くても,生物からは高濃度で検出されることがあり得るので,生物中の放射性セシウム濃度を測定することが重要だ」としている。
(2011年6月4日1時20分 MWS 本日の画像)
それにしても,周辺の土壌と河川の底質を比較するとは,この環境省水環境課の役人さんは,どこの大学の出身でしょうか。
「濃度はすべての地点で周辺の土壌とほぼ同じレベル。今のところ、川の中で濃縮はされていない」
今回の原子力災害では,放射性セシウムなどの降下物は,主にガス態,微粒子として落下したのです。セシウムが200km以上の遠方まで運ばれたことを考えれば,微粒子の粒径は1μmクラスでしょう。大きくても10μmのオーダーでしょう。こんな粒子は河川に入ればすぐに流されてしまうのです。もちろん,そのまますぐに海に運ばれるわけではなく,さまざまな物理的,生物的,化学的なプロセスを経て,河川から海までのどこかに分配されて行くのです。
溶存態になれば海にまで容易に辿り着きます。日本の河川水は平均的に見て,海まで一週間もかからずに到達します。粒子態の場合は,凝集,生物による取り込み,流線上に存在する障害物への付着など,さまざまな過程でトラップされます。
連続した流れによって洗われているのに,周辺土壌と同じ濃度の放射性セシウムが残存しているのなら,それは濃縮されているのです。その濃縮は,底質への吸着かもしれませんし,生物への取り込みかもしれません。あるいは物理的に「吹きだまり」になっているのかもしれません。
数年魚のヤマメがこの2ヶ月間に食べた餌だけで,900ベクレル/kgもの値になったことからわかるように,餌にはかなりの量の放射性セシウムが濃縮されています。
「濃度はすべての地点で周辺の土壌とほぼ同じレベル。今のところ、土壌よりも高い値になったところはない」
と書くのなら,学問的にも正確に近づくのですが。大衆紙はこういった不正確な記事の積み重ねて,読者を少しずつ,だまして行くのです(文責/MWS)。
2011年6月3日(2)
福島第1原発:福島市などのウメの出荷停止を指示 政府
政府は2日、食品衛生法の暫定規制値を超える放射性セシウムを検出したとして、新たに福島県の福島市、伊達市、桑折(こおり)町で生産するウメの出荷停止を指示した。果実の出荷停止措置は全国で初めて。【佐々木洋】
毎日新聞 2011年6月2日 20時58分
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110603k0000m040076000c.html
読者の方から,ウメとお茶、どちらも菌根を作る樹種です。筆者の仮説が当たっているかも分かりませんね,というメールを頂戴しました。福島に限らず,神奈川やほかの地域でも,ウメの実から放射性セシウムが検出されています。そしてこのウメ,上の画像の菌類と菌根を形成するのです。上の画像は一般にハルシメジと言われているきのこで,春,桜が咲いてからしばらくたったころにウメの樹下に出てきます。ちょっとクセがありますが歯ごたえもよいきのこで,ベーコン炒めなどお薦めです。
もし筆者の仮説が正しいとするならば,このきのこの菌根がセシウムを周囲から集めて,ウメの木に渡しているということになります。それで特定の樹種に放射性セシウムが見つかるということになります。もっとも,自然林では多くの樹種が菌根を形成しているので,特定の樹種にセシウムが濃縮するということが見られる可能性は高くないでしょう。
しかし人間が利用する植物に限ってみれば,菌根形成するものもあればしないものもあり,放射性セシウムの濃縮に種特異性が見られるという結果になるのではないかと想像します。メールをくれた方によれば,秋には「栗」から放射性セシウムが検出されるかもしれませんね,とのことでした。栗はあまり密集して植えませんし,当然菌根も形成しているでしょうから,広い範囲から放射性セシウムを濃縮する可能性がありますね。さて,どうなるでしょうか(撮影/MWS)。
*1 秋には放射性のマツタケが見つかるんだろうなぁ。いやだなぁ。
2011年6月3日
きのうは,日本の原子力産業が糞詰まり状態であるのに,それでも地下原発を作ろうと考える議員さんたちは物事の深刻さをわかっていないということを,大変上品な表現によって指摘しました(^^)。これ,ゲヒンと思われた方もおられるかもしれませんがとんでもない,凄いことになっているのです。どれだけ厳しいことになっているか,ちゃんとわかっている議員さんもいますので,その方に登場してもらいましょうか。
こちら
こちら
滅茶苦茶なのです。もし,原発運転ゲームなるものがあったとすれば,GAME OVER寸前なのです。捨てる方法も確立できず,処理の目処も立っていない。核燃サイクルは実現不可能。原子炉は事故を起こすわ放射能は漏れるわ,使用済み燃料は敷地にあふれるばかり溜まり,燃料以外の廃棄物も蓄積される一方。どうにもなりません。すべて未来の子どもたちに押しつけて,電気料金を市民から巻き上げて,原子力産業は収益をあげています。
今回の原子力災害でガスとなって日本中を汚染した放射性ヨウ素とセシウムの総量は,たぶん100グラムから1000グラム程度だと想像しています。そんな微量の放射性物質でもこれだけの汚染が起きます。
でも,溜まり続けている使用済み燃料は,一万トンを越えるのです。放射能の塊が一万トンというのは想像できる量ではありません。まき散らせば,日本どころか世界がお終いになります。これの管理を未来の子どもたちに,丸投げするわけですね。
そして原子力産業が経済を支えるものならまだしも,一撃で日本経済を壊滅させてしまったわけです。特に福島県の経済に与えた影響は,計り知れないものがあるでしょう。
原子力発電所が「発電」していると思い込んでいる人も多いと思いますが,あれは正確には,「発電・放射性物質増加機能付き海洋加熱装置」です。7割の熱を海に捨てて残りの3割を電気にしているのです。そして運転停止後の一定期間は,「自動水素爆発,放射能放出機能付き電力吸収装置」です。冷却のためにたくさんの電気を使う電力消費箱なのです。この箱は,もし無電源で放置すれば「自動」で加熱して水素爆発して放射能を放出してくれる大変便利な装置なのです。
そして発電所でも,再処理工場でも,原子力産業というのは「地元に雇用をもたらす」という美名のもとに,被曝者を増やし続けてしまうのです。
使用済み燃料を処理してようやくガラス固化体にできたとしても,さらにそれを30年〜50年も冷やし続けなければなりません。MOX燃料のガラス固化体ならば100年でも足りないでしょう。そうしないと地層処分でさえ,不可能なのです。ワインなら地下倉庫に置いておくだけでもいいでしょう。でもガラス固化体は貴重な電力を使用して冷やし続けなければならないのです。雨の日も,風の日も,地震の日も,津波の日も,くるかもしれない戦争の日も。
廃炉もたいへんです。商用原子炉ならば10万トン級の廃棄物が出ますが,放射化した原子炉や周辺設備の解体,処分などは,まだ未知の領域です。これも未来の子どもたちへ丸投げです。
こういう現状があるのに,使用済み燃料の処分検討会ならまだしも,地下原発などという集まりを開く年寄り連中は,未来のことなどどうでもいい無責任な連中なのでしょう。まぁ彼らは技術屋でもないので,5歳児がお医者さんごっこをするレベルを越える議論はできないと想像します。自分たちの利権構造を守りたい連中ですから,地下原発といいながら,産業構造の維持を狙っているのでしょう。そして彼らのような老獪な連中が,原子力産業を見通しのないままに推進し,核のゴミを未来の子どもたちに丸投げする構造を作ったのです。
日本(に限らないのかもしれませんが)はこの種の年寄りが多くて困ります。若い人たちは礼儀正しく,頭の良い,利権にとらわれない立派な人が増えてきているように思うのですが(文責/MWS)
*1 もちろん,老獪な年寄りにだまされて,彼らに投票した有権者にも責任があります。今回の事故以前でも,原子力の問題点に関する情報は豊富にありましたので,それらを知らなかったとすれば,安全信仰にだまされていたか,無関心だったということです。未来の子どもたちに核燃廃棄物のない世界を受け継いでもらうことは,もう不可能になってしまいました。しかし少しでも彼らの負担を減らすために,今後どのように行動すべきか,有権者として考えなければなりません。
2011年6月2日
地下原発議連:第1回勉強会に20人参加
超党派の「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」(地下原発議連)が31日、国会内で第1回勉強会を開催し、自民党の森喜朗元首相や民主党の石井一選対委員長ら約20人の国会議員が参加した。会長の平沼赳夫たちあがれ日本代表は、東京電力福島第1原発事故を踏まえ「日本には大きな空洞を作る技術が確立している。(地下原発は)安全性からいって非常に意義がある」と述べた。
地下原発は三木内閣当時に検討が始まり、91年に自民党内に「地下原発研究議員懇談会」が発足したが、その後下火になっていた。今回の議連は自民党の懇談会を超党派に拡大したもので、顧問には民主党の鳩山由紀夫前首相や国民新党の亀井静香代表も加わっている。
毎日新聞 2011年5月31日 22時30分
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110601k0000m010134000c.html
まだ福島の原子力災害もほとんど手つかずの状態なのに,このようなお遊戯会が行われるのですから言葉もありません。でも言わせていただきましょうか。使用済み燃料の処分方法も確立していないのに,何をやっているんだお前らは,と。この老人どもはまとめて,どこかの名医に肛門が行き止まりになるように縫合してもらい,毒物が捨てられない,ということがどれほど深刻なことなのかを体験してもらいましょう。
きょうはあまりにも取り上げたい記事が多すぎて,逆に書けなくなってしまいました。。リンクを一つ紹介して(こちら)お終いにします(文責/MWS)
2011年5月30日
宮城・茨城沖 海底に放射性物質
5月29日 3時17分
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、新たに宮城県と茨城県の沖合の海底で採取した土からも、通常の濃度を大幅に上回る放射性セシウムが検出されました。専門家は「魚介類への影響がないか、広い範囲で監視を強めるべきだ」としています。
東京電力福島第一原発の事故で、文部科学省は、放射性物質による汚染の広がりを確かめるため、今月9日から14日にかけて、太平洋沿岸の南北300キロに及ぶ合わせて12ポイントで海底から土を採取し、分析しました。その結果、新たに調査を行った宮城県と茨城県の沖合の海底を含むすべての調査ポイントで、放射性物質を検出したということです。このうちセシウム137の濃度は、▽仙台市の沖合30キロの深さ45メートルの海底で、通常の100倍前後に当たる1キログラム当たり110ベクレル、▽水戸市の沖合10キロの深さ49メートルの海底で、通常の50倍に当たる1キログラム当たり50ベクレルを検出したとしています。これについて、海洋生物に詳しい東京海洋大学の石丸隆教授は「海流に乗って拡散した放射性物質を、水面近くでプランクトンなどが吸い込み、海底に堆積したとみられる。土は海水に比べ放射性物質の濃度が低下しにくく、海底の小さなエビやカニなどを食べる大型の魚に蓄積するおそれがあるので、魚介類への影響がないか広い範囲で監視を強めるべきだ」と話しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110529/t10013176761000.html
海底の魚から基準超放射性物質
5月26日 22時44分
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、環境保護団体「グリーンピース」は、海底付近に生息するアイナメやナマコからも新たに基準を超える放射性物質を検出したとして、「より多くの生物を対象に調査を進めるべきだ」と訴えています。福島県は「漁は自粛されており、基準を超える海産物が市場に出ることはない」としています。
環境保護団体「グリーンピース」は、今月3日から9日にかけて、福島県の沿岸や沖合で採取した魚介類などに含まれる放射性物質について、フランスとベルギーの検査機関に分析を依頼し、26日、その結果を公表しました。それによりますと、放射性物質が国の暫定基準を超えていたのは11種類の魚介類や海藻で、このうち、いわき市の小名浜港で取れた「エゾイソアイナメ」からは基準の1.7倍に当たる放射性セシウムを検出したということです。また、同じくいわき市の久之浜港で取れた「マナマコ」から基準の2.6倍の放射性セシウムを検出したということです。福島県など行政による調査では、これまでアイナメやナマコから基準を超える放射性物質は検出されていません。アイナメもナマコも海底付近に生息することから、「グリーンピース」では「汚染の広がりが裏付けられた。より多くの生物を対象に調査を進めるべきだ」と訴えています。これについて福島県は、「漁は自粛されており、基準を超える海産物が市場に出ることはない」としています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110526/k10013140731000.html
海底泥のセシウム汚染やその経路については,すでに本欄5月5日付けの記事をはじめとして述べてきましたが,ようやく,少しずつ実態が判明してきたようです。仙台市の沖合でも100ベクレルレベルということは,事故現場から半径50〜100キロ圏内程度の範囲で,海底上が高濃度のセシウムで汚染されていることは確実でしょう。海底に生息する魚介類からも放射性セシウムが検出されており,今後のモニタリングが必要なことは確実です。
海洋生態系におけるセシウムの濃縮は,淡水生態系よりもやや低レベルとするデータがあります。それでも魚介類等で環境中(海水)の10-100倍程度になります。海底表面の底生生物を摂食する動物にどの程度のセシウムが蓄積するかは,筆者の手元にはデータがないのでわかりませんが,原発50キロメートル圏内では1000ベクレル程度の汚染はあり得るものとみた方がいいでしょう。
これだけ遠くの海域でも放射性セシウム汚染が確認されている現時点で,放射性物質の放出はまだ続いています。つまり,これら海底泥のセシウム含量は,これからも上昇する恐れがあるということです。
原発の東側はたまたま海だったので,その被害の大きさが実感されないかもしれません。しかしもし,東側にも陸地があったら,現在の福島県の被害域どころではない広範囲で,非常に強い放射能汚染が起きていることは間違いありません。
ところで,上の記事でも,泥の採取方法が示されていません。前にも述べたように,サンプリング方法によっては,放射性物質の濃度が低く出てしまいます。ほんとうは海底表面に降り積もっている粒子中の放射性物質の濃度を知ることが大切ですが,まだ,そのデータは報道されていないようです。
さてもう一本,
福島、山中の雪から放射性物質 市民団体発表
2011年5月29日 17時42分
環境保護活動を行う福島市の市民団体「高山の原生林を守る会」は29日、福島第1原発事故後に福島県内の山中の雪から放射性セシウムが検出されたとする調査結果を発表した。
同会によると、4〜5月に福島市と猪苗代町にまたがる箕輪山などで採取した雪を東大に依頼して分析。箕輪山の標高約1300メートルで雪1キログラム当たり約3千ベクレル、標高約1100メートルで約1760ベクレルのセシウムが検出された。
同会は、国が山の水や土壌の調査を行う必要があると指摘。「登山者は川の水や山菜を採取しないで」と呼び掛けた。
(共同)
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011052901000495.html
とても貴重な報告です。今回の原子力災害では,高濃度の放射性物質を含むプルームが内陸部に向かい,伊達市や福島市,二本松市などに高いレベルの汚染をもたらしました。この放射性のプルームが,安達太良山周辺にブロックされて,会津地方では相対的に低い汚染レベルで済みました。山が放射能の防波堤の役割を果たしたと考えられます。そしてこの山に放射性物質が降り積もり雪に固定されていたわけです。生物濃縮なしに,一キログラムあたり3000ベクレルの放射性セシウムというのは非常に高い値です。この雪が水系に流出し,植物や淡水生物に濃縮されるという過程が現在進行しているわけです。貴重な調査をした市民団体に敬意を表したいと思います(文責/MWS)。
2011年5月28日(2)
福島市のヤマメ 規制値超えで自粛要請
2011年05月27日 10時58分配信
福島市でとれたヤマメとウグイから国の暫定規制値を上回る放射性物質が検出され、県はこれらの魚を取らないよう呼びかけている。
県などが今月17日から行なった検査で、福島市の阿武隈川でとれたヤマメから、国の暫定規制値のおよそ2倍にあたる1キログラムあたり990ベクレルの放射性セシウムが検出された。
また福島市の摺上川で採れたウグイや、猪苗代町などにまたがる秋元湖のヤマメからも規制値を超える放射性セシウムが検出された。
このため県では地元の漁協を通じこれらの魚を取らないよう呼びかけている。
http://www.kfb.co.jp/news/index.cgi?n=201105274
セシウムの生物濃縮が確実に進行しています。裏磐梯方面では浜通りや中通り地方に比べれば,放射性物質の降下量は多くなかったのですが,水系を通じてセシウムが濃縮され,水産生物に影響が出ています。この報道から考えれば,福島県内のほとんどの地域で,天然の淡水魚類を利用することは難しいという結論にならざるを得ません。ヤマメは高級魚の部類に属し利用価値も高い魚です。塩焼きはもとより,ニラ味噌を挟んで竹皮で包み灰焼きにしたものは絶品なのですが。また貴重な食材が原子力災害により奪われました。
さて,もう一件,
原発周辺15万人、30年調査=放射線の影響追跡−福島県
福島県は、福島第1原発の周辺住民約15万人を対象に、今後30年間にわたって放射線の影響を追跡調査する方針を固めた。27日に「県民健康管理調査検討委員会」を発足させ、健康調査の枠組みや住民への周知方法を決定する。
県によると、低放射線量を長期間浴び続けた場合の影響については未解明の部分が多く、住民には不安の声が強い。県は追跡調査でデータを集め、適切な対応を取るため活用する。
委員会は、県の放射線健康リスク管理アドバイザーで長崎大大学院の山下俊一教授ら8人で構成。委員長には山下教授が就任する見通し。(2011/05/26-22:40)
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011052601020
本欄4月27日付けの記事で紹介したように,山下先生は,3月21日の段階で,
科学的に言うと、環境の汚染の濃度、マイクロシーベルトが、100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう、 5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。昨日もいわき市で答えられました。「いま、いわき市で外で遊んでいいですか」「どんどん遊んでいい」と答えました。福島も同じです。心配することはありません。
このように言っていたわけです。ところが,この記事では,
低放射線量を長期間浴び続けた場合の影響については未解明の部分が多く
ということになっており,それを調べるために,「福島第1原発の周辺住民約15万人を対象に、今後30年間にわたって放射線の影響を追跡調査する方針を固めた。」となるわけです。そして,山下先生が委員長に就任するわけです。
つまり山下先生は(当然ですが)低線量被曝のリスク,恐ろしさについては十分に知っていて,それでいて急性障害は絶対に出ないことも知っていて,福島県民に向かって,放射線を浴びることを推奨したのです。そして福島県民の,低線量被曝による晩発性障害の疫学調査については,まずは自分で調べることにしたのです。福島県民は,いわば,放射線障害実験動物としてのモルモット扱いを受けたのです。
これが人間のすることだと思いますか?
(文責/MWS)。
2011年5月27日(2)
放射能濃度問題なく、アユ釣り解禁へ/神奈川
2011年5月26日
6月1日のアユ釣り解禁を控え県は25日、県内のアユから基準値を超す放射性物質は検出されなかったと発表した。各河川の遡上(そじょう)量は例年以上に多く、酒匂川で懸念されていた昨秋の台風9号による濁水被害も軽減された。県は「上々の釣果を得られそう」と見込む。
県が早川、相模川、酒匂川で、22〜23日に採取したアユの放射能濃度を調査したところ、早川のアユから1キロ当たり20ベクレル、相模川のアユから198ベクレルの放射性セシウムが検出された。いずれも暫定基準値(500ベクレル)を下回っており、県は「食べても健康には影響しない」としている。
また、昨年9月に酒匂川流域などを襲った台風9号の濁水によるアユへの影響も深刻化を免れたようだ。餌となるコケの発育不足などが不安視されていたが、地元漁業協同組合が19日に実施した試し釣りの釣果は、昨年比1・6倍にあたる200匹。県の遡上量調査でも、多い日で7万匹を超すアユが確認された。
県水産課は「どの河川のアユもやや小ぶりだが、釣りを楽しむには最高。安心して食べられます」と、多くの太公望の来県に期待を寄せている。シーズンは10月14日まで。
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1105260003/
5月20日付けの本欄で,相模川のアユからも放射性セシウムが検出される可能性を指摘しましたが,やはり出ていました。浄水場の汚泥(乾燥)から計算して予想される濃度通りの結果となっています。両者の値に整合性がみられるので,たぶん,今後もこの汚染レベルで推移するのではないかと思います。アユは,この時期は主に水生昆虫などを食べ,夏にかけては藻類をよく食べます。これにともない生態学的栄養段階は一段階低くなりますが,セシウムの濃縮係数はあまり変化がないので,同じ程度の汚染レベルと考えておいたほうが良いでしょう。暫定基準値よりは低く,大量に毎日食べるものでもありませんし,市場に流通して集団的に摂取されるものでもありませんから,実害は皆無に近いと考えてよいと思います。しかし,こんな遠くの河川でも,あのおいしい天然アユにセシウムが入ってしまっているかと思うと,なんとも気分がよくありません(文責/MWS)。
2011年5月26日(3)
地震直後、圧力容器破損か 福島第1原発1号機
2011年5月25日 23時59分
東京電力福島第1原発事故で、東日本大震災の地震発生直後に1号機の原子炉圧力容器か付随する配管の一部が破損し、圧力容器を取り囲む原子炉格納容器に蒸気が漏れ出ていた可能性を示すデータが東電公表資料に含まれていることが25日、分かった。
1号機への揺れは耐震設計の基準値を下回っていたとみられ、原子炉の閉じ込め機能の中枢である圧力容器が地震で破損したとすれば、全国の原発で耐震設計の見直しが迫られそうだ。
格納容器の温度データを記録したグラフでは、3月11日の地震直後に1号機の格納容器で温度と圧力が瞬間的に急上昇していたことが見て取れる。1号機では温度上昇の直後に、格納容器と圧力容器を冷却するシステムが起動し、格納容器内に大量の水が注がれた。
データを分析した元原発設計技師の田中三彦氏は「圧力容器か容器につながる配管の一部が破損し、格納容器に高温の蒸気が漏れたようだ」と語った。
東電は「空調の停止に伴う温度上昇。破断による急上昇は認められない」としているが、田中氏は「空調の停止なら、もっと緩やかな上がり方をするはずだ」と指摘している。
(共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011052501001195.html
筆者は1号機の,地震直後の圧力容器の急激な圧力低下が注水によるものなのかLOCA(破断事故)によるものなのか,メディアの情報では判別がつかずに歯がゆい思いをしましたが,ようやく決定打が出てきました。地震直後に格納容器の温度と圧力が急上昇していたのなら,破断事故は確実に起きていたでしょう。まして田中三彦氏がデータを見ているのなら間違いないように思います。1号機は,地震により破断事故を起こしていたわけです。
それにしても,今回の原子力災害関係の重要な報道発表は,決まって夜半に行われています。保安員や東電の記者会見もずっと夜中にやっていました。社会が寝静まった頃にシビアアクシデントの発表をしたいのかもしれません。しかしメディアも東電も重要なことに気付いていません。2ちゃんねらを始めとするネット貼り付き型の方々は,めっぽう夜に強く,夜間に重要な情報をweb更新しようものなら,絶好の拡散タイミングであるのです(画像/MWS)。
2011年5月26日(2)
「子どもには年1ミリシーベルト適用を」山内神戸大教授
福島第1原発事故で放射線が検出された福島県内の小中学校について、国が屋外活動制限の可否を判断する目安とした年間の積算放射線量20ミリシーベルト。「子どもが浴びる線量としては高すぎる」「放射線の専門家でもそこまでの被ばくは少ない」などの研究者の懸念に対し、国は暫定措置であることを理由に譲らない構えだ。「子どもには年1ミリシーベルトを適用すべき」と4度にわたって国に申し入れている神戸大大学院海事科学研究科の山内知也教授(放射線計測学)に聞いた。(黒川裕生)
年20ミリシーベルトは国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告する一般人の限度の20倍で、事故復旧時の「現存被ばく」の参考レベル上限値だ。
ICRPは3月21日に公表した見解で「長期的な目標としての参考レベルは、年1ミリシーベルトに低減させることを視野に1〜20ミリシーベルトの範囲から選択することを勧告する」としている。1〜20ミリシーベルトの範囲なら、放射線感受性が大人より高い子どもには、厳しい基準である1ミリシーベルトを選択すべきだ。
1ミリシーベルトが基準の場合、福島県内の大半の学校が対象になる。
「学校の休校や疎開が必要になり、子どもが受けるストレスが大きい」と主張する専門家がいるが、この状況下では生命や健康を守ることを優先すべきだ。避難後の生活への不安からとどまっている人も多いだろう。「避難する人には補償する」と国がきちんと示す必要がある。補償の仕組みを明確にした上で、子育て世代を早急に県外に避難させた方がいい。
現在の世界の放射線防護対策は、広島、長崎の被爆者の健康調査に基づく。
例えば、100から200ミリシーベルト程度の比較的低線量の放射線を一度に浴びた場合、人体にどんな影響があるのか。「よく分からない」が研究者の共通認識だった。しかし米科学アカデミーが2005年の報告書で「たとえ低線量であっても安全といえない」と指摘している。それまでの概念を覆す内容だが、日本ではこのリポートはほとんど顧みられていない。
旧ソ連・チェルノブイリ原発事故の影響を調べるため、スウェーデンの学者が同国北部の大規模な疫学調査をした。
114万人を対象にした8年にわたる調査で、セシウム137の土壌汚染とがん発症率の間に関連がうかがえた。1平方メートル当たり100キロベクレルの汚染地帯では、がんの発症率が11%も高かった。
国が5月6日に発表した福島県の汚染マップでは、1平方メートル当たり3000〜1万4700キロベクレルの汚染地帯が帯状に広がり、原発から60〜80キロ圏でもスウェーデン北部を上回る高濃度の汚染が確認できる。現行の避難計画が適切だとは思えない。あらためて基準や計画の見直しを求めたい。
【セシウム137要注意 半減期は30年】
山内教授によると、当初被ばく線量が懸念された放射性物質のうち、ヨウ素131は半減期が8日と短いため、2カ月が経過した今、注意すべきは半減期が30年と長いセシウム137になっている。
校庭の土に付着したセシウム137から受ける1年目の影響が年20ミリシーベルトと仮定すると、積算で小学1年生は小学卒業までに113ミリシーベルト、中学卒業までに164ミリシーベルトを受けることになるという。164ミリシーベルトは、胸部CT検査ならば10数回分に相当する。
全体の放射線量が減少傾向にある中、国は「今の値を超えない限り、健康被害はない」として除染を見送っており、モニタリング調査や屋外活動の時間制限を重視する。
山内教授は子どもの健康の観点から「放射線を教える者として、感受性の高い子どもにこのレベルの線量の被ばくを認めるわけにはいかない」と批判している。
(2011/05/24 10:15)
http://www.kobe-np.co.jp/news/kurashi/0004098692.shtml
ひじょうに重要な記事が,地方紙の,「くらし欄」にひっそりと掲載されるというのは,いかに日本が異常な国かということを表しています。危ないから逃げろ,危険なものは避けろ,実際に危ないことは過去の研究でわかっている,といった,いわば当たり前のことが当たり前に報道されないという国に住んでいることは,日本国民として(脱力…)自覚しておいた方がいいでしょう。この記事をまだ読んでいなかった人は,繰り返し読んでみてください。現在進行していることがどのようなものなのか,判断材料になるかもしれません(画像/MWS)。
2011年5月25日
非常用復水器停止は手動操作…手順書通りと東電
福島第一原子力発電所1号機で、東日本大震災による津波襲来の前に緊急時の炉心を冷やす「非常用復水器」が一時停止したのは、作業員が手動で操作したためだったことが東京電力が23日、経済産業省原子力安全・保安院に提出した報告書で明らかになった。
装置が正常に作動すれば、炉心溶融(メルトダウン)を遅らせることができた可能性も指摘されるが、東電は、手順書通りの妥当な操作としている。
報告書によると、地震で外部電源は喪失したが、大きな配管破断などはなく、津波が押し寄せるまで、1〜3号機とも、非常用電源が起動していた。
運転中の1号機は、3月11日午後2時46分の大震災直後、原子炉に制御棒が挿入されて緊急停止。6分後、「非常用復水器」が自動起動し、冷却が始まった。その11分後の午後3時3分に停止した。
手順書では、原子炉の温度低下が1時間に55度を超えないよう冷却を調整することになっている。東電は、非常用復水器によって冷却が進み、100度以上温度が低下したため、作業員が停止操作を行ったとしている。
この後、作業員が非常用復水器を再作動させたが、同日午後3時半過ぎ、津波によって「非常用復水器の配管破断」を検出する直流電源が失われた。電源喪失すると、自動的に配管破断を知らせる信号が出て、そのため非常用復水器の隔離弁が閉じ、再び停止した。
作業員は、電源喪失の信号で、隔離弁が閉じた可能性があるとみて調べたところ、弁が閉じていたため、手動で弁を開けたとしている。
(2011年5月24日11時46分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110524-OYT1T00433.htm
非常用復水器の停止問題については,すでに5月18日付けの本欄で解説しましたが,上記の記事に見るように,手順書にしたがって1時間に55度以上の温度変化を与えないような配慮に基づいたものであったことが明らかになりました。この操作が妥当であったかどうかは判断が難しいところですが,地震後11分で手動停止をかけているということは,まだ全電源損失前で,運転員も,外部電源は数時間程度で回復すると思い込んでいたことでしょう。受電用の鉄塔が倒壊したとの情報は,まだ届いていないのではないかと推測します。そして当然,津波も来ていません。
この状況で,地震によるスクラム直後に,何らかの原因で急激な圧力低下により原子炉温度が急低下したわけで,圧力容器を保護するために非常用復水器を一時的に切ったのは,やむを得ないように筆者は思います。ただ,問題なのは,このあとで非常用復水器を再作動させるタイミングが良かったかどうかという点です。津波が押し寄せ,全電源が喪失し,現場は混乱の極みにあったと想像されますが,唯一,原子炉(1号機)を冷却できる装置が非常用復水器なわけですから,これの動作から目を離さないというのは基本中の基本だと思います。それが守られていたのか,そこは厳しく検証して欲しいところです。
いずれにせよ,炉の損傷,水素爆発は避けられなかったと筆者は考えていますが,それでも最適な運用がされたかどうかは,記録に残して今後の教訓にして欲しいと思います。
さて,もう一件
福島第一 水配管津波前に損傷
2011年5月24日 07時00分
福島第一原発の事故で、大津波が到達する前に、1、2号機の原子炉冷却に使う水タンクの配管などが地震によって損傷していたことが、東京電力の公表資料から分かった。東電は事故の主な原因を津波としているが、今回判明した損傷などの評価によっては、耐震設計の見直しも迫られそうだ。
公開された三月十一日の地震直後の運転日誌や中央制御室の白板の写しには、津波が到達する三十分ほど前の午後三時六分、1号機では「純水タンク フランジ部(腕3本)漏えい確認」の記述がある。このタンクは屋外にあり、必要に応じて原子炉や使用済み燃料プールに冷却水が送られる。地震で配管の継ぎ目から水漏れが発生したとみられる。
2号機では同十六分に、「コアスプレー」と呼ばれる非常時に原子炉を冷やす注水系統に不具合が生じ、警報が鳴った。タンクからの冷却水が漏れたとみられる。
いずれのケースも、後に津波に襲われたため、どこまで原発の安全性に影響があったのか判別は難しいが、少なくとも注水経路の切り替えが必要になるなど初期対応に影響した可能性はある。
現行の原発耐震指針では、圧力容器や格納容器、制御棒などは安全設計上最も重要な設備の「Sクラス」に分類され、建築基準法の三倍の強度が求められる。しかし、純水タンクはその二つ下の「Cランク」で、一般の建築物と同等とされている。
1号機では、非常時に原子炉を冷やすための非常用復水器が本震直後から約三時間、止まっていたことが分かっている。東電はマニュアルに従って手動停止した可能性を強調しているが、地震による損傷の影響についても「否定はできない」としている。
(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011052490070012.html?ref=rank
地味な記事ですがかなり重要なことを述べています。まず,水タンクの配管,コアスプレーが地震で損傷したということです。3/11の本震では,ひじょうに大きな揺れが長い時間続き,言葉では表しにくいのですが,スロッシングを効率的に誘発するような波でした。筆者は,揺れの最中,スロッシングにより石油コンビナートで大火災が発生し,原発が損傷し,震源に近いところに高層ビルがあればポッキリ折れたのではないかと想像しながら顕微鏡デスクを押さえていました。実際スロッシングによる被害は見られたのですが,原子力発電所では報告がありませんでした。
この記事によれば,水タンクの配管の継ぎ目が壊れているわけですから,スロッシングの影響があったものと見てよいかと思います。3/11の本震では,学校のプールや,池など,地面にある水溜からも水が外部に飛び散りました。それほどのエネルギーがあったわけですが,水タンクなどは,水が外に飛び散ることはないかわりに,その運動エネルギーがタンクの片側にかかりますから,タンクが変形,あるいは歪むなどして,配管部などに応力集中すれば容易に破壊に結びついたことと想像されます。
さて,この記事のもう一つ重要な情報は,純水タンクの耐震基準が「Cランク」だったということです。筆者は,これは初めて知りました。原子力発電所が地震に耐えて正常に停止するためには,原子炉や格納容器はもちろんのこと,非常用電源,受電設備,ECCS系の水タンク,再循環ポンプ等の配管,二次冷却水取水設備…など,あらゆる設備の耐震基準がSランクであるべきでしょう。純水タンクは,言い換えれば,原子炉冷却材タンクですから,きわめて重要な設備です。
全国にある原子力発電所の純水タンクも,耐震基準Cランクで設計されているのでしょうか。これは見逃せない問題ではないでしょうか(文責/MWS)。
2011年5月24日
班目氏は「でたらめ委員長」…亀井氏が批判
国民新党の亀井代表は23日、大阪市内で講演し、東京電力福島第一原子力発電所1号機への海水注入を巡り内閣府原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長が菅首相に対し「再臨界の可能性はゼロではない」との見解を示したことについて、「でたらめ委員長が修羅場であんなことを言っている」と厳しく批判した。
「日本の危機を迎えたその場において、原子力安全委員会の責任者が、そういうことしか首相にアドバイスできない」とも語った。
また、亀井氏は、菅政権の見通しについて、「今のところは、よたよたしながら続いていくが、そんなことでは震災対策でろくな政治ができない。小沢(一郎民主党)元代表を座敷牢(ろう)から出すべきだ。党内が結束しないで野党に協力を求めても乗るわけがない」と述べた。
(2011年5月23日18時27分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110523-OYT1T00930.htm
きょうはつれづれ日記的にだらだらと書き流します。
筆者のお気に入りのブログでは5月1日に,「この分だと「まだらめ」さんではなく「でたらめ」さんと呼ばれるようになる日も近そうだ。」との見込が書かれていましたが,なるほど約3週間で予想が的中しています。
斑目氏は,その経歴とweb上でアクセス可能なペーパー類を見るところでは,熱工学分野が専門であって,原子炉工学,特に原子力発電所の運転特性や燃料集合体の熱特性については専門には見えません。彼は菅直人首相に向かって,原発は爆発しないとアドバイスしたそうですが,それからまもなく1号機が爆発,ほかの3機も大小の爆発を起こして放射能をまき散らしたのは皆が知るとおりです。
冷却が追いつかなければ,燃料被覆管のジルコニウムが水と反応して水素が発生し,爆発に至ることは筆者でも予想できたことですから,斑目氏がわからなかったというのは意外な気がします。いくら熱工学が専門とはいえ,知らなかったでは済まされないレベルの問題です。それとも,斑目氏は,即発臨界による圧力容器の爆発は起きない,という意味で言ったのでしょうか。あるいは他の意味があったのでしょうか。
再臨界の可能性にしても,このタイプの古い炉は,(再臨界防止という意味合いでの)本質安全設計になっていないので,燃料集合体が溶融して崩れ落ちた場合に,そこで中性子と燃料がどのように振る舞うかは誰にもわからない領域の話だと思います。確かに,決められた配置の時に臨界に達するように燃料集合体は設計されていて,これが崩れれば簡単に臨界しないということは理論的には言えます。しかしスクラム直後から,原子炉の中がどうなっているのか誰にもわからない状態が続いたわけで,再臨界が絶対に起こらないとは,なかなか言えるものではないと思います。
また,この時期に及んで,海水注入の一時中断が事態の悪化を招いたかのように報道されていますが,そもそも消防用ポンプで原子炉内に水を注入するというのは,すべての安全装置が不能になったあと仕方なくやっていることであり,これは原発事故の正式なリスク管理としての「対処」ではないのです。「消防用ポンプで原子炉内に海水を入れればメルトダウンが回避できる」ようには,誰も設計していないのです。もともと負け戦の状態になっていることこそがきわめて重大な問題なのであって,海水注入の一時中断などという敗戦処理の一つの判断ミスを政権への攻撃材料にするなど,勘違いも甚だしいと筆者は思います。
ところでこの斑目氏は,Wikipediaにも記載があるのですが,毎日見ているとちょこちょこ書き換えられているように見えます。昨日は一瞬だけ,こちらのように書かれていました。
事故が起きれば国家予算をも揺るがしかねない損害が発生し,大切な国土が失われ,人々はふるさとを失い,多くの人が被曝する。このような危険を持つ原子力の安全性を確保するには,原子力安全委員会が強力な権限を持ち,事故が起きないように不断の指導を行うべきだったでしょう。もちろん,委員は,原子炉工学はもとより,あらゆる工学の知識,気象学,生態学,海洋学,社会学,都市工学,基礎生物学,防災,医学などの知識を持つスタッフと,実際に原子炉を運転してきた経験者,原子炉を設計した技術者などもあわせて構成すべきでしょう。それでいてはじめてアドバイスもできるというものです。
こんかい斑目氏はでたらめ委員長と呼ばれてしまいましたが,原子力安全委員会自体が機能不全に見えている現状では,むしろでたらめ委員会と呼んだ方がいいのではないかと筆者は思います。原子力安全委員会にしろ,原子力安全保安院にしろ,チェルノブイリ級の事故も想定できない方々の集団ですから,でたらめなのは仕方がないのかもしれませんが。だいたい,委員を承認するのは国会なのです。国会もでたらめ国会なのです。
*1 まじめに事故を想定したら,その存在は許されるものではない,というのが原子力というものだと筆者は考えています。ついでに言うと,斑目氏が委員に選出されるときに日本共産党は反対しています。まともな見識です。斑目氏はけっこう前からいい加減なことを言うという指摘があって,日本共産党はきちんとその辺りを調べていたのでしょう。
ところで,きょう(23日)は参議院 行政監視委員会がありました。
こちら(1/2)
こちら(2/2)
でその内容を見ることができます。参考人は石橋克彦,小出裕章,後藤政志,孫正義の各氏です。筆者は,孫氏を除いた3人とは,10年くらい前からシンポジウムや懇親会などで何度かお会いしたことがあります。今回の原子力災害のようなものを起こしてはいけない,そういう思いから20年くらい(のらりくらりとではありますが)勉強してきたわけで,そうすると,この3人には必ずどこかでお会いすることになるのです。
志はみな同じです。こんな巨大災害を起こしてはならないのです。その信念を曲げることなく長年活動してきた方々の声が少しも届かず,国や電力は原発増設を進め,ついに甚大な災害を起こすことになりました。
すると今度は,原子力の危険性,原発震災の可能性,原子炉の耐震性に関して警鐘を鳴らしてきたこの3人が,参考人として参議院行政監視委員会に呼ばれ,委員の人たちは,この3人にレクチャーを受けて勉強することになるわけです。親切にレクチャーする参考人には心底,感心・尊敬しますが,その一方,もはや筆者のはらわたは限界まで煮えくりかえっています。
皆さん,おかしいと思いませんか。
これだけ問題のある原子力の危険性について,チェルノブイリを越える事故が起きてから,参議院の委員会でようやく勉強が始まるんですから。国会議員を始めとして,多くの国民が,この3人の意見に耳を傾けていれば,こんにちの事態は防げた可能性もじゅうぶんにあったわけです。それが,質問もきちんとできないほどに不勉強な議員が多いことは,上の動画を見れば一目瞭然です。
さて,これから起こるかも知れない原子力災害を想定して,国民の多くはこれから,この3人の意見に耳を傾けはじめるでしょうか(文責/MWS)。
2011年5月20日(2)
神奈川の9浄水場汚泥から放射性物質 水道水は安全
2011.5.19 22:22
神奈川県営水道寒川浄水場など県内9カ所の浄水場の汚泥から放射性物質のヨウ素とセシウムが検出されたことが19日、県などの発表で分かった。いずれの浄水場も水道水の検査では不検出が続いており、水道水の安全性に問題はないという。
汚泥から放射性物質が検出された浄水場は寒川(県営水道)▽谷ケ原(同)▽西長沢(県内広域水道企業団)▽相模原(同)▽伊勢原(同)▽綾瀬(同)▽西谷(横浜市水道局)▽長沢(川崎市上下水道局)▽生田(同)−の9カ所。
最も高い値が出たのは、セシウムは生田浄水場の1キロ当たり5250ベクレル、ヨウ素は綾瀬浄水場の同643ベクレルだった。県営水道の鳥屋と横須賀市上下水道局の有馬の両浄水場の汚泥からは、いずれも検出されなかった。
検査は、県内の下水処理場の汚泥から放射性物質のヨウ素とセシウムが検出されたのを受けて実施された。福島県内の下水処理場の汚泥から放射性物質が検出された際、国は同県への通知で1キロ当たり10万ベクレルを超えた場合の保管を求めているが、浄水汚泥の基準はなく、県と横浜、川崎の両市は園芸用土などに再利用する汚泥の搬出を停止している。
http://sankei.jp.msn.com/region/news/110519/kng11051922230003-n1.htm
これはかなり重要な情報です。まず内容を確認して欲しいのですが,この記事で「汚泥」と呼んでいるのは,浄水場 drinking water supply,つまり飲料水製造過程で出る沈殿物のことです。上の記事にある浄水場は,一施設の一部を除けば急速ろ過処理を採用しています。この処理法は,原水(ほとんど河川水と考えていいです)にポリ塩化アルミニウムなどの凝集沈殿剤を加えてかき混ぜ,その水を静置して微粒子を大きな沈殿物に成長させ,それを砂ろ過しています。砂は目づまりするので,ときどき逆から水を通して洗浄します。このとき出てくる汚れが「汚泥」です。この汚泥は焼却灰ではありません。脱水して固めた程度のもので,まだ水をかなり含んでいるものです。
この汚泥の成分は,もとの河川水に含まれていたもので,この記事の浄水場では,ほとんど相模川表流水を原水としています。現在の時期であれば,汚泥の主成分は微細な粘土鉱物,流下藻類,細菌類,原生生物などと考えられます。これらをかき集めれば放射性セシウムが5000ベクレル/Kgになる,と記事を解釈できます。
ダム放流データが手元にないので推測が入りますが,汚泥の中身は数割が生物体と考えてよいのではないかと思います。放射性セシウムは粘土鉱物にも生物にも含まれて移動しますが,今回の汚泥のデータは,生物体の汚染の目安になる可能性があります。相模川水系の藻類やバクテリアの放射性セシウム濃度が1キログラム当たり1000ベクレルを越えている可能性が出てきました。すると,相模川においても,アユなどの水産生物で放射性セシウムの汚染が確認されることになるかもしれません。モニタリングが必要です。
この記事では放射性ヨウ素も検出されています。すでに事故から二ヶ月以上を経過していますが,半減期8日の放射性ヨウ素がこれだけ残っているのが不気味です。3月下旬〜4月にはどのくらいの値だったのでしょうか。早い段階での測定が必要だったと思います(文責/MWS)。
5月20日23時03分追記: 汚泥は乾燥状態との報道もあります。寒川の値は乾燥汚泥と報道されています。そうだとすると,上の筆者の文章は,その数値を1/10〜1/5程度で解釈するとよいと思います。
2011年5月18日
手動停止 圧力低下を避けたか
5月17日 12時21分
東京電力福島第一原子力発電所の1号機で、津波が到達する前に非常用の冷却装置が停止したのは、原子炉の急激な圧力の低下を避けようとした運転員が手動で装置を止めた可能性があるとみられています。
東京電力は、16日、3月11日に地震が発生してから津波が到達して電源を喪失するまでの福島第一原発の運転状況を示す記録を公表しました。このうち1号機では、地震で原子炉が自動停止したあと、午後2時52分に「非常用復水器」と呼ばれる冷却装置が起動しましたが、およそ10分後の午後3時ごろに停止し、津波が到達したあとの午後6時すぎまでおよそ3時間にわたって止まっていたことが明らかになりました。この原因について、東京電力は、原子炉の中の圧力が70気圧から45気圧まで急激に下がったため、運転員が原子炉の損傷を避けようとして手動で装置を停止させた可能性があるとしています。「非常用復水器」は、すべての外部電源が失われても原子炉を冷やすことができる装置でしたが、機能を十分に果たせていなかったことになります。東京電力は地震が起きたあと、翌日12日の午前0時半の発表まで、1号機の「非常用復水器」は作動していると発表していました。これについて、東京電力は「停止の判断は、原子炉を損傷させないための手順書に従って行った可能性もある。非常用復水器が動いていれば、炉心の溶融までの時間を稼ぐことはできたかもしれないが、止めるまでの経緯やその措置が正しかったかは、今後、調査したうえで評価したい」と話しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110517/t10015934421000.html
いろいろなメディアが,一号機の非常用復水器の手動停止についてとりあげて報道しています。確かにそのことも問題ですが,この記事にはもっといろいろな問題が潜んでいるように思います。
・非常用復水器は全電源喪失で作動させる最終手段なのでは?
・津波前なのでECCS系統がディーゼル電源で作動していてもよいのでは?
・急減圧は非常用復水器の注水によるものなのか?
・それとも急減圧は配管破断による冷却材/蒸気漏れが原因か?
・非常用復水器の水は圧力容器に入っていたのか?
などいろいろ問題があります。全電源喪失前に非常用復水器が働いていたということは,もうそれしか働かない状況に追い込まれていた可能性があります。また,非常用復水器を手動停止したことが正しいかどうかは,運用手順を参照しなければわかりません。原子炉の圧力容器は非常に肉厚で複雑な構造の金属塊です。運転中は非常に複雑な熱分布になり,また,中性子をつねに浴びていますので,金属が中性子脆性で劣化します。その結果,もろくなり,高い温度でも壊れやすくなります。
熱衝撃,加圧衝撃はもっとも危険なものの一つです。急な温度変化が炉の温度不均一をもたらし,その熱応力で炉が破壊する可能性があるからです。この危険を避けるため,原子炉は通常運転時の温度変化は1時間に55℃以内になるように決められています。ですから,1号機で見られた10分間で25気圧低下という変化率は,明らかに,1時間に55℃以上の変化率を超えますから,それ以上の温度変化を避けるために非常用復水器の手動停止が運転員の頭に浮かんでも不思議ではありません。
もちろん,緊急事態ですから,本来は注水すべきだと思います。しかし加圧熱衝撃は,原子炉の圧力容器の大規模破壊を引き起こす可能性のあるものとされていますので,注水による破局的事故を避けたいという判断が働いたのかもしれません。どちらがより重大な事故に進行するのか判断ができなかった可能性があります。また,非常用復水器が8時間程度動いたとしても,結局は全電源損失,バッテリー放電になり,冷却剤喪失事故となり,炉心溶融となることは避けられなかったと思われます。こうしたことを考慮すると,非常用復水器の手動停止を問題視する報道はまだ早いと感じます。何が起きていたのか,より詳細に時系列に示してもらわないことには,何がよくて何が悪かったのか,判断はむずかしいと思います(文責/MWS)。
2011年5月16日
1号機、津波前に重要設備損傷か 原子炉建屋で高線量蒸気
東京電力福島第1原発1号機の原子炉建屋内で東日本大震災発生当日の3月11日夜、毎時300ミリシーベルト相当の高い放射線量が検出されていたことが14日、東電関係者への取材で分かった。高い線量は原子炉の燃料の放射性物質が大量に漏れていたためとみられる。
1号機では、津波による電源喪失によって冷却ができなくなり、原子炉圧力容器から高濃度の放射性物質を含む蒸気が漏れたとされていたが、原子炉内の圧力が高まって配管などが破損したと仮定するには、あまりに短時間で建屋内に充満したことになる。東電関係者は「地震の揺れで圧力容器や配管に損傷があったかもしれない」と、津波より前に重要設備が被害を受けていた可能性を認めた。
第1原発の事故で東電と経済産業省原子力安全・保安院はこれまで、原子炉は揺れに耐えたが、想定外の大きさの津波に襲われたことで電源が失われ、爆発事故に至ったとの見方を示していた。
地震による重要設備への被害がなかったことを前提に、第1原発の事故後、各地の原発では予備電源確保や防波堤設置など津波対策を強化する動きが広がっているが、原発の耐震指針についても再検討を迫られそうだ。
関係者によると、3月11日夜、1号機の状態を確認するため作業員が原子炉建屋に入ったところ、線量計のアラームが数秒で鳴った。建屋内には高線量の蒸気が充満していたとみられ、作業員は退避。線量計の数値から放射線量は毎時300ミリシーベルト程度だったと推定される。
この時点ではまだ、格納容器の弁を開けて内部圧力を下げる「ベント」措置は取られていなかった。1号機の炉内では11日夜から水位が低下、東電は大量注水を続けたが水位は回復せず、燃料が露出してメルトダウン(全炉心溶融)につながったとみられる。
さらに炉心溶融により、燃料を覆う被覆管のジルコニウムという金属が水蒸気と化学反応して水素が発生、3月12日午後3時36分の原子炉建屋爆発の原因となった。
2011/05/15 02:02 【共同通信】
http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011051401000953.html
1号機16時間後にメルトダウン 短時間に温度上昇
2011年5月15日 21時22分
東京電力は15日、福島第1原発1号機でメルトダウン(全炉心溶融)が起きたのは、地震発生から16時間後の3月12日午前6時50分ごろだったとの暫定評価を明らかにした。
震災後、短時間で温度が急上昇して大部分の燃料が原子炉圧力容器の底に溶け落ちるという危機的状況を迎えていたことが分かった。東電が1号機の燃料の70%が損傷したと発表したのは3月16日だった。
東電によると、地震直後の自動停止から3時間後の11日午後6時ごろには燃料の上部まで水位が下がり、温度が上昇し始めた。同日午後7時半ごろには、燃料損傷が始まり、12日午前6時50分ごろには大部分の燃料が落下したという。
(共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011051501000664.html?ref=rank
筆者がくりかえし事態はまだ何もわかっていない(ちゃんと報道されていない*1)と述べてきたのは,↑のようなことがこれからも小出しにされる可能性があるからです。電力会社は,これまでも,原発事故の情報を隠蔽する一方で,原発の安全キャンペーンや,原発の一定出力運転を利用したオール電化,深夜電力利用の普及は手抜きなく行ってきました。やばそうな情報はまず隠す,という習性が徹底して身に付いているように見えるので,今回もその習性が遺憾なく発揮されたものと思います。
今回の原子力災害は,事故のきっかけは地震によりもたらされましたが,震度6強程度の地震では,原子力損害賠償法の免責条件を満たさない可能性が高いので,地震により原子炉が故障したという情報は最後まで伏せる方針だったものと想像します。その代わりに,津波により壊れたことにすれば,うまくいけば,免責されると考えたに違いありません。
上に紹介した記事を見ると,唯一初期注水が可能であったと推測される非常用復水器の動作については書かれていないので,コメントがしにくいのですが,早い段階で原子炉水位が低下して燃料溶融が起きていますので,地震により配管などが破断し冷却水損失事故(LOCA)が起きていたものと考えるのが合理的と思います。
これは非常に重大なことです。仮に電源喪失がなく,緊急炉心冷却装置ECCSがすべて正常に作動した場合でも,LOCAの程度によっては炉心溶融,水素爆発,放射性物質の大量放出が避けられないことになるからです。津波がなくても,地震による損傷だけで,一号機のような事故が起こる可能性があるのです。
事故の初期に東電内部で当然把握していたことが,なぜ今ごろ新聞発表されたのかというと,東京電力が,原子力損害賠償法の免責をあきらめるのに,2ヶ月かかったからだと,筆者は想像しています(文責/MWS)。
*1 部分的には報道されていますが正確ではありませんでした。たとえばNHKは4月8日に,核燃料が水から露出するのに一号機では18時間ほどだったと報道しています。今回の報道ではそれよりずっと早いことになっています。
*2 筆者が先月参加した原発震災の勉強会では,講演者の何人かが,一号機の事故はLOCAの可能性が高いと解析結果を発表していました。その通りであった可能性が高くなりました。
*3 津波で壊れてしまったが,この巨大地震でも原発がきちっと停止できたのは素晴らしいと発言した経済人が何人もいましたが,事実はそうではなかったわけです。これからも,「事実」がどんどん出てくることでしょう。
2011年5月15日(2)
福島 川魚3品目で放射性物質(5月14日 5:30更新)
福島県内の川で取ったアユなど3品目の魚から、国の暫定基準値を超える量の放射性物質が新たに検出されたことが分かりました。
いずれも現在、漁が行われていないため、市場には出回っていないということです。
厚生労働省によりますと、今月8日にいわき市の川で取ったアユから国の暫定基準値の「1キログラム当たり500ベクレル」を上回る720ベクレルの放射性セシウムが検出されたほか、今月10日に北塩原村の檜原湖で取ったワカサギからも870ベクレルの放射性セシウムが検出されたということです。
川や湖に住む淡水魚から国の基準値を超える量の放射性物質が検出されたのは初めてですが、いずれも漁が禁止されている時期のため、市場には出回っていないということです。
このほか、今月9日にいわき市沖の海で取ったシラスからも560ベクレルと850ベクレルの放射性セシウムが検出されたということですが、現在、福島県のすべての漁協が漁を行っていないため、市場には出回っていないということです。
厚生労働省は「仮に食べたとしても直ちに健康に影響を及ぼす数値ではない」としていますが、引き続き調査を続けることにしています。
http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20110514/0530_kawazakana.html
放射性物質による汚染は生物種や栄養段階,生息環境などにより大きく異なります。放射性セシウムの生物による濃縮は1960年代頃にたくさん調べられ,ある程度の知見が蓄積されています。コロンビア川で調査された放射性セシウムの濃縮についてみると,
・水(3×10-6μc/ml)
・この水の中で増殖した藻類で水の1000倍
・その藻類を食べる植食性動物Aで水の3000倍
・植食性動物Aを食べる動物で水の9000倍
Pendleton, RC: Biological Problems in Water Pollution (3rd Seminer), 355, (1965)
同じコロンビアでの別の研究でも,環境水中と生物中の放射性セシウムは
・藻類(Stigeoclonium) 濃縮係数 1000-5000
・昆虫幼虫(Hydropsyche) 濃縮係数 1000
・魚類(Richardsonius) 濃縮係数 5000-10000
Foster, RF: The need for biological monitoring of radioactive waste streams. Sew. a. Industr. Wastes, Vol.31, No.12, p. 1409.
となっています。放射性セシウムは水から藻類に取り込まれる段階で最も濃縮(1000倍)され,それを食べる動物では,藻類の数倍程度まで蓄積されることが示されています。この調査結果は淡水生態系のものであり,海ではこの濃縮係数が適用できないことに留意して下さい。
Richardsoniusは国内には生息していないと思われますが,日本の淡水魚で近縁なものはウグイやアブラハヤなどが該当します。どこにでもいる魚です。関東圏であれば「ハヤ」といった方が通じるかもしれません。筆者の大切な遊び相手でした。これまでに釣ったり手づかみしたり飼育したりと,何百〜何千のハヤと遊んだことか…。ウグイは川魚料理としては比較的メジャーな存在で福島県内でも利用されています。
今回,魚から検出された数値から逆算してみると,環境水中の放射性セシウム平均濃度は1キログラム当たり約0.5ベクレル以下となります。これは上水道なら検出限界以下ということになります。水には放射性物質がはいっているようには見えないのに,生き物からは高いレベルの放射性セシウムが検出される。これが生物濃縮の恐ろしさです(文責/MWS)。
*1 文献は原典を示していますが,筆者が参考にしたのは次の本です。
清水誠 海洋の汚染−生態学と地球化学の視点から− 築地書館 1972年
2011年5月15日
きょうは筆者が重要と考えるリンク先を2件紹介させていただきます。
こちら
こちら
です。リンク先は予告なく消えることがありますので早めにご参照ください(文責/MWS)。
2011年5月14日(2)
足柄茶、2町で基準値超える 神奈川、生葉から検出2011年5月13日 21時22分
神奈川県産の「足柄茶」の生葉から相次いで暫定基準値を超える放射性セシウムが検出された問題で、県は13日、新たに真鶴町と湯河原町の生葉から検出したと発表した。県内で基準値を超えたのは生葉を生産する16市町村中、6市町村に広がった。県は「ただちに健康に影響が出るレベルではない」としている。
県によると、真鶴町では1キログラム当たり500ベクレルの暫定基準値を超える530ベクレル、湯河原町では680ベクレルを検出した。採取日はいずれも12日。
地元農協は11日に南足柄市で検出後、すべての足柄茶の出荷を見合わせていたが、基準値を超えなかった10市町村については近く出荷を再開する。出荷量は全生産量の約半分になるという。
生葉を蒸すなどした南足柄市産の荒茶からは1キログラム当たり3千ベクレルの放射性セシウムを検出したが、県農業振興課は「凝縮されて値が高くなったとみられる」としている。
また、12日に南足柄市で採取したホウレンソウからは放射性物質は検出されなかった。同課は「葉物野菜と茶葉とは違うようだがメカニズムが分からない」としている。
(共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011051301001034.html
いくつかの知りたいことが明らかになってきました。まず南足柄町で先日検出された放射性セシウムは,近隣の市町村からも検出されたことから,福島第一原子力発電所からの放射性物質が,広くこの範囲に降下したことがわかります。地形を考慮すると,海沿いに南西に向かった放射性物質が,箱根の山にさしかかる手前付近で山にぶつかり,トラップされたものと想像されます。
次に,乾燥茶葉(荒茶)になった段階で,放射性セシウムの濃縮が起こることが示されました。これは筆者の予想通りですが,先日の新聞報道では,乾燥茶葉にする段階でセシウムがほとんど除去されるという記事もあったのです。事実は必ず明らかになるでしょうから,荒茶の段階での測定値が報道されるのを筆者は待っていました。キロあたり3000ベクレルともなれば,混ぜて薄めるのも面倒です。ブレンドされて出回ることがないように願いたいものです。
出回り始めた荒茶なら,地方によっては葉っぱを食べる人もおられるでしょうから,初期の段階で汚染食品の報道がなされたことは幸いだったと思います。
同じ南足柄市で採取したホウレンソウからは放射性セシウムが検出されなかったとのこと。これも重要な情報です。
想像で仮説を書きます。興味ある方は参考にしてください。
チャノキの根は菌根を形成しているものと考えられます。菌根とは,菌類の菌糸と樹木の根が何らかの形で結合することですが,物質のやり取りも行っています。チャノキであればアーバスキュラー菌根を形成し,付近の貧栄養な土壌から菌根が栄養分を吸収して樹木に渡していると考えられます。一方,菌根はチャノキから光合成産物を得ているでしょう。菌類の菌糸は,森林土壌を覆い尽くすように張り巡らされているのがふつうです。こうした樹木と菌類のネットワークにより,森林の物質循環は行われています。
ところで,菌根を形成する菌は菌根菌とよばれますが,これは"きのこ"(子実体)を形成するグループもあります。きのこがセシウムを非常に濃縮しやすいことはむかしから知られていることです。ならば,菌根菌がセシウム濃縮タイプの種で,これがチャノキと菌根を形成しているのであれば,降下したセシウムを高大な面積から速やかに濃縮し,チャノキの新芽に蓄積されたとしてもおかしくありません。
ホウレンソウなどの畑作の野菜は,じゅうぶんに水も栄養も与えることができるので,ふつうは菌根形成を行わず栽培します。したがって葉面からの吸収はありますが,根からの吸収は比較的遅く,また降下量が少なければ放射性セシウムが高い値にはなりにくい(*1)と考えられます(文責/MWS)。
*1 これを逆に解釈すると,畑の葉物野菜から,基準を超えるほどの放射性セシウムが見つかった場合,それは大量の放射性降下物があったことを意味します。
*2 セシウムの溶脱は,山などの荒れ地では早く,畑の土壌などでは吸着されて遅いと考えら得ます。これも放射性セシウムがチャノキで濃縮されやすくホウレンソウで低いことの一つの原因なっていると考えられます。
*3 菌類はセシウムを濃縮するものが多いので,シイタケなどは,福島県内でも放射性セシウムの検出が続いています。
2011年5月13日
1号機燃料が一時全露出=圧力容器底部に溶融、漏出−福島第1原発・東電
福島第1原発事故で、東京電力は12日、1号機原子炉の燃料が東日本大震災後、すべて露出していた時期があった可能性が高いと明らかにした。燃料は溶融して圧力容器底部にたまり、一部は圧力容器を覆う格納容器に漏れ出たとみられる。
東電によると、圧力容器の底では、配管の溶接部分が溶融した燃料の熱で損傷。数センチレベルの穴が開き、溶融した燃料や注入した水がこの穴から格納容器に流出したとみられる。燃料が溶融した割合や程度は分からないという。
適正な測定ができなかった圧力容器の水位計を調整したところ、水位は本来の燃料集合体の頂部から5メートルより下を示した。圧力容器の高さは約20メートルで、水面の高さは最高でも底から4メートル程度にとどまる。
東電は現在、圧力容器に毎時8トンの水を注入しており、これまでの総量は1万トン以上に上る。圧力容器は360トン、格納容器は7600トンで満水になることから、蒸発分を差し引いても、相当量の水が漏れているという。
今後、格納容器を水で満たす冠水(水棺)作業のため、注水量の増加を検討するとともに、冷却水の循環システム構築についても見直しを進める。(2011/05/12-20:48)
(http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011051200959&j4)
この記事が事実を記載しているとすれば,ようやく,「何が起こったのか」が少しだけわかるような情報が出てきたといえるでしょう。この情報もあとからどのように訂正されたりするのかわかりませんが,事故から二週間程度の段階で,圧力容器も格納容器も破損しているだろうとの予想が出回っていましたので,たぶん今回は訂正されないのではないかと思います。
放射性物質は5重の壁に守られて環境中には出てこないから安全,というのが,原子力発電所のこれまでの説明だったのですが,まぁこの子どもだましのような説明は,原子力産業の方々も本気では信じていなかったでしょう。
・ウランは焼き固めてあり
・被覆管(ジルカロイ)で覆ってあり
・圧力容器に入っていて
・それが格納容器内に配置され
・コンクリートの原子炉建屋で守られている
これが5重の壁の説明ですが,ウランが焼き固めてあることを壁というのは詐欺的で,被覆管も放射線を防ぐためのものではありません。圧力容器は発電に必要なものですから,これを壁というのはちょっと変ですね。格納容器は設計思想から壁といってもいいでしょう。建屋についても同じです。
さて,今回の地震により福島第一原発に起きたことを5重の壁について見れば
・ウラン燃料が高熱を発し
・被覆管(ジルカロイ)が水と反応して水素を発生し
・圧力容器の破損部位または上部シリコン接続部または破断配管から漏れ
・格納容器内に水素が充満し
・格納容器または原子炉建屋内部で水素爆発が起きて
・建屋を吹き飛ばし
・破損した燃料からヨウ素,セシウムなどの放射性物質が放出された
と説明できるわけです。
壁のはずのウランペレットは発熱体ですから被覆管の「壁壊し機能」を持っています。被覆管のジルカロイは高熱で水と反応して水素を発生しますから「爆発性ガス生成機能」を持っています。この両者の協調作用により,(少なくとも福島タイプの炉は)原子炉は冷やすことができなければ,必ず壊れて爆発し,環境中に放射性物質をまき散らす「仕様」になっています。5重の壁という説明は,原子炉が正常に冷却できているときの話であって,冷却剤や電源が損失すれば,5重の壁は,必ず全部壊れる設計になっています。
この辺りの事情を知っている人は,水素爆発が起きて,その後に環境中から高い空間線量率が測定された段階で,燃料溶融・圧力容器・格納容器の破損を予想しただろうと思います。当然,東京電力は最初から,シナリオの一つとして予想していることと考えられます。それが記事として報道されるまでには,じつに二ヶ月を要しました。
実際には,まだ不明なことばかりだというのが筆者の認識です。事故についても,津波による電源損失前に,スロッシングによる破壊がどれだけあったのか,破断事故はあったのか,
隔離時冷却系はどのような動作をしたのか,燃料溶融はどの時点か(通常は冷却系が停止して24時間以内には溶融),ホウ素はどれだけ投入されたのか,海水はどのくらい入ったのか…,まだ情報がありません。汚染の実態についても,報道を見ているとわかった気になりますが,海・山・川の汚染状況や核種の情報,放射性物質の移動による濃縮や希釈について,まだほとんど何もわかっていないように筆者は感じています。事故の全体像が分かるまでには相当の時間がかかるだろうと思います(画像/MWS)。
*1 筆者は,何らかの形での爆発は避けられないと思っていましたので,HDDレコーダの録画をスタンバイして,爆発の瞬間を記録できるように待っていました。実際その通りになり,1号機,3号機の爆発は録画できました。NHKは,火山の爆発的噴火は素晴らしい映像を流すにもかかわらず,原発の爆発はその瞬間を流さず,爆発前と爆発後の建屋を比較して見せただけでした。節操なく何度も爆発映像を垂れ流す民放の方が,映像情報としてはまともでした。
2011年5月12日
神奈川の「足柄茶」が基準値超え 県内産の農産物で初
神奈川県は11日、同県南足柄市で9日に採取した「足柄茶」の生葉から、暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されたと発表した。同県産の農産物が暫定基準値を超えたのは初めて。
県は南足柄市などに対し、今年産の茶の出荷自粛と自主回収を呼び掛けた。県によると、足柄茶の生葉は県内17市町村で生産しており、他市町村の生葉の検査も早急に進める。
県によると、南足柄市の生茶から1キログラム当たり550〜570ベクレル(基準値同500ベクレル)の放射性セシウムを検出。放射性ヨウ素は検出されなかった。今年収穫された足柄茶は、6日に出荷が始まったばかりだった。
2011/05/11 17:07 【共同通信】
(http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011051101000625.html)
筆者はこの記事を最初にみたときに,乾燥茶葉1キログラムから放射性セシウム550ベクレルと勘違いしました。お茶は,ごはんのように大量に食べるものでもないので,そのくらいは許してあげましょうと一瞬は思いました。
しかしよく見ると,生茶1キログラムなんですね。これが乾燥茶葉になると,約10倍に濃縮されますから,1キログラムあたり5500ベクレルになります。お茶が好きな人は,一日10グラムくらいの茶葉を消費するでしょうから,55ベクレルです。一ヶ月で1500ベクレル以上…。もし放射性セシウムの摂取が他になく,このお茶だけから体内に入るのであれば,これは許容範囲でしょう。しかし実際は種々の食材にも,量は少ないながらも,放射性セシウムは入ってきますから,神奈川県の判断は妥当だということになります。
それにしても,福島県浜通りから遠く離れた神奈川県西部でも,こうした農産物汚染が進行している…。リスク的には低いにせよ,農産物の食べる価値が奪われてしまう。原子力災害とは,とてつもなく規模の大きい不利益をもたらすということを,再認識させる事件です(画像/MWS)。
2011年5月8日
原子力災害の情報に関連して,情報発信者の素性がわかることが大事ではないか,という問い合わせを複数いただきましたので考えてみます。
結論から言えば,情報発信者の経歴は,あまり参考にならないと思います。筆者は大学で海洋環境学を専攻し,海洋化学で学部,海洋生産学で修士と博士課程を修了しています。ですから,海洋についてはそれなりに専門家の素地は,ないとは言えません。しかし筆者がかつて私立大学で講じていた科目は「地域生態システム」といって,非常に幅広い環境分野を統合して講じるものです。原子力エネルギーも含まれます。ふつうなら,数人の教員がオムニバス形式で講じる科目ですが,筆者は一人でできますので,一人でやっていました。なぜ一人でできるのかというと,独学で十数年ずっと勉強していたからです。これとは別に,国立大学で「生物地球化学」とか「海洋生態環境学特論」などの講義を受け持ったこともあります。後者は顕微鏡の講義です,
これらの講義で,筆者の専攻分野の知識がどのくらい使われたかといえば,数パーセントがせいぜいでしょう。専門家が,専門の話を延々と続けることなど,ふつうはできるものでもないのです。
だいたい,「専門家」という言葉の定義をしっかりしないと,とても危険です。
勉強量と経験から言って,筆者は,顕微鏡の専門家といえなくはないでしょう。しかし,もっと厳密にいうと,「透過明視野で珪藻を覗く専門家」です。「蛍光染色で病理組織を覗く専門家」では決してありません。
専門家という言葉は,そのくらい狭い,一般人の理解しがたい言葉です。
ですから,原子力災害についても,「原子力の専門家」という言葉は,それほど大きな意味がないと考えていいでしょう。世の中には,反対派を装った推進派,中立派を装った推進派など,いろいろな人が跋扈していることは歴史が教えるとおりです。「専門家」についても然りです。
web情報を読む読者にとって大事なことは,情報発信者の履歴や素性ではなく,書かれた文章の一貫性,論理性,根拠,出典です。そしてそれを調べ直して,自分なりに解釈して構築する姿勢です。書いた人の素性など,どうでも良いことだと筆者は思っています。権威が書いたから信じる,専門家だからより安心できる,そういう情報の信じ方は,あまり推奨できるものではありません。筆者は,この「本日の画像」で情報提供しているわけですが,信じてもらうために流しているわけではありません。鵜呑みにしてほしくありません。用語を注意深く選択し,根拠はきちんとしていますから,読者は必要なら筆者の言うことの真偽を調べられるはずです。ぜひ,「本日の画像」を疑いの目で検証頂き,あら探しをしてもらえば嬉しいです(画像/MWS)。
*1 ついでにいうならば,独学ほど強いものはありません。ある人が,ある分野で10年間独学を続けていたならば,ぜひ話を聞いてみましょう。そこにはスゴイ世界が広がっていることでしょう。独学とは,リスク−ベネフィットを越えた人が営む,真理探究の求道ともいえます。
2011年5月6日(2)
海底の土から高濃度の放射性物質 福島第一原発の港湾内
2011年5月5日22時56分
東京電力は5日、福島第一原発の港湾内の海底の土から、通常の約3万8千倍に当たる濃度の放射性物質セシウム137が検出されたと発表した。
東電によると、検出されたのはセシウム137(1キロ当たり8万7千ベクレル)のほか、セシウム134(同9万ベクレル)とヨウ素131(同5万2千ベクレル)。
海底の土は、1号機と5号機の間に面した海の底から4月29日に採取した。東電は、海に流出した高濃度汚染水に含まれていた放射性物質が、海底の土に吸着とみている。
東電は「最終的には回収するつもりだが、現時点では未定」としている。
http://www.asahi.com/national/update/0505/TKY201105050196.html
5月5日付けの本欄(5月4日深夜更新)で,汚染源に近いところでは非常に高濃度の(1000倍の)汚染が起きている可能性を指摘しましたが,早くも汚染源付近のデータが報道されました。先日の汚染の約100倍ですが,このサンプリングについても種々の問題がありますので,単純比較が難しいところです。ひじょうに高いレベルの汚染であることは間違いありませんが,陸地である飯館村で20日に採取した土から,土1キロ当たりヨウ素117万ベクレル,セシウム16万3千ベクレルが検出されていることを考慮すれば,サンプル採取に伴う希釈がおこなわれている可能性も否定できません。
汚染のメカニズムについては,この場所では爆発による降下物がありましたので,汚染水による吸着のみと考えるのは無理があるかもしれません。しかし汚染経路の一つであることは,先日も述べたように,間違いありません。これから放射性核種に関する詳細な分析データ,サンプリング方法,降下物のフラックスなどが公表されることを望みます(文責/MWS)。
*1 筆者は,東電が原発至近距離の底泥の分析結果を発表するとは思いませんでした。これを評価すべきなのか,注視すべきなのかは,歴史が教えてくれるところです。
2011年5月5日
原発沖、海底の土から放射性物質 通常の百〜千倍
福島第1原発事故で東京電力は3日、原発近郊の深さ20〜30メートルの海底の土から、通常の100〜千倍の濃度の放射性物質を検出したと発表した。東電が海底の土を分析したのは事故後初めてで「高い濃度だ。環境への影響は、魚介類を採取して分析、評価したい」としている。
土を採取したのは、第1原発の北約15キロの福島県南相馬市と、南約20キロの同県楢葉町の沖合3キロで、4月29日に実施。放射性ヨウ素が1キログラム当たり98〜190ベクレル、セシウムは1キログラム当たり1200〜1400ベクレルだった。通常はいずれも1キログラム当たり数ベクレルか、検出限界以下。
東電は、放射性物質は空気中に放出されたものが海に落ちたか、汚染水として流れて海底に沈んだとみている。今後、濃度が上昇しないか監視するとしている。
一方、文部科学省は第1原発の南約50キロ地点の沖合約10キロ、深さ117メートルの海底から4月29日に土を採取して分析。放射性物質は検出されなかったと発表した。
2011年05月03日火曜日
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/05/2011050301000837.htm
この周辺の海域は比較的潮流があり,平均的には砂地のはずです。深さが20〜30メートルなので,比較的,上層から下層まで,混合が起きやすい条件ではあります。原発からの位置関係は次の図のようになります。
この図に書き込んだ赤い部分は,筆者が,非常に大量の放射性物質が落下したと考えている海域です。根拠は,デジタルグローブ社の次の画像です。
災害情報につき無断転載しています。この画像は,3号機が大きく爆発してから3分後の画像です。大量の粉塵が上空700メートルまで噴き上げたとされていますが,見事なまでに,すべて海に運ばれています。これが陸上に落ちていたら,災害規模は比較にならないほど大きくなったことは自明で,本当に運がよかったと思います。ところで,この海域で調査をしている船は,ある情報によれば,
三管の「きぬがさ」のようです。画像出典は
http://www.kaiho.mlit.go.jp/03kanku/equip/images/kinugasa_l.jpg
この船は放射線監視業務を行いますが,トン数も小さく,ウインチも海洋観測用CTDがぶらさげられるようなものが付属しているように見えません。そうすると,海底の土は,おそらく,エクマンバージ採泥器で採集したのではないかと想像します。
ところで,海底に降り積もったセシウムは,海底の泥に均一に分布しているわけではありません。海底へのセシウム供給は,
1)濃度の濃い水と触れる
2)セシウムを含むフォールアウト粒子が沈んで到達
3)生物がセシウムを濃縮し,その糞(ふん)などが海底に沈降
といった経路があります。いずれも,海底の表面のみをセシウムで汚染することになります。
この観測船「きぬがさ」がエクマンバージ採泥器で海底の試料を採取したとすると,海底の表面のみをうまく採取することは,かなり難しくなります。下層の砂と表層の砂が混ざりやすいのです。薄められてしまいます。すると,記事中に書かれている,「セシウムは1キログラム当たり1200〜1400ベクレルだった」という測定値は,海底の表層に限れば,この数倍になっていても何らおかしくありません。
できるなら,スミスマッキンタイヤーがた採泥器や,コアサンプラー,あるいはダイバーによるサンプル採取を行い,表層1cmの汚染状況を調べなければなりません。
さらに,筆者が予想している高濃度汚染の海域では,まだ,海底汚染の状況はわかりません。現在発表されている海洋汚染の状況は,いずれも,原子力発電所からかなり離れた場所のデータです。汚染源に近い海域の海底表層では,この新聞記事の1000倍の汚染が見つかっても不思議ではないと筆者は予想します。
ところで,新聞記事は地方新聞ほど良い記事を書き,大衆紙がまともなことを書かないのはむかしからですが,以下にその例として朝日新聞の記事を貼り付けておきます。上の河北新報社の記事と比較すると,まるで役にたたないばかりか,ニュアンス的な誤読を誘因するような工夫まで見らるように,筆者には感じられます。
海底に放射性物質 福島第一沖合15キロと20キロ 2011年5月3日23時1分
東京電力は3日、福島第一原発から15キロと20キロ離れた海底の土から、初めて放射性物質を検出したと発表した。土は4月29日に採取したもので、北側15キロの地点では1キロあたり、放射性ヨウ素131が190ベクレル、セシウム134は1300ベクレル、セシウム137は1400ベクレル、それぞれ検出された。海底の土の基準はない。単純比較はできないが、イネの作付け禁止の目安は、土1キロあたり放射性セシウムが5千ベクレル。今後、魚介類への影響を調べる。
また、高濃度の放射能汚染水が漏れ出ていた2号機の取水口付近で、2日採取した海水の放射能の値が再び上昇、流出防止フェンスの外側で、今月1日に比べて7倍に増えた。新たな漏れは確認されていないが、監視を続ける。
一方、文部科学省は福島第一原発から南約63キロ沖合、水深117メートルの海底の土を4月29日に採取、測定したが、放射性ヨウ素、セシウムとも検出されなかった。
http://www.asahi.com/national/update/0503/TKY201105030415.html
2011年5月4日
筆者は本欄で原子力災害に関する情報を流し続けており,原子力発電所なるものは,その存在を肯定できないという立場で発言しているわけですが,核アレルギーというわけではありません。放射性物質というものが存在するのも自然の摂理であって,それを一つの物理現象として,安全な範囲で,勉強したり研究するのは有意義なことと考えています。それで手持ちの秋月電子の簡易ガイガーカウンターは,講義で原子力や放射性同位体の挙動などについて話をするときに,適当な線源と一緒に使っていました(*1)。線源は世の中にいろいろあるのですが,筆者はトリウムガラスを用いたレンズを使っています。かなり強い放射線を発する線源です。
上の画像は,文部科学省で貸出している「はかるくん」で,筆者のトリウムガラスレンズを計測した結果で,学校教員数名が「はかるくん」で放射線を測定・体験するという集まりを企画していましたので,放射線源として貸出したときのものです。
ガンマ線だけでの値で5.68μSv/hは,かなり強い放射線で,自然界バックグラウンドの150倍になります。環境放射線がこのレベルになって長く続くようなら,筆者なら,60歳以上は自己判断,それ以下の年齢の人は早めの退去を進言します。今回の原子力災害では,これを越える値のところが,福島県内でかなりの面積に達しました。ガンマ線だけで見れば,このトリウムレンズの上に住んでいるような放射線量なのです(画像/MWS)。
*1 自分が生きている間に,間違いなく原子力災害は起きてしまうだろうとの予測から,秋月のガイガーカウンターキットを購入したのです。政府はまともな情報を流さないだろうから,これを頼りに逃げるかどうか判断しようと思っていました。約20年前です。当時入手できる一番安価なものでしたが,一万円弱したような気がします(よく覚えていない…)。ふだんは2〜5cpm程度だったのが,3/15には,室内でもその十倍以上も鳴り響き,原子力災害の影響が東京にまで及んだことを実感しました。政府は予想通りに,放射線量に関してまともな情報を流しませんでしたが,20年前とは異なり,インターネットが普及していてかなり正確な情報が入手できました。現代では,ガイガーカウンターを持つよりは,webサイトが覗けるパソコンを持つ方が有利だと思います。
*2 福島県田村市の教員から聞いた話では,3/15に,校舎の室内で5μSv/hに達したそうです。より放出源に近いところでは,猛烈に濃い放射性物質を含む大気が通過したことは間違いなく,この大気による内部被曝がどれほどのものになるのか,とても心配です。
2011年5月3日
上の画像は,CCDカメラが放射線を捉えたところです。画像右側に輝点がありますが,その部分を放射線,恐らくはγ線(ガンマ線)が通過しています。一部のCCDカメラが放射線の可視化に利用できることは昔から知られていましたが,そういえば筆者は(ガイガーカウンタを20年前から持っていたので)確かめたことがありませんでした。シリコンCCDの場合,検出できるγ線のエネルギー範囲も広くないようで,ガイガーカウンターなどよりは,はるかに検出率が落ちますが,画像にできるという強みがあります。上の画像は,
・Watec WAT120N
・ゲイン最大
・露出8秒(チップ積算)
・バックグラウンドノイズ減算
・トリウム232線源(約1μSv/h程度の強度)
という条件のもとで撮像しました。露出が数分程度かけられて,画像上に放射線の飛跡が10以上見られるのであれば,やや定量的に放射線量を数値化することもできるように思います。『本日の画像』をごらんになっているほどの方々であれば,放射線の可視化自体は難しくないことと思います。
高感度CCDカメラでは,動画に撮るともっと簡単です。WAT120を使った動画の例を示します。線源はトリウム232で,ガンマ線のみの計測で約5μSv/hの強度で撮影しています。画像処理装置(浜松ホトニクス,Argus-20)でバックグラウンド減算を施して,このカメラの固有ノイズを除去しています。フレームレートが通常の動画と同じにすると,一瞬光っただけで消えてしまい,ほとんど視認できませんので,フレーム蓄積(1秒程度)したものを動画にしています。ゆっくり光っているように見えるのはそのためです。
放射線の可視化1(30秒,低画質5MB,mpg形式)
放射線の可視化2(30秒,中画質8MB,mpg形式)
お手持ちの動画再生ソフトでみてください。見づらい場合は動画ソフトの「明るさ」をアップするとよいかもしれません(画像・動画/MWS)。
2011年5月2日(3)
枝野官房長官会見(1)小佐古元参与に反論「飲料水の基準のときは…」(1日午後4時過ぎ)
2011.5.1 17:46
枝野幸男官房長官が1日午後4時過ぎから首相官邸で行った記者会見の詳細は以下の通り。
【原乳の出荷制限一部解除】
「まず私から1点報告する。出荷制限の解除。本日、原子力災害対策特別措置法20条3項の規定に基づき、出荷制限を指示していた福島県川俣町および南相馬市の一部地域で産出された原乳について、出荷制限を解除することとし、福島県知事に指示した。詳しくは厚生労働省および農林水産省にお聞きいただきたいと思うが、原乳については今、避難の指示をしている区域および緊急時避難準備区域、および計画的避難区域を除いて、原乳についての出荷制限は解除されたということになる。私からは以上だ」
【「東電による人災」指摘】
−−今日の参院予算委員会で森裕子議員が、東京電力が外部電源喪失を経験しながら対策をしなかったのは人災ではないか、と指摘した。どう考えるか
「人災という言葉の定義はなかなか難しいところがあろうかと思っているが、最終的には、場合によっては司法の場で問われるような話かもしれないわけなので、それについて直接お答えするのはなかなか難しいかなという風には思う。ただ、今回の事故によって、被害、影響を受けられた皆さんの損害の補償については、一義的には東京電力がしっかりと補償を行い、なおかつ国が、その補償がしっかりと行われるように、その責任を果たしていくということで、しっかりとその責任を負っているということについては、これははっきりしていることだという風に思う」
−−刑事責任を問われることも
「これについても、もちろん事故発生以降のある部分については、政府の原災本部の一員として一定の認識はあるが、そもそも事故がなぜ発生したのか、そこに刑事責任を問われるような経緯があったのかどうかということについては、まさにこれからの検証に待たなければいけないという風に思っている」
【子供の被曝線量限度】
−−委員会で森議員が子供の被(ひ)曝(ばく)限度について、年間20ミリシーベルトとしている現行の基準の見直しを求めた。与党議員からこういう見直しの声が出ていることをどう考えるか
「これ、繰り返し過日も申し上げたが、被曝限度を20ミリシーベルトとするということで指示をしたのではないと。1つの基準、指針としてグランドレベルの、法定の平均した放射線量が毎時3・8マイクロシーベルトだと思うが、これは単純に通常の他の場所、つまり飯舘村などのように1日6時間、その屋外にいて、1日中6時間、木造建物にいるという想定で、年間の累積被曝量がどれぐらいになるかというと、毎年20ミリシーベルトとなるという、同じ考え方に立つわけだが、今回の学校などについて問題になっている地域は飯舘村などと違って、地域全体がエリアとして、そうした地域にあるわけではなくて、周辺地域はむしろ、それよりずっと低い放射線量であると。例えば学校の敷地の中については、それぞれ問題のある地域、具体的に調べており、屋外であってもアスファルトなどのところについてはおおむね半分程度であると。それから学校の場合、屋内についてもしっかりと調べて、ここは10分の1程度であるということ。なおかつ、その基準を超えているところについては、校庭の利用を1日1時間程度に抑えてくださいというようなことも併せてお願いしている」
「つまり到底、年間20ミリシーベルトに達するような状況ではないということが、まず大前提にある。なおかつそれについては、実際の実績としての放射線量を、教師の方に線量計を付けてもらうなどしてしっかりと把握し、なおかつ今後、放射線量は原発のプラントの状況が悪化しない限りはこの間も暫時、減っていっているし、今後も一定程度、減っていくことが見込まれているので、そうしたことをトータルすれば、到底、20ミリシーベルトには達しないと、大きく達しないということを前提に、安全性の観点から問題ないという指針を出しているということだ。そこについては十分な説明がしきれていない、説明が理解を得られていないということについては、さらに努力をしなければいけないという風に思っているが、決して、20ミリシーベルトまでの被曝を認めているわけでも、それに近いような高いレベルの被曝が予想されるわけでもないということは、ご理解をいただきたいと思っている」
「なお関連して、小佐古(敏荘)先生がいろんなご意見をおっしゃっている。今回の学校の校庭については、非常に厳しい水準にするべきではないかというご意見で、それが受け入れられなかったというご主張のようだが、逆に、この間には、例えば3月28日には乳幼児を含む牛乳や飲料水などの基準値を『むしろ3000ベクレル、ヨウ素の場合で3000ベクレルでいいんだ』というご提言をいただいた。これは安全委員会などの判断で『いや、300ベクレルが基準だということで、より低い、つまり、特に乳幼児をはじめとして、より低い線でやるべきなんだ』ということで、『より高くていいんだ、緩やかでいいんだ』という申し入れを、逆に全体としての判断として、安全委員会などがより低い判断をしているところがある。専門家の皆さんのご意見も、こういった意味ではいろいろある。ただ、そうした中で安全性を優先しながら、それぞれ判断しているということはご理解をいただきたい」
−−ただ、前提となったのは年間20ミリシーベルトで、その結果、毎時3・8マイクロシーベルトとなっているが、20ミリシーベルトに達するかは別として、20は放射線管理区域の年間基準の5ミリシーベルトの4倍に達している。高いのではないか。
「だから、逆に、20ミリシーベルトを超えそうなエリアとして、つまり、そのエリアに住んでいる、日常的に生活していると超える可能性の高いと思われる飯舘村の皆さんにはご無理をお願いして、計画的避難区域ということで、当該地域から生活の拠点を移していただくということをお願いしているわけだ」
「特に乳幼児や妊婦はできるだけ先に、出ていただきたいということをお願いしている。ここだって、先程の判断、1日8時間外にいてということが前提だから、おそらく20ミリまで達しないと思うが、そうした前提を置いた場合、20ミリに達しそうな地域については、こういうことを無理にお願いしている。今回、学校の校庭について、お願いしている地域については、生活をしている全体の地域としては、それを大幅に下回っている地域だ。20ミリまでが良いからこういう線を引いたということではないとご理解頂きたい」
−−3000ベクレルの提言をしたのは小佐古先生から…。
「小佐古先生が、はい。食品および飲料水について、緊急時、早期においてはヨウ素の飲料水は牛乳についての基準値は乳幼児を含めて3000ベクレル・パー・キログラムでいいというご提言をいただいているが、そういうご提言を含めて最終的には安全委員会ではよ300ベクレル・パー・キログラムという10分の1の基準で、今、実際に飲料水や原乳などについて判断している」
−−関連だが、昨日厚労省が福島、茨城など1都4県の女性からの母乳を検査した結果、7人から微量の放射性物質を検出したと発表しているが、母乳についても基準値を設ける考えはあるのか。設けないとしたら牛乳乳製品の暫定基準値に準じた扱いをするのか
「まさに母乳ではなくて、粉ミルクをお使いの方の場合は水を使って、粉ミルクを作られて、溶かして乳児に飲ませるわけなので、基本的には同じ安全性の考えだ。もちろん、お母さんの体を通じてなので、一定の考慮が必要なのかもしれないが、大幅にいずれにせよ下回っているので、お子さんに影響を与えることはない。むしろそのことがストレスになる方が心配される状況であると、専門家からも説明を受けている」
−−3000ベクレル、300ベクレルの話だが、欧米諸国などでは相当低い数字、1ベクレルとか10ベクレルとかに設定しているところもあって、そもそも300という数字が適切なのかという議論も逆にある。この値についてはどのように見ているか
「専門的には専門家の皆さんの説明を直接お聞きを頂かないと、専門家ではない私が、説明の仕方に若干間違いがあって、そのことで誤解を招いてはいけないと思っているが、かなりの安全性にゆとりを持った形で、こうした基準を作っているということの説明はその都度、具体的にも含めて説明を受けているので、そうした意味では、もちろん放射性を受けるとか、それについては低ければ低いほど安心感は高まるが、かなりの安全性にゆとりを持った中で、こうした基準を作っていただいている」
−−小佐古さんの300ベクレル、3000ベクレルという指摘の部分だが、校庭の場合の提言に比べて、政府としては小佐古さんの理論構成の中では一貫しているものがあるとみているのか。それとも、整合性がとれていないとみているのか
「専門家の皆さんの専門的な意見なので、こうしたご提言も安全委員会を含めた専門家の皆さんに、そうした提言があると、ご参考にとか、ということで専門家レベルでいろいろご協議を、評価をいただく中でやっているので、政府としてなにか政治の立場から申しあげるべきではない」
−−その提言は小佐古さんから安全委員会に直接話しているのか。官邸を通じてか
「食品および飲料水の基準に関する提言は、総理と内閣府の食品安全委員長宛てで出ている。写しは私や福山副長官のところに来ているという提言書だ」
【刑事責任】
−−先ほど刑事責任に値するものがあるかどうかを検証すると言ったが、今日も首相が第三者委員会で検証すると言ったが、その場で並行して議論されるのか
「正確に申しあげると、そういったことの、一般的な意味でのこの事故については検証を当然しなければならないと。その検証の結果として、そうした可能性が出てくるのかというのは初めて、あの、いろいろ出てくるんでしょうということを申しあげたので、そのことを目的として検証委員会を開くという意味ではない」
【子供の被曝線量限度】
−−校庭の土の問題に戻る。郡山市などでは独自に除去したものの、その土を処分する方法に困っているという事例も出ている。地元の方で土の処分方法について国で基準を決めてほしいという声も上がっている。そもそも政府として校庭の土は除去する必要があるのかと。また、もし必要があるとしたら、土の処分方法などについて基準を示す考えはあるのか
「まず必要ということでは、今回文部科学省が示した指針に基づいて対応いただければ除去する必要はない。ただ、より安全性を高めたいというお気持ちでそれぞれの自治体がされたと思う。一方で、原発以外のところで発生する放射性廃棄物になるので、それについての処理については、率直に申しあげて今、どういう枠組みで、どういうふうに対応するかということについては、これは簡単に答えの出る問題ではない」
「受け入れてくれるところがなければそれの処理ができないので、少なくとも今後、20キロ圏内のがれきの処理を含めて、今後さまざまな問題になってくる。ある程度、原発の状況が落ち着けば、農地などの土壌の改良のことも出てくる。そうしたことに向けて国としては若干時間がかかると思うが、原発の外で生じた放射性廃棄物についての対応について、検討を進めていかなければいけないと思っている」
【女性社員の健康状態】
−−福島原発で女性社員が国の定めた被曝線量の基準値の限度を超えたとのことだが、女性の健康状態や安全対策について
「まず、女性については妊娠の可能性ということで圧倒的に低い基準値になっているので、特にこの事故以降、3月23日以降、女性職員が勤務しない運用を東京電力が行い、それが継続しているという状況だ。健康状態については特段の問題についての指摘は受けていない。妊娠をしている場合でなければ、男性と基本的には同じ基準値でいいわけであるが、そこから先の話については当該の方のプライバシーとも関わる問題なので、ここまでにとどめた方がいいかなと思う」
【東電の賠償問題】
−−東電の賠償についての進捗状況を
「賠償については東京電力が直接行っていただくものなので順次、第一次指針も出ているから、第一次指針に基づいて賠償して頂くものだと思っている」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110501/plc11050117480008-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110501/plc11050118340009-n1.htm
筆者は4月30日(2)付けの記事で,子どもの被曝上限として年間20ミリシーベルト被曝することの危険性を,メディアが報じ始めたと書きました。その記事は,日本経済新聞(web)からの引用で,小佐古参与の辞任に関するものでした。その記事中で筆者が非常に違和感を感じたのが,小佐古参与が述べた,
「容認したと言われたら学者生命が終わりだ」
という部分です。もしほんとうに子どもたちの命を守るために働くのなら,学者生命などどうでもよく,首相の胸ぐらをつかんでも説得させるべきなのです。容認したと思われたくないから辞任するというのは甘えでしかありません。筆者は,この人が緊急に参与に任命されたときに経歴を調べましたので,その段階で,どうしてこいういう"専門家"を任命したのだろうかと思っていました。ですから,抗議の辞任は,パフォーマンスだろうと想像していました。
だいたい,どれほどの学者でも,自分から,「学者生命が終わり」などという表現を使うことはないのです。ものすごい違和感です。
そう思っていたら,嫌いな産経新聞の記事に,珍しく良い記事が出ていました(上の全文)。なるほど,この小佐古参与は,水や牛乳経由の内部被曝については,現在よりも高い暫定基準を提案していたわけですね。
推測で書きます。
この人は保健物理屋さんで,外部被曝が専門の人なのでしょう。それで,労働者被曝などの問題を専門的に研究し,原子力産業の外部被曝基準値についても影響力のある人なのだと思います。その立場から言えば,「年間20ミリシーベルトの放射線に子どもをさらす」ことは,専門の労働者被曝の見地から言えば,「学者生命が終わる」のでしょう。
しかし内部被曝に関しては専門ではないし,だいたい,労働者は内部被曝を起こさないように管理されていますので,飲料水のヨウ素131を3000ベクレル/kgでも問題ない,ということになるのでしょう。専門外のことでは,「学者生命が終わる」ことはありません。
しかし皮肉なことに,枝野官房長官が,小佐古参与の「飲料水ヨウ素131を3000ベクレル/KgまでOK発言」を公にしたことにより,この参与の学者生命は,せっかく辞任したにもかかわらず,かなり厳しく追い込まれることになったと筆者は思います。ヨウ素131が3000ベクレル/kgも水道水に入ってくるような環境では,空気中のヨウ素131も大量に存在しているはずで,その高濃度の大気で呼吸するだけでも大きな内部被曝になります。それに加えて水から入ってきたら追い打ちです。小佐古氏の提案は,筆者には現実的には思えません。しかもヨウ素の大量放出は,通常の原子力災害では,初期の10日間以内が勝負で,その高濃度の汚染は避けることができるのです。
この参与の発言がすべて正しいとしても,筆者には,子どものことを考えているようには見えません。たぶん,「学者生命」をいかに維持するかを考えているのでしょう。
もし子どものことを考えているならば,年間20ミリシーベルトを許容しないことはもちろん,水道水基準ももっと厳しく提案し,大気のことも心配し,辞任などしなかったことでしょう。
政府も可哀想です。この非常事態にいっしょうけんめい専門家を探しても,ごろつきヤクザみたいなのしか見つからないんですから(文責/MWS)。
2011年5月2日(2)
福島の汚泥から高濃度セシウム 郡山市の下水処理場
福島県は1日、同県郡山市の下水処理場「県中浄化センター」で、汚泥と汚泥を焼却処理した溶融スラグから高濃度の放射性セシウムを検出したと発表した。県は、降雨により地表の放射性物質が混入したとみている。
県によると、汚泥からセシウムを1キログラム当たり2万6400ベクレル、溶融スラグから同じく33万4千ベクレルを検出した。原発事故前の溶融スラグは同246ベクレルだった。
1日に80トン出る汚泥のうち、70トンは溶融炉で処理し、10トンは県外のセメント会社が再利用している。溶融スラグは1日に2トン発生する。
県は1日からセメント会社への搬出を停止したが、事故以降に500トンが運び出された。溶融スラグも道路の砂利などとして利用しているが、同センターは事故以来出荷していなかった。
県の担当者は「溶融スラグの濃度が高いのは、焼却などの下水処理の過程で濃縮されたためとみられる」と話した。
2011/05/01 18:50 【共同通信】
(http://www.47news.jp/CN/201105/CN2011050101000577.html)
この記事からいろいろなことがわかります。まず一つは,水系を通じてセシウムが動いているということです。主に降雨により,地表面が洗い流され,その水に含まれていたセシウムが下水管を通って浄化センターまで届いたということです。
浄化センターでは,まず粗い金網で粗大ゴミを除いた後,数十秒から1分くらいの滞留時間で砂を沈めます(沈砂といいます)。次にこの下水を巨大なプールに送り,圧搾空気を送ります(ばっきといいます)。空気を吹き込まれた下水中では,原生生物が汚物を食べて大増殖します。バクテリアなども増えます。ある程度生物を増やしたら,こんどは沈殿池に移し,増殖した生物を沈殿させます。生物はふわふわした塊(フロックといいます)になって底に沈みます。
この沈殿させた生物を「汚泥」と呼びます。実際にはこれの水を絞った「汚泥ケーキ」も汚泥と呼ばれます。この汚泥は生物の塊なので燃やすことができ,その灰の溶融物がスラグ(溶融スラグ)と呼ばれます。
汚泥ケーキの含水率は70-80%程度で,炭水化物も含みますので,溶融スラグにすると,放射能強度が10倍になるのは自然なことです。
さて,上の説明でおわかりいただけたと思いますが,セシウムが濃縮されたのは汚泥部分です。これは,今回の原子力災害によりばらまかれたセシウムが
1)雨で流れ
2)沈砂では取り除かれず
3)汚泥の沈殿とともに移動する
という性質を持つことを示しています。したがって,池,沼地,側溝,農業用調整池,水田などにセシウムが集積する可能性を指摘できます。流れ込む川や水路があるため池や沼の,泥の部分にセシウムが溜まるといえます。水辺の植物や生物,淡水魚にも汚染が広がる可能性があります。
こういった場所は,魚釣り,ザリガニ釣りやドジョウ採りなどにも良い場所ですが,放射性物質が集まっていることも十分考慮し,外部被曝,内部被曝を起こさないようにモニタリングを強化する必要があると考えます。
なお,上の記事をもとに計算すると,一日に6億ベクレルの放射性セシウム入り溶融スラグが,この浄化センターから出てくるわけです。これは中越沖地震で柏崎原発から漏れ出た放射能(3億ベクレル)の2倍に当たります。今回の事故の規模がどれだけのものかがわかるかと思います。
この記事で取り上げたのは福島県内の話ですが,セシウムは南東北から関東まで広く降下していますし,ホットスポットの詳細はまだわかりませんので,降下域の人は十分注意して下さい(文責/MWS)。
2011年5月2日
放射線の人体影響について勉強したい方は,
こちら(PDF 1MB)
を推奨します。すでにユーストリームなどでご覧頂いている方々も多いかと思われますが,文章としてまとまっていると,ずっと理解しやすいことと思います。説明に省略がなく,情報量も豊富で,今回の原子力災害を受けて講演しているということもあり,一つのテキストとしてはもっとも優れたものに仕上がっているといえます(文責/MWS)。
2011年5月1日
上の画像は,文部科学省(当時の科技庁)が貸し出ししている放射線測定器「はかるくん」により測定された,各都道府県の放射線量の値です。平成2-10年度の平均値を示していて,当然のことながら,今回の原子力災害の影響は受けていません。ガイガー管による検出で,およそ150keV〜3MeVのγ線の数値という限られた情報ですが,いまとなっては,貴重なバックグラウンドの参考数値となります。現在は,福島第一原子力発電所の災害により,広範囲に放射性物質が降下しましたので,この数値よりも高い値を示す地域が増えていることは報じられている通りです。放射性物質は非常に小さな粒子として降下していますので,それらが集積する場所,たとえばホコリの吹きだまり,道路の側溝,排水口の周囲などでは,平均的な測定値の10倍にもなるところもあります。上の画像は,平均値からの隔たりを探す上で,参考に使えるでしょう(撮影/MWS,出典:はかるくんの説明書)。
2011年4月30日(2)
年間20ミリシーベルトの被曝がきわめて危険であることを,筆者は早い段階(4月11日付け本欄)から主張してきました。しかし大手メディアはその危険性を正確・迅速に伝えることを放棄してきました。ことここに及んで,ようやく,それらしい記事が出てきました。しかしこの記事でも,見出しは,「参与の辞任」であって,政府の対応を非難するという内容になっています。
大切なのはそんなことではありません。
20ミリシーベルトの被曝というのは,この参与にとっては,「自分の子どもにそうすることはできない」,許容しがたいレベルであるということです。
しかしこの記事は,これでも甘すぎます。内部被曝に一切触れていないからです。平常時の原発労働者は,危険なところで働く人でも年間10〜20ミリシーベルトくらいの被曝です。しかしその作業員は,防護服を着て,マスクをして,そしてさらに大切なことは,汚染された食物は食べていないのです。
いま福島県などの汚染地帯に居住している方々は,汚染された空気を吸い,水を飲み,汚染された野菜を食べ,牛乳を飲み,さらに放射線を浴びながら暮らしているのです。その過酷な条件で,学校に通う子どもたちは,外部被曝だけでも「年間20ミリシーベルトは可」とされてしまったのです。
いいですか,よく聞いて下さい。子どもは放射線に対する感受性が大人の2倍はあると考えて差し支えありません。さらに,ご飯は大人の倍も食べます。水は大人の倍も飲みます。体重は大人の半分です。外で遊ぶ時間は大人よりもずっと多く,土に触れる時間は大人よりずっと多いのです。積算すると,どれほど危険だと思いますか。
大人の読者は,「少年の夏の日」を思い出すこともできるでしょう。堆肥の中のカブトムシの幼虫を掘り起こした経験をお持ちではありませんか? 腐った木を割ってクワガタを探しませんでしたか? 昆虫の幼虫は菌類を食べますので,セシウム137をたっぷり濃縮することになってしまうでしょう。
いま起きていることは非常事態です。リスクの高さは原発労働者どころではありません。どれほど危険で理不尽なことが行われているか,そういうことを正確に分析して分かり易く述べるのが新聞・メディアの役割なのですが,いちばん大切なことを書かないのでは,ケツ拭く紙にも使えません(文責/MWS)。
*1 筆者はここ十数年,テレビなし,新聞なしの生活を続けています。偏った情報を入力しても,費やした時間ほどの見返りがないと感じているからです。アイドルの名前はわかりませんし,流行にもついていけません。しかし,馬さん鹿さんになってしまうわけでもなく,こうして独自の記事が書ける程度のおつむは保たれているようです。もちろん,テレビを見て,新聞を読んで,それぞれのメディアの偏り方を楽しむという高等な趣味もあるでしょうが,そういった楽しみ方ができるのは,年間100冊程度の読書をこなすような碩学かと思っています。
*2 記事中の参与が,自分の子どもにそうすることはできない,といっているのは,福島県から避難させるか,安全なレベルまで除染させるかということを意味しています。そのように読まなければなりません。
*3 1〜10万ベクレル/kgのクワガタやカミキリムシが出てきても不思議ではありません。それを食べることはないにしても気分のよいものではありません。
*4 今月も原子力災害の特集みたいになってしまいました。すみません。読者が愛想を尽かさないことを願っています。
2011年4月30日
「さて原子力を潜在電力として考えると、まったくとてつもないものである。しかも石炭などの資源が今後、地球上から次第に少なくなっていくことを思えば、このエネルギーのもつ威力は人類生存に不可欠なものといってよいだろう。(中略)電気料は2000分の1になる。(中略)原子力発電には火力発電のように大工場を必要としない、大煙突も貯炭場もいらない。また毎日石炭を運びこみ、たきがらを捨てるための鉄道もトラックもいらない。密閉式のガスタービンが利用できれば、ボイラーの水すらいらないのである。もちろん山間へき地を選ぶこともない。ビルディングの地下室が発電所ということになる」(1954年7月2日、毎日東京新聞)
「三多摩の山中に新しい火が燃える。工場、家庭へどしどし送電。」(1955年12月31日、東京新聞)
(http://cnic.jp/files/070707koide.pdfから引用)
世の中にはおいしい話など,そうあるものではないのですが,エネルギーに関しては不思議なほど,おいしい話が消えません。現代の人が上の文章を読めば,さすがに,丸ごと信じることはないでしょう。でも,この文章は新聞に書かれて各家庭に配達されたのです。その時代には,ほとんど全ての人が信じたのではないでしょうか。
恐ろしいですね。
こういった,根拠のないおいしい話は,現代でもあります。1955年ジュネーブで開催された第1回原子力平和利用国際会議において,議長のH.J. Bhabhaが,「20年後には核融合によって制御された形でエネルギーを取り出すことができるだろう」と予言しました。有名な言葉なので知っている人も多いことでしょう。
この言葉から何年たったでしょうか。そして何ができたでしょうか。D-D反応はおろか,D-T反応の継続も難しく,投入以上のエネルギーを商用に取り出すなど,まだ想像すらできる段階ではありません。筆者は,技術的・材料学的・経済学的に見て,人間が製作した核融合炉が未来のエネルギー源になる可能性は,0%と考えています。もし実用化したら,あらゆる資材と資本を飲み込む怪物になるはずで,発電までこぎ着けても,負の経済性が生じるばかりでしょう。
もちろん,Bhabhaの言葉は単なる予言だったわけで,外れたのです。だから外れたことを認めればいいようなものですが,核融合が未来のエネルギー源だと信じている人は多くいます。将来実用化されると思っている人もいます。「エネルギー問題から解放される」という魅力的な文句に惹きつけられるのです。
ここが怖いところです。おいしい話は,なかなか消えないのです。皆さんは,なんとなくおいしい話を信じていませんか。それは正しいですか。
だいたい,人類がエネルギー問題から解放されたら,とんでもない世の中になるでしょう。未来のエネルギー源を信じている人は,その後の世界も想像してみましょう。
むかしの人が原子力発電を信じたらどういう世の中になりましたか。それは良い世の中でしたか? むかしの人の想像力はどうだったのでしょう。私たちも,未来のために,根拠ある想像をしなければならないのかもしれません(文責/MWS)。
2011年4月29日
千葉の牧草から放射性物質 初めて基準値超え
千葉県は28日、県内2カ所の牧草から、それぞれ基準値を超える放射性ヨウ素と放射性セシウムを検出したと発表した。農林水産省によると、牧草から基準値を超える放射性物質が検出されたのは初めて。
牧草の基準値はヨウ素が1キログラム当たり70ベクレルでセシウムが300ベクレル。県によると、市原市の施設の牧草からヨウ素230ベクレル、セシウム1110ベクレル、八街市の施設からヨウ素90ベクレル、セシウム350ベクレルが検出された。
千葉県は3月下旬以降、県内の牧草を乳牛と肉牛に食べさせることを自粛している。原乳の2回の検査では、いずれも基準値を下回っている。
(http://www.47news.jp/CN/201104/CN2011042801001505.html)
筆者もさすがに,牧草の基準値までは知りませんでした。じつに勉強になる記事です。この記事が正しいとすると,いろいろなことを考えさせられます。
1)牧草の基準値は,人間に対する野菜の暫定基準よりもずっと低い(安全側)
2)にもかかわらず,さらに安全性を確保するために,乳牛と肉牛には県内の牧草を与えていない
牛さんは放射能の心配をすることなく,安心して食事ができることでしょう。
一方,人間には,2000ベクレル/Kg以内なら,ヨウ素131が入っていてもいいし,500ベクレル/Kg以内であれば,セシウム137,134が入っていても「安全」ということになっています。
牛と人間は食性も異なりますし,食べる量も違います。ヨウ素は母乳に集積されるという性質,そして牛乳や肉は人間の食品として利用されるということも考えれば,牛が汚染されないように,牧草の基準値が低く抑えられているということは,生態学的にはそれなりの意義があります。しかし人間の赤ん坊も人間の母乳を主食に暮らすのです。世の中には理解が難しいことがたくさんありますが,これもその一つですね。
さて,もう一件いきましょう。
根室沖カラフトマスからセシウム検出 基準値は下回る (04/28 10:05)
道は26日、日本200カイリ内で操業中の小型サケ・マス漁で水揚げされたカラフトマスの放射能検査の結果、放射性ヨウ素は不検出、放射性セシウムは基準値を大幅に下回り「安全が確認された」と発表した。
検出されたのはセシウム134が1キログラム当たり4・39ベクレル、セシウム137が同4・91ベクレル。合わせて同9・3ベクレルで、食品衛生法の暫定基準値500ベクレルの50分の1以下だった。
検体は歯舞漁協所属の漁船が22日、根室市花咲港の南約45キロの太平洋で漁獲した5匹。18日に公表されたシロザケの検査では放射性ヨウ素は不検出、セシウム137は同0・45ベクレルだった。
道によると文部科学省の委託検査では2007年以降、道周辺で採取したサケに含まれるセシウム137は同0・1ベクレル以下で推移している。
道水産林務部は「今回は通常よりレベルが高いが、問題のない数値。福島第1原発事故との関連は分からない」としている。
(http://www.hokkaido-np.co.jp/news/agriculture/289078.html)
これがどういうことか考えてみると,現時点では次のストーリーが浮かびます。
距離から考えて,この放射性セシウムは,福島第一原子力発電所から,南西の風にのって運ばれてきたものと考えられます。なぜなら,宗谷暖流,親潮,黒潮の関係を定性的に見れば,黒潮で北に運ばれても,この時間スケールで「根室市花咲港の南約45キロの太平洋」に到達することは難しいと想像できるからです。大気経由で運ばれた放射性物質がこの付近の海域に落ち,植物プランクトン→動物プランクトンや遊泳生物を経由して,カラフトマスの体内に取り込まれたものと考えます。
セシウムは重金属などと比較すると,生物にはあまり濃縮されない元素なので,放射性物質の放出が止まれば,現在程度の汚染で止まる可能性もあります。しかし,大気経由の汚染だけで,北海道東方沖でもセシウムが確認できるような状況(可能性がある)になっているということは大変なことです。より発生源に近い三陸沖,宮城沖でば,汚染濃度も高くなっている可能性があります。汚染水が放出された海域だけが汚染されているわけではありません。広範囲にわたってモニタリングを厳重に行う必要があります(文責/MWS)。
2011年4月27日
世の中にはいろいろな人が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しています。原子力災害でも,いろいろな人が裏に表に大活躍です。今回は福島県放射線アドバイザーの山下俊一先生にご登場願いましょう。山下先生は県内各地で,放射線の人体影響について講演されています。福島市での講演録がこちらにアップされていました。この書き起こしは正確に思えますので,これを材料にみていきましょう。
この中で,山下先生は「我々日本人は年間約3.5ミリシーベルト被ばくしています。」と述べています。
しかし一般的には,日本人の年間被曝(自然放射線の外部被曝+内部被曝)は2.4ミリシーベルトと言われています(http://www.ccfhs.or.jp/newsrelease/20110319shokuhinkenshutu.html)。水増しせずに,正確に話をしてほしいものです。
山下先生は,別のところで,けっこう大事なことを言っています。
100ミリシーベルト浴びると、100人、その生涯ずーっと調査すると、100人の内1人ガンが起こるかどうかという頻度です。100人が、平均78歳としましょうか、生きて1人ガンが起こるかどうかという、そういう確率論的な問題です。でも、70も 80も生きれば1/3はガンで死んどる。33人はガンで死んどるうちの、1人は放射線のせいかわからんという量の、100ミリシーベルトでみんな議論しています。
この数字は,ICRPなどが言っている,外部被曝だけを与えたときのリスクです。さすがに専門家だけあって,この数字は頭に入っているようです。この数字は,確率だけで解釈してはいけません。放射線は災害で否応なしに浴びせられるのですから,一人が余分に死んだら,それは放射線により死ななくてすんだ命が奪われたと解釈すべきなのです。
そして,大事なことは,全体の人数を考えることです。100人に一人ということは,100万人に一万人の割合なのです。10ミリシーベルト浴びて1000人に一人が発がんでも,1000万人が浴びれば,一万人が,放射能が原因でがんになるのです。単に確率で考えず,災害の被害者がどれだけ発生するのかを見なければなりません。筆者がずっと原子力災害について述べてきたのは,東北関東大震災の死者を上回る被害者が,原子力災害によって生じる可能性があり,そして被害は適切な対策によって避けられるからなのです。
山下先生は別のところでこういいます。
事実は1ミリシーベルト浴びると1個の遺伝子に傷が付く、100ミリシーベルト浴びると100個付く。1回にですよ。じゃあ、今問題になっている10マイクロシーベルト、50マイクロシーベルトという値は、実は傷が付いたか付かないかわからん。付かんのです。ここがミソです。
「付かんのです」は事実に反します。自然レベルのひじょうに小さな放射線(μSv/h)レベルでも遺伝子に傷が付き染色体異常が発生することは40年前から知られていることです。勇み足ですねこれは。
科学的に言うと、環境の汚染の濃度、マイクロシーベルトが、100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう、 5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。昨日もいわき市で答えられました。「いま、いわき市で外で遊んでいいですか」「どんどん遊んでいい」と答えました。福島も同じです。心配することはありません。
「どんどん遊んでいい」というのを,制限なしに遊んでいい,と解釈します。一日100マイクロシーベルト(20マイクロシーベルト×5時間)を一年間続ければ,36500μSvで,これは36.5ミリシーベルトです。しかも内部被曝を含みません。この値は,平均的な原発労働者の被曝量の2〜3倍に相当します。一年間にこれだけの放射線を浴びた労働者が,急性骨髄性白血病になった場合,まず労災認定されます(実例あり,年間5ミリシーベルト以上)。それだけの多量な放射線です。発症割合は低くても,発症すれば裁判所が因果関係を認定するのです。山下先生の言う「どんどん遊んでいい」「全く健康に影響を及ぼさない」ということの中身は,こういうことです。
言い換えれば,防護服も着ずに,マスクもせずに,原発敷地内で,原発労働者の2倍以上の時間存在してもいいと,山下先生は言っているのです。山下先生の発言が正しければ,全国の原子力産業に従事する方々は,防護服も必要ないし,マスクもしないで働いても,「全く健康に影響及ぼしません」ということになります。裁判所が労災認定したのは,裁判所の判断が完全に間違っていたことになります。
山下先生が最初に言った100ミリシーベルトの外部被曝で100人に一人ががんを過剰に発生という事実をもとに計算すれば,どんどん遊んで1年で36.5ミリシーベルトの放射線を浴びた子どもは,300人に一人が,そのことが原因でガンを発生することになります。
また,一般人の許容被曝レベルが年間+1ミリシーベルトであることについて,山下先生はひと言も触れていないのも気になります。
水道水は、問題になるのは放射性のヨウ素だけです。セシウムはフィルターで取られてゼロになりますので、たとえ少し汚染してもゼロになります。
山下先生はこう言うのですが,「少し汚染しても」という部分が巧妙ですね。たくさん汚染されれば出るよ,ということを排除していません。山下先生の言うフィルターというのが何を指すのかもわかりません。福島県の水道は東京都水道局のような一元的な組織とは違います。市町村単位で上水道の運営が行われていて,簡易水道が数多くあります。これらの簡易水道は伏流水水源,地下水源,表流水水源など様々で,無処理,簡易砂ろ過処理,緩速ろ過処理,急速ろ過処理など処理方法も多様です。しかもセシウムがフィルタで取れるというのは初耳です。実際にセシウムが各地の水道から検出されているのは皆さんご存じの通りです。
山下先生は続けます。
いま何故、乳製品にそれだけ高いかというと、大地に沢山降っているんです、放射性物質は。その雑草を食べた牛のお乳には、放射性ヨウ素が濃縮されるんです。これが1つの原因です。そのために原乳を測ると放射性ヨウ素が高く出る。
これに対して会場からのコメントが出ます。
福島市飯野で酪農をやっています。先程、牛乳に放射能が出てくるのは、降下物のせいだと仰った点でちょっと疑問だったのは、牛と人が共通しているのは空気と水。あと、えさがあると思うんですが、殆ど屋根のかかる所においてある牧草であるとか、配合飼料を食べます。ですから、大地に生えてる草を食べることは、今は全くないんです。ですから、降下物ということであれば、空気と水は人と同じなんですね。
つまり山下先生は,この時期(3月下旬)に,福島県で,牛が放牧されて野山の雑草を食べていると思っているわけです。この先生の頭の中には,はまだ芽吹きも始まらない茶色の耕作地が,パステルカラーの緑豊かな牧草地に見えて,牛さんがのんびりと草を食べている情景が浮かんでいるのでしょうか…。
もちろん,酪農家の方の言うとおりなのです。1年前に収穫されて屋根の下に置いてある放射能を含まない牧草や,配合飼料を与えているのです。ですから,餌経由の放射線は牛の体内にあまり入ってこないはずなのです。にもかかわらず,乳牛からすぐにヨウ素131が検出されたのは,水と空気から来たということなのです。そして,その水と空気は,牛も人も同じものを吸ったり飲んだりしているのです。ですから,人体にも放射性物質がかなり取り込まれている可能性が高いのです。酪農家の指摘は非常に重要です。
とまあ,ツッコミどころがいろいろあって,なかなか大変な講演だ,というのが筆者の感想です。この人は,福島県では安全安全と言い続けたのですが,地元長崎に帰ると,態度を豹変させます。
"正しい怖がり方"を 放射性物質、九州に影響ない
東日本大震災で発生した東京電力福島第1原発事故で「放射線健康リスク管理アドバイザー」として18日から22日まで福島県内で活動した長崎大医歯薬学総合研究科の山下俊一教授に24日、今後の事態の見通しについて語ってもらった。(聞き手は報道部・永野孝)
−国が23日公表した放射性物質の飛散状況の試算によると、原発から北西方面と南方面に(政府が屋内退避を指示している)30キロを越えたところまで届いている。
複数箇所から放出され、放出量が不明な上、拡散は風向きや地形などによるため、このような結果になった。予想していたが、恐るべきこと。子どもや妊婦を中心に避難させるべきだ。ただし理論値であり、誤差を検証しなければならない。
−放射性物質は九州まで飛んでくるのか。
高度によるが、飛んでも関東平野まで。チェルノブイリと違って日本は乾燥していないので、あまり遠くまでは飛ばない。心配はない。
−事態はどう収束していくだろうか。
まずは原発からの放射性物質の飛散を止めること。封じ込めが終わらないと見通しが立たない。その後は放射性物質の半減期や雨など気象条件による。
−ヨウ素安定剤の効果は。
甲状腺に放射性ヨウ素がたまらないよう、被ばくすると分かったら飲むもの。ヨウ素は取りすぎると、体がだるくなったり便秘になるなど副作用がある。日本人はヨウ素が含まれる海藻を食べる習慣があるので、過剰に摂取する必要はない。
−一般人はどう対応したらよいか。
放射線は測定できるから数値を信用し、解釈するという"正しい怖がり方"をすべきだ。何を信用したらよいのか分からず怖がるから、買い占めなどパニックになる。
−被爆地長崎が手伝えることは。
長崎から来たというだけで歓迎され、現地の人たちは安心する。長崎のノウハウを生かしたい。
(長崎新聞 http://www.nagasaki-np.co.jp/news/daisinsai/2011/03/25103728.shtml)
「恐るべきこと。子どもや妊婦を中心に避難させるべきだ。」こう山下先生は言うわけですが,この30キロを超えたところの汚染は,現場測定した方に直接聞いたところ,約20マイクロシーベルト/h程度の場所が多かったそうです。山下先生の福島講演によれは,「どんどん遊んでいい」レベルのはずです。
しかもこの「恐るべきこと」を「予想していた」のですから,さすがは専門家で天晴れと褒めてあげたいです。もう何が何だかわかりません。。
読者の皆さんはどう思いますか。山下先生は素晴らしいと思いましたか。
ところで,こいういった有り難い専門家の先生が安全安全と言ってくれているのに,それを信じない動きもあります。
郡山市、校庭28か所の表土除去へ
福島県郡山市は25日、福島第一原発事故による放射線量の数値が高かった市内の小中学校と保育所の計28か所で校庭の表土を除去すると発表した。
県教育庁によると、県内の教育機関で放射線対策の土壌改良を行うのは初めて。
国の暫定基準では校庭の放射線量が毎時3・8マイクロ・シーベルト以上の場合、屋外活動を制限するとしており、県内13の小中学校、幼稚園などが該当していた。
郡山市で基準以上だったのは小学校1校だけだったが、市は地表から1センチの高さの放射線量について、小中学校は毎時3・8マイクロ・シーベルト以上、保育所や幼稚園では同3・0マイクロ・シーベルト以上の場合は表土を除去するという独自の基準を設定。県の調査結果を基に、除去作業を進める学校、保育所を決めた。取り除く表土は厚さ1〜2センチを予定し、早ければ今週末から行う。除去した土は、市内の最終処分場に廃棄する。
同市は「放射線が土壌に深く浸透する前に実施し、いち早く学習環境を整えたい」としている。
(2011年4月26日01時28分 読売新聞)
(http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110425-OYT1T01011.htm)
山下先生の福島講演を信じれば,郡山市の取り組みはまったく無駄であり,税金の無駄遣いであり,焼け太りの公共事業だと言うことになります。一方,一般人の過剰被曝は,年間+1マイクロシーベルトという,これまで長い間守られてきた基準を守り続けるならば,郡山市のような取り組みはいち早く行われるべきです。特に注目すべきは,郡山市が,空間線量率よりも,地表に降下したセシウムの除去を重要視していることです。
皆さんはどのように判断しますか。山下先生のことばを聞いて安心しますか? それとも,子どもたちにできるだけのことをしてあげたいと思いますか(文責/MWS)。
2011年4月24-25日
原子力災害に関係した勉強会に参加してきました。筆者はここで原子力問題に関する情報を流しているわけですので,勉強を怠るわけにはいかないと考えているからです。そこいらへんのおっさんの一人である筆者でも,民主主義社会の一人ですから,日本社会が進むべき方向性について勉強し,隠されている情報は暴き出し,偏っている情報は考え直し,いろいろ考えなければならない…のかもしれません。今回参加した勉強会は各分野の専門家が自由に議論する道場のようなところで,筆者は20年ほど続けています。どこかに道場がないと,筆者のような怠け者は,お勉強が続かないという理由もあるんですけどー。今回は原子力災害が実際に起きたということで関心も高く,多くの人が聴講に来ていました。2日間トイレ休憩もないという詰まったスケジュールの中で,専門家の解析について聞けたのは収穫でした。筆者がこれまで流してきた情報に関して,大きく修正を要するようなこともないようで,勉強の方向性も再確認できました(画像/MWS)。
2011年4月23日
一度浅間の爆発を実見したいと思っていた念願がこれで偶然に遂げられたわけである。浅間観測所の水上理学士に聞いたところでは,この日の爆発は四月二十日の大爆発以来起こった多数の小爆発の中でその強度の等級にしてまず十番目くらいのものだそうである。そのくらいの小爆発であったせいでもあろうが,自分のこの現象に対する感じはむしろ単純な機械的なものであって神秘的とか驚異的とかいった気持ちは割合に少なかった。人間が爆発物で岩山を破壊しているあの仕事の少し大仕掛けのものだという印象であった。しかし,これは火口から七キロメートルを隔てた安全地帯から見たからのことであって,万一火口の近くにでもいたら直径一メートルもあるようなまっかに焼けた石が落下して来て数分以内に生命をうしなったことは確実であろう。
十時過ぎの汽車で帰京しようとして沓掛駅で待ち合わせていたら,今浅間からおりて来たらしい学生をつかまえて駅員が爆発当時の模様を聞き取っていた。爆発当時その学生はもう小浅間のふもとまでおりていたからなんのことはなかったそうである。その時別に四人連れの登山者が登山道を上りかけていたが,爆発しても平気で登っていったそうである。「なになんでもないですよ,大丈夫ですよ」と学生がさも請け合ったように言ったのに対して,駅員は急におごそなか表情をして,静かに首を左右にふりながら「いや,そうでないです。そうでないです。−いやどうもありがとう」と言いながら何か書き留めていた手帳をかくしに収めた。
ものをこわがらな過ぎたり,こわがり過ぎたりするのはやさしいが,正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。○○の○○○○に対するものでも△△の△△△△△に対するものでも,やはりそんな気がする。
(『小爆発二件』 昭和十年十一月,文学; 引用は『寺田寅彦随筆集』 第五巻 小宮豊隆編 岩波文庫 1984年[第44刷],p.257-p.258)
正しい知識を学んで,放射能を正当に怖がりましょうという言葉があちこちで聞かれます。この言葉の出所は,科学者で文学者でもあった寺田寅彦の随筆で,上の画像と文章で紹介した通りです。むかしから原子力関係者の間で使われてきた言葉です。本を持っている人なら,この言葉は火山の爆発に関して書かれたものであって放射能とは何の関係もないことを知っています。その言葉が,大科学者の有り難いお言葉として,放射能と関連づけられて一人歩きしているのです。あるいは,意図的に一人歩きさせられているのです。
放射能は大半の人が怖がっていますから,「正しく怖がる」ということは,「怖がりすぎるな」というベクトルを持っています。それ自体,かなりゴマカシ的な言葉の使い方ですが,大科学者の権威のもとにそれが隠されるという構図になっています。
今回の原子力災害では,報道されている限りでは,急性症状が出るような高線量の被曝はなかったようなので,「すぐ死ぬかも…」という想像は「こわがり過ぎ」であると言えます。その一方で,広範囲に低線量の外部被曝が起こり,食品を通じて,ひじょうに低い線量であれど内部被曝も起こる状況では,少なくとも数万人から数十万人に一人は,ならなくて済んだはずのがんが発生する可能性が否定できない状況です。これは宝くじで高額当選者になるような確率ですから,宝くじを買うような方は,気になる確率かもしれませんし,買わない人にとっては無視できるものかもしれません。
そもそも,正しくこわがるというのはどのようなことでしょう。
そこが明らかにされないと,ちゃんとした議論も難しいように思います。飛行機事故や自動車事故が怖くて,なるべくこれらに乗らない人がいます。これを「こわがり過ぎ」と思う人も多いことでしょう。しかしこのような「こわがり過ぎ」の人は,飛行機や自動車で死ぬリスクは確実に低下しています。その一方で,飛行機や自動車を大丈夫なものと思っていて,ある日突然,生命が失われた方々もおられます。数値的にとても小さな死亡リスクを前に,どのように「こわがる」のが正しいのでしょうか。
東日本の方々は,いま現在,震度2〜3の地震がきても,なんとかやり過ごすことができるでしょう。しかし何十年に一度しか地震が起きない国の方々の中には,震度2〜3程度の地震に遭遇したら,顔面蒼白て外に飛び出してぶるぶる震え出すような方もいることでしょう。「こわがる」というのは地域によっても国によっても変わります。
今回の原子力災害では,一方的に,農産物や水産物に放射性物質が振りかけられました。これを喜ぶ人は皆無でしょう。万人が嫌悪感を抱くことに対して,正しくこわがるということはとても難しいことです。
日頃から,無農薬・添加物なしの食品を利用し,それにも飽きたらずに小さな畑で野菜を作っている方々もおられます。そのような方々に,「絶対安全だ,信じないのは非科学的だ」と言ったところで,農薬がたっぷりかかった生産物を食べてもらうことはできないでしょう。まして,放射能を帯びている食品など,どれほど安全と言われても,口にしたくないでしょう。
科学だけで決められる問題ではないのです。
しかも今回の原子力災害では,どのくらいの汚染状況なのか,全体像はいまだにわかりません。個人がどのくらい被曝する可能性があるのかもわかりません。ですから,個人個人のリスクを算出することなど不可能に近い状況です。そのリスクが高いものではないにせよ,将来,がんや白血病になったときに因果関係が証明できないようでは困ります。
福島県の一部では,地面から1cmの計測値で,外部被曝だけでも年間10〜50ミリシーベルトにもなってしまうところがあります。原子力産業で働いていて,この線量を浴び,後ほど白血病になったら,労災認定される可能性がじゅうぶんにあります。福島県の方々は,これに加えて内部被曝の恐れもありますから,リスク管理をしっかりする必要があります。本欄でもすでに述べましたが,居住者(特に子どもに重点的に)放射線管理手帳を交付して,つねに被曝線量をモニタ・管理し,内部被曝防止措置を施し,健康診断を欠かさず行い,医療費は当然負担するくらいのことはしなければなりません。これをした上ではじめて正しくこわがることに近づくのかもしれないと筆者は想像します。
汚染の詳細もわからず,内部被曝の程度も不明で,核種の情報は限定的,地面には放射性物質が降り積もっており,半減期の長い核種があり,事故は収束せず,それでいて住民は原発労働者なみの線量を無防備に浴びせられる可能性が高い。この状況で「正しくこわがる」などという言葉を使うのは,ふざけるにもほどがあります(画像/MWS)。
2011年4月21日
福島沖のコウナゴ、出荷停止・摂食制限を指示 魚介類初
2011年4月20日11時27分
菅直人首相は20日、基準を超える放射性物質が検出された福島県沖のコウナゴ(イカナゴの稚魚)について、原子力災害対策特別措置法に基づき、出荷停止と摂取制限を同県知事に指示した。魚介類での指示は初めて。枝野幸男官房長官が同日発表した。
これまで指示が出された野菜や原乳(搾ったままの牛の乳)と違い、泳ぎ回る魚介類の場合は範囲の指定が課題となった。農林水産省は福島県沖のほか茨城、千葉、東京、神奈川の各都県沖の海域で検査を実施しているが、まず福島県沖で制限し、茨城県沖について検査を続ける。
コウナゴをめぐっては、茨城県北茨城市沖で捕獲した検体から4日、1キロあたり4080ベクレルの放射性ヨウ素が検出された。政府は翌5日、同ヨウ素について同2千ベクレルとする魚介類の基準を新たに決め、農水省が検査を強化。茨城県の全漁協はコウナゴ漁を中止した。
その後も基準を上回る検出は続き、13日には福島県いわき市沖の検体から基準(同500ベクレル)の25倍となる同1万2500ベクレルの放射性セシウムが出た。同市沖では18日採取の検体で29倍となった。
魚介類での前例がないうえ、コウナゴが実質的に漁獲されていないため、政府は出荷停止の必要性を慎重に検討していたが、基準を大きく超える検出が続いたため決断した。東京電力と政府で漁業者の損害分を補償する。
コウナゴは「浮き魚」と呼ばれ、水面近くを群れで泳ぐ。農水省は茨城、千葉両県沖などでサバやイワシ、ヒラメなど海中〜海底を泳ぐ魚やアサリなどの貝類、ヒジキなどの海藻も検査したが、これまでコウナゴ以外に基準を超える検体は見つかっていない。
農水省などは放射性物質は海中で拡散されるとみていた。コウナゴでの相次ぐ検出を受けて同省が専門家に尋ねたところ、福島第一原発から出た放射能汚染水が、海水とあまり混ざりあわないまま海面近くを海流に乗って南下していった可能性が指摘されたという。
(http://www.asahi.com/national/update/0420/TKY201104200131.html)
多くの専門家が「海産物は基本的に問題ない」と連呼したにもかかわらず,残念ながら,筆者が4月10日付けの本欄で書いたようなことが起きているようです。一キロあたり12500ベクレルのセシウム137というのはかなり高い値で,コウナゴの乾物に換算すれば一キロあたりで10万ベクレルにもなります。とても食べられるものではありません。この濃度でセシウムを含有する魚群が相当な規模で存在することは確実で,こうなると,コウナゴを食べる魚やイカなど,より高次の大型海産生物に放射性物質が移行していきます。セシウムの蓄積性は高くありませんが,蓄積性が高くより危険なストロンチウム90も共存しているものと考えておかしくありません。厳重なモニタリングが求められるところです。
それにしても,日本の自称専門家はどうしてしまったのでしょうか。ちょっと冗談めいた動画ですが,2分ほどお時間のある方はこちらを見てみるのも一興かもしれません。リンク先が消える前にどうぞ(文責/MWS)
*1 この動画に登場する先生に,「海藻って海の中のどの辺に生えているんですか」と質問してみたいですねぇ。知らないんじゃないかな。
*2 「魚が海藻などを食べて…」,ほとんど絶句ですねこれは。まぁそのような魚が一部いることは確かですが,この海域では漁獲されて流通するほど存在しないでしょうに。
*3 「拡散する…」,ひどい。ひどすぎる。大気中の放射性物質だって拡散せずに60km遠方に届いたわけですよ。こいつは風呂もかき混ぜたことがないのかも。。学者さんなんでしょうから,ちょっとは脳みそを使ったらどうですかね。
*4 「魚は海藻などを食べているからヨウ素が豊富…」,メチャクチャですね。これほど短いコメントで,これほどのツッコミどころを作るのは並大抵のことではできません。ある種の才能を感じます。
2011年4月14日(2)
上の画像は郡山市が発表した放射線量の測定値です。地上1mと1cmを測定しているのは,行政としてはなかなか良心的です。この測定値を見ると,保育園や幼稚園児の被曝量がかなり高い値になるのがわかります。いちばん高い値を使って計算すると次のようになります。
測定値 1cm高さ 6μSv/h
6μSv/h = 0.006mSv/h
一日は24時間なので
0.006×24 = 0.144mSv/日
1年は約365.2422日なので
0.144×365.2422 = 52.6 mSv/年
そこに2年通うとして
52.6×2 = 105mSv/2年
日本の法律で一年間に過剰に浴びて良い放射線の総量は1mSv/年
これは,かなり厳しい値と思います。100mSvの外部被曝でも1%の発がん可能性があるかもしれないのです(ないかもしれない)。1年に胸部X線撮影を800回行うような数字になります。原子力発電所で働いている方々であれば,身のすくむような数字だと思います。
これだけの外部被曝を与えられ,ケースによっては,さらに内部被曝が加算される状況では,「安全」という言葉は使いにくいように思います(*1)。
ちなみに,医療被曝も発がんなどの原因と考えられていて,40歳未満の医療被曝はあまりメリットがないという認識が1990年代以降広く知られることとなりました。かつては小学校や中学校でおなじみだった胸部X線検診も,時代が進むにつれて不必要と認識され,最近は行われなくなりました。筆者は1992年以降,自分の不定愁訴がないときの胸部X線検査は不要なものと認識し,健康診断時にも受けずに済ませてきました。
今回の原子力災害に伴う,年間50mSvの被曝は発がんリスクが1%上昇したとしても不思議のない数字です。1%という数字が小さいとお考えの方は次の想像をしてみてください。
貴方が小学校に通っていたとき,その6年間を通して,誰が死にましたか?
筆者は,小学校は3校経験(総児童数約は約2500名)しましたが,死亡者0でした。もしも原子力災害で白血病などの早期に影響が出る死者がある場合,1000人規模の教育機関なら,数年に一人,白血病で命を失う人が出るかもしれないという確率になります。これは,児童には小さな数字,学校教員には驚く数字になることと想像します。
晩発性の疾病は,実際にどれほどの影響が出るのかは,数十年後にしかわからないでしょう。ですから,集団で人が働くような職業にお勤めの方は,ぜひとも,発がんや白血病の発生頻度に注意していただきたいと思います(画像/郡山市/文章;MWS)。
*1 この見積が過剰だと感じた方もおられるかもしれません。そのような方は,御自分の子ども時代を思い出せますでしょうか。筆者は,雨が降れば喜んで外に出て,長靴の中に水を入れて,その感触を楽しんだものでした。大雨が降れば水槽の魚を庭の水たまりに放し,背中を出しながら泳ぐ魚の姿を見て,楽しくて仕方がなかったものです。いずれも,4〜6歳の頃の想い出です。小学校に入るともっとひどくなります。裏山で防空壕に入ったり泥だらけになって遊んでいたのです。
2011年4月13日
きょうも朝からよく揺れた一日でした。上の画像は3月1日から4月12日までの地震発生の様子ですが(こちら),関東から東北の広範囲にわたって多数の地震が起きていることが一目瞭然です。プレート境界付近できわめて大きな逆断層型の地震が発生して,その結果として内陸や沿岸近くでは張力がかかるようになり,正断層型の地震が起きているようです。3月11日の地震では岩手県沖から茨城県沖までのプレートが動いたとされています。こうなると,関東から東北のどこで断層が動いても,あるいは断層と見なされていなかったところが震源となっても,不思議ではないような気がしてきます(画像:防災科研)。
2011年4月11日
校庭活動に放射線基準…文科省、福島県に提示へ
文部科学省は、校庭など、幼稚園や学校の屋外で子供が活動する際の放射線量の基準を近く福島県に示す方針を固めた。
同県内では、一部の学校で比較的高い濃度の放射線量や放射性物質が検出されており、体育など屋外活動の実施可否について早期に基準を示す必要があると判断した。
同省などによると、基準は、児童生徒の年間被曝(ひばく)許容量を20ミリ・シーベルト(2万マイクロ・シーベルト)として、一般的な校庭の使用時間などを勘案して算定する方針。原子力安全委員会の助言を得た上で、大気中の線量基準などを同県に示す。基準を超えた場合、校庭を使用禁止にし、授業を屋内だけに限るなどの措置をとる案も出ている。
(2011年4月10日03時19分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110409-OYT1T00912.htm
詳細が報告されていないのでコメントがしにくいですが,もし仮に,上の記事が外部被曝だけに基づいたもので,内容もこの通りなら,これはとんでもないことですね。国際世論が許さずに,取り下げになることもあるかもしれません。
これは壮大な人体実験になる可能性があります。もし,上の記事通りに事を進めるのなら,筆者は次の追加対策が必要と考えます。
1)内部被曝を可能な限り低くする施設を全校に配備
(シャワー,活性炭マスク,ゴーグル,防護服,着替えなど)
2)児童や生徒には線量計装着を法律で義務づけ。放射線管理手帳を交付
3)累積線量を国が管理し,子どもが平均寿命に達するまで国が健康管理を無料で行う
4)児童・生徒には放射線作業従事者の手当として1人あたり年間300万円(非課税)を支給
5)以上の財源は現在の年金受給額を削減することにより捻出
子どもが学校に通うというのは,大人が仕事をするのと同じことです。その役割をこなすのに,浴びたくもない放射線を,原子力産業に従事する労働者と同等レベルに浴びせられるわけです。しかも,読売の記事によれば内部被曝については一切触れていません。本当にそんな馬鹿げたことを許すなら,健康管理も賃金も必要なのは当たり前に思います。上の1)〜5)くらいは行って当然だと考えますがいかがでしょうか(MWS)。
*1 放射線源は微粒子ですから外部被曝あるところに内部被曝ありと考えて間違いありません。学校自体を放射線管理区域として運営しないと「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律 」に対して違反になります。
*2 かなりの高線量被曝になりますので,管理は当然です。
*3 原子炉建屋内部で作業するような,原子力産業で働く人々でも,平均年間10ミリSv〜20ミリSv程度以下です。これらの方々は,放射線被曝量を少なくするために,高線量の下では,一日の実質作業労働時間が一時間にも満たないことがあります。それでも当然,一日分の賃金が全額支給されます。これらの方々と同じ量だけ放射線を浴びせられるわけですから,学業という形で放射線を浴びたことによる補償が必要と考えます。
*4 財源は,日本を原子力発電所だらけにした,ご年輩の方々から少し頂戴するのが世代間不公平を緩和するやり方だと考えます。年金受給額を減らす方法もありますし,相続税から強制的に吸い上げる方法も考えられます
*5 こういった対策を取るよりももっと優れた方法は,最大でも,年間+1ミリSv程度の被曝で住むような環境のもとで学校を運営することです。可能ならば,年間+0ミリSvがベストであることは,言うまでもありません。
2011年4月10日
原乳の放射性物質、基準値下回る 福島
2011.4.9 00:01
福島県は8日夜、福島第1原発事故を受けて、7日に実施した原乳の緊急時モニタリング検査(4回目)で、放射性ヨウ素、セシウムが暫定基準値を上回った検体はなかったと発表した。
県によると、今回から検査方法を改め、前回(3月29日)に暫定基準値を下回った市町村の原乳は戸別検査をせず、県内10の乳業メーカーなどが、他の市町村産と混ぜた後の原乳で測定した。
県は、約1週間後に予定する次回検査で、基準値を上回らなければ、国と調整して出荷制限を解除していく構えだ。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110409/dst11040900040000-n1.htm
筆者が懸念していたことが早速起きていることが明らかになりました。4月3日の本欄で指摘したように,セシウム137やヨウ素131が基準を超過していても,基準以内にするには薄めればよいわけです。これは法で決められた基準を守る行為ともいえますが,より安全な食品のリスクを高めてしまう恐れがあるという意味では不誠実な行為です。こういったことを行うようでは,消費者はますます,福島県やその周辺地域で生産された食品に疑念を持ってしまうでしょう。
このような,危険なものを薄めてしまう行為は,チェルノブイリ原子力発電所事故のときに広く知られることとなりました。ですから,筆者は別段,予言したのではなく,チェルノブイリで起きたことは当然,日本でも起きると考えたまでのことです。なぜなら経済行為に関しては,人間は地球上のどこでも,不思議なほど同じ行動をとるからです。
食品汚染はこれからも長期間続きます。福島ブランドを守るならば,まずは出荷をすべてストップし,政府や東京電力がすべての食品の放射線量をチェックできる体制を作ることが先決です。次に,JAなどとも協力して,すべての農地と農産物の放射線量の関係をマッピングして,出荷可能な農地と不可能な農地を確定することです。出荷不可能な農地については,除染か食用以外の作物を生産するなどして農地の維持に努めます。これは福島第一原子力発電所の事故を収束させるよりもはるかに簡単で,予算もかからないことです。
読者の方々がどのくらいのセシウム137やヨウ素131を許容するかは,個人の考え方によると思います。筆者は,個人的には,コメ以外は100ベクレル/kg以下であれば何の心配もいらないと考えています(*1)。それよりもっと低い値であることが理想的なのはもちろんです。しかしチェルノブイリ原子力発電所事故で日本が決めた暫定基準値は370ベクレル/kgでした。これ以下の値であれば,今回の事故以前にもふつうに流通しており,それを心配している人は,よほど極端な例外を除けば,いなかっただろうと思うからです。そこで安全を見込んで100ベクレル/kg程度ならば,これまで通り,何も考えずに食べても良いだろうと思うわけです。
*1 ちょっと誤解を招きそうな記述なので補足します(2011年4月13日)。100ベクレル/kgなら心配いらないという意味は,日々摂取するいろいろな食品の数品目に100ベクレル/Kgのものが入っていても,危険視して直ちに廃棄する必要はないのではないかという個人的意見です。「毎日食べるすべての食品が100ベクレル/kgの放射性物質を含有していてもよい」という意味ではありません。大量に摂取するコメや水に安全が確保され,一日に数十〜数百グラム摂取するほかの食品の中に入っている野菜や乳製品の一部に,100ベクレル/Kgのものが入っていても心配することはないだろうというニュアンスです。したがって,福島県や茨城県内で生活して,地元の食材を日々食べるようなケースでは,いろいろなところから放射性物質を摂取しますし,呼吸で空気からも取り込まれますので,もう少し厳しい基準(たとえば10ベクレル/Kg)を適用したほうが現実的だと考えます。
海産物については,多くの専門家が,海水による希釈効果が大きく,それほど深刻な事態にならないだろうと述べています。にわか専門家だけでなく,海洋生態学の専門家も同じ意見です。筆者も海洋生態学が専門とも言えますので,これら専門家の言うことも,ある程度の妥当性があることを認めます。
しかし指摘しておかねばならないことがあります。何よりも真っ先に言わねばならないことは,今回の原子力発電所事故において,放出された放射性物質のほとんど全部は,海に落下したであろうということです。データのない現時点では,陸上に落ちた10〜1000倍の放射性物質が海上にばらまかれたと考えてもおかしくありません。希釈されるとはいえ,あまりにも多量に放射性物質が落下すれば,その分,安全なレベルになるまでに時間がかかります。
そして海水は専門家が言うほど早くは混ざりません。海で数キロも泳いだことのある人なら知っていると思いますが,海の中には,何本もの川が走っています。河口から沖に数キロ離れていても,そこを泳いで通過すれば,一瞬にして温度が下がり,河川の影響が残っていることがわかります。海水の密度と異なる水は,混ざるのに時間がかかるのです。そういった水に放射性物質が含まれていれば,濃いままに海洋を漂います。原子炉の冷却に真水が使われれば,それが海に入り,完全に拡散希釈するまでには,ある程度の時間を要するのです。数日とか,数週間とかの時間を要します。
そしてもう一つ,放射性物質が粒子として海洋に供給された場合です。たとえば3号機の爆発では大量の粉塵が発生して海に落下しました。これらの粉塵は一様に希釈されて拡散するものではありません。潮目・潮境という部分に濃縮されていきます。船乗りなら,広い海に突然,濁った海域が直線上に続いているところがあるのを知っています。そういった潮目には,浮遊物や沈殿物などが集まっているのです。そしてそこには,沈殿物などを餌として魚が集まってきます。
つまり潮目には粒子状の放射性物質が集まりやすく,そこに魚が集団で泳いでくるのです。漁船は魚がたくさんいることろを探して操業しますから,表層域の浮魚を漁獲する場合は潮目の近くで網をひくことが多くなります。その結果,放射性物質に汚染された魚を漁獲することになるわけです。
コウナゴなどから多量の放射性物質が確認されたのは,上述のようなことが起きていると考えておかしくありません。海水の動きや魚の動きは決して一様なものではなく,かなり不均一なのです。放射性物質の放出量や様態も様々です。現場で何が起きているかなんて,簡単にわかるものではありません。ですから,事故が収束しない限りは,海産物に関しても放射性物質について厳しくモニタリングを継続する必要があります。
その意味で,今回,魚にも放射性物質に関する暫定基準が設けられたのは評価してよいと筆者は考えます。大切なことは,上に述べたように,すべての海産物について放射線量をチェックできる体制をつくるということです。
こういったことで安心を得るためには,何よりも,信頼できる測定値が必要です。原子力発電所の事故が完全に処理されるまでには,数百年を要する可能性も残されています。それと比較すれば放射線量を測定し,食品の安全性を確かめる体制づくりは,はるかに短い時間で対処可能です。必要なことは,暫定基準値を引き上げることでも,放射線量を基準値以下に薄めることでもありません。迅速に正しい測定値が得られる体制を構築することです。
このような対策は,現在の消費者の安心に結びつくだけでなく,将来起こる原子力災害への予行練習にもなります。六ヶ所村の再処理工場が本格稼働すれば,大量の放射性物質が毎日放出されます。確実に起こると言われている,東海大地震や東南海大地震で,浜岡原子力発電所が大規模な放射能漏れ事故を起こす可能性も,ないとはいえません。日本は国策として数十年かけて,国内を原子炉だらけにすることを選んできました。日本各地に原子炉があるのですから,日本各地の農水産物取扱施設に放射線測定器があっても,何ら不思議なことではなく,むしろ緊急に配備が必要なものと言えましょう(MWS)。
2011年4月9日
4月6日付けでレポートした浦安の液状化現象ですが,筆者が撮影したコンビニエンスストア前で撮影された貴重な動画がyoutubeでシェアされていましたので紹介します。地震動から液状化が始まるまでのたいへん貴重な映像です。
こちら
また,東京都江東区で撮影された地震動の様子がありましたのでこちらも紹介させて頂きます。筆者のところと揺れの大きさや傾向が良く似ていて,都区内の比較的揺れの大きかったところの参考になるかと思います。
こちら
この画像で説明すると,筆者は1:20から1:40にかけて,高さ1.2mの棚から,安全フックを外し,10kgクラスの顕微鏡2台を下ろしています。そのあと1:42付近から揺れが収まるまで,顕微鏡デスクと珪藻在庫,倒立顕微鏡を押さえ続けました。その段階で,液晶モニタは倒れ,顕微鏡書籍も多数落下していました。揺れは後半が特にひどく,30kgの顕微鏡を片手で止めることができず,じりじりと押されました。リンク先の画像は途中で終わっていますが,このあとも揺れが続きました。
いま振り返ってみても,なぜタイミング良く動作ができたのかまったくわかりません。もし少しでも動作が遅れていたら多大な損失が出ていたことに疑いはなく,とても不思議な気分です(MWS)。
2011年4月6日
5日はサンプリング先の状況を見て回りました。まずは東京湾岸ですが,きょうはその中で浦安地区の状況について掲載します。新浦安駅から海側に向かう明海地区では,地震に伴う液状化現象がひどく,大きな被害が出ています。浦安市はTDLからの税金収入が多く予算が贅沢で,街並みはかなり整備されているところで有名です。しかし3月11日の地震で美しい街並みは,かなり破壊されました。
歩道のあちこちから泥が噴出し,それが乾燥してホコリっぽくなっています。泥は街路樹の植え込みに積み上げられています。大型量販店は数十センチメートルほど浮き上がり,入り口には新たに階段を作らないと店内に入れないほどです。何度も利用したコンビニエンスストアは傾いて沈み込んでいました。
海岸沿いの歩道は無惨に崩れた場所や,地割れによって2メートル幅の割れ目ができた場所(ベンチが落ちています),護岸の巨大なコンクリートが25センチも動いている場所などがあり,被害の大きさを物語っています。数十センチメートルほど浮き上がりつつも営業中のお店があり,一方では,駅のエレベータは基礎から破壊して使い物になりません。
特に被害の大きかったところは,比較的新しい埋め立て地のように見えました。この辺りは埋め立てにヘドロも使われたという噂があり,実際にこの周辺を数十センチも掘り下げれば無酸素の真っ黒な泥が出てくるところもありました。数キロしか離れていない埋め立て地では被害が小さいことから,この液状化現象は埋め立て手法の違いがもたらした災害の疑いが濃いように感じられました(画像/MWS)。
2011年4月5日(2)
3月28日には上の画像のようにつぼみも堅かったソメイヨシノが,4月4日にはこんなに素敵な花を咲かせます。自然というのは本当に素晴らしく,それを巧みに採り入れて,日々の彩りを考案してきた江戸時代の方々には,「有り難い」という言葉以外に浮かびません。先人達が残してくれた素晴らしい遺産の恩恵は,思う存分浴するのが幸せというものです。
ですから,筆者はお花見を推奨します。都知事さんが大震災の事態を勘案してお花見イベントを中止しましたが,もったいないですね。
今年の染井吉野は,いましか見ることができません。
それは,忘れ得ぬ,生涯最高の桜かもしれないのです。
震災の春に咲いたソメイヨシノの美しさを心に留め,その儚さ,生きている偶然,どんちゃん騒ぎができる幸せを噛みしめ,大自然に翻弄されつつも自然を愛でることを止めなかった,DNAに刻まれた日本人のアイデンティティーを己の内側に感じ,それを復興へのパワーとする人もおられると信じます。
筆者は知っています。日本人,特に市井の人(*1)はスゲェ人々の集団であることを(画像/MWS)。
*1 官公庁にも優れた人はたくさんおられます。しかしかれらは法規に縛られてしまいます。市井の人の凄さは,超法規的に勝手に動いて様々な奇跡を起こすことです。そしてその活動の姿は,報道で語られることはほとんどないのです。
*2 もちろん官公庁の方々も素晴らしい仕事をしていることは周知です。自衛隊(*3)の方々はもとより,海保の方々(*4)の仕事ぶりには,筆者は,昔から感心しています。今回も,犬がいるなら人間もいるかもしれないと,気仙沼沖でワンコ「バン」を助け出し,しかも飼い主との再会まで見届けた仕事は,一つの命を救った以上の価値があるように感じています。
*3 自衛隊の方々の凄さを感じたのは,日航123便墜落事故のときです。筆者は12歳の頃から毎年ペルセウス座流星群の観望を続けているのですが,16歳のとき,軽井沢に自転車で行って観望しようと計画しました。バンガローを8月13日に予約して出発を待つだけの前日に123便が消息不明になりました。8/13日朝05:21に八王子を出発し,自転車で軽井沢に向かいました。韮崎を過ぎて八ヶ岳に向かい,途中,清里付近で落雷に遭いながらも佐久を目指して走行しました。やがて自衛隊の車両が次々と走ってきて(14時頃),現在の墜落地点とされる方向に向かって行きました。その車両に乗っていた自衛隊員の「ものものしさ」は,筆者は忘れることはないでしょう。阪神淡路大震災でも,自衛隊の方々が言語に尽くせぬ仕事をしたことは人々の記憶に深く刻まれています。
*4 海上保安庁の船舶には,船首にPL(数字)があります。筆者もむかし海上でPL番号を見るとほっとしていたものですが,知人の海自隊員も,日本の沿岸に帰還してPL番号を見るとほっとする,と言っていました。皆さんも見て下さい。白い船舶に船首部のPL番号。凛々しくも頼れる海のプロフェッショナルです。
2011年4月5日
筆者のところでは居住をはじめた段階から,不必要な電気利用がないようにいろいろ工夫してきました。しかし電気は何だかんだ使ってしまうもので,ある程度以上の節約は難しい面もあります。恥ずかしいのを我慢して筆者のここ11年間の電力消費量を上の画像に掲載します。世帯人数は2名で,東京電力管内,契約は30Aです。
ほかの世帯と比較したことがないので,これが多いのか少ないのかはよくわかりません。しかし飛び抜けて多いことはないのではないかと想像しています。普段から,カットできるものはすべてカットしています(*1)。
この表を見るといろいろな傾向が見えます。気温のちょうどよい4〜6月と10-11月は電力消費が少なく,冬と夏に多くなることがわかります。筆者のところでは,暖房はとくに使うことはなく,家人がコタツと電気ストーブを短い時間つける程度です。ただ,冬場はふとん乾燥器を使うので,それが1〜3月のピークに現れています。だんだん歳をとってきて,発熱量が低下しているということもあるかもしれません。若い頃より寒さが堪えるようになりました。
夏のピークは言うまでもなく冷房です。都区内のヒートアイランド地獄は厳しいものですが,日中は,筆者は冷房がなくても死なない程度の健康を保っています。しかし夜になると,隣家の冷房室外機の排熱が窓から直接入ってくるという過酷な環境になり,かえって室温が上昇したりするので,夜間は家人の要請により冷房を入れています。それだけでも,電気使用量は跳ね上がります。特に昨年の夏は信じられないほどの暑さで夏の電気使用量を更新しました。
ここ数年,電力消費量が若干多めなのは,筆者の業務用電力消費が上乗せされたためです。パソコン,顕微鏡,珪藻処理の電気ヒーターなどが主なものですが,多少なりとも電気を使います。また平成22年は来客が比較的多く,それによっても電力消費量が増加しました。
節約しているとはいいつつも,結構使ってしまっています。。。
上の表を見ると,より節電を求められた場合,冬場のふとん乾燥器カット,夏場の冷房カットをすればいいことは明らかです。やることははっきりしているというのは,いいことですね(画像/MWS)。
*1 環境リテラシーの向上を目的として,たった5,6年程度でも大学で環境論を講義してきた身としては,エネルギーや資源をどのように有効活用できるか,ということも日々の生活で実践しなければなりません。口先だけの学者はたくさんおられますので,筆者は経験重視型で攻めの人生を送っています(^^;
*2 原子力を推進する方々の中には,「原子力に賛成できないなら電気を使うな」というご意見をお持ちの方もおられます。これはその意見が論理的でなく,おかしいのですが,それにまともに対応するのも面倒なので,日々の節約分を考慮して,「原子力発電相当分は使っていません」と答えられる準備はしています。
*3 顕微鏡は意外に電気を消費します。特殊検鏡では12V 100Wハロゲンランプをフルパワーで使うことも珍しくありません。蛍光顕微鏡では100Wの超高圧水銀灯を使用します。これらの電力消費は無視できない上に,必要ない波長の光や熱まで発するランプを使うことへの疑問もあり,筆者の顕微鏡は紫外線蛍光も含めてすべてLED化しています。消費電力を90%カット可能です。
2011年4月4日
故・宇井純が指摘したように,公害問題で専門家が出てきたら事態が複雑になり,何が何だかわからなくなったという例がたくさんあります。水俣病などはその代表例で,原因究明に奔走する熊本大学をヘッポコ大学呼ばわりした専門業界紙まで出現しました。有機水銀説が濃厚になりはじめてからも,数々の奇妙な説が「専門家」から提出され,いい加減な意見が出され,問題を複雑にしました。
今回の原子力災害でも,「専門家」がマスコミを中心にゴソゴソと蠢いています。核化学の人が食品について語ったり,原子炉に詳しい人が外部被曝の安全性について話したり,ツイッターで「大丈夫大丈夫」と連呼して,あとでこっそりと削除したりしているのを見ると,「専門家」の生態が垣間見えて筆者には興味深いものがあります。
これらの自称専門家の方々は,筆者の目から見れば,自分の専門と関係ない分野について,かなり適当なことを安全側(=業界擁護側)に振って話をしているので,話に具体性がありません(*1)。こんな方々の出演するTV番組をどれほど見ても情報は得られないでしょう。
そう思っていたら,床屋さんから「私たちは素人だからテレビをどれだけみても何もわからないの。専門用語ばかりで何にもわからないの。どのくらい放射能は危ないんでしょうか。冬の電気を溜めておいて夏に使えるんでしょうか? かくかくしかじか〜」と告白されましたので,床屋政談となりました。原子力開発の歴史から,なぜ国民に原子力に関する知識がないのか,数値の意味,WHOの基準,暫定基準値とその前までの基準値。水は安全なのか,野菜はどうしたらいいのか,買い占めはどう考えたらいいのか,電気は溜められるのか,再処理,原賠法,電気事業法,投資,電力会社と下請け,DNAと放射線と生命の歴史などをお話ししてきました。約1時間のお話です。ほかに客はなく,店主と奥様が揃ってお見えになりました。
まぁ30年も通っている床屋さんですから,お世辞もあったでしょうが,「ものすごいわかりやすかった」とのお言葉を笑顔とともにいただきました(*4)。まぁテレビを1時間見ても,ほとんど必要な情報は得られないでしょうから,そういう評価になったのでしょう。テレビできちんとした講義をすればいいのに,そういうことはやらない。放送局はスポンサーの電力会社に気を遣っているのかもしれませんが,カネがもらえなくなるから正しい教育をしない,とするならば,レゾンデートルを問われます。もっとも,筆者はテレビが不要だと思っているので,持っていないんですが…(撮影/MWS)。
*1 きちんと根拠を述べていればいいのですが,何故かそのようにはしない。「安全」を力説するあまり,その根拠を述べないのでは,「不安」が増幅してしまいます。
*2 きょうの画像は富田八郎の『水俣病』です。著者の名前は「とんだやろう」と読みます。とんでもない奴,という意味です。これは故・宇井純のペンネームです。あの宇井純ですら,当時は実名で記事を連載することにためらいを感じ,ペンネームを使用したのです。この資料は水俣病を調べる上で第一級のものです(非売品)。現在この本を所持している人はかなり少ないと想像します。筆者は学生の頃,水環境問題を中心に集中的に勉強していたとき,ある古本屋でこれを見つけ,少ない小遣いを叩いて買いました。恐るべき資料でした。水俣病の研究する人は,これを読まなければなりません。詳細な時系列経過と医学論文,それに「専門家」がいかに問題の解決を妨害したかが収録されています。
*3 画像に写っているコピーは,「水」昭和35年5月号です。業界紙は,業界擁護のためなら何でも掲載するという見本のようなものです。
*4 きっとあのお客さんは詳しいんだろうねと,来店を待っていたとのことでした。。筆者もさっぱりして,頭髪に付着したセシウム137を落としやすくなりました(^^)
*5 床屋の主人も奥様も,パソコンなど持っていません。今回の災害に関しての情報源はテレビとラジオしかないのです。そういう方々は少なくないと思います。
*6 床屋というのは情報が集まるところです。筆者もふだんは店主や奥様から,地元の一ヶ月分の事件や情報などを頂戴しています。組合加入の床屋では調髪料金がかなり高額なのですが,情報料金も含まれていると考えれば,けっこうお得です。
*7 専門家ではない人が,根拠を示した上で話をしている場合は,専門家の放言よりもずっと参考になります。根拠となる情報を丹念に調べれば,真偽の判断がつく場合もありますし,少なくともうのみにする危険は回避できるからです。専門家が「私の言うことを信じなさい」と言った場合は,その内容は聞くに値しないと判断してもよいかと筆者は考えます。ほんとうの専門家は,「自分の言うことを信じろ」なんて乱暴なことは言わないものです。
2011年4月3日(2)
福島県の農産物はこれから放射線量をチェックされて,暫定基準以下になったときに出荷が始まることでしょう。行政としては,できることはそれほど多くなく,県民に受け継がれてきた暮らしの知恵までは踏み込むことができないでしょう。
東北はどこでもそうなのですが,福島県もきのこの名産地であって,春から晩秋まで,県内各地できのこ採取がおこなわれます。たくさん採取する人は専用の冷凍庫を持っていたり,干しきのこを作る人もいて,その消費量は,きのこに関心のない方々には想像できないほどのものです。一人年間数キロ〜数十キログラム(湿重量)くらいの消費は珍しくもないことでしょう。
きのこに詳しい人ならご存じかと思いますが,きのこはセシウムを濃縮しやすい傾向があり,今回の事故で放出されたセシウム137も同じように濃縮されます。チェルノブイリ原子力発電所事故のときも,ヨーロッパのきのこから,高い放射線レベルが検出され続きました(画像4枚目)。当時は国外の事故でしたので,暫定基準値は370ベクレル/kgと定められ,それ以上のものは輸入禁止の措置がとられていました。画像4枚目の表は,当時の暫定基準値を超えたため,返送された食品の一部です。
今回の事故により,チェルノブイリ原子力発電所事故で定められた370ベクレル/kgの基準は破棄され,これよりもはるかに高い暫定基準値が採用されます。これまでは輸入さえ認められなかった食品が,何の問題もないことになって食卓に上がるのです。基準を超えた農産物でも,基準を超えなかった農産物で薄められれば「基準内」にすることが可能で,市場に出回ることも懸念されます。
これだけでも小さくない問題なのですが,福島県でごく普通に営まれてきた山菜採りやきのこ狩りなどには,規制の目が及ばないことも十分に考えられます。自家消費分なら,ノーチェックになります。
原子力発電所から50km以上離れた中通り地方で,すでに3万ベクレル/kgを越えるセシウム137を含有する野菜が見つかっています。さらに濃縮率が高くなる恐れのある天然きのこなどは,いったいどのような値になるのかと思うと,本当に恐ろしく思います。乾燥重量当たりでは,10万〜100万ベクレル/kgになる可能性もあります。
放射線は目に見えません。10万ベクレル/sのセシウム137を含んでいても,何ら形態に変化はないことでしょう。"いつものシロ"に出掛けて,いつも通りにハタケシメジ,ヤマドリタケモドキ,アンズタケ,マイタケ,ホンシメジやコウタケやハツタケやマツタケなどが出ていたら,採取して食べる人は必ず出てくることでしょう。
政府の対応がそこまで及ぶとは想像できませんが,机上の規程だけでなく,その地域に住んでいる方々の暮らしを知り,文化を知り,くらしの実態にまで踏み込んだ対策を求めたいものです。食品に規制をかけるのであれば,せめて,『日本の食生活全集(農山漁村文化協会刊行)』(*1)くらいは読むべきだと考えます(撮影/MWS)。
*1 『日本の食生活全集』は都道県別に出版されています。すべて聞き書きで,昭和初期頃に実際に郷土料理をこしらえていた方々に直接取材した話をもとに構成されています。筆者は,滅び行く日本の伝統を聞き書きという形で残そうとする試みに感嘆し,図書館から一冊ずつ借りて全巻に目を通しました。全巻揃えたかったのですが,貧乏学生ゆえに金銭的な余裕がなく,古本屋で買い求めて現在1/4ほどが手元にあります。食材の扱いについては情報の宝庫ともいうべきで,この本からは胡桃の割り方やゆべしの作り方など,いろいろ学び続けています。
2011年4月3日
この本には阪神淡路大震災に巻き込まれた方々の貴重な経験が詰まっています。精神科医として働く多くの方々が,ご自身の体験談をリアルタイム的に記したもので,災害が襲ったときの状況や,各個人の対処法,心理的な打撃やそれへの処置など,ほんとうに多くを学ばされました。この本は1995年の夏頃に,いつも通っていた本屋の社会学コーナーで見かけ,中井久夫氏の「災害がほんとうに襲った時」の一部を読んでみて,これはたいへんな教科書だと即買いしたものです。筆者の地震に対する心構えのようなものは,この本から生じているのかもしれません。
以後二日間は,一見平静,むしろアパシー的であった。私は電話の合間に校正と読書を行ったが,本は自分の文章しか読めなかった。以後,書籍は購入しても,視線が紙の上を滑るだけで内容が入ってこなくなった。これに反して文章を書くことはできた。すべての危機にあっては,手持ちの知識と経験と知恵だけで勝負しなければならないこと,試験場と同じなのであろう。 −中井久夫
電話すると,すぐFAXで事情を伝える文章が送られてきた。中井教授の「災害がほんとうに襲った時」は地震直後からの精神科医の活動が詳細にしかも体験に即して述べられてあって参考になったし,神戸大学に到達する交通手段の概念図も添えられてあった。こういう実用的なやり取りにはFAXが実に役立った。私は寝袋を持って出掛ける決心をした。すると病棟に泊まれるし毛布はあるから寝袋は不要。そのかわり生花を持ってきてきれないかという通信があった。私は一人で持てるだけの花を持っていく決心をし,近所の花屋に相談したら,出発の朝新鮮な花を届けてくれることになった。 −加賀乙彦
筆者が何度も読み返した一節です。考えさせられます(撮影/MWS)。
2011年3月31日
今月の「本日の画像」コーナーは,ほとんど原子力災害特集になってしまいました。読者の方々に顕微鏡下の世界を楽しくお届けするのが本コーナーの目的なのですが,面白くもない,原子力関連の記事を延々と書いてしまい,読者の皆様にはご迷惑をおかけすることになったかもしれません。済みません。
しかし私たちは安全と安心の土台の上に乗って,はじめて種々の活動を正常に行うことができます。大地震により大きな損失を被ったところに,原子力災害が起きて,多大な不安が払拭されずに残れば,楽しい活動もできなくなります。そのため,筆者は,読者が自分で考えて判断するための材料を提供することが必要と思い,情報提供に努めました。読者やお客様への,筆者なりの恩返しのつもりです。
これまでの経過を振り返ってみても,原子力について問題を感じ,何らかの形で勉強してきた人は,やるべきことがわかっていて,模様眺めをしているような方が多いような印象を筆者個人としては抱きました。放射線量とリスクの関係も判断もできますし,飲食物の摂取の可否なども,数値が与えられれば自分で判断できるからです。一方,分野外の方や,国の言うこと,ニュースの言うことを信じてきた方々は,「安全」「食べても飲んでも大丈夫」という情報しか得られず,大きな不安を抱いているようです。無理もありません。
不安を抱くと,人はそれを解消しようといろいろな行動を始めます。中には,「自分の頭で考えたつもりになって情報の受け売りをする」人まで出てきたりします。
ある人は友人知人に,「風は基本的に西から吹くから福島県内でもほとんど健康被害は出ないと思う。今のレベルはまったく問題ない。チェルノブイリと違って深刻にはならない」というメールを送信しました。まだ放射線量の測定値もよくわかっていないのに,こう言っています。まるでテレビに出演している専門家のようです。いっしょうけんめいネットで調べてお考えになったのだと思います。よほど不安なのでしょう。
筆者は避難している福島県民の方々を想うと,なんて軽々しい意見なんだろう,何が言いたいんだろうと驚きました。
放射線は,自然レベルでも,遺伝子に傷をつけますから,絶対安全ということはありません。自然放射線のレベルが高いところにも人が住んでいるから大丈夫,という意見がありますが,そういうところの生物を調べてみると,自然放射線レベルの低いところと比較して染色体異常が多くなっています。放射線がDNAを損傷させ,染色体異常を引き起こしているのです。
原子力発電所の周辺でも,正常運転をしていてプラントに何の異常もないときでも,発電所周辺の生物に染色体異常が起きていることが知られています。ガス態で放出されている放射性物質の内部被曝の影響と考えられています。ヨウ素131の生物濃縮係数は10万〜100万倍といわれています。正常運転ですらこの状態ですから,空間線量が測定可能なほどに上昇した今回の事故では,健康障害として認知できるかどうかは別として,生物のDNAに対して自然放射線以上の放射線損傷を与えることは明らかなのです。
ですから,人間は,自然放射線は許容するとしても,それ以外に,環境から過剰に浴びて良いことはないのです(*1)。特に,人工放射性核種は,天然にはほとんどないものが多く,それらは生物濃縮されやすいという特性を持ちます。天然の放射性核種よりも体内に濃縮されやすく,内部被曝しやすいのです。
一般人の許容レベルが一年あたりで+1mSv決められているのも,こうした過去からの知見に基づいているのです。福島県内では,現在でも,自然放射線の100倍〜1000倍のところがありますから,ICRPの基準,あるいは日本の法令で考えてみても「まったく問題ない」という言葉を使うことができません。放射線管理区域となるような値だからです。東京でさえも,あと少しで放射線管理区域になるほどの降下物があったのです。ちなみに,放射線管理区域は成人男性に対しての基準です。
福島第一原子力発電所のBWRがチェルノブイリ原子力発電所と原子炉の特性が異なることは明らかで,事故のタイプも違います。しかし深刻にはならない保証などどこにもなく,むき出しの核燃料,次々と爆発,発火する建屋(とされています),発電所全体で持っている放射性物質の量,どれを考えても深刻にならない原因を探せません。
重大な爆発や火災が起きたのは,3月12,13,14,15日です。このうち,12日と15日には東よりの風が吹きました。しかしもっとも深刻な3号機の大爆発(水素爆発と表現されていますが真相は不明だと考えます)は14日で,このときは北西の風に見えました。もしこの大爆発で生じた粒子が内陸側に運ばれれば,現在の10倍から100倍の汚染になっていてもおかしくありません。幸い風向きに助けられましたが,もし爆発が12日や15日に起きていれば,想像を絶する事態になっていたと筆者は想像します。その確率は,風向きから考えれば,25〜50%あったわけです。
こうした事実をみると,不十分なお勉強に基づく「安全だ」「大丈夫だ」という話は,それまで蓄積されてきた研究データ・情報や,国際機関が定めてきた基準までも隠蔽してしまう,有害な情報になりかねないわけです。「全体安全とはいえないが,リスクは低い」「10μSv/hが続くようなら,頃合いを見て避難するのも一つの考え方」「ヨウ素131が暫定基準付近になったら,念のため子どもには飲ませるな」という情報の方が,判断基準になると筆者は考えます。
こういう事故が起きたのですから,原子力災害について語り合うよい機会だと思います。「本日の画像」の読者は,色々なお話に遭遇したときに,どこに根拠があって,どこが雑な議論なのか,注意しながら聞きましょう。くれぐれも,不安でにわか勉強した意見(専門家を含む)に惑わされることのないように。きょうの画像は,筆者が海の放射線マークと呼んできたカザグルマケイソウです(撮影/MWS)。
*1 医療で浴びる放射線も身体には悪いのです。でも,それ以上に病気が悪さをしている場合は,放射線の助けを借りて,透視したり,細胞を殺したりして,治療効果を上げます。すぐ死ぬかもしれない人に対して,CTスキャンのリスクは比較にならないほど低いので被曝が許容されます。じゅうぶん健康な人に毎年CTスキャンを行ったら,かえって危険です。医療による被曝は,バランスがきちんと考えられているのです。
2011年3月30日
きょうは昔話に現在進行形の話を混ぜてだらだらとおはなしします。学校教育機関などでは,原子力=安全ということになっています。検定を通過した教科書には原発の危険性を十分に記述することは許されず,一方的に安全だと記されています。むかしJCOの臨界事故が起きたときには,すぐに,原子力は安全だというパンフレットが学校に配達されました。とにかく,雨が降っても風が吹いても,地震が起きても津波が来ても,地下に断層があろうと電源が喪失しようと,何があろうと,何十もの防護壁があり,バックアップがあり,原子力は安全なのです。
テレビでも,連日専門家が出てきて,安全だ安全だ問題ない問題ないを繰り返しています。そりゃぁ原子力は安全だと言ってきたのですから,危険だとはいえませんよね。
今回は事故が起きましたし,爆発もしたので,多少なりとも危険かも…と思った人がおられるでしょう。しかし,こんなことでも起きなければ,原子力発電は安全だと思っている人が大多数なのだと思います。国を挙げて安全だと教育し,危険性に関する情報は一切遮断されてきたからです。筆者もその一人です。
原子力が危険なものではない,と最初に認識したのは,東京電力が各家庭に配布したパンフレットに,原爆と原子力発電の違いという説明があって,原爆は100%濃縮ウラン(235),原子力発電は3%濃縮ウラン,だからピカドンにはなりませんよ,と書いてありました。それを鵜呑みにしたのです。12歳の夏でした。
ちょっと考えれば,原子力発電では,ウランの「量」が桁違いだということに思い当たるはずですし,その桁違いの「量」の放射性物質をどうするんだという問題にも想像が及ぶはずなのですが,考えなかったのです。当時の筆者はすでに原子力電池やカリウム40が長寿命核種であることは聞きかじって知っていた,知ったかぶり少年でしたので,放射性物質が大量に発生することは簡単にわかるはずなのですけど,パンフレットを見て安心し,自分で考えることをしなかったのです。やはり単なる知ったかぶりで,いま考えても恥ずかしいです。
お勉強を始めて,知ったかぶり病から回復が始まると,いろいろ見えるようになってきます。
そのむかし,動燃という機関がプルト君という,プルトニウムのキャラクターを作り,プロモーションビデオまで製作しました(上の画像)。このビデオは,化学や原子力に詳しい人が見ると,それなりに事実に基づいていて,過激な内容には見えない,と思うこともできなくはない内容です。一方,化学や原子力の分野に触れたことのない,一般の方々が見ると,「なーんだ,原子力発電で使われるプルトニウムは,安全に扱えるものなのかー」という印象を抱くようになっています。
このキャラクターは,国際的にはかなり厳しい批判を浴びたようで,すぐに見なくなってしまいました。まぁ,事実であるとしても,「プルトニウムは飲んだって排泄されるから大丈夫」などと言っているんですから(画像2枚目),やりすぎでしょう。画像の2枚目は,そのあまりの話題性に,Natureに取り上げられてしまった記事のコピーを撮影したものです(*1)。筆者はこの記事をみたとき,「ここまでやるのか〜」とある意味感動して,コピーしておいたのです。
このプロモーションビデオの中でも,プルトニウムは,吸入したり血液中に入れば,排出されにくく,体内でα線を出し続けます,と説明しています(だから危険,と書かないところがニクイですね)。今回の事故で環境中からプルトニウムが検出されたということは,吸入の恐れがあるということです。
筆者は3/21付けの記事の脚注*11番で,環境中にプルトニウムが漏れ出ている可能性を指摘しましたが,やはり出ていたわけです。でも,現在の検出量は微量です。3号機の爆発に対して風上からサンプリングしているように思われますので,風下方向の分析結果,爆発で生じた大量の粉塵が飛来した海域の分析結果が出るまでは,汚染規模に関しては何もわかりません。
なお,プルトニウムは地球上のいたるところから検出されます。日常的にも,水産物などにも,きわめて微量ながら入っていることがあります。プルトニウムの検出は今にはじまったことではなく,検出されたからといって慌てる必要はありません。今後の汚染の広がりを注視しましょう。
原子力災害が起きてから,この問題に取り組む方々が増えたことと思います。ぜひ,これまで受けてきた「安全以外にあり得ない」「事故は起こりえない」教育から脱して,国の原子力政策の歴史や,未だに解決策のない放射性廃棄物の処分問題,労働者被曝の問題,今回の事故処理の費用負担(我々の税金から払われることになるでしょう)など,いろいろ調べてみて下さい。一方的に「安全だ」と情報提供されたことを信じるのは,少なくとも,お勉強とはいえません。筆者がむかしそうであったような,醜悪な知ったか君は減ったほうがいいのです(撮影/MWS)。
*1 Nature 368, p9, 3 March 1994
2011年3月28日
原子力災害関係の記事に関心が高いようで,何人もの方々からコメントや情報をいただきました。ありがとうございました。きょうは原子力というものの時間スケールについて考えてみます。
皆様がいちばん気になるのは,この事故がこれからどうなるのか,ということだと思います。でも,これからどうなるのかは,誰もわからないでしょう。原子力発電は,失敗が許されない技術です。起動中の原子炉をスクラム状態にして,ECCSを作動させず,実験的に炉心溶融を起こして,原子炉や施設がどのようになるのかを「実験」することはできないのです。ですから,技術者や専門家の方も,科学的合理性に気を付けながらも,推測するほかはないものと思います。
しかし現時点でも確実性をもって言えることもあります。それは,この事故を収束させ,放射性物質の漏出が止まる状態に持ち込むまでには,とても長い時間がかかるということです。これからどのくらいの放射性物質が漏れ出すかは,誰にもわかりませんが,量の多寡は別として,封じ込めには時間がかかることは断言してよいといえます。どんなに早くても一年では難しいと思います。うまく封じ込めることができても,そのまま管理区域とするなら,一万年〜百万年以上は管理が必要です。
原子炉は正常に停止しても,冷やしてすぐに燃料交換するような簡単なものではなく,崩壊熱を除去する必要があります。臨界運転中に生じている不安定核種の崩壊熱が一段落するまで待たなければなりません。そして冷えたといっても冷たくなるわけではなく,取りだした使用済み燃料も水に浸けて冷却し続け,そのあとに再処理や処分に回されます。高レベル廃棄物(ガラス固化体)になっても,まず30年から50年間は水に浸けて冷やし,じゅうぶんに発熱が収まってから地層処分(貯蔵管理)されることになっています。貯蔵管理は,重大な放射性物質漏れを防ぐために,最低でも1万年必要です。
原子力施設は正常運転時でも,このような途方もない時間スケールで動いていますので,今回の事故のように,原子炉の冷温停止もできず,炉内は高温が推測され,燃料の一部も融解している可能性が高い(ほとんど必然と予想します)では,冷えるまでにさらに長い時間がかかります。そして燃料集合体が原形をとどめていない状態では,炉から取り出すことは不可能ですし,水素爆発(と報道されている)の影響で建屋も破壊されていますので,作業は困難です。
加えて,飛散した放射性物質により敷地が汚染されていますので,原子炉が完全に冷却できたとしても,除染作業に時間を要します。除染といっても放射性物質を消すことは理論的にできませんので,取り除いてどこかに積み上げるか,ドラム缶に詰めるか,丸ごと大きな容器に入れるか,そんなことしかできません。
ここまででも,まだかなり甘い想定です。今後,原子炉から放射性物質が多く漏れだし,近づくことができなくなると,放置せざるを得なくなります。筆者は,28日0時現在で,核燃料が大規模な再臨界を起こした大きな塊になり,水蒸気爆発を起こす可能性は低くなってきたかもしれないと想像しています。ほとんど手つかずの状況がこれだけ続いても何とかなっているように見えるからです。また臨界を起こして圧力容器に穴をあけるような事態になったとしても,種々の物質の溶融塊になって臨界は途中で止まるものと想像しています。いずれも科学的な根拠はありませんが,使われている素材などの物性から,そう考えています。しかし部分的には臨界状態が続いている可能性も否定できないように思います。28日時点でヨウ素134が検出されているからです(*3)。すでに(報道が事実とすれば)数百ミリSv/hレベルの汚染が確認されつつありますので,その領域では,一人の作業時間は5分も与えられないでしょう。それ以上の汚染になれば,作業継続は不可能になります。
*3 その後の東京電力の発表では,ヨウ素134は検出されていないと訂正されました。もう,何が何だかわかりませんね。
さて,この仮定があっているとすれば,いちばん恐ろしいのは火災です。高温の溶融した核燃料と周囲の種々のものが接触して火災が発生すれば,煙が出ます。煙には微粒子が含まれていて,その大きさは様々ですが,1ミクロン程度のものも多く含まれます。この程度のサイズになると,簡単には地表に落下しませんので,風で,簡単に数十キロメートル程度は運ばれてしまいます。風向は,偏西風の影響もあって平均的には西風ですが,北東気流になることも珍しくなく,また南東方向の風もたまには吹きます。
このようなことを考えれば,まだまだ安心できる状態とはほど遠いのです。待避の目安については,3月18日付けの記事(3月17日夜のアップ)ですでに述べましたが,放射線の値を絶えずチェックして,数値が1μSv/h以上に上昇するようなら洗濯物などは待避してなるべく外に出ないようにするなど自衛し,10μSv/hを越える日が続くようなら数ヶ月以内の待避も考え,100μSv/hレベルになれば,風向きにも注意しながら早急に逃げなければなりません。何十万人が何世代も住むような条件ではなくなるからです。
ここから話が変わります。
原子力利用が生み出す利益と不利益を誰が受けるのかという問題について考えてみます。原子力発電は,発電された電力を利用します。電力はほとんど溜められませんから,リアルタイムに利用されます。つまり,原子力発電により生まれた利益を受けるのは,同じ時間軸で暮らしている人々です。何を当たり前のことを言っているんだと思わないでください。放射性物質は,使用済み燃料の形になっても,強い放射線を出します。これを捨てなければならないのです。
使用済み燃料は高レベル放射性廃棄物として処分されますが,これはガラス固化体という形にされます。環境中に拡散しては困るので,ガラス溶融物にして,簡単には拡散しないようにするわけです。これは,固化体製造直後は,表面で10,000Sv/h以上という放射線量となり,固化体の横に人がいれば1分間で100%,死ぬことができます。このままでは危険ですし,発熱もして崩壊しますので,上に述べたように,30年〜50年間水冷して,それから,ひじょうに深い(最低でも300m以深)地層に処分されます。実際には30年の冷却では足りないと考えている専門家もいます。
30年後にはガラス固化体表面の放射線量が500Sv/h程度になると言われていますが,これでも10分間も密着していれば,100%の人が死んでしまいます。こういったものを地層の深いところに運び込んで,ウラン鉱と同じ程度の放射線量になる一万年後まで管理するわけです。2030年頃には,こういったガラス固化体が7万本に達するという試算もあります。
ところで,ウラン鉱は,長くてもあと100年ももたないだろうと言われています。最近でも,ウランの価格が上昇気味で,経済性を圧迫しています。資源量というのは埋蔵量だけで安心できるものではなく,価格が重要です。確認埋蔵量が豊富でも,価格が高騰すれば資源として成立しません。日本には石炭が豊富に埋まっていますが,価格が高くなりすぎてみんな水没させてしまいました。
こういった状況の中,未来の人々は,「原子力発電」から電力を得ることは不可能です。しかし放射性廃棄物の管理を拒否することはできません。漏れだしたら環境が汚染されて,自分たちが生きていく空間が狭くなります。漏れる危険がなくても,テロリストが放射性廃棄物を盗み出して,ぶちまける危険があります。何らかの形で管理を続けなければ安全が確保されません。処分地の地下水は,放射性物質を含む危険があるので,100年後でも,もっと後でも,利用が制限されます。それまで自由に使えていた「水」が,処分地になったとたん,未来永劫に近い時間軸で利用できなくなるのです。
ここで筆者が書いていることは,予測でも何でもありません。「事実」といって差し支えありません。なぜなら,現在すでに蓄積されている高レベル廃棄物や使用済み核燃料が,将来1万年以上にわたって放射線を出し続けることは,物理法則に従ったことであり,変えようのないことだからです。
我々の世代は電力を豊富に使ってトクをしますが,将来の世代の方々は,放射性物質の山だけが残され,それの管理を託されるのです。これ以上の不公平が世の中にあるでしょうか。
こういった,世代を超えて起こる不公平を,「世代間の不公平」といいます。年金受給の問題などでよく使われる言葉ですが,環境問題,特に核燃廃棄物の問題を考えたときに,もっとクローズアップされてよい言葉です。
100年後に生まれたというだけで,放射性廃棄物の管理を強要される社会で暮らし,そこから何の受益も得られずに,税金が吸い取られ,管理し続けなければならないのです。100年後の世の中でも,地震や水害が起こります。そういった災害対策だけでも大変なのに,数万本を越える,放射性廃棄物も安全に管理しなければならないのです。
将来世代は,子どもを除外すれば,まだこの世に生まれていません。この世に生まれていない人と,現在生存している人の間には,法的な責任関係は生じません。したがって,現在生きている人は,生まれていない(存在していない)将来世代に対して,どのような害悪でも,罪に問われることなく行うことができます。原子力発電を推進する方々は,こういった不利益や害悪を将来世代に強いることに対して,問題を感じないという立場におられるということになります。
もう一度繰り返すと,これは筆者の個人的な意見ではなく,放射性物質の性質に基づくものです。原子力発電が安全だと考えている人は,高レベル放射性廃棄物の処分まで含めて,考え直してみてはいかがでしょうか。技術というのは,不要になったものをきちんと捨てられて,はじめて完結するものです(文責/MWS)。
*1 安全だ安全だ。冷静に冷静に。と言っている人には,1)いまの人にすぐ健康障害が生じることはないかもしれませんが,では福島県の自主避難推奨区域に1万人が10世代住んでも安全でしょうか?,2)高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の物理的性質と管理方法についてご存じですか? と聞いてみましょう。1)の質問に関しては,「内部被曝」と「具体的な放射線量」ということが考慮されない時点で失格です。2)の質問については,ガラス固化体(新品)から発する放射線量,水冷の冷却期間が答えられない時点で失格です。理由は記しません。考えてみて下さい。
*2 初等,中等教育機関で教育者として働いている方々には特別にお願いがあります。もし本ページをの原子力災害関係記事をお読みなのであれば,同じトピックを最低10回は読んで下さい。1回読んで全てが理解できたら天才です。そんなことは,すでに知っていた内容が書かれていた場合を除けば,あり得ません。初めて知る内容であれば,10回は読まないと理解できませんし定着しません。ひと言ひと言,意味を確認しながら,用語の意味を検索で調べるなりして,ゆっくりと読んでください。決して字面(じづら)を上滑りするような読み方をしないでください。
これは筆者が高等学校時代の恩師から教わったことです。書く方は何十回と書き直して仕上げるんだ。1回読んだくらいで分かった気になるな。10回読め。それでも分からなかったら,ほかの文献を探して同じ項目を10回読め。それでも分からなかったら,さらにほかの文献を探して10回読め。それでも分からなかったら,最初に読んだ文献に戻って10回読め。「わかった!」思える時が必ず来る。それまではあきらめるな。ちょっとくらい読んで分からないのは当たり前だ,書く方はもっと大変なんだ!! ちょっと読んだくらいで,「分からない」なんて軽々しく言うな!!。 恩師からは化学の授業でこう教わりました。これは,至言です。筆者はこれを25年間実践してきました。この言葉は,心の宝物です。もっと楽しい話題のときならよかったのですが,こんな形で紹介することになるとは思い及ばず,いまこうやってキーボードを叩いていてもtear…。筆者は恩師の教えを守り,本日の画像でも,本を書くときでも,大事な記事は何度でも推敲してから掲載しているのです。
この恩師は,ご子息が病気になったときに,医者に連れて行き,そこで診断を下してもらい,すぐに2件目の医者に行き診断を下してもらい,さらに3件目の医者で診断を下してもらい,どこも同じ判断だったので,一番最初の医者で治療してもらった,という話をしてくれました。今から27年前の話で,セカンドオピニオンなど,誰も知らなかった時代です。実体験をもって,このような話をしてくれた恩師は,筆者にとっての本物の教育者だと思っています。授業内容など覚えちゃいません。そーんなことよりも大事なことを教えてくれました。
2011年3月27日(2)
筆者がいつも地震のことを心配している原因の一つが上の画像です。これは理科年表の地学の部で,日本の主な地震と津波の被害をまとめてあるページの一部です。小学生のときに天文少年であったので,理科年表はなじみ深く,よく見ていました(*1)。ある頃から,天文のページよりも,地震や水害のページが気になるようになり,繰り返し何度も過去の地震被害を読み続けて現在に至ります。最近では一年前くらいに読み返した記憶があります。
これを読むと,震度6クラスの地震は珍しくないこと。連続して大地震が起こることがあること,過去から10〜20m級の津波が何度も襲っていることなどがわかります。犠牲者の数も書かれています。そういった数字が頭の中に入っていると,地震の最中から被害が心配になってきます。今回の地震も,揺れている最中から,遠方の地震であることはすぐにわかりましたが,もしこれが直下型なら数十万人以上の犠牲を覚悟しました。やがて東北沖が震源とわかり,今度は津波で3万人は死ぬだろうと思いました。原子力災害も覚悟しました。何としてでも逃げろと沿岸の人々に叫びたい気持ちでしたが,もはや声を届ける術はありません。やがて次々と津波が押し寄せる様子がニュースに流れ,とても直視できませんでした。
理科年表は国民の必読書かもしれません。この本の地震と津波のページを読むだけでも,日本がどれだけ地震に襲われ続け,これからも襲われるのかがはっきりと認識できるからです。そういう認識が得られれば,防災意識も高まり,命が助かる人間が一人でも増えるかもしれません。とにかく,これ以上貴重な人命が失われてはなりません。いま生きている人は,これからも生きていくことが大事です。しっかり生きていること自体が社会貢献です(撮影/MWS)。
*1 この理科年表は,学級文庫だったか,教室の後ろのロッカーに置いてあったものです。こういった巡り合わせがなければ,理科年表を読むなどということはなかったかもしれません。なので筆者の不要な本,特に図鑑類は,学校教員に渡して,「読もうと読まずとも構わないから,教室の隅にでも積んでおいてください」とお願いしています。ひそかな恩返しのつもりです。子どもはパラパラと,けっこう見ているものです。
2011年3月27日
きょうは専門家のよい仕事ついて述べてみます。上の画像は,石橋克彦氏の『大地動乱の時代』(岩波新書)です。著者は地震学者であり,この本では過去の関東大震災をていねいに整理して,また地震学の基礎も説明した上で,このような地震が珍しいものではなく,近い将来必ず起きることを述べています。この本を読むと,明日にでも強烈な地震に見舞われるのではないかと身震いしましたが(*1),その認識は間違っていないことが実証されてしまいました。
石橋克彦氏は,1997年頃に,原発震災という言葉を考案し,単なる震災だけでも甚大な被害になるのに,そこに加えて原子力発電所が地震で事故を起こしたら,もはや手の施しようがない災害になることを警告しました。その後も,石橋氏は原発震災の危険性を訴え続け,画像2枚目で示すように,第162回国会衆議院予算委員会公聴会において浜岡原子力発電所と東海大地震について公述しています(PDFはこちら)。
文章にはすべて根拠があるもので,地震学の専門家として説得力ある論理を展開しています。そして全体を通して感じるのは,「起これば取り返しがつかないこと」を想定し,それだけは避けなければならない,という強い危機意識があるということです。
「起これば取り返しがつかないこと」を否定し,「そんなことはあり得ない」という専門家とは正反対に位置します。
石橋氏の文章からは,専門家の見地から,地震災害はどのように考えても避けることができないという科学者としての信念,その状況を受け入れた上で,日本が国際社会の一員であって責任ある国家運営をすべきであるという信念,そして何としてでも,国土の一部を失うような原発震災を起こしてはならないという信念を感じることができます。どこにも私利私欲など感じられません。きのう紹介した,机の上で書かれた浅薄な言葉と比べてみてください。
石橋克彦氏が一貫して訴え続けてきた原発震災の危機,これが現実となっています。氏の予測は当たりました。氏の言うとおりにしていれば今回の原子力災害は防ぐことができたでしょう。これが本物の専門家の仕事です(撮影/MWS)。
*1 この本は入手も容易でお薦めです。筆者はこの本を1998年頃に読みました。東海大地震の心配はむかしからしていましたが,この本を読むことで,震災を防ぐための意識が高まりました。都内に引っ越すにあたっても,「古いがしっかりしているマンション」が神戸では倒壊しなかったことを参考に物件を選び,家具類はすべて壁によりかけ,棚は揺れ止めを挟み,それができない棚はフックで引っかけました。長時間外出するときは顕微鏡を棚から下ろして床に置きました。それができない顕微鏡は,神戸での最大振幅46cmを参考にして,それより奥に引っ込めて収納しました。何もしないよりは被害は小くできたと思います。
家人にもこの本を読んでもらい,地震が起こることを共通認識としました。地震発生時には連絡が取れなくなり,移動もできなくなることがあるので,行動指針を決めておきました(仕事場,家などいくつかの拠点を決め,そこでできるだけの仕事をすること。連絡は後回しでよい。無理に帰宅せずに持ち場に泊まること。電気が使える場合はメールが相手に届く確率が高いことなど)。結局,行動指針の通りに動くことができ,家人の帰宅は翌日,筆者は連絡待ちと片づけで過ごして事なきを得ました。
*2 1998年頃に行われた原発震災関係のシンポジウムに参加して,懇親会の席では石橋克彦氏のテーブルに行き,そこで続きの話を(酒を飲みながら)聞いたのも,今となっては牧歌的な時代だったなぁという想い出となってしまいました。
*3 地震はこれからも起きます。東南海大地震は今回の地震とは別のメカニズムなので,発生しない理由はありません。すぐに発生するかどうかもわかりません。筆者は今回の地震でもうコリゴリという気分ではありますが,まだまだ来るぞ,と気を引き締めています。
2011年3月26日
きょうは専門家の不思議について,上記の本で説明してみましょう。30年ほど前に,水環境の研究では定評のあった(過去形),中西準子氏が書いた『環境リスク学』(日本評論社)です。この本の最後の方に,環境リスク学の専門家としての,原子力に関する見解があります。そこには,実際は安全なのに,残念なことに市民がリスクに関して勉強不足で原子力に不安を持っているので,原子力発電所の建設が拒否されている,というニュアンスの一文があります。言い換えれば,原子力はリスクが小さくベネフィットが大きい,市民はそこを誤解している,ということです。驚くべきことに,この本を隅から隅まで仔細に検討しても,そのことに関する「根拠」が見当たりません。
読者の皆さんは,いまこれを読んで,どのように感じられるでしょうか。
この本は2004年9月の出版で,筆者はこの本を2005年の3月に読みました。そのとき,「原子力に関して何も知らない人(素人)が書く典型的な文章」と感じました。理由は簡単です。今回のように,地震が原子力災害に直結しますし,それ以外にも電源喪失の原因はあります。事故が起きなくても,高レベル放射性廃棄物を,どこが受け入れるのかさえ決まっていません。それどころか,再処理には途方もない危険や困難や放射性物質の日常排出があって,原子力発電所の平常運転自体が様々な困難を生み出しているからです。
しかし,素人なら,何も知りませんので,事業者からのデータだけをみて,「安全」「安全」を繰り返すことができます。
そしてこの,中西準子氏は,一時期,1997年頃,原子力委員会の委員を務めています。
筆者から見れば,中西準子氏が原子力に関する素人なのは明らかですが(昔から知っている人なので…),この人はとても正直で,自分が素人であることをこちらでちゃんと告白しています。
ウラン資源の寿命やプルサーマルの意味とか、そのことと放射性廃棄物との関係など、私はあまり知らなかったので、この本で教えられた。(2006.6.13)
つまり,原子力委員会の委員を務めていたときも,『環境リスク学』を出版したときも,原子力問題に関しては,新書一冊で得られる程度の知識も持っていなかったわけです。
原子力発電に反対してきた市民は,新書一冊どころか,100冊読んでいる人も珍しくありません。研究者が読むような専門書を読みこなしている「市民」もいます。筆者も例外ではありません。
ちなみに,中西準子氏は,環境リスク学の専門家としての活動が評価され,紫綬褒章(2003年)を受章したのちに,2010年には文化功労者の称号も得ています。文化功労者には,年間350万円のお金が終身支給されます。
いやー,専門家って,本当に素晴らしいですね(撮影/MWS)。
*1 原子力が安全である根拠を示して議論しているのであれば,その結論が間違っていようとも,仕方がない場合もあります。しかし何の根拠も示さずに「安全」だと書き,市民に対して否定的な書き方をしているのですから,これはほとんど宗教です。
*2 書籍の1行をとらえて突っ込んでも仕方ないだろうとお感じになった方もおられるかもしれません。しかし本物の専門家であれば,1行たりとも疎かにしません。政治家が不用意な一言で辞任するのと同じで,科学者であれば,許されない1行なのです。筆者もむかし専門書籍を出版したことがありますが,根拠なく,思いこみで書いた文章は1行たりともありません。
*3 福島県周辺で,現在のような事故を想定し,根強く原子力発電に反対して,何百冊という本や資料を読んで勉強を重ねてこられた方々が,結果としてこういう事故に被災し,住むところも,ふるさとも奪われたことを想うとき,その無念な思いはどんなに大きかったことでしょう…。
2011年3月25(2)日
ところで,野菜はどうすればよいのか,特に,葉物はどうしたらよいのかという点について考えてみます。
先の記事で書いたように,ヨウ素のイオン種は煮沸しても飛びませんから,加熱により濃度が減じるという可能性はほとんどなさそうです。しかし,ヨウ化物イオン,ヨウ素酸イオン,次亜ヨウ素酸イオンなどは,どれも水溶性ですので,大量の水で煮れば,一部が溶脱することは確実です。したがってホウレンソウなどは,まず適当な大きさに切ってから軽く湯がいて,湯切りしてから水にさらし,最後によく絞れば,かなりのヨウ素が除去できることが期待できます。どのように考えても,生のままサラダや炒め物に使うよりも,ずっとヨウ素が抜けるといえます。
ほかの葉物も同じ処理でよいかと思います。関東地方にはかなりの放射性降下物があったので,出荷停止地域以外でも,放射性物質による汚染はあるものと考えておかしくはありません。心配な方は,安心材料を得るためにも,上記の取扱をお薦めいたします。
これから山菜のシーズンになりますが,山菜のアク抜きも同様な手順ですので,怠らないようにするのも一法かと思います。なお,福島県やその近郊では,相当量の放射性降下物があったものと見込まれますので,今年の山菜はむずかしいかもしれません。少なくとも,調査が済んでいないところで採取,喫食することは推奨できないと筆者は考えます。特に,きのこ類はセシウム137を濃縮するものもあると言われているので,注意が必要です。あと一月ほどで,春のきのこが顔を出します(文責/MWS)。
2011年3月25日
東京都内では水道水中のヨウ素131含量が基準値を下回った一方で,千葉県や茨城県では基準値以上の高い値が報告されています。今後も,気象条件などにより,値が変動するものと考えられますので,情報取得に努めて下さい。
ところで,水道水中のヨウ素131を煮沸で除去できるのではないかという話が出回っています。結論から申し上げれば,その可能性は低いと考えられます。ヨウ素の単体なら煮沸により抜ける可能性がありますが,単体で存在しにくいのです。
原子炉中のヨウ素は気体の形で炉から放出されていきますが,これは揮発しやすい化学形と考えてよいと考えます(I2の形)。これが大気をさまよって,降雨などによって地表に運ばれ,水系に入る頃には,土や水に含まれる成分と反応して,ヨウ化物イオン,ヨウ素酸イオン,次亜ヨウ素酸イオンなどの形になると考えられます。生物は酵素の力によって,ヨウ化物イオン→ヨウ素→次亜ヨウ素酸の反応を行い生態に取り込むとされています。一部の生物はヨードメタンを作る能力もあります。こういった反応経路を地球化学的に考えみた場合でも,ヨウ素が水中に単体で存在する可能性は低く,イオンとして存在することがほとんどです。
これらのイオンは,水の煮沸によっては蒸発しませんので,除去することはできません。長時間煮れば,水が蒸発して減る分,かえって濃縮する恐れもあります。
ところで,内部被曝のリスクについて簡単に記しておきます。
安全とされるレベルでも,発生確率から見ればリスクが上昇しているということがあります。放射性物質が体内に止まれば,その場所で放射線を出し続けますから,安全とされている量であっても,10万人に1人は深刻な健康被害を生じる可能性もあるのです。内部被曝はそこが危険です。どんなに少量でも,摂取して良い安全な量はないという研究もあって,余分な放射性物質はできるだけ摂取しない方がよいと考えられます。
では,内部被曝のリスクはどのくらいなのかというと,そんな実験はできないのです。その昔,放射性物質のリスクを評価するために,大量のマウスを使って実験を試みた研究があったと記憶していますが,マウス団地のようなものを作って1万匹単位のマウスを使っても1/10000のリスクしか評価できず,結局,うまく見積もることはできなかったと記憶しています(出典が思い出せません)。
すると,10万分の1のリスク評価は,最終的には疫学的な判断に委ねられることになります。しかし,母集団が100万人程度では,実際に放射性物質によってリスクが増大したのかどうかは,わからない可能性もあります。疫学的な判断ができなければ推測値を使わざるを得ないこともあるでしょう。
こういうとき,一部の学者は10万分の1の数字を根拠に,「安全」という言葉を使います。「この水を一生飲んでも大丈夫」「このホウレンソウを食べても平気」とのたまいます。
それは,確率という意味では間違っていないのです。しかし,運悪く,その10万分の1に該当してしまった人は,人生に深刻な影響を受けることになります。実際に病気になってしまった人には,10万分の1のリスクという言葉は,もはや意味がなくなります。母集団が,2000万人だったらどうでしょう。2000万人のうち200人が,内部被曝によりガンになり死ぬとすれば,統計的には小さなものでも,原発事故がなければ死ななかったという意味においては,避けられたかもしれない死であるのです。
飛行機が嫌いで乗らない人がいます。航空機事故で死ぬ確率など,計算するのが難しいほど低いのですが,それでも乗りません。しかし,その人は,確実に,自分が乗っている航空機事故で死ぬことはありません。
飛行機が好きでパイロットになり,世界のエアラインを駆けめぐって,何の事故もなく一生を過ごした人もいます。
その一方,飛行機嫌いで,普段は乗らないのに,仕事で仕方なく乗った1回の飛行で墜落し,死亡した人もいます。
今回の,放射性物質による水や食物の汚染は,人の一生から見れば,相当に低いリスクの段階ですが,疫学的には死者が出る可能性も否定できません。よく考えてみて,ご自身の対処法を決めるとよいかと思います(文責/MWS)。
2011年3月23日(3)
http://www.asahi.com/national/update/0323/TKY201103230282.html
東京都水道局は23日、金町浄水場(葛飾区)から乳児の飲用に適さない濃度の放射性ヨウ素が検出されたと発表した。検出濃度は1キロ当たり210ベクレルで、厚生労働省が21日に示した乳児の飲用に関する指標値の100ベクレルを110ベクレル上回っていた。
都は23区と武蔵野、町田、多摩、稲城各市での乳児の飲用を控えるよう呼びかけている。ただ、「厚労省設定の数値は長期間飲用した場合の健康被害を考慮したもので、代替飲用水が確保できない場合は摂取しても差し支えない」としている。(2011年3月23日14時31分)
以上は,朝日新聞社のサイトからの引用です。都内でも基準値を超える放射性ヨウ素が水道から出てきたわけです。金町浄水場は急速ろ過+高度浄水処理を行っていて,生物活性炭処理なども併用しています。粒子状物質の除去は効率よく行えますが,溶存物質の除去はできません。昨日の雨で群馬県〜埼玉県の地表に降下した放射性物質が江戸川に流れ込み,高い値を示したものと考えられます。
厚生労働省が示した乳児の飲用に関する指標値の100ベクレルは,国際的に見れば,とんでもなく高い値です。あくまでも,原子力災害時の暫定基準値です。乳児のおられる方は,可能な限り市販の水などを利用し,飲ませることのないようにしてください(文責/MWS)。
(追記)
読者の方から次のリンク先を教えていただきました(ありがとうございます)。203ページの表でヨウ素131やセシウム137のガイドラインを見ることができます。
WHO飲料水質ガイドライン
http://whqlibdoc.who.int/publications/2004/9241546387_jpn.pdf
(追記2)
飲んでも直ちに危険と言うことはありません。しかし放射性物質の放出は続いていますし,それらの摂取は水以外にも,食事や呼吸など,ほかの経路があります。総合的に考えて,リスクを減らそうとすることには意味があると考えます。
2011年3月23日
きょうは備忘録的に記します。福島県内で観測された高い放射線量は,12日の1号機の爆発により放出された放射性物質が原因の可能性が高いと,筆者は考えています。web上の情報によれば,13日午前中に,双葉町役場付近で,測定器の上限(1mSv/h)を越えたとのことです(*1)。この時点では,まだ3号機は爆発していませんし,ドライベントで高濃度の放射性ガスが放出されたのは,東京電力の発表が虚偽でなければ15日とのことなので,1号機の爆発が原因の可能性が高いといえます。
また,12日の爆発後に,原発から北西方向にある病院で,関係者が,綿のようなものが降ってきたとも証言しています。爆発時の画像を見ると,内陸の北西〜北北西方向に煙が移動しているのが確認できます。
その後の,16日以降に発表された測定値でも,浪江町,飯舘村,伊達市,福島市,二本松市,本宮町などで高い放射線量となっています。
3号機の爆発は,規模が非常に大きい上に,発生した煙の量も桁違いですが,これらは南西方向に流れているように見えます。このあとも同じ風が続きました。
これらの情報を総合して作図すると,上の画像のようになります。赤の矢印で示した部分が,1号機の爆発で生じた放射性物質の拡散方向です。
原子力発電所の一基の建屋で爆発が起こり,格納容器や圧力容器が破損していない(報道によれば)という状況で,福島県のこれだけの地域が汚染されたという事実は大変重いものです。3号機も2号機も同じタイミング,あるいは同じ風向きのときに爆発した可能性もあったわけで,そうなっていたら現在の数倍〜10倍以上の汚染もあり得たわけです。まして,格納容器や圧力容器が破損していたら,あるいは,燃料プールの燃料が熱で融解して煙を噴き出していたら,もっと過酷な汚染になっただろうと想像できます。
今のところ,偶然にも風が放射性物質の多くを海に運んでくれています。しかし風の向きによっては,放射性物質が60kmも内陸に運ばれ,安全とはいえない空間放射線量率になることが実証されてしまいました。今後も放射性物質が付着の放出が続きますので,目を離すわけにはいきません。
非常に気になるのは,12日夜〜13日朝にかけての,福島県内の放射線量がわからないことです。福島市で16日に20μSv/h程度で,これは放射性物質が到達してから3日程度経過しています。多くの物質は降下して地面にあるでしょうから,1メートルの高さで測れば相当低い値になると考えられます。放射性物質が運ばれてきた日は,どのくらい高い値になったのかが気になります(mapion地図から作製/MWS)。
*1 このニュースは,47nwesに数時間だけ掲載され,すぐに削除されてしまいました。なぜなのでしょう。
*2 福島県内の汚染状況から考えて,ところによっては年間+1mSv以上の過剰な被曝が起こることは明らかです。今後数十年以上,福島県民や,ほかのところでも被曝線量の多いところにおられる方は,すべて健康診断無料(東京電力負担)というのはどうでしょう。
2011年3月22日
専門家は独特の言葉遣いをしますので,解釈に注意が必要です。きょうは上の画像を例に,筆者がどのようにニュースを読んでいるのかを解説してみます。
高村教授は「福島市の現時点の空間放射線量で、健康上のリスクは全く考えられない」と語った。
まずこの部分ですが,筆者流に書き直すと次のようになります。
「福島県内の福島市の測定点に限った話だが,現時点の空間放射線量で,それを外部被曝して,内部被曝がなかった場合,発ガンなどの健康上のリスクは全く考えられない」
つまり,福島県のほかの地域には言及していないこと,福島市内であっても,全域の放射線量が判明しているわけでもないので,危険ではないにせよ,今後の情報に留意した方がよいと筆者は考えます。
現時点の値を7μSv/hとして,年間の「外部被曝量」を計算すると,61.3mSvとなります。疫学的には,この外部被曝量で,人が一生の間にガンを発生する可能性は0.1%もないでしょう。その一方で,放射線を浴びなくても,日本人は一生のうちに25%程度がガンになる可能性を持っているわけで,それと比較すれば「健康上のリスクは全く考えられない」といえるわけです。高村教授の言葉は,その部分だけ見れば正しいともいえます。
ところで,一般人は,せいぜい,平常時+1mSv/年の被曝に止めるべきで,原子力産業で働いている人々でさえ,年間50mSvも浴びることは(今回のような緊急時以外は)許されていません。直ちに健康被害を生じないからといって,放射線を取り扱っている方々も許されていない量を被曝する可能性があることを書かないというのは,報道の姿勢としてはよろしくありません。また,小さな子どもや妊婦の方は,一般労働者よりもさらに低い被曝量であることが求められますから,その点も配慮が必要です。「福島市」には,いろんな方が在住しておられるのですから。
低線量被曝の発ガンリスクについては不明な点ばかりですが,完全にゼロとはいえません。仮に,50mSv/年レベルの被曝を受け続けると,1万人に1人がガンになると仮定しましょう。すると,100万人の人口では100人の人がガンになるわけです。一人の人生を考えた場合,健康上のリスクは全く考えられないが,集団として見ればガンが増える可能性を完全には否定できない,ということは知っておいてよいかと思います。もちろん,この程度のガンの増加は,都道府県別のガン死亡率の変動範囲内に隠れてしまうかもしれません。
ですので,外部被曝で死んでしまうかも,という点では,深刻に考える必要はなさそうです。
しかし発達障害などについては,話は別ですので,そこのところも留意しましょう。妊娠時や赤ちゃん,小さなこどもが数mSvも被曝したら,学習面での遅れなど,将来的に何らかの障害が出るかもしれないという心配もあります。これは確定したものではありませんが,発ガンだけをみて全てが安心というわけではないのです。ですから,「健康上のリスクは全く考えられない」のが正しいとしても,「その他のすべてのリスクがない」ということではないのです。筆者なら,赤ん坊に年間50mSvもの放射線被曝は,それが健康上のリスクがないとされていても,到底認められません。
次に,内部被曝について考えます。内部被曝は先の「外部被曝」とは話は少し変わります。現在,「福島市」で測定されている放射線量は,すでに地面に落下したヨウ素やセシウムからのものが多いと考えられます。このヨウ素やセシウムは放射線源ですから,皮膚に付着したり,体内に取り込んだりすると,身体の内部から放射線を出すことになります。だから内部被曝と呼ばれます。
内部被曝は外部被曝よりも危険とされていますので,できるだけ放射性物質を体内に取り込まないことが大事です。このニュースでは,そのことに触れていないのが気になります。子どもが泥だらけになって遊んだり,赤ちゃんがそこらじゅうのものを口に放り込みながら這いずり回る,などといったことは,確実な情報がない現時点ではとても推奨されません。
次の文章に移りましょう。
山下教授は質疑応答で「洗濯物は屋内に干して」と呼び掛け、
これを筆者流に書き直すと,「洗濯物には放射性物質が付着して,そこから内部被曝が起こる恐れがあるので,リスクが低いにせよ,その危険は避けた方がよい。だから室内に干して下さい。」「長時間外出するのは,洗濯物を外に干すのと同じなので,推奨できません。」「外に漂っている放射性物質を吸い込む危険があるので,外出時は必ずマスクをしてください(粒子由来のものはカットできる可能性があります。ガスは吸い込んでしまいますが)」
となります。そのような状況なのですから,当然,「外に干してある洗濯物」と同様な農産物でも,内部被曝の恐れがあって,実際に一部は規制値を上回っていますから,出荷はできません。ですから
福島県産の原乳や一部の野菜の出荷制限について「政府の責任で安全宣言を出すまで待っていてほしい」と理解を求めた。
当然,このように言わざるを得ません。次の文章ではこう言っています。
さらに「酪農は続けられるのか」との質問に「必ずできるようになる。乗り越えてください」と励ました。
これは,筆者流に読み解けば,「わかりません」がホンネですね。とうぜん,いつかはできるようになるかもしれませんが,まだ放射能の放出は続いていますし,汚染状況の詳細もわかりません。農家は我慢しても1年以上先延ばしにされれば,経営的に耐えられないでしょう。だから「乗り越えてください」という表現にせざるを得ないのです。
筆者は不安を煽っているのではありません。言葉にだまされるな,といいたいのです。ニュースの文面を見ると,当面問題ないような印象を抱きますが,「何も問題がない」状態とはほど遠いのです。
そして,ここで読み解いてきたのは,「福島市」に限定した話です。浜通りの町や村では,この10倍の放射線量のところがあります。そこでは,すぐに健康上のリスクは生じないにしても,もっと事態は深刻なのです。
人はニュースなどの情報に接すると,情報を得た気分になります。しかし,ニュースは表面的なものです。書いてあることをそのまま信じると,とんでもないことになります。専門家の言葉ほど恐ろしいものはありません(画像/47newsのスクリーンショット)。
(つぶやき)
おタバコをお吸いの方々にはちょっと朗報かもしれません。タバコを一生吸い続けると,平均的には3〜6年程度,余命が短くなりますので健康上のリスクは明らかです。そういったリスクを怖れずに喫煙していらっしゃる方々は,けっこう勇敢だともいえます。それと比較すると,3月21日時点での,放射線による生命リスクは比較にならないほど小さいといえます。こういう安心のしかたもあるかと思います。
2011年3月21日(2)
ここのところ原子力災害関係の記事を書いていますので,筆者のスタンスを申し上げておきます。筆者自身は,1988年頃までは原子力発電に「何となく」賛成していました。しかしその後,自宅近くで高濃度のダイオキシンが検出されたことをきっかけに物質循環(=人間が使ったものは必ずどこかに捨てなければならない)の勉強をはじめ,その結果1989年頃から,原子力発電を肯定することができなくなり,現在に至っています。理由はいろいろありますが,
1)事故が起きたときの被害が大きくなりすぎる
2)深刻な事故(再臨界など)に発展した場合,手をつけられなくなる
3)安全に運転しても,放射性廃棄物が発生し,その管理を数千年以上継続しなければならない
4)こうしたリスクの割には経済性も効率もよくない
5)化石燃料が枯渇しても放射性廃棄物の管理は継続しなければならない
6)廃棄物処分地は,100年以上にわたって地下水の利用が禁止される
7)リスクは低いが,放射線の被曝には,これ以下は安全という値がない
8)二酸化炭素で地球が温暖化してもヒトは居住できる。農漁業もできる。
9)原子力災害が起きたら水と緑と土が利用できなくなる
10)被曝の危険がある作業は東京電力社員以外の人が行うことが多いこと
11)日常運転でも放射性廃棄物がどんどん蓄積していくこと
12)被曝者が健康でも,差別が起こる
13)核物質輸送事故の危険性
14)今回のような事故を想定している人は一笑に付された
15)小学校から高等学校にかけて,原子力の危険性を説明した教科書がない(検定を通らないといわれている)
16)ある電力社員が「原発に回されたら転職する」と言っていたこと
17)勉強する前は,国から安全だとしか聞かされていなかった
18)自然状態では決して存在しない毒物をまき散らしてしまい,それがなかなか消えない
19)廃棄物の長期間の管理を計算すると(バックエンド)負の経済性を持つ可能性もある
20)使用済み燃料のガラス固化体を貯蔵管理するまでに30年以上水冷する必要がある
21)全電源喪失の危険性は昔から知られていたこと(ラ・アーグ工場事故)
22)ウラン資源はもう残りがそれほどないこと(100年もない)
23)ウランが輸入エネルギーであることに代わりがないこと
24)石炭はまだ1000年分くらいあるので結局はそれを使う可能性があること
25)石炭の時代に突入しても,まだ放射性廃棄物の危険が減らないこと
26)国内では100万Kw級の廃炉の実績がないこと
27)採掘地の原住民が被曝していてその犠牲の上に成り立っていること
28)…
などと,いくらでも理由が浮かびます。考えても考えても解決が難しい問題に直面し,これはとても扱いきれる技術ではないと思わされ,現在に至っています。
しかし筆者は,単純に「原発反対!」と叫んだことはありません(個人として反対署名をしたことは何度もあります)。そうやって,いきなり結論だけを叫んでみても,何も力にならないと思っているからです。日本は民主主義の国とされていますので,国民の大多数が原子力発電を認めたのなら,その結論に従う他はないのですし,個人がどう考えるかは個人の自由で,じじつ,筆者宅で行われる年末恒例大忘年会には,原発推進と考えておられる方々,反対はしない方々(結果的に推進)がいらっしゃいます。どんな考えを持っていようとも,筆者と25年以上のつきあいのある,大切な仲間です。
こういった前提のもとに筆者がなにをしてきたかというと…。まず,原子力の問題に関しては,日本に住む一人一人の方が,
1)放射線とは何か
2)その現象を利用してどうやってエネルギーを得るのか
3)石油,石炭,天然ガス,バイオマス,地熱,ゴミ発電,太陽電池などとの比較
4)原子力の優位性
5)事故の危険性と対策,実例
6)重大事故の可能性
7)放射性廃棄物の管理
8)温暖化vs放射線
9)…
などについてきちんと勉強し,原子力発電とはどのようなものかを知ることが大切と考えました。それで環境リテラシー向上を目的として,知人と議論したり,原子力発電の講義を行ったりしてきたわけです。講義時にも,原発はダメだよとは一言もいいません。エネルギーとは何かから説き,化石燃料の特性や地球温暖化の講義も終えた上で原子力の特性を話します。そして,どのエネルギーにも長所と短所があることを話します。その上で,
「私自身はこういった勉強をした結果,原子力は推進すべきではないというように考えるに至った。しかし皆さんは別の考えをお持ちかもしれない。それはそれでまったく構わない。大切なのは,現在の社会で採用されているエネルギー供給システムの内容をきちんと勉強して理解し,皆さんが自分の頭で考え,何が必要かどうか判断することです。」
といって講義を終わります。上の画像は,そういった講義(5年ほど前で,文化系の私立大学)に学生が寄せた感想の一部です。放射線というものをまったく知らなかった受講者が,「考えてくれている」ことがわかります(画像/MWS)。
(つぶやき)
*1 あるとき男子学生(21歳)に原子力のお話をしていたところ「でも生活レベル落としたくないですねー」と言われ,話が続かなくなりました…
*2 地球温暖化対策として原発を,というのが推奨できない科学的根拠をセミナーで述べたところ,「でもっ,君っ,電気使っているんだろー!」と化学に詳しい教授が真っ赤になって怒りました…
*3 あるとき,女子学生(23歳)に,原子力の問題点についてお話をしていたところ,「生活レベルだけは落としたくない」と言われてしまいました。さらに「そういう考え方はファシズムと言うんじゃないの?」とまで言われてしまいました…。忘れられません。。
いずれも,20年くらい前の出来事で,筆者もまだ大学院生でした。あの頃は話し方が下手だったのか,若者ゆえに説得力がなかったのか…,はずかしいですね。。
*4 講義の感想を書いてもらい,それを翌週にすべてまとめて配布するという方法を筆者はよくやっていました。この方法は,受講者がどんな感想を持っているのか共有でき,自分の考えのレベルもわかるので,講義に集中してもらう良い方法だと思っています。友達や知人の考えというのは知りたくなるもので,皆さん,よく読んでくれましたし,プリントを配布したことを感謝されたりもしました。この方法を現代流にやるならば,講義中に携帯電話で講師に意見をメールして,講師はその場でメールを受信して,その意見を次々とプロジェクタに反映させる…という感じになるでしょうか。指名して意見を述べさせるよりも,ずっと意見が抽出しやすいと思います。
*5 原子力を数十年以上も強力に推進してきた政党は皆さんご存じかと思います。なので筆者は選挙権を持った頃から,その政党に投票したことがありません。建設国債を乱発して国を借金まみれにして,都市をコンクリート地獄にして,ヒートアイランド地獄にして,原子力産業に巨額の税金を投入し,若者の教育やにお金を投じない政党に票を投ずる理由が見当たらなかったからです。まぁ,学生だからなんの利権もなかったということもありますが…。その政党は日本に良いことをたくさんもたらしましたが,悪いこともたくさんありました。少々なら黙認できても,福島県民にこのような害を与えてしまったことはどうにも…。原子力のような,大きな環境問題は,最後は政治の問題になります。ですので,選挙のときによく考えないといけないのです。
*6 想定外,という言葉がよく使われているようですが,この程度の地震は珍しいことではありません。揺れは,加速度的にはあまり大きくありませんでした。新潟の大地震のときは,重力加速度を超える揺れがあり,停車中の鉄道車両が倒れました。それに比較すると相当に小さな加速度です。ただ,振幅が大きく,長周期でしたのでプラントへのダメージは大きかったと思われます。マグニチュードが最大級との表現もありますが,遠方の話なので,聞くに値するものではありません。実際,女川原発は何とか停止して事なきを得たのです。原子力発電所は,想定外であっても壊れては困るのです。まぁ,月が地球に衝突するような場合は仕方がありませんが。
*7 爆発時の風の向きから考えて,現在の福島県内の汚染は,1号機の爆発が原因かもしれません。風が北西方向に向かっているからです。2号機,3号機,4号機の爆発(火災)時にも同じ風が吹いていたら,このレベルの汚染では済まなかったことは覚えておくべきです。現在この程度のレベルの汚染で済んでいるのは,単なる偶然(幸運ともいいます)です。
*8 原子力施設は「捨てられない」のです。クルマは事故を起こせば廃車にして捨てられます。スクラップにして,タイヤはコンクリート産業の燃料にしてもらい,鉄板は電炉で再生するなどして,「物質循環」することができます。でも,原子力施設は,事故が起きたからといって,「捨てられない」のです。放射性物質が漏れるので,「管理」するしかないのです。
*9 想定外の大地震,という言葉を使ってはいけない理由がもう一つあります。それは,核燃廃棄物は,もともと,数千年〜数万年の保管を前提としている,ということです。高レベル放射性廃棄物の貯蔵管理については,数万年レベルでの地質安定性(活断層や大地震)も調査していると聞きます。これは,放射性核種の半減期を考えれば当たり前のことです。で,核燃廃棄物にはそのような配慮がされているのに,都合良く,運転中の原子炉には1000年に一度の地震は「想定外」と言い抜けるとすれば,それは分かりやすすぎる言い逃れです。
*10 いろいろ書いていますが,筆者は,原子力産業で働く方々の仕事ぶりは,プロの仕事として尊敬に値すると思っています。これまでも,危険な事象は数々ありましたが,レベル5-7クラスのアクシデントは起こさず,50基を越える原子炉の安全を確保したきた方々の努力は賞賛されるべきだと考えます。現場でプロの矜持を失うことなく,安全を維持し続けた方々の努力は評価されるべきで,原発推進/停止の論争とは,まったく別の問題です。
*11 3号機の爆発は,1号機の爆発と比較すると,とても同じ水素爆発とは思えません。1号機は,衝撃波は垂直に走っていますが,建屋の破壊は継ぎ目から起きています。しかし3号機では,水素爆発の発火が確認できたあと,垂直に黒煙が急上昇し,そのときに相当な重量物が一緒に巻き上げられているのが見えます。爆発に伴う粉塵の大部分は東南東方向に流されているように見えますので,海に落下したと考えられます。これが親潮に乗れば銚子沖付近で放射性核種としてキャッチできるでしょうから,海水や生物試料を採取し,MOX由来の各種を分析することが重要です。事実は,そうとう後になってから判明するでしょう。
*12 今回の事象が,柏崎で起こっていたら,放射性物質が関東から東北地方に広く拡散,降下する事態になったわけです。直下型なら,M7.5でも震度6にはなります。「想定外」とすることはできません。今回は,現時点までで,福島県の一部を汚染するという不幸な事態になっていますが,これでもかなり幸運です。もし柏崎で起こっていたら…考えるまでもありません。
*13 いくらでも書くことが思い浮かびますが,キリがありませんのでこの辺りで止めます。でも,気分次第で書くかも知れません。筆者は,web上に情報を発信するときは,論文執筆と同じ程度に吟味して書いています。したがって,議論の骨子について,あとからこっそりと訂正することはありません(骨子に関係のない部分で,わざと下品な表現を書いておいて後から消すことはあります。最近では,ウンコ顕微鏡と表現した「ウンコ」を消しました)。アイデンティティの統一性については,揺るぎないと考えていますが,ご意見がありましたらどうぞお寄せ下さい。
2011年3月21日
文部科学省のホームページは,一晩で変化しました。さすがに苦情があったのでしょうか。さっそく福島県をクリックしてみます。
やはり,反省の色はまったくないようです(画面を等倍で切り出したものです)。読者の皆様,数値がぱっと読めるでしょうか?。情報は最短経路でアクセスできなければいけません。
こちらを参考に,筆者が画像処理を施し,読みやすくしたのが下の画像です。
昨日と同様で,福島第一原発から北北西に汚染域が広がっています。多少の減衰は見られるものの,放射線量が50μSv/hを越えている非常に高い地域があります。チェルノブイリ原子力発電所事故でも,30μSv/h以上の線量で子どもと妊婦は避難したとされていますので(こちら),それに該当します。直ちに健康被害を生じるものではないことが明らかだとしても,念のため,しばらくの間は立ち入り禁止になるでしょう。本当に残念なことです。これ以上,放射性物質で汚染されないよう,原子炉の制御がうまくいくことを祈っています(文部科学省より引用,画像処理/MWS)。
2011年3月20日(2)
http://www.asahi.com/national/update/0318/TKY201103180577.html
4号機のプールでの発熱量は毎時約200万キロカロリー。約1400立方メートル入る貯蔵プールの水の温度を、単純に計算すると1時間あたり約2度上げることになる。 (上記URLより引用)
もしこの値が正しいなら,水の蒸発熱や貯蔵プールの水量,放熱の熱抵抗などを考慮して計算すれば,任意時間での水の残りを計算することができます。筆者がひじょうに大まかに計算したところ,プールに破損がなくても蒸発により300時間から500時間でプールは空になります(皆さんも計算してください。検算してください)。これを書いている時点で180時間以上過ぎています。火災が起きていますから,すでに水素爆発が起きた可能性があり,燃料棒は一部露出して破損していることと推測されます。
3号機にはMOX燃料が使われており,これにはプルトニウムが利用されていますので,これの行く末も気になりますが,4号機貯蔵プールの燃料棒も一刻を争う事態になっていることは明白です。現場では当然,正確な熱力学的計算が行われて作業の優先順位が決められていると思いますが,東京電力から東京消防庁や自衛隊に正しい情報が伝わっていることを祈るばかりです(画像/MWS)。
2011年3月20日
文部科学省のホームページには,上の画像のように,放射線モニタリングの結果が掲載されています。けっこう不親切な表示で,多くの方が知りたい,「福島県」が,ぱっと見るとないように見えます。よーく見ると,福島第一原子力発電所周辺,というリンクがありますから,なるほど,それは一応,福島県ですね。そこでクリックしてみますと,次の画像が表示されます。
これは画面を等倍で切り出したものですけど,読者の皆様,数値がぱっと読めるでしょうか?わざと縮小したjpg画像にして,数字を小さくして,地図の文字を薄くして,どこの地点がどのくらいの数値なのか,わかりにくいようにしてあります。情報操作のイロハのイです。多くの人は,この地図から,正確に福島市の放射線量を読み取ることをあきらめると思います。ほかのページには,きちんと読み取れるPDFが用意してあるのですが,それならば,トップページからきちんと見えるようにすべきでしょう。国民に必要な情報を最適な手段で与えることを怠ったやりかたは,卑劣としかいいようがありません。
そこで筆者が画像処理を施し,読みやすくしたのが下の画像です。
福島第一原発から北北西に汚染域が広がっていることがわかります。5μSv/hを越える高レベルの汚染域がかなり見られます。2,3,31,32,33,34,46,61,62,63の測定点では10μSv/hを越えており,この値が続くようなら(続くと考えられます)避難も考えなければなりません。この高レベルの汚染は,すでに15日夜の測定で認められていますので,かなり初期の水素爆発時(1号機?)に,放射性物質が風で運ばれてこれらの地点に降下したものと考えられます。
10μSv/hのところに一年間居住すれば,それだけで,一般人が一年間に浴びる放射線量の30倍を超える量を外部から被曝してしまいます。しかもそれだけでなく,居住すれば空気も吸いますし水も飲みます。食物も摂取するわけです。内部被曝を避けることはむずかしいでしょう。
直ちに健康被害が出る数値でないことは明らかですが,こんな放射線量の高いところには,国際的にも人が住む環境とは思われていません。こういった数値が出ているにもかかわらず,全然大したことないとか,冷静に判断すれば問題ないとか書かれたメールが飛び交っています。そういったメールを学校の先生が書いていたりすると,うのみにする人もいるかもしれませんね。
そーんな簡単なもんじゃねーよと,ひとこと言ってやりたいですね。地球上のどこに年間100mSv〜1Sv浴びて暮らしている村や町があって,そこの疫学データがどうなっているかを調べないと,「大したことない」「問題ない」という言葉なんて,簡単に使えるものではありません。お勉強のレベルが問われます(文部科学省より引用,画像処理/MWS)。
2011年3月19日 (2)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103180413.html
原発から北西に約30キロ離れた浪江町の計測値では18日午後1時32分に毎時150マイクロシーベルトを計測した。この地点付近は16日午前11時半は80マイクロシーベルトだったが、17日午後2時に170マイクロシーベルトに上がり、高レベルが続いている。 (上記URLより引用)
このニュースが正しければ,ここの住民はすでに,汚染のないところに住んでいて受ける線量の2年分を被曝していることになります。この線量がずっと続くわけではないと想像しますが,仮に150μSv/hを一年間浴びると,1300mSvを越えます。これは直ちに(数日以内に)避難を開始してよい(すべき)値です。
これだけ風が吹いているのに,すでに3日間,高い放射線量が続いていますので,すぐに減衰することは考えにくいです。放射性物質の降下物が大地を汚染している可能性が高いです。室内待避の限界を超えていると判断します。鉄筋コンクリートの室内であれば,この1/10程度の被曝になることもあり得ますが,浪江町では木造家屋が多いと想像します。
もしこの地域が,放射性物質の降下物により汚染していると考えるなら,歩いて10km移動するだけでも被曝量が減る可能性があります。西風のときに,西を目指して(あるいは放射線レベルの低い地域を目指して)早急に避難すべきです。移動するときは,福島第一原子力発電所を線源として,その風下にならない場所を目指さないと,予想外に被曝しますので,風向きに注意しましょう。レインコートで全身を覆い,ゴーグルやメガネ,マスクやタオルを口にあて,速やかに浪江町から退去することを推奨します。退去できない人は,室内の中央部,できるだけコンクリートの壁の影になるようなところで待機してください。部屋の換気はせず,室外に出た場合は,外気に当たった衣服をすべて脱いでポリ袋などに入れ,人気のないところに置いて下さい。そして放射線レベルの情報を集め,減衰しないようなら待避しましょう。
いまの(18日の)放射線レベルであれば,落ち着いてゆっくり歩いて待避しても,健康に問題を生ずる可能性はほとんどありません。しかし一年間いるのは生命に危険があります。まずは安全なレベルのところへ移動しましょう(MWS)。
追記:福島放送によれば,
「屋内退避指示エリアに入った浪江町では1万7793人、富岡町では1万5480人、大熊町では1万1363人が避難を終えている。また、南相馬市でも大規模な県外への避難計画が行われている。」
とのことです。1〜2日以内にすべての方々が無事に避難できることを祈りたいと思います。
こういった高濃度の汚染地域は,30キロ以上離れていても出現している可能性があります。まだ汚染の実態はほとんど判明していません。情報取得に努めましょう。
2011年3月19日
きょうは風のお話にしましょうか。今のところ,一般市民がいる場所では壊滅的な放射線レベルにはなっていませんが,これは風によるところが大きいのです。日本には偏西風が吹いていますから,大局的には西から東に風が吹きます。このおかげで,放出された放射性物質が太平洋に向かいます。もし,風が陸上に向かうと,現在のようなレベルの汚染では済まされず,避難区域はるかに大きくります。半径100〜200キロ圏内でも危険な場所になる可能性も否定できません。
現在,福島県などで比較的高い放射線レベルが観測されていますが,これは,14日〜15日にかけて風が内陸に向かったときに,放射性物質が運ばれて,陸に落下したものが一つの原因になっていると筆者は推測します。風の様子はこちらにあります(シミュレーションですが,大まかには正しいと考えます)。
地形的に空気がよどみやすいという問題もあると考えられますが,これだけ西風が吹いてもなかなか放射線のレベルが低下しないので,放射性物質が粒子として地上にあると考えてもおかしくありません。粒子として放射性物質が落下しているとすれば,そう簡単には減衰しませんから,しばらくはこの値が続く可能性があります。福島市の約10μSv/hという値は,すぐには危険ではないものの,年単位で,そこにいても良いレベルでもないので,避難の可能性を考えておくことが必要です。
これは福島県だけの問題ではなく,今後,風の向きと,そのときの放射性物質の放出状況では,いろいろな地域が汚染される(されている)可能性があります。放射線量とともに,気象条件,特に風向きに注意しましょう。
繰り返します。現在,各地がこの程度の放射線量で済んでいるのは,風が放射性物質を太平洋に運んでいるからです。それでも,たった一日の東風で福島県がこれだけ汚染されたのです。東よりの風が続けば,東北,関東一円が高濃度の放射性物質に汚染される可能性が高くなります。安全だと連呼している専門家の言うことを聞くか,自分で考えるか,皆さんはどちらの態度をとりますか。
福島第一,福島第二原子力発電所にある放射性物質は,まだ,誤差範囲の放出量です。燃料プールでの爆発や,圧力容器の破損に伴う放射性物質の大量放出は,その可能性を否定することはできません。まずは鎮圧できることを祈ります。しかし鎮圧できたとしても,多量のMOX燃料やウラン燃料がある以上,放射性物質の封じ込めが終わるまで,環境への放出は続きます。封じ込めに成功しても,その後も永久に(数万年)管理しなければ,危険な状態になります。これは筆者が適当なことを言っているのではなく,放射性物質というものがもっている性質です。放射線を消す方法はありません。いまはまだ一部を除き安全な地域がほとんどですが,これからも安全であり続ける保証はないのです。
ところできょうの画像は,豊島区内から撮影したバラ星雲(NGC2237-9,46)です。関東地方では計画停電が今後も続きますので,月のない夜に計画停電になったら,夜空を見上げてみてください。辺りが暗くなり,いつもよりもたくさんの星が見えるかもしれません。どんなときでも,一服の清涼剤は必要です(画像/MWS)。
2011年3月18日
きょうは少し放射線の数字と避難に関するお話をしたいと思います。原子力災害においては,ある場所で,どのくらいの放射線量かが,安全を確保する上で決定的に重要です。ですから,放射線量に関する数字は,地球に住んでいる人はみんな知っておいた方がいいのです。
まず大事なことは,数値が「流れ」なのか「量」なのかを知ることです。
人間が1時間当たりに飲んでもいい水の量を0.1リットルとすれば,
0.1 L/h
となって,これは「流れ」です。1時間当たりに0.1リットルの水が通過したということです。
では人間が一年間に飲んでも良い水の「量」はどのくらいでしょうか。計算してみましょう。一日は24時間,一年は365日ですから,
0.1 × 24 ×365 = 876 L
となります。これも一年当たりの量という数値ですから,厳密には876 L/y (yはyearの略)と表記して,「流れ」と解釈してもいいのですが,ふつうは一年当たりの量というふうに書いて,「量」と解釈しています。
放射線量も同じ計算でOKです。一年間に浴びてもいい放射線量を仮に100mSv(ひゃくミリ シーベルト)と仮定します。「量」であることに注意。ここでmは単位換算のための表記で,1/1000を表します。1mgは1/1000グラムですが,その表記と同じことです。その千分の1がμ(マイクロ)という表記です。
一年間の限界線量100mSvをマイクロに換算すると,
100000 μSv
となります。これを1時間当たりに直しますと,
100000 ÷ 365 ÷ 24 = 11.4 μSv/h
ということになります。この値は「流れ」です。
ニュースなどでは,この値と,胃のレントゲンの値(600μSv)を比べて,安全だ,と言っていますが,胃のレントゲンの場合は,放射線600μSvが一発で与えられる「量」であって,それ以上の放射線を受け取ることはありません。これに対して,11.4μSv/hという放射線の「流れ」の中に身をおけば,53時間もいれば,胃のレントゲン1回分の放射線「量」に達してしまいます。
11.4μSv/h × 53h = 604 μSv
となるわけです。放射線の測定値は,μSv/hという単位で発表されることが多いので,その数値を見たら,上記のような計算をして,年間でどのくらいの「量」を被曝することになるのかを計算してみてください。すぐに危険ではないことが理解できますし,かといって,一年単位では好ましくない値ということもあるかもしれません。
現在,福島市では,10μSv/h程度の値が報告されています。このままの値が一年間続きますと,90mSv程度の「量」に達します。これは原子力産業で働く人の上限になりますので,何十年も居住するという観点からは,それほど安全とはいいにくくなります。しかしこれを逆に解釈すれば,あわてて走って逃げるような状況でもないことが明らかです。事態の経過を注意深く見守り,避難のタイミングも考えなければなりません。
50μSv/h程度の,比較的強い放射線の測定値が発表され,これが続くようなら避難しなければなりません。しかしこの場合も,あわててはいけません。汚染地域から,安全な場所に移動するまでに10日間かかったとしても,
50μSv/h × 24 × 10 = 12000 μSv(10日間で)
12000μSv = 12mSv
となり,これは医療用CTスキャン数回分の被曝量になります。被曝としては多いですが,すぐに健康障害になることは希です。敏感な人は下痢くらいするかもしれませんが。実際は屋内待避もできますし,もっと測定値が低い段階で避難命令が出るでしょうから,余裕があるものと想像できます。
つまりあわててはいけないということです。
怖い怖いと走って逃げて,電柱に頭ぶつけて死ぬ方がもっと恐ろしいのです。
放射線は目に見えませんから怖れるのは当然ですが,いろいろなところから測定値が発表されていますので,ほんとうに危険になったら逃げることは十分に可能です。
まずは放射線の測定値を怖れるよりも,自分で計算してみて,年間上限値(労働者の最大被曝量 一年あたり約100mSvと考えてください)との隔たりを確認して,心を落ち着けてください。
なお,小さなお子様や,妊婦の方々は,もう少し放射線に敏感です。それに,不安の解消の意味もあります。一年の上限は高くても25mSvくらいに考えて,早めに行動するのも良いかと思います。原発災害がなければ,空気や食べもの,大地から一年間に2.4mSvくらいの被曝量です。
移動するときには,西風が安定しているときにすれば,放射性物質が太平洋側に行きますので,被曝を小さくできる可能性があります。また,雨や雪の日に移動すると,雨や雪に溶けている放射性物質が身体に付着することもありますので,できるだけ避けましょう。
もう一度いいますね。少しだけは放射線を浴びますけど,生命に何ら危険なく移動できる時間はじゅうぶんにあるので,あわててはいけません。あわててケガをしたり,命を失うことがあってはありません。まずは,現在発表されている放射線の測定値を自分で計算してみて,程度を確かめてください。
もちろん,福島第一,福島第二原発から30〜100キロ圏内にお住まいの方で,それよりも遠方の家族や親戚の家に待避することができる方は,放射線レベルが現在の段階でも,安心のために待避しておくという考え方もあります。筆者はそれを否定しません。それぞれの人にほんとうに必要なのは,科学的データよりはむしろ,「その人が安心すること」という心理的な問題ですし,現在,放射性物質の放出が続いていて,今後も放出が続くことは明らかだからです。
これを書いている時点でも,福島県から避難しておられる方が1万人程度だと報道されていますが,それはそれで合理的な行動です。
ところで,今日の画像は神奈川県内で採取した海の珪藻です。珪藻を覗いていると頭がクールダウンされ,ストレスが和らぎます。ニュースを見過ぎてお疲れの方,5分くらい顕微鏡を覗いてみてはいかがでしょうか(画像/MWS)。
*1 ここで記述したのは,外部被曝を避けるために待避すべきかどうかを判断する基準です。緊急時の初動をどうすべきかという観点から書いています。年間100mSvの外部被曝が安全だと言っているのではないことに注意してください。また事故が長期化して,問題が内部被曝にまで広がると,別の考え方が必要になります。それについては,この記事より新しい日付の記事に書いてありますので参照して下さい(2011年4月13日)
2011年3月17日
筆者は環境リテラシーの向上を目的として,文化系大学において環境論を5年間ほど担当していました。その中で原子力利用に関する諸問題を2コマ行っていました。原子力と口を開けば「安全」「安全」「必要」といった世間の風潮は明らかに間違っているので,原子力の持つ正の側面と負の側面を詳細に論じました。講義を聞いた多くの受講者は,正の側面に感心しながらも,負の側面を避けることが重要だという感想を寄せてくれました。筆者は質問票を配布して,それに返答しながら講義を進めます。学生はいろいろな質問を考えてくれて,こちらも一生懸命に答えました。今日の画像は5年ほど前に講義を行ったときの質疑ですが,この欄をご覧になっている皆様も,学生になったつもりで,上の画像をしっかり読んでみてください(画像/MWS)。
2011年3月16日
福島第一原子力発電所に近い地域では,ヨウ素剤(ヨウ化カリウム製剤)の配布が始まっています。ヨウ素は甲状腺に貯蔵されますので,予め甲状腺をヨウ素で飽和させておけば,放射性ヨウ素(ヨウ素131)が大気に混じって飛んできても,体内から排泄され,内部被曝を低く抑えることができるという考え方です。この対策は,特に子どもにとって有用なことが知られています。このヨウ素という元素は特に海藻に多く含まれることが知られていて,日頃から海藻を多食する人は,それだけ甲状腺にヨウ素が蓄えられていますので,放射性ヨウ素を蓄積してしまうリスクはそれだけ低くなります。福島県から離れていても何となく不安だと思う方は,海藻類を食べて不安を和らげましょう。画像は神奈川県内の塩だまりに生えていた海藻です。こんな海藻でもヨウ素が含まれています(画像/MWS)。
2011年3月15日
ここのところの東日本の状況は上の画像のような感じです。最初の11日の大地震の直後は,数分おきに地震が続き,夜中も地震が続いて眠ることができませんでした。15日現在でも余震は続いていて,落ち着かない日々を過ごしています。夜には静岡で比較的大きな地震が起き,都内でもかなり大きな長周期震動を体感しました。この地震活動は,たぶん,当分終わらない気がします。大地震がきても対応できるように,気を引き締めていきましょう(画像/yahoo地震情報から転載,気象庁のデータにつき許可未取得)。
2011年3月14日
福島第一,第二原子力発電所では,現在も注水作業が行われ厳しい戦いが続いています。大量のホウ酸水が注入され海水で満たすことに成功すれば,短期〜中期的には安定な状態に持ち込めるでしょう。ぜひともそのようになって欲しいもので,祈らずにはいられません。きょうの画像は珪藻土を焼き固めたもの(提供:日本ダイヤコム工業株式会社)です。珪藻土は水酸基と水分を含みますので中性子の減速効果があり,さらにこれにホウ酸とある種の金属を含ませれば,中性子とガンマ線の遮蔽も効率よく行えることが明らかにされています。コンクリートと異なり,それ自体は放射化しにくいという特長もあります。この性質から珪藻土を放射線防護壁としての利用する研究が行われています。このような類の資材が必要になる状況が最小限になるよう,原子炉の冷却がうまくいくように,みんなで願いましょう(画像/MWS)。
2011年3月13日
ガイガー管を久しぶりに出しました。理由はおわかりかと思います。原発は炉心を冷やすことができなければ,放射性核種の崩壊熱で加熱され続けますので危険な状態になります。現在はまだ反応容器が残っているとも伝えられますが,ジルコニウム-水反応が起こった可能性が高い上,セシウムが検出されていますので,燃料棒が破損していることは間違いないと思います。無理やりにでもホウ素を放り込んで水で冷却できれば,再臨界を防ぎ沈静化できる可能性もありますが,バックアップ電源もポンプもまともに働かない状況ではハードルが高いと言わざるを得ません。
とにかく,制圧できることを祈るばかりですが,情報に留意し,念のため防災の備えをしておきましょう。原子力災害では初期の内部・外部被曝を低く抑えることが大事です。放射性物質の拡散が起きても対応できるように,居場所を確保し,飲料水,食糧を確保しておけば安心できます。余裕のあるときに準備されてはいかがでしょうか(画像/MWS)。
きょうも複数の方から連絡をいただきました。ご心配いただきありがとうございます。
2011年3月12日
すごい地震でした。筆者は冷えた体を温めるために研ぎ物をしている最中でした。水面が微妙に揺れ,それが数秒以上続いたのでP波を直感し,直ちに顕微鏡デスクに戻りました。念のため,微分干渉顕微鏡と透過明視野生物顕微鏡の入っている棚を押さえてS波にそなえました。まもなく周期の長い大きな揺れがやってきました。これまで体験したことのない大きな激しい揺れで,P波の長さと揺れの周期の長さから,巨大な揺れが長引くことを直感し,激しい揺れの中,微分干渉顕微鏡と透過明視野生物顕微鏡を棚からおろしました。揺れは収まらず,デスクの上の30kg級の顕微鏡が放り出されるように動いています。棚と同時に全力で押さえますが,デスクごと100kg以上の重量が動いているので押さえ切れません。じりじりと顕微鏡に押さえながら耐えていると,こんどは30kgある倒立顕微鏡が動き出し,Jシリーズ用の珪藻在庫が落ちそうになっています。必死に食い止めながら,次々と落ちる書籍や空箱などのの落下物の様子を見て,揺れが収まるのを待ちます。しかし揺れは収まらずかなり厳しい時間を過ごしました。
揺れは1,2分ではなかったと感じました。何度も「大丈夫だ,絶対大丈夫だ」と叫び,自分に言い聞かせました。未曾有の長周期震動で,まるで船にでも乗ったかのようです。やがて揺れが弱くなり,ケガや機器類全損の最悪の事態は避けられました。珪藻在庫も守ることができました。顕微鏡は必死に手で押さえても26cm動きました。まもなくやってくる余震に耐えながら重量級の顕微鏡をデスクから下ろし,珪藻在庫を余震にそなえて移動しました。その後も強い余震が数分置きに続いています。
筆者のところでは,震度5までは大きな被害が出ないように,棚はすべて壁によりかけており,積み上げているものはほとんど落下してもよいものにしています。つねに地震に注意を払い,どんなに微弱な揺れでも顕微鏡デスクに戻って棚を押さえつつ状況を見る訓練をここ5年間続けてきました。しかしそれでも実際に体験すると甘いものではありませんでした。顕微鏡の被害はなく,棚も倒れませんでしたが,書籍や小箱や小物が200個くらい落下しました。震幅の大きい長周期の震動でしたので,都内でも化学系のラボなどはたいへんな状態になっていると想像します。
東北地方の被害状況には絶句するばかりです。皆様の被害が最小限で済むように祈念します。一人でも多くの命が助かるように祈念します。どうか皆様もじゅうぶん気をつけてお過ごし下さい(画像/MWS)。
複数の方から連絡をいただきました。ご心配いただきありがとうございます。
2011年3月10日
東北地方沿岸で地震があり,宮城県から岩手県にかけて津波を観測しました。上の画像は大船渡の潮位ですが,干潮時に+60cmを記録しています。かなりシャープなピークで震幅は80cmありますので,養殖施設に被害がないか心配です。昨年も2月28日に津波があり,このときは被害が出ました。二年連続で春先に津波というのは,単なる偶然とは思いますが,不気味な気もします(画像/気象庁)。
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