生活の中に潜む顕微鏡

2007.9.27 copyright (C) MWS

生活の中に潜む顕微鏡(のようなもの) 




いまや光学顕微鏡は社会を支える存在である。組織切片の病理診断には欠かすことができない。皮膚科には必ず顕微鏡が鎮座している。製品検査に使うこともある。建物にアスベストが使われているかどうか顕微鏡で調べることができる。生物調査でも不可欠であり,金属疲労や表面の欠陥発見に蛍光探傷法を用いた顕微鏡が使われることもある。顕微鏡のない世界は考えられない。

ところで,一家に一台以上,顕微鏡のようなもの,が存在していることにお気づきだろうか。

その顕微鏡にはオートフォーカスが組み込まれていて結構,高性能である。単色光の特殊照明を施し,それに最適化された形状の対物レンズを用いることで高分解能を達成している。分解能は約1μm(1/1000mm)程度から0.3μmに近いものまであり,用途によって使い分けされている。像のコントラストは高い。全自動のコンピュータ制御でありながら耐久性は高く,特にレンズ清掃をすることもなく永く使える優れものである。

さて,思いつく物はありますか。

こたえはコンパクトディスクやデジタルビデオディスク(の類)です。パソコンのCDドライブもこれに該当します。



これらは皆,レーザー照明を使った光による読み取り装置で,原理は顕微鏡なのです。上の画像のように,装置の中にはちっちゃなレンズが入っていて,精密なプラスチックモールド整形によって良い像を結ぶようになっている。色収差は大きいけれど,レーザーのようなよく揃った単色光で照明すれば問題にならない。観察対象によって収差が発生する可能性があるけれど,これは規格化してしまえばよい。この高性能な走査型光学顕微鏡に音声画像変換・出力装置を付した物がCDであったりDVDであったりするのである[1]。

CDやDVDを顕微鏡とは言い過ぎじゃないの? と思った方もおられるであろう。確かにその通りである。CDやDVDでは光学像を観察できない。これで話が終わるなら単なるこじつけに過ぎない。

ということで,このレンズで珪藻を観察してみましょう。まず,4倍対物レンズ,それもいちばん安いアクロマートを用意する。このレンズの先端にCDのピックアップ用レンズを落とし込んで装着する。ちなみに,CDやDVDなどのピックアップ用レンズを顕微鏡として用いる場合,曲率の緩い面を物体側に向ける。するとこんな具合になる。




これを使って珪藻プレパラート【COS-01】を観察する。コンデンサは十分に絞り込んでレンズのアラを隠し,照明はCDレンズに併せて赤色光(R64フィルタ)を用いる。あとは普通にコリメート法で撮影である。収差補正の関係から,プレパラートの表裏を逆にしている。




いかがでしょうか。右上の小さな珪藻像は4倍の対物レンズだけで写した画像,その周囲はCDピックアップレンズを付けて撮影した画像である。下に入れてあるスケールは一目盛りが10μm(1/100mm)である。まあ厳しめにみても分解能1.5μmは確実にクリアしている。分解能の式を0.61×波長÷開口数とすると,照明波長を650nmとして逆算すれば,このCDレンズの開口数は0.26程度になる(実際はもう少し高いようだ)。明らかに4倍対物レンズよりも高い分解能である。

単レンズのままでも,例えば穴をあけた板などにはめ込んでしまえば,レーウェンフックの単レンズ顕微鏡になる。この場合もレンズの曲率が緩い面を物体に向ける。目はギリギリまでレンズに近づける。照明は遠くにある電球とかLEDライトのような,点で照らすようなものを使うとコントラストが格段に良くなる。CDレンズは薄いガラスを通して見たときに収差が補正されるようになっているので,スライドグラスになすりつけた物体を,スライドグラスの裏側から覗くようにするとよい。

ということで,やはりCDは家庭に潜む顕微鏡だったのである。もし不要になって捨てるCDドライブがあるのなら,分解してレンズを取りだしておけば,きっと遊びに使えることだろう。



[1] 河田聡(編著)ここまできた光記録技術−光記録産業の巨大化に向けて−.工業調査会,2001年











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