上の画像の一枚目は珪藻アート標本を顕微鏡にセットしたところです。スライドグラスのサイズは76×26mmで,その真ん中に9×9mmのカバーガラスがのっています。そのカバーガラスの中央近くに白いシミのようなものが見えます。シミの直径は1.4mmでこれが珪藻アートの本体です。9×9mmのカバーガラス部分を拡大したのが二枚目の画像です。小さな小さな珪藻たちがきれいに配置されているのがわかります。これを顕微鏡で観察して楽しむのです。照明により見え方が変わるのでいろいろな風景を見ることができます。暗視野照明によるものが三枚目の画像です。珪藻の微細な構造から生まれる構造色を楽しむことができます。四枚目の画像は明視野です。一部に干渉により色づく珪藻がいますが基本は無色です。
珪藻と書きましたが並んでいるのは珪藻の殻です。珪藻はガラス質の殻を持つ藻類です(
こちら),この殻はアルカリには溶解する一方で酸にはめっぽう強いので,酸性条件下で酸化処理を行うときれいなガラスの殻を得ることができます。この殻はかなり純粋なシリカなので色はついていません。
このガラスの殻を,顕微鏡をのぞきながら思い描いたデザインに並べて樹脂で封じて一枚の珪藻アートが完成します。その作業の難易度は言語に尽くせぬものがあります。全ては手作業ですし,材料も自分で集めなければなりません。作る方法も自分で考案し必要な道具は自作します。ホコリがひとつ落ちただけですべての作業が台無しになります。ガラスも樹脂も完全透明を維持するために特別の注意を払う必要があります。完成したものはチリひとつないように清拭して汚れないように密封する必要があります。すべての技術を完璧にこなす人だけがパーフェクトな珪藻アートを完成させることができます。
珪藻アートの画像を見た人からは決まってCG(コンピュータ・グラフィクス)でしょ,という反応が返ってきます。もちろん現代ではCGでこのような絵を作ることもできるでしょう。でも珪藻アートは少なくとも150年以上のむかしから存在するのです。コンピュータなど影も形もない時代から,この自然界に存在するふしぎな形の生き物の殻を並べている人がいたのです。
日本国内ではかつて津村孝平先生(故人)が珪藻を並べていました。お弟子さんも数名いらしたようです。しかし販売ルートなどはなく,国内では珪藻アートを入手するには輸入するしかありませんでした。そこで筆者がMWSを開業後まもなく,珪藻アートの制作販売もはじめたのです。それから15年ちかくが経過し,国内でも珪藻アートの認知度は少しあがってきました。愛好家も増えてきています。
このページではこれまでの制作物をピックアップして紹介します。すべての作品は筆者(Osamu OKU, Ph.D)に手によるものです。可愛らしいもの,変なもの,理解不能なものなど,たぶんいろいろな受け止め方があるだろうと思います。ご笑覧いただけますと幸いです(画像/MWS)。