研ぎ特集記事

「本日の画像」コーナーに掲載した研ぎ関連記事のうち,主要なものを抜き出したものです。砥石にご興味ある方はこちらこちらもご覧下さい。



2013年11月12日


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ゴミのような石ころを研磨したところ,美しい模様が出現しました。研磨は,裏面はコンクリートブロック,表はGC#120で研ぎおろしました。途中から大村砥に切り替えて面だしして,最後は仕上砥(丸尾山黄色巣板)で擦ってあります。砥汁は火山灰系の砥石の感触で,ぬめりが強く,クリームのようになります。全体的にもろく,ポロポロ欠けてくるので整形には気を遣います。ベースとなる部分は非常に目が細かく超仕上げのレベルかと思いますが,針気がたくさんあって,細かい引っかき傷が刃物にたくさんつきます。食い付きが異常に強く,研磨力は低く,研ぎが難しいです。鉋を研いだときの仕上がりは鏡面系です。包丁には良い刃がついて,細かい中にも荒刃があるような感触で,野菜を切るのに良さそうです。手荒に扱ってもよくて,一本で済む中仕上げ程度の天然砥石が欲しいと思っていたので,これはちょうどよい物が入手できたと喜んでいるのですが,さて,これは何という砥石なのでしょうか(画像/MWS)。



* 人造砥石は研磨力が高すぎて包丁がすぐに減ってしまうし,カエリもたくさんでるので,もっと研磨力の低い砥石がないかと思っていました。包丁の刃先が少しだけ鈍ったとき,それを復活させるための研磨量は,目に見えるかどうかという微量です。研いで真っ黒な砥汁がでるようでは,削りすぎなのです。それで天然砥石の研磨力が低いもので,刃先を復活させられるものを探していたのでした。このような用途には青砥を使って泥でシャリシャリと軽く研ぐのがよく知られている方法と思いますが,市販の青砥は柔らかいものが多くてすぐに凹んでしまうので,もっと硬い中仕上げの砥石でよいものがないかと探しているのでした。天草とか備水に青砥を擦り付けたものでも効果があって,いままではよくそのようにして研いでいました。




2013年11月11日


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骨董市の旗につられてふらふらと散歩しました。ホントに久しぶりの骨董市です。加工原料となるようなナイフを探していたのですがまともなものはなく,切り出しもロクなものがないし,鉋は素人研ぎでダメになっているし,まともな買い物がありません。場内を4周ほどして帰ろうかと思ったら,砥石が目に留まりました。ほとんど原形を留めず,ゴミのように無造作に置かれていましたが,見たところ天然砥石で,それなりに古いものに見えたのでお持ち帰りとなりました。

今回連れて帰るに至った判断のポイントは,1)天然砥石であること,2)中砥らしいと判別できたこと,3)一個は手引き,もう一つは電動ノコで引いた跡が確認できたこと,4)両方ともに使用した雰囲気があり,それでいて平面が崩れていないように見えること,5)手持ちの砥石ではないこと,6)失敗しても許せる価格,といったところでしょうか。一番大事なのは4)です。使っていて平面が崩れていないのは,それなりの腕前の人が使っていたということで,「使える砥石」と判断できる重要なポイントです。

大きな方の砥石は,研ぎ面がボロボロになって荒れていますが,伊予砥/小鳥砥/沼田虎砥/三河名倉/ほかの雰囲気があって,これらのどれであっても有り難いなぁと思っています。小さい方はぱっと見た感じでは天草砥かな,と思いますが,もう少し詰まっている感じもします。仕上砥はたくさん持っていますが,中砥はあまり手持ちがないので,こういったチャンスを活かせるとよいかと思っています(画像/MWS)。








2013年10月26日


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秋は研ぎのシーズン…といいたいところですが,今年の東京は夏が終わらず,秋らしき雰囲気になったのは10月も半ばです。それで毎年恒例になっている秋の研ぎ研ぎができていません。それでも,手持ちの砥石を取りだして感触を確かめ,平面性をチェックしたりもしています。きょうの画像は中砥で,天然砥石としては2本目に購入したものです。五十嵐砥として販売されていましたが,当時はそれほど砥石に詳しくなくて,本当だったらいいな〜と連れ帰ったのです。最近ではよく知られているように,市販のセール品で出回っている五十嵐砥は,ほとんどが備水砥という話もあって,この砥石も例外ではありません。研磨力は低く,ステンレスとの相性は良いとはいえません。研ぎ出しが遅く,研ぎに時間がかかります。普段づかいには持て余す感じです。しかし精度の高い平面を出しやすく,面が崩れにくいので,青砥や赤レンガを名倉として擦り付け,中研ぎでの高精度の平面出しには使えます。十数年前に購入した砥石ですが,研ぎ技術を身に付けることによって新たな出番があって,再度活躍することとなっています(画像/MWS)。








2013年9月25日


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出先でお決まりの夜の散歩をしていると,どこかでみた文字が目に飛び込んできました。何も考えずに歩いていただけに,ここにあるのかーと衝撃を受けました。超絶な腕前の包丁研ぎ師がいる刃物屋さんです。それにしても人間,活字列がきちんと脳みそに格納されているんだと感心しました。翌々日にもう二度,店の前を通過してみましたが,残念ながら営業日,営業時間内に立ち寄ることはできませんでした。ううっ,滅多にない機会だったのに。まぁ夏休みを利用しての出張だったので仕方がありませんね(画像/MWS)。








2013年9月7日


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大規模な修正研ぎの依頼もあったので備忘録です。これは兼広作の牛刀で,一般家庭で時折みかけるものです。入荷時点では相当に使い込まれて研ぎ減っており,先端は極端なコンコルド,刃元は凹面(!),その中間は波打っているという状態でした。全体にサビも出ていたのでまず#2000程度の耐水ペーパーで丁寧に錆び落としして,全体をきれいにします。そのあとにひたすら観察です。単にコンコルドを修正しただけでは使えないので,どのような刃線にして何の用途にすべきか考えなければなりません。悩んだあげく,洋包丁ですけど刺身用にすることにしました。刃線がほぼ直線でよく,切っ先をあげて峰側を少し削り落とせば使えるようにはなるだろうとの予想です。

さて作業開始ですが,まずは包丁を立ててダイヤモンドで研ぎ,凹んだり波打っている刃を,少なくとも刃物として機能するラインに修正します。簡易研ぎ器で狂ってしまった刃は,簡単なことでは修正できません。ダイヤモンドの#300でひたすら削ります。すでに身幅がかなり狭くなっているので,完璧な形の追求はせずに,最低の削り落とし量で実用的な刃物になるように削っていきます。おおまかに形ができればダイヤモンドの#600で研ぎ,包丁の原形となる形に仕上げます。

形ができたら切刃を作るわけですが,このくらい身幅の狭い薄い包丁に切刃を均一に美しくつけるのはかなりの技術を要します。そこで包丁に切刃のガイドとなるガムテープを表と裏に貼り付けます。このテープを超えて研ぐことはできないので傷防止にもなりますし,研ぎ角を安定させるガイドの役割も果たします。そのテープを貼った様子がきょうの画像です。

テープを貼ったらダイヤモンドの#600で表を研ぎ,切刃を新しくつけます。相当に難しい作業です。ダイヤではちゃんとした平面を出せないので,荒削りで肉を落とすといった感じの研ぎとなります。研ぎ落とす量が多いのでえんえんと続く作業になります。肉落としが済んだ感じがしたら,シャプトンオレンジで切刃付けを行います。よく平面の出たシャプトンオレンジで指先をぴったり当てて指と一緒に切刃を研ぐような動作になります(実際に久しぶりに指を研ぎすぎて右手中指から出血しました)。指先で刃裏を感じながら砥石をなぞり,幅の狭い切刃に正確な平面をつけていきます。これも相当に難しい部類の作業です。

きれいな平面で切刃ができたかどうかを調べるために,切刃をスエヒロ#3000で研いでみます。出来上がっていれば短時間で切刃が鏡面に輝くので簡単に判定できます。今回はかなり丁寧に研いだのでOKでした。

次に裏ですが,刺身用なので片刃的な刃付けにしないといけません。それでダイヤは使わずに,シャプトンオレンジでごく浅い研ぎ角で切刃をつけます。切刃を作るというよりも,鋭い刃を作るために正確な裏刃を作るといったイメージです。表側のカエリを調べて裏が出来上がったかどうかがわかります。OKであれば,もう一度表裏をスエヒロ#3000で研いで,さらにスエヒロ#8000で表裏を研いでピカピカの鏡面にします。鏡面にしなくても十分ですが,家庭用のハガネ包丁の場合,鏡面化した方がサビが出にくいし,サビが出ても浅いのでメンテナンス上は鏡面がよいと思います。

最後はスエヒロ#8000で刃付けを行い,そのあとに丸尾山の『合さ』で刃付けを行い,残存する微細なカエリを紙で取り除いてから試し切りを行い,OKであれば水洗いをして乾燥し,一連の作業は終了です。まったく使い物にならなかった鉄片は刺身包丁としてよみがえったわけですが,今後,何切れの刺身を切り出してくれることでしょうか(画像/MWS)。








2013年9月6日


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出刃の研ぎ依頼がきましたので備忘録です。この出刃は種子島包丁の伝統の技によるもので,恐らくは昭和中期頃のかなり昔の製品に見えます。裏も表も研がれた形跡がなく,推測ですが,購入してそのまま数回使って仕舞い込まれたものでしょう。現在では高級品でも「すぐ使える」出刃も売っていますが,当時は自分で好みの刃をつけて使うものだったと思います。それを知らずに,そのままになってしまったのでしょう。こういう包丁は研ぎ素材としては最適です。大きな刃欠けもないので楽ですし,型くずれも少ないので美しく仕上がる可能性が高まります。

まずはカチカチの赤レンガを台座として使い,そこにGC#120程度の荒砥を擦り付けて粒子を出し,それで切刃を研ぎます。機械研ぎのあとが浮かび上がってくるので,エクボを消すように,がんがん研いでいきます。ひたすら研いでエクボがなくなってきたら,WA#400の粒子で研ぎ,切刃を滑らかにします。この段階で再びエクボがうかびあがって来るので,もう一度GC#120に戻り,全面を研ぎ直します。そして再びWA#400の粒子で研ぎ様子をみます。

もーいいかなというところになったら,シャプトンオレンジで切刃全面を研ぎ,しのぎのラインもほぼ決めて,全面を滑らかにするように研ぎます。この時点で再度エクボが浮かび上がってくるので,今度はシャプトンオレンジで研ぎおろしてどこにもエクボや傷のない状態に仕上げます。研ぎは中砥が勝負です。ここで手抜きすればきれいな仕上げにはなりません。切刃が流れるカーブになるようにイメージしながら力を抜いて研ぎます。

切刃ができあがったら裏押しです。シャプトンオレンジを面直しして裏押しします。たいていはきれいに裏がでないので裏刃が多少太くなってもいいので,どんどん押してしまいます。しかしこの包丁は欠陥があって,裏の切っ先から20ミリくらい下ったところに裏刃がつきません。これでは使い物にならないので,仕方なく,少し起こして裏研ぎします。表から叩きたいところですが,他人様の預かり品の場合は壊す恐れがあることはやりません。

こうして裏がついたら再び表から研ぎ,一度カエリを落として刃道を確かめます。形が気になるなら,この時点で切刃を修正研ぎします。その作業が済んだら,平,峰などを#2000程度の耐水ペーパーで磨き,サビなどを落とし,しのぎについた傷なども消します。それからシャプトングリーン#2000で切刃を研ぎ,スエヒロ#3000で切刃を研ぎます。しのぎのラインはこのときにきっちり決めます。次にスエヒロ#3000で裏押しして,スエヒロ#8000で切刃を研ぎ,裏押しします。この時点で切刃,裏ともにピカピカの鏡面になります。

ピカピカの鏡面化が完了したら化粧研ぎです。丸尾山の『白巣板』を用いて一度鏡面にした切刃を滑らせるように研いでいきます。刃当たりが柔らかくじつに滑らかな研ぎ心地です。ここでも全面をならすように,ムラにならないように均一に力を加えながら研ぎます。ときどき水洗いして出来を確かめながら全面に美しい内曇効果がでるようにまんべんなく研ぎます。

化粧研ぎが完了したら最終刃付けです。いちど切れる刃はついていますが,最後の確認の意味でもう一度刃付けします。スエヒロ#3000で表裏を研ぎ,次に丸尾山『合さ』で表裏を研ぎ,印刷物を用いて微小なカエリを取り去ります。厚く折った布を試し切りして刃付けは完了です。

この刃付けの段階で霞仕上げにムラができますので,最後にもういちど丸尾山『白巣板』を滑らかにかけてすぐに水洗いして,拭き専用の布で拭って乾燥させます。 きょうの画像はそうやって仕上げた種子島包丁です。はじめて刃をつけてもらって,化粧研ぎもしてもらって,本来こうあるべきという姿になりました。『白巣板』の内曇効果で,鋼と地金の境がくっきりと見えます(画像/MWS)。








2013年7月25日


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これはご先祖様から受け継いだもの。ご先祖様はこれをペーパーナイフとして使っていたので,筆者も刀剣を模したペーパーナイフだろうと思っていました。刃先は小さく欠けており,表も裏も,郵便物の開封で付着したであろう粘着物が見られます。研ぐものでもなさそうだし…と,ホコリよけのオモリとして使っていました。ところが少し前に研ぎ師さんに話を伺う機会があり,そのときに完璧に仕上がった小柄小刀の実物を見せていただきました。見た瞬間にシマッタと思いました。あのペーパーナイフは小柄小刀だったようなのです。色眼鏡というのは本当に恐ろしいものだと思いました。単なる無知よりも恐ろしい。小柄小刀をペーパーナイフにしてしまうんですから。これを書きながら大反省しているのです(画像/MWS)。








2013年7月2日


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研ぎの記事が溜まってきましたので,一気に読めるようにまとめてみました。本当のところは,研ぎやら顕微鏡やら珪藻やら環境やら色々の記事を通読して頂きたいわけですが,検索等で飛んできた方もおられることと思いますので,読みやすさにも配慮することと致しました。

サイトマップ

の下の方に特集記事としてまとめてありますので,興味ある方はご覧下さい(画像/MWS)。








2013年6月20日


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キュウリやカブ,ダイコンなどを漬け物や塩もみにすると,本来野菜が持っていた水分の一部を捨てることになります。この栄養豊富な水がもったいないと感じるときがあって,野菜の水も活用する調理法を考案したりもしています。夏の暑い日に体の火照りも抜けないときに,キュウリの水は体を冷やす大事な食材です。で,その一例がきょうの画像です。キュウリとカブを千切りにします。薬味としてシソ,あるいはショウガを少々刻みます。あとは乾燥めかぶを適量混ぜ込むだけです。野菜から出る水分で乾燥めかぶを戻し,同時にめかぶの持っている旨味と塩分で調味します。ほかの調味料は一切加えません。乾燥した海藻の吸水力は強力で,キュウリやカブと混ぜただけで水分が海藻に移り,塩もみのようにしんなりします。めかぶのぬめりにより抗ウイルス作用を高め野菜の水分により電解質を補給し,食物繊維の効果により食事時の血糖上昇を緩やかにします。おすすめの薬菜です。この,料理とはいえないほどの簡単な一品を作るのには一つだけコツがあって,よく切れる包丁でキュウリやカブを細く刻むことです。きょうの作例では市販の三徳包丁,仕上げは丸尾山砥石,『合さ』です(画像/MWS)。








2013年6月19日(2)


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三重県に素晴らしい刃物店があることが明らかになりました。それが画像の刃物屋(月山義高刃物店)です。お店の方(研ぎ師さんです)とお話しさせていただきましたが,刃物に対する非常に深い知識はもちろんのこと,研ぎの追求が大変なもので大いに勉強になりました。手研ぎの鬼とでも表現したらよいでしょうか。全国にある刃物屋さんは,どれもよい品物を扱っていると思いますが,手研ぎの技術はピンからキリまであるというのが筆者の個人的な思い込みです。月山義高刃物店の手研ぎは,極めてハイレベルに思います。刃物屋さんでありながら,ほとんど研ぎ屋さんみたいにも見えます。当サービスのユーザー様で三重県方面の方は一度覗いて見るのも良いかもしれません(画像/MWS)。



*1 お店に行かれる方は藤原店主様にミクロワールドサービスのユーザーですと言えば,きっと「あーそうなんですかー」という返事くらいはもらえるかもしれません(笑)。それ以上はどんな話題になるかは,わかりませんがー。

*2 このお店は『研ぎ講習』もやっていますので,本ページの読者のような研ぎファン,つまり刃物よりも研ぎに興味をお持ちの方にも面白いところではないかと。天然砥石を使っているとのことなので,店主秘蔵の仕上砥石を見ることができるかもしれません。





2013年6月19日


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柔らかい食材は鈍った包丁でも切れるのですが,ちゃんと切ろうとすると最高級の切れ味が必要になる気もします。きょうの画像はその一例で,生協で売っている木綿豆腐を切ってみたものです。数ミリ角の豆腐をつくるには,豆腐を潰さないように包丁を入れる必要があり,切れる刃先が必要に思います。包丁は安価な割り込み鋼のもので,仕上砥石は丸尾山の『合さ』を使っています(画像/MWS)。








2013年6月17日


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都内で研ぎの専門家が集結する会合に呼ばれましたので参加させていただきました。筆者は研ぎの専門家ではありませんが,HPで研ぎの話を書いている以上は「研ぎはできません」とはいえないわけです。専門家に刃物をみてもらう良い機会でもあるので,手持ちの刃物や種々のアイテムを鞄に放り込んでの参加となりました。約半日に及ぶ会合は,最高に吟味された料理を楽しみながら,その合間に席の間を刃物が飛び交うという楽しいものでした。皆さんが研ぎの専門なわけなので何の心配もなく,取扱を間違えれば生命にかかわるような刃物を手渡すことができます。後半には研ぎの実演も行われ,見たことのない研ぎ方もみることができ,ひじょうに勉強になる会合でした。皆さまに御礼申し上げたいと思います。筆者は当然のごとく携帯顕微鏡2台を持ち込み,刃物でカットした切片と,珪藻プレパラートを皆さまにご覧頂きました。きょうの画像はその一つで,特注品のJシリーズです(画像/MWS)。








2013年5月22日


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さいきん研ぎの記事が全然ないではないかーという声が聞こえてくるような気もします…。すみません。現在も指先のリハビリ(大げさですが)中でして,指先で強く押さえる作業はできるだけ少なくしています。その関係で大規模な研ぎは見合わせています。中年オヤジともなると若い頃のような回復力はないので,体と相談しながらコトをすすめるしだいです。日常作業には何ら問題のないレベルに回復してはいますが,大量の珪藻を何日間も並べ続けるまでには回復していないと判断しています。ながく続けたいですから,それには体がまともに動くことが第一です。禁酒して,野菜をたくさん摂り,体を温めて回復に努めております。画像は夕飯用のレタス。丸尾山砥石(合さ)の威力により,ふんわりとするような細い千切りです。これをシャキシャキとよく噛んで食べれば一日の疲れも和らぐのです(画像/MWS)。








2013年4月4日


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カボチャは刃物と密着して締め付けが強く,切りにくいものの代表格です。どれほど鋭利に研ぎあげた包丁でも,けっこう力を必要とします。そうして力を入れて切ったカボチャの切断面を見ると,切れていなくて割れていることがわかります。包丁をクサビとして使っているわけです。これは本来の使い方ではないし,力を入れるというのは危険なことでもあるので,うまい切り方はないものかと思っていました。そこでふと,土佐の国で入手した刃長5cm程度の超小型包丁を使ってみました。するとサクサク切れるではないですか。接触面積が少ないので締め付けの力はそれほどでもなく,刃を食い込ませることができます。そこで適当に切れ込みを入れてパキンと割れば大きなカボチャも簡単に切り分けられます。適当な幅にできたらあとは一口サイズにするのも楽チンです。少し前に発見した方法ですが,なかなか良い感じなのでお知らせする次第です。でも,この包丁を入手するのが面倒かも。ネットで探してみてください(画像/MWS)。








2013年2月23日


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久しぶりに蚊の羽を封じる作業があり,そのために刃物を製作しましたので備忘録です。0.5mmのステンレス線は適当な長さにカットしてシャープペンシルにセットします。ステンレス線の先端をダイヤモンドのフラッシャー#320で薄く削り,ヘラのようにします。ヘラができたら切っ先が自然なカーブになるように刃をつけていきます。表裏同じように刃をつけたら,こんどはダイヤの#1200で切刃を研ぎ,より自然で滑らかな刃先にします。だいたい形ができたら,折り畳んだ新聞紙を用いて刃先のカエリを取り去ります。この段階で荒刃のついた刃ができていますが,乾燥した小昆虫などを着るときは刃先にひっかかりがあると試料をボロボロにしてしまうことがあるので,より鋭い刃にします。

こんどはポケットアルカンを使い,空研ぎで刃先を仕上げます。刃物が小さいので軽い力でも十分な圧力で研磨が進み,それほど時間はかかりません。表,裏と同じ角度で研いで,ペーパーでカエリをとって作業はお仕舞いです。なお,刃がついているのは切っ先のRの部分のみです。平らな部分に刃がついていてもシャーペンホルダでは使うことができないので,切っ先だけで十分なのです。画像一枚目はできあがった刃物と蚊の羽。二枚目は羽の根元をカットしたところです。よく切れます(画像/MWS)。








2013年1月21日


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ここのところ鰹節と縁があるのか,急な研ぎの依頼を受けました。20時半に持ち込まれたボロボロの鉋2つを,明日朝までには何とかして欲しいという容赦ない依頼です。荒研ぎは多少の騒音も出るので22時以降はやらないようにしています。すると実質1.5時間以内に解決せよ,ということになります。まだご飯も食べてないのに…。

まずは刃を抜いて眺めながら遅い夕食です。ひどい丸っ刃と,ひどい刃欠けです。まぁいつものように研げばなんとかなるかな,と思いつつ,食事後に早速研ぎスタート。まずは赤レンガ(という名の砥石)にWA#400で錆び落とし。続いて平面だし。うーん,あまりのひどい丸刃で,とても刃がつかない。しかし裏はそれほどでもなく,WA#400,シャプトンオレンジ,スエヒロ#3000で問題なし。しかし表がどうにもならないので,赤レンガにGC#120を名倉的に擦り付けて研ぎおろし。これを10回。これでも平面は出ないけれども刃先に力を込めて,刃先の7割が研げていればいいことにします。巨大なカエリが出ますがそのままにしてWA#400,シャプトンオレンジと研ぎ,切刃を平面にします。次にスエヒロ#3000で裏を研ぎ,このときカエリを落とします。さらにスエヒロ#3000で表裏を研ぎ,雑用紙で微細なカエリを取り,布で試し切りをして研ぎは修了です。

さて二枚目。こちらは平面が出ていて研ぎやすいかと思いきや,裏が,裏すきがあるにもかかわらず立てて研いであるという犯罪的な代物で,こういうゴマカシ研ぎをした研ぎ師を小一時間説教してやりたい気分になりつつ,仕方なく少しだけ刃を起こして裏をつけます。せっかく裏すきがあるのに…いやな作業です。裏の感じがつかめたら,今度は表の巨大な刃欠けと対決します。WA#400では全然減る様子がなく,GC#120を名倉代わりに研いでもなかなか減りません。仕方なくシャプトン白#120で刃先を立てて研ぎ落とします。このあと刃先に力を込めてGC#120を名倉代わりにつけた赤レンガで10回程度研ぎ,切刃の平面を出します。だいたいの平面が出たら,WA#400で同じ作業。このあとシャプトンオレンジで正確な平面を出します。シャプトンで出たカエリが裏に達したら,スエヒロ#3000で裏研ぎして,再び表を研ぎ,裏を研ぎ,雑用紙でカエリをとって研ぎは終わりです。布で試し切りをして問題のないことを確認します。

こうして研いだ二枚の刃を台に収め,刃を調整して,鰹節で軽く試しに削り,問題ないことを確認して,刃先をきれいに拭き取り,作業は終了です。鰹節の塩気でサビが出やすいので刃先はきれいに拭いておくことが大事です。時計を見れば経過時間は45分。まぁ何とかなったということろ。手研ぎは時間をかければ何とでもなりますが,限られた時間内では,いかに効果的な砥石の組合せを知っているかがが勝敗を決めます。こればかりは,刃物の硬さや粘り,それに対する対処法など,経験がものをいいます(画像/MWS)。








2013年1月12日


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冷蔵庫に貰い物の鮭昆布巻きが入っていました。パッケージを見れば親切にも上手な切り方が書いてあります。等間隔に爪楊枝を突き刺し,その間を包丁で切るのだそうです。なるほどそうすれば昆布がズレることなく切れるでしょうね。力学的に合理的な感じがしました。しかぁし筆者は,そのまま切ってしまいます。丸尾山・合さで仕上げた包丁があれば,このような柔らかい食品は包丁の重さを利用して切れます。なまった包丁だとグチャグチャになりそうですが,そこは丸尾山砥石の威力により,画像の通りです。でもこの昆布巻き,甘ったるくて品のないお味。後味がひどいですね。どうしてこんな調味料だらけの味にしてしまうんだろーか(画像/MWS)。








2013年1月11日


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あまりにも忙しい日々が続いたことで筆者のカンフル剤であるところの研ぎが全然できていませんでした。包丁をちょいちょいと研いでいたくらいです。ようやく昨年11月頃からの連続作業から解放されつつあるきょうこの頃,タイミングがよいことに修正研ぎの品物が持ち込まれました。かつをぶし削りの鉋です。先祖代々使っていて,100年くらい前のものではないか,ということです。軽く2,30年は放置されていたようで,カビが広がって腐食した感じのサビが目立ちます。では早速使えるようにしませうか。

まず刃を観察すれば,研ぎは波うち,裏すきはゼロ。それどころか裏から研ぎが入っています。表も裏もサビだらけ。そして全鋼製です。こういうときは錆び落としを兼ねて形を作っていきます。シャプトンの#180などを使えば作業は早いのですが,こういったボロの刃を研ぐと砥石の減りが早すぎてもったいないので,油を吸い込んでカチカチな赤レンガ(という名の砥石)にWAの#400を名倉代わりに擦り付けて,それで錆び落としと修正研磨をします。真っ赤なサビが面白いように落ちます。

切刃を研ぐと,深い腐食が浮かび上がってきたので,まずはダイヤでガリガリと荒削りして大体の形を出し,次にWA#400でひたすら研ぎます。切刃に面を感じるようになったらシャプトンオレンジに切り替え,切刃を平面に修正します。全鋼製なので硬いこと。。研ぎ減らすのが大変です。切刃の形が大体できたら,裏研ぎです。シャプトンオレンジで平面に研ぎ,スエヒロの工具用#3000でピカピカに磨き上げます。裏から研ぎを入れた部分は落としてしまいます。

裏の平面ができたら再び表をシャプトンオレンジで研ぎ,カエリを出します。カエリの様子を指で触ってみて,ペラペラで折れそうならば金属疲労を起こさせてカエリを取り去ります。このあとシャプトンオレンジでもう一度カエリを出し,裏はスエヒロ#3000で研いで,また表に戻して表をスエヒロ#3000でピカピカに仕上げます。最後は数回だけ刃先を軽く撫でるようにして研ぎ,裏を研ぎます。こうすると永切れします。水洗いして乾燥し,雑誌を使って微細なカエリを取り除き修正研ぎは終わります。45分ほどの作業でした。

この明治時代と思われる全鋼製の刃は,全体に粘りと強靱さがあって,素晴らしい切れ味でした。筆者手持ちの全鋼製鉋刃と比べても,輝きが違い,何というか,冴えた感じがします。10数年ほど前に明治時代の出刃包丁を研いだことがあるのですが,そのときの鋼材を思い起こさせるような感じです。筆者のひじょうに少ない経験からは,現代の鋼はポロ欠けするような感じの,脆い物が比較的多いような感じで,粘っていながら切れる感じのものに中々出会わない,という気もしています。古い物でダメなものも多いのですが,たまにビックリするようないいものもあります(画像/MWS)。








2012年8月2日


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オルファのクラフトナイフLを研ぎ直しました。このコーナーにもたびたび登場しているこのナイフは,デザインがよく,握り部分のステンレスのバリさえ丁寧にとれば,なかなか重宝する製品です。普段は机の引き出しに入っていて,ちょっとした紙工作や梱包などに使います。ステンレス刃なのでサビを気にせず使えます。切刃があるわけなので当然,研ぎ直しができますが,手研ぎでぴしっと決めて研ぐのは,かなり難しい部類です。表は刃幅2.5mm,裏は刃幅3mmです。表は鈍角なので押さえがきくのですが,裏は鋭角で,寝かせて手をぴたっと止めることが難しく,丸刃になりやすいです。研ぎ直しの練習にこのナイフがよいとの書き込みも世間のブログには散見されますが,ご冗談でしょうファインマンさん,という感じです。ところで多くの方が知っているとは思いますが,OLFAは日本のメーカです。折る刃によって切れ味を保つカッターナイフを発明した会社です。こちらの漫画がなかなかおもしろいです(画像/MWS)。








2012年6月9日


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他人様の包丁を研ぐと,皆さんよいものを持っているなぁと感心します。出刃もたくさん研がせていただきましたが,正本の大きなものや,有次のじつに素晴らしい形のものなど,いろいろありました。極めつけはお祖母さんの形見だという明治時代の出刃で,これは口輪が銅巻きで,合わせの炭素鋼ですが,裏すきが異常に深く,裏押しすると素晴らしい裏刃が浮かび上がるものでした。白二のような硬さは感じなかったのですが,切れ味も凄いもので,いまでもあの包丁が一番だと思っています。

対して筆者がどのような出刃を持っているのかというと,40年くらいたった安価な出刃です。これをくれた人の話によると,出張先でピカイチの鯖が売っていて食べたくなり,鯖と一緒に近所のホームセンターみたいな店で千円くらいの出刃を買ったとのこと。そういう品です。永らく放置されてハガネも地鉄もサビだらけ。刃は欠けてそのまま。そういう代物をもらってきたのでした。10年くらい前の話です。

安くても,炭素鋼で焼きがきちんと入っていれば,あとは研ぎで切れ味は決まるので,使えます。サビを落として,徹底的に整形して,きれいな裏刃をつくり,表は出刃にふさわしい切刃にしてあげます。最初はベタで研いで,最後はハマグリ刃。切れ味は刺身包丁と同等。しのぎを崩さずにきちっと立てて,切刃は天然砥石で本霞仕上にしておきます。こうすると,気分がいいのです。そうやってスタンバイしておけば,不意に魚が入荷しても,即,作業に入れます。先日も,思いがけずもサクラマスが入荷したわけですが,きれいにおろして分け,消化管とエラ以外は,きれいに有り難く頂戴したのでした。

こう書くと,まるで弘法筆を選ばず,みたいな話に聞こえてしまうかもしれませんが,事実は全然逆です。何しろ,筆者が砥石遊びに投じた金額の1〜2割くらいを出刃包丁に投じたなら,それはそれは上等な出刃が入手できたことは間違いのないところ。本来やるべき方向性から大きく逸脱しているのです。ワハハ(画像/MWS)。








2012年4月21日


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DL-TESTが終わると今度はコルクの薄片です。ロバートフックが『細胞』を『発見』したとされる材料ですから,教育的な価値の認められやすい標本となります。コルクはどこにでもありますから,ワインの栓などを薄く切れば,それだけで観察できます。と,書くといかにも簡単そうですが,コルクの薄片をつくるのは意外にむずかしいのです。

カミソリならうまく切れるかもしれませんが,刃先がぐらつくと薄片になりません。またコルクは固形物を巻き込んでいることが多く,そこを刃が通過すれば一発で刃こぼれします。コルクの弾力は刃先に抵抗し,少しでもナマクラな刃先なら薄切りはできません。これらの事情から,筆者は切り出しでハンドセクション(徒手切片法)で薄片を作っています。切り出しは数本準備して,巻き込んだ固形物をえぐり取るもの,表面を整形するもの,薄切りに使うもの,と使い分けます。

切片用の切り出しは最高の切れ味が求められます。今回は「春光」と銘のある,近所の骨董市で購入したものを使いました。尾崎の合砥をかけ,GC#30000の革砥で仕上げています。ひじょうに鋭く繊細な刃先に仕上げ,堅い物は切れませんが,柔らかいものには驚異的な切れ味を発揮します。

このような諸準備を終えてからコルクをスカスカ切ると爽快です。数百枚も切れば,数十枚の使える薄片が得られます。ロバートフックのスケッチを見ると,とても薄く切れいているコルクなので,彼も,カミソリで何枚ものコルクをカットしたのだと,そんなふうに想像しています(画像/MWS)。








2012年4月6日


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土佐土産といえば土佐刃物と相場が決まっています。なので昨年9月の学会では,台風で足止めになったのをよいことに,ひろめの市場近くの刃物屋をはしごしてお土産を買い漁りました。もっとも,お土産といっても人にあげたのは一本で,あとは全部自分用です。何が欲しかったのかというと,ほんとうは船行包丁の良いヤツなんですが,これは何十本みてもピンとくるものがなかったので次回に持ち越しとなりました。あと,ミニ包丁は常に探しているので,黒打ちの和包丁で小さなものを探し求めて歩きました。

上の画像がその成果ですが,上から105mm,80mm,65mm,50mm程度の刃長の黒打ち和包丁です。両刃ですが,右利き用に6:4の刃がついていて,鋭い切れ味を大切にしたつくりになっています。上から2本は船行包丁と同じ形。3本目は銚子の鍛冶屋で作った包丁に似たものがあったように記憶している,不思議な形です。4本目は船行の形を切りつめればこうなるだろうという形です。

で,いずれの包丁も購入時は,機械研ぎで切刃がつけられ,刃先にほんの少し糸刃が入れてあるだけの簡素なものでした。値段を考えれば当然です(5本買っても日本酒2升くらい)。そしてそれでも十分に切れましたが,切刃の研ぎ目が粗すぎるので,食い込みが悪く,小魚をおろしていても切刃のざらつきが骨に当たってひっかかります。一匹二匹ならそれでも気にしませんが,たくさんおろすときは作業効率も仕上がりも悪いので,やはりきちんと研ぎ直した方がよいのです。そんなわけで,全国219人の研ぎファンを意識しつつも,お土産の土佐黒打は本刃付けされたのでした。

機械研ぎの跡はひじょうに粗く,まずこれを落とす必要があるので,カチカチの赤レンガにWA#400を擦り付けて研ぎます。地鉄の部分は極軟鉄を使うのがふつうと思いますが,このミニ包丁の地鉄は少し硬い感じがします。小さく薄いので強度を保たせているのかもしれません。機械研ぎの跡目を消すとしのぎがあがってしまいますが,黒打ちの鍛えた刃物はしのぎが波打っていますので,細かいことは気にならず気軽に研げます。機械研ぎの研磨痕が見えなくなったら次の研ぎに移ります。

刃長の大きな2本はシャプトンオレンジで研磨痕を小さくします。このとき切刃全体が滑らかに,しのぎがきちんと出るように注意しつつ整形します。小さな2本は五十嵐砥(という名の備水砥)に赤レンガを名倉にしたもので切刃の研磨痕を小さくして整形していきます。この作業が終われば,スエヒロの工具用#3000で切刃を丁寧に研ぎ,最後はスエヒロの化学仕上砥石#8000で研ぎあげます。ピカピカの鏡面仕上げになります。このとき,刃線も決めてしまい,刃付けも行います。もちろんハマグリ刃にします。

水洗いして乾燥し,試し切りを行います。厚手の布地を幾重にも折って丸めたもの(2cm厚程度)を一発で切断できれば合格です。いずれの包丁も問題なく切れましたので,次の工程に移ります。大平の内曇で切刃を研ぎ,本霞仕上げを行います。このとき,切刃が滑らかにできあがっていないと,いつまで研いでも全体に均一な霞をつけることができません。ですので,中砥から仕上砥まで,段差をつけないように滑らかな均一な研ぎが要求されます。内曇で研ぐときにはまず全体に霞をつけて,それからムラを消すように,刃線に平行に研いでいき全体に均一な霞をつけます。特別にこだわるときは,小さな砥石の破片で切刃をなぞるようにして均一な霞をつけますが,今回は自家用で普段使いなので適当なところで切り上げます。

霞仕上げで刃をつぶしている可能性もあるので,もう一度スエヒロ#8000で刃先を研ぎます。そのあと雑誌をつかってカエリをとりのぞき,試し切りをして,OKならば洗って乾燥して作業はお仕舞いです。

そうやって仕上げた土佐土産がきょうの画像なわけですが,この包丁,さすが本場の黒打ちです。何が凄いってハガネの感じが最高です。砥石に当てたとき,白紙二号を水焼入れしたような感じの硬さを感じるのですが,実際の白二水焼き入れよりも刃先に粘りが残っており絶妙の焼き加減です。まさか青二ということはないと思いますが。切れ味は何と表現したらよいでしょうか。魚の小骨で切れ味を判別できる人なら,きっと納得してもらえる,そんな感じです。あと10本買えばよかったー(画像/MWS)。



*1 そうは言っても,たくさんの中から選別して買ったので,いいものはあと5本くらいしかなかった…。

*2 こんな素晴らしい刃物が,喫茶店でコーヒー一杯くらいの値段で買えてしまう。土佐の国,恐るべし。

*3 こういういろいろな形の包丁が店先にあること自体が貴重です。きっと土佐の国は都から遠く,しかし海は目の前で山はすぐ裏手ですから,海仕事山仕事に刃物は欠かすことができなかったでしょう。それで野鍛冶が注文に応じていろんな刃物を自由自在に作ったのだと思います。その伝統が今に息づいているとすれば,歴史のなんと有り難いことでしょうか。

*4 105mm,80mmのミニ船行包丁はアジやイワシなど小魚をおろすときに便利なこと。小さな魚をおろすときに大きな包丁を使うと危ないし,微妙な動きができません。その昔,えんぴつサヨリをおろそうとしてまともな包丁がなく,切り出しでおろして刺身を作ったことを思い出しました。ウナギやアナゴに専用包丁があるように,小魚専用包丁があると便利です。






2012年3月29日


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お預かり品の出刃包丁の修正研ぎを行いましたので備忘録的に記します。よく使い込まれた出刃で,けっこう研ぎ減っています。これだけ使い込んだということは,その年月だけ,おいしい魚料理が生まれたことでしょうね。素敵なことです。

裏は研いだ形跡がなく,つまり裏押しされていません。表は切っ先付近の研ぎが不足していて,出刃本来の刃線のカーブをつぶしていくように,直線的な研ぎになっています。しのぎは不定に減っていて,波打っています。切刃は丸っ刃になっていて,それでも切れ味が出にくいので二段になっています。平と峰にはサビが多少出ています。使い込んだ出刃で形がきちんとしているのは珍しく,このような状態はむしろ普通かもしれません。板前さんでも,こんな格好になった出刃をお持ちの方もいます。この形の切っ先の変形は,料理人用語で『コンコルド』と呼ばれているそうです。切っ先が上げられず下がってきていることを指しているわけで,じつに秀逸なネーミングです。

さて,このくらいの研ぎ状態になると,叩き用途には使えますが,身下ろしはけっこう難しくなってくるので,大規模な修正を施して復活させるのがよさそうです。我流の方法ではありますが,出刃の修復は何度もやっていますので,なかなか凄そうですが,ま,どうにかなるでしょう。

まず最初に,刃線を決めます。荒砥がもったいないので,100円ショップに売っているガチガチに硬くて役にたたない砥石を使います。その砥石にGCや刃の黒幕やWAの#120〜#400を名倉のように擦り付けて使うのです。こうすると無駄に荒砥を消費することなく,平面性を維持しながら,そこそこの速度で作業を行うことができます。最初は大きく立てて研ぎ,切っ先をどんどん削って上げていきます。コンコルド部分の修正を行うわけです。

切っ先が上がったら,次に刃元の部分を峰と平行になるような力を込めて削ります。これは何をやっている作業かというと,切刃全体にアールをつけるためです。切っ先側と刃元側を大きく削り,中間部分を残しながら全体にアールをつけ,少しでもよい刃線に近づけていくわけです。ある程度,実用的な形が出るまでこの作業を続けます。ハガネ部分をゴリゴリ削るわけですので,力も必要で,このくらい大きな修正量の場合は手を傷めないように何日にもわけて作業します。

おおまかな刃線ができたら切刃をつけます。このときもガチガチ砥石に荒砥の名倉で,刃先側から肉を抜くように研いでいきます。大きく丸刃になっているときは,ぴったり砥石に刃をつけても点で研ぐことになりますので,手で点を感じながら刃に平面を作っていくように研いでいきます。途中から面を感じるようになったら,その面を広げていくように研ぎ進めます。この時点では,切刃の肉を抜くのが目的で刃先までは研ぎません。

切刃の形がよくなってきたら,こんどはカチカチの赤レンガ(砥石)にWA#400を名倉のように擦り付けて研ぎます。荒砥の深い傷を抜くとともに,切刃の形を修正していきます。この工程からしのぎを意識しながら研ぎます。しのぎと刃線のバランスを取りながら美しい形を目指して研いでいきます。だいたいの形が出たら一度砥石を洗い,平面性を確認した上で,ふたたびWA#400で研ぎます。こんどは力を抜いて,切刃全面を滑らかに慣らすように研いでいきます。刃線を頻繁にチェックして,多角形のように見えるところを研ぎ減らし,きれいなアールを描きながらも切刃に段がつかないように研ぎ進めます。

形ができあがったら研ぎ傷を小さくするために,天草砥に青砥を擦り付けたもので,切刃全体を研ぎます。これで傷はかなり小さくなるのですが,シャプトンオレンジと比較したところ,シャプトンの方がずっと効率がよかったので,以降はシャプトンで切刃を研ぎました。形を崩さないように,しのぎをきちんと立てるようにしながら,実際は微修正の連続です。

ここまでできたら,平を磨きます。耐水ペーパーの#1000を小さな砥石に貼り,平面性を維持しながらサビと傷を落としていきます。以降,耐水ペーパーの#2000,#5000と続き,鏡面化します。鏡面を嫌う人もいますが,家庭用の場合は,サビが出にくいという利点があるので光らせます。平が磨けたら,裏も磨きます。裏は耐水ペーパーとコルク,あるいは手磨きです。同様に,峰も軽く磨きます。

磨きが終われば裏押しします。刃裏がまったくないので,中砥(シャプトンオレンジ)から始めます。裏鋤きが波打っていて,切っ先手前に刃がつきません。長い長い時間研ぎ込んで,裏刃ができたと思い,#2000,#8000と研いでみると,#8000で裏ができません。#2000の粒度程度の波打が残っています。ふたたびシャプトンオレンジに戻り,切っ先を重点的に研いで裏をつくります。きちんと平面が出れば,最後は#8000で仕上げます。

裏ができたら本刃付けです。シャプトンオレンジ→グリーン,スエヒロ#8000と研ぎ,裏押しして刃をつけます。このとき,少し立て気味に研いでハマグリ刃にします。切れ味テストを行い,OKになればこんどは切刃の化粧研ぎです。天然仕上砥石で本霞仕上げにしたいところですが,サビを考えると人造の鏡面仕上げがよいので,スエヒロ#8000で刃線と平行に研いで研ぎ目を小さくして,ムラを少なくします。研ぎが終わったら,峰の刃裏側の角を白名倉で落とします。手を切らないようにするためです。

次は柄洗いです。永年使い込まれた包丁の柄は相応の年季が感じられますが,刃も一新して生まれ変わったわけですので,柄もきれいに洗って再生します。アクリルの布に化粧用石けんをつけて丁寧に磨くと,本来の木の色が浮かび上がってきます。柄の色が明るくなると,包丁の雰囲気も新しい感じになります。水ですすいで全体をきれいに流します。

最後はもう一度スエヒロ#8000で刃先を研ぎ,裏押しします。水洗いして乾燥させたあと,雑誌や新聞紙を使って刃先を撫でます。残っているかもしれない目に見えないカエリを取り除くためです。それから堅く折り返した厚い布で試し切りを1回だけ行い,切れ味合格なら全体を丁寧にぬぐって紙に巻き,箱に入れて作業はお仕舞いです。

さ,これでよーく切れる出刃の完成です。研ぎ減るまで,たくさんのおいしい魚料理を作れそうです(画像/MWS)。








2011年11月6日


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せんじつ骨董市で仕入れたハイスの切り出し原料は無事に形作りが終わりました。全国の研ぎファンから「そろそろ研ぎの記事をかかんかい!」という声が聞こえる気もしますので,備忘録的に記します。研ぎ前の画像は2011年10月13日付けの記事を参照して下さい。

まず何故これがハイス(ハイスピードスチール)だと分かるのかというと,まぁ,見た目が金鋸というのが大きいのですが,もう一つ理由があります。プロクソンに粗い砥石をつけてがーっと削ってみますと,ぜんぜん火花が出ないのです。鋼材の判別法に火花試験というのがあって,ハイスは火花がほとんど出ないということになっています。なので,これはハイスなのだろうと判断しています。しかしハイスにもいろいろ種類があるので,モリブデン系なのかタングステン系なのか,それとも別のものなのかはわかりません。神戸製鋼の金鋸というのがヒントになるのですが,そこから調べが進んでいません。。

さて,この金鋸の切り出し,購入時にも一応は切れたのですが,美しさに欠けるという部分がよろしくないので,筆者流に作り直します。まず,プロクソンに砥石やダイヤモンドを装着してガリガリ削ってみます。立てて削ってもひじょうに強く抵抗し,なかなか削れません。コイツはすごい歯ごたえです。厚みも1.6mmあるハイスを,切刃を完全になくし,全部で5mm以上研ぎおろす必要がありますから,これは大変です。あらゆる荒砥石を試しましたが砥石がもったいないのでやめ,最後はディスクグラインダーのダイヤモンド円盤で,手研ぎで研ぎおろしました。腕を壊さないように作業を分けて,何日もかかりました。

こうして先端を斜めにカットしただけの鉄片ができたわけですが,これを切り出しにするには作戦を考えなければなりません。今回は,全鋼製なので裏すきをつくる(掘る)のは止めようと思いました。叩いて曲げることができないので,使っていて裏刃がなくなってしまったら,えらいことになるからです。けれども,完全にベタ裏にすると,粘りのある鋼材ではカエリを取り去るのが難しくなってくるので,完全なベタ裏は避けたいと思いました。そこで刃裏側を眺めていると,もとの金鋸のアサリが少し残っていることに気がつきました。つまり峰の部分は平面ではなくて波打っています。この峰の部分の,ほんの少しの出っ張りを潰さないように利用して,裏刃を作ることにしました。

まずシャプトンオレンジの出番で,添え棒を使い,刃裏になる部分だけに力を込めて,峰の部分はほとんど力がかからないように研ぎます。添え棒をまんべんなく移動して,刃先から刃元まで裏を磨いていきます。大きな傷が見えなくなったら全体を慣らすように研いできれいな平面をつけます。これで一応の裏はできます。ハイスはとても硬いので,シャプトンオレンジでも,ふつうの炭素鋼を#3000くらいで研いだ感じになります。

こんどは表です。ものすごく硬い鋼材に直接切刃をつけるのですから,無茶な挑戦ですが,ここは根性で切り抜けましょう。まずはプロクソンで砥石を当ててみますが,ぜんぜん削れないので日が暮れそうです。ダイヤモンド砥石で削っても,粘りがすごくて,ぜんぜん進みません。やっぱし水研ぎが早いかと観念します。100円ショップで10年前くらいに購入したカチカチの荒砥石を土台に使い,これにシャプトン刃の黒幕#120を名倉として擦り付けます。この状態で高速水研ぎを何度も繰り返し,切刃を作ります。いかに研ぎが好きといっても,ハイスを手研ぎで削るのは苦行以外の何者でもありません。。

手をダメにしないように注意しながら2時間くらいでしょうか,3ミリほどの切刃ができてきました。今回は,まずは形をつくることと,力を入れても刃こぼれしない刃先を目指しましたので,研ぎ角度はかなり鈍角です。こういった狭い刃幅を荒砥石で作ったときはたいてい,丸っ刃になっていますので,これを修正します。油を吸い込んだカチカチの赤レンガ(砥石)に,WA#400を名倉として擦り付け,これで平面を出します。ここでも添え棒を使います。何度も繰り返して平面の精度を上げ,きちんと刃先まで砥石が届いていることを確認します。これができたら,シャプトンオレンジでさらに平面を出して,シャプトングリーンで研ぎます。この辺りで,尖りすぎた先端を落としておきます。

ここまで来たら,カエリがたくさん出ていますので,一度,裏研ぎします。シャプトングリーンで研ぎ,スエヒロ#3000で研ぎ,スエヒロ#8000で研ぎます。裏がピカピカになったら,表をスエヒロ#3000,スエヒロ#8000で研ぎ,最後に裏をスエヒロ#8000で研いでできあがりです。このくらい硬い鋼材になりますと,天然砥石の場合は相性が問題になってきます。さっさと仕上げるのなら,人造の方が楽に感じました。人造でも,シャプトンの#1000以上は滑り気味で,スエヒロの工具用砥石が,かかりがよかったですね。最適な刃先角や,砥石との相性はこれからたのしく検討することとしましょう。

きょうの画像はそうやって仕上げたハイスの切り出しです。作画に筆者の深い満足感が表れています(^_^)。鈍角なので食い込みは悪いのですが,切れ味は申し分なく,爽快です。力も入れて使うことができ,刃こぼれもしにくいので,硬い材などの室内工作はもちろん,ツルをぶった切るなどの,屋外でのハードな利用にも重宝しそうです。

いやーそれにしてもハイスは硬い。硬いというか研ぎおろせない。このハイスを手がけている合間に,小物の切り出しや彫刻用刃物(いずれも合わせの炭素鋼)の切刃修正を何本かやったのですが,おろし金で大根を擦っているかのように感じました。(画像/MWS)。








2011年10月13日


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 入手した切り出しはこんな感じです。薄い全鋼製の板に,丸っ刃がついており,裏は一度平面研ぎしたあとに,糸裏をつけるべく直線的に掘られています。そうです。廃品利用の手作りの切り出しなのです。鋼材はかなり大型の金属切断用のノコギリだと思います。かろうじてKOBE STEELの文字が見えますので,神戸製鋼のむかしの特殊鋼ではないかと思います。ハイスの切り出しが欲しかったので,なんとも最高の素材を手にした気分です。刃のつけ方や裏の作り方などを見ると,製作者の刃物に対する考え方がわかるようで,じつに興味深いです。研ぎはそれほどぴしっとはしていませんが,刃はついており,竹を削ってみたところ実用上問題のない切れ味を示しました。これをつくった人は,刃物に対してこだわりのある,腕の良い職人さんだったに違いありません(画像/MWS)。








2011年9月14日


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こんどは自作の小刀の研ぎ直しをしました。この小刀は,100円ショップで入手した金鋸の寿命がきたので(石切用に使っていました…),それを素材に作ったものです。作ったと言うのはちょっと大げさかもしれません。金鋸を折って,リューターで形をつくり,次に裏をつくります。#1000→#3000→#8000の順で研いでベタ裏にします。裏ができれば,同じように表を研いで切刃をつくり,完成です。ペラペラの鋼材なので,すぐにできあがりです。どんな鋼材なのかはわかりませんが,金鋸なので,たぶんハイスなのではないかと思います。グラインダーで火花を散らしながら削っても,まったく焼きが戻りません。じつに工作がやさしくて助かります。

きょうは神前産の巣板で刃をつけてみました。この小刀との相性は抜群で,ひょっとすると筆者の刃物でいちばん切れるのでは?と思うほどの刃がつきます。ペラペラなので,厚い木を削るような用途には向きませんが,表面を薄く削ったり,鉛筆削り的な使い方にはちょうどよいです。筆者は,ガラス面の清掃にサンショや竹を使うことがあるのですが,そのときは削って新鮮な面を出して使います。いつもはOLFAのナイフか骨董品の切り出しを使っていますが,この小刀も良い感じです。竹を削っても微細な刃こぼれがみられません(画像/MWS)。








2011年9月13日


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いったん研ぎが始まると,あれもこれも研ぎたくなって困ります。こんどはステンレスの菜切りを修正しました。この菜切りは,980円で購入したもので,まさに安価なステンレス包丁そのものです。昨日と同じように,WA#400で切刃を均等につけます。ステンレス刃物鋼の場合,これがたいへんなのです。鋼材としてはそれほど硬くないくせに,粘りがあって,ちぎれない感じなのです。がんがん研いでも刃肉がなかなか減ってくれません。やっとこさの思いで切刃を平面にならしたら,次はシャプトンオレンジの出番です。これは10分くらいで済みます。そうしたらスエヒロ#3000で数分,最後はスエヒロ#8000で数分くらいで仕上がります。ステンレスの刃物は人造砥石で仕上げると鏡のようにピカピカになります。最後に,丸尾山の「合さ」で刃先を合わせてできあがりです。

安価なステンレス包丁でも,きちんと形を作って,刃先をきちんと研げれば十分に切れるものが多いです。たぶんステンレスの鋼材としては優秀なのだと思います。ただ,安価なプレス品だと,形はかなり妥協しているので,食い込みが悪く,切れないと感じる物もあります。

きょうの菜切りは切刃を鏡面化してしまいましたが,これは食い込みの滑らかさを重視しているからです。食材が貼り付くのを嫌って切刃を粗っぽく仕上げる方もおられますが,このあたりは好みの問題でしょう。筆者は,切刃がくさびとして機能するときに,くさびと食材の摩擦により刃の滑走が止まるのがよろしくないと感じているので,滑らかにしています。ま,気分の問題ですね(画像/MWS)。



*1 炭素鋼とステンレス鋼を比べれば,とうぜん炭素鋼の包丁の切れ味が上です。刃先が当たった瞬間の食い込みが違うように感じます。ただ,食材によっては違いがわからないものもあります。キャベツやキュウリなど楽に切れる食材でも,ひじょうに細かく(薄く)切ろうとすると,炭素鋼とステンレス鋼では違いが出てきます。ステンレス鋼は,よく研げていても,刃先が滑るように感じることがあるのです。何でですかね?



*2 近所のスーパーは,どういうわけかハラコ(生筋子)が安いのです。北海道内の最安値と同じくらいで,鮮度も変わりません。ありがたゃ〜ありがたや〜。なのでこれを買い込んでほぐし,煮きり酒,しょうゆ,昆布で味付けしてイクラ丼,というのが秋の定番メニューです。冷凍もできますよ。まだまだ暑いんですが,味覚は秋になりつつありますねぇ。



*3 the diatomsの上に包丁が乗っている…というあり得ない組合せの画像ですが,こじつけて見れば,サケは甲殻類が大好きですが,その甲殻類に含まれる色素(アスタキサンチン)がサケに移行してイクラの美しい色になるわけです。で,甲殻類は海の中で珪藻などの植物プランクトンを食べていて,the diatomsの表紙を飾っているタラシオシーラもその一つなのです。この遠大なる生態系の連鎖を,筆者の研ぎ技術とキュウリのクロロフィル色素の彩りによって,丼にまとめあげたのです(^^;。





2011年9月12日


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やっとこさムズカシイ作業も一段落しました。いやー長い夏だった…。こういうときは研ぎです。筆者の気分転換法としては上位に位置するものです。外は暑いし,さーてさてさて,きょうは切り出しの修正でもしましょうか。。

この切り出し,骨董市で仕入れたボロボロの鉄片にみえたものを再生したのですが,裏に何カ所か穴があり,ちょうどそこまできてしまったので,刃こぼれが生じていました。そこで思い切って立てて研ぎ,刃幅を若干狭くして耐久性をupさせることにしました。きょうはその備忘録です。まず,裏を作り直します。シャプトングリーンで裏押しして,きれいに平面を出します。薄い切り出しは力を入れて裏押しするとゆがんで裏がきれいに出ないことがあるので,さらりさらりと研ぎながら様子をみて,裏を出します。これできれいな平面が出たら,スエヒロ#3000,次にスエヒロ#8000の人造砥石で裏を鏡面化します。筆者は裏押しは人造砥石を使います。錆びにくくなるからです。

表は,ひじょうに硬い赤レンガにWA#400(スエヒロ)を擦り付けて,これを荒砥の代わりにして研ぎます。この赤レンガはある家のガスレンジの下から発掘されたもので,恐らく昭和初期ごろのものです。全体に油が染みていて,そのままでは砥石になりません。そこでこれを地盤としてWA#400で研磨するわけです。この方法は平面維持にもよく,何より安価で済みます。今までは,荒砥を使う大修理を行うと,シャプトンの荒砥がどんどん減ってしまっていたので,砥石代がバカにならなかったのです。

WA#400の研ぎでは,まず刃先側から立てるように研ぎ,そこから新しい切刃を半分くらいの刃幅でつけます。だいたいできたら,半分の刃幅がきちんと平面になるように研ぎ,平面が出たら,WA#400を補給しながら一気にその角度で切刃全面を仕上げます。それができれば荒砥は終了です。次はシャプトンオレンジですが,WA#400で平面をだしてあるので,研ぎは数分で終わります。その次がシャプトングリーン(#2000)ですが,これは1分程度でしょうか。それが終わればスエヒロの#3000,次に丸尾山黄色巣板で傷を取ります。合わせて数分以内です。

その後はお好みなのですけど,丸尾山新大上,丸尾山千枚,最後は山不明の浅黄の砥石で仕上げました。最後の砥石はきわめて細かい優れた砥石ですが,地をひきやすいので,ちょっとだけ歯磨き粉をつけて研ぎます。そうすると研磨が軽くなり,傷がつなかくなり,サビが出にくくなり,仕上がりのつやが増すのです。そうやって日曜日の午後一時間ほどを過ごしました。

そのあとは,鉋研ぎです。吸水しやすく,砥泥に粘りがあって貼り付きが強く,研ぎにくい戸前があるのです。こういう砥石は包丁にはいいのですが,鉋は研ぎにくいものです。それを何とかしようといろいろ試行錯誤していたのですが,きょうは油を試してみました。研ぎ面に食用油を染みこませます。数時間したら,これを拭き取ってしまいます。その石で,鉋を水研ぎします。すると,油の効果で吸水しなくなります。研ぐと砥泥がたくさん出るのに,貼り付きがなくなります。砥泥には油が浮いてきます。感触は,水研ぎなのに,空研ぎのような,独特な感じです。この油の効果でサビが出にくくなり,ただの水研ぎよりも研ぎ上がりが明るく仕上がります。これは水飲み石には良い方法かもしれません(画像/MWS)。








2011年9月10日


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研ぐと生き返るのは包丁だけではありません。使い捨てにされているようなものでも,慣れるとけっこう研げます。上の画像はOLFAのクラフトナイフです。このナイフはワッシャー以外はすべて金属製でしっかりしており,ストッパーとなるネジも確実にはたらくのでお気に入りです。携帯用にも便利なので,むかし頻用していたホールディングナイフの出番がグッと減ったほどです。刃はステンレス鋼で切刃が狭いので研ぎが難しいですが,慣れると面で研ぐことができるようになります。上の画像は丸尾山砥石(戸前色物)で仕上げたところです。このクラフトナイフ,バリ取りがやや甘いので,全体を耐水ペーパー(#2000程度)で仕上げておくとよいでしょう。手触りもよい道具になります(画像/MWS)。








2011年9月9日(2)


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筆者が使っている包丁は幾つかありますが,ほとんどがもらい物です。もらい物でも,研げば切れるので,これでいいや,となってしまう面もあります。画像左は昭和初期の菜切りです。ご先祖様のお下がりです。割り込みですけど,鋼が甘く,永切れしません。ぜんぜんダメな包丁なのですけど,毎日研いでふつうに使っています。主に野菜の刻み物が出番です。その隣の出刃は,前の所有者によれば,出先で良いサバがあったので急に食べたくなり,包丁も一緒に買ったという代物です。関孫六と銘がありますが,昔はどこにでもあったふつうの出刃です。ボロボロに錆びていたものを再生しています。大抵の魚はこれで大丈夫です。その隣はステンの安物三徳です。一人暮らしをするときに,和包丁の形が気に入って買ったもので,けっこう使い勝手がいいので,一本目は研ぎ潰してしまい,これは二本目です。切刃を均等につけてあり,鏡面化してあります。現在は果物用に使っています。スイカやメロンなどがきれいに切れます。

その隣は,ネットで買った白紙二号の三徳です。とても硬く,研ぎの技術も必要ですが,筆者はこれを刀の代わりと考えて日々手入れしています。バランスがいいので,少し力が必要な食材(カボチャやゴボウなど)のときに活躍します。その隣の正本は,これももらい物です。ボロボロに錆びていたものを研磨して使っています。白二と甲乙付けがたい切れ味で,これは主に鶏肉やソーセージ,ハムなどをきれいに刻むときに使います。

その隣の柳刃は,刺身くらい切れなきゃダメだろと,若かりし日に買ったものです。おもちゃのようにペラペラで,裏すきもないという安物包丁でしたが,自分で裏を掘り,切刃を鏡面化して,刃先は丸尾山砥石で仕上げることにより生まれ変わりました。イカ,タコのときには9寸の柳に登場願いますが,それ以外の場面では,このステンで十分切れます。砥石がいいと,包丁がそれなりでも切れてしまいます。包丁にご不満をお持ちの方,必要なのは『砥石』です(画像/MWS)。








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筆者はシリンダーミクロトームの古いやつを一つ持っています。これでたまに木材などの横断面を作るときがあります。先月はイベント用に竹の切片とユズの枝の横断面を作りました。こういった木材はとても堅いので,カミソリなどを使うと一発で壊します。そこで鉋を使います。上の画像が一例ですが,実家に転がっていた,380円の古い鉋から抜き取った刃です。全鋼製で裏すきもいい加減なものですが,木材が相手なのでとても役立ちます。ひじょうに硬い材木などは,砥石を横に置いておき,一枚切片を切るごとに研ぎ直し,革砥をかけて,それから次の一枚を切り出します。こうして作った竹の薄片でも,誰も驚いてくれない…,これが世の中の実態だったりします。経験者が見ると,こりゃすごいねーと褒めてもらえるんですが。ということで,研ぎ技術がたまには製品に反映されることもあります。(画像/MWS)。








2011年8月19日


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砥石の研ぎ面はつねに平面を維持していなければなりません。平面維持にはいろいろな方法がありますが,筆者は,多面法とでも呼ぶべきやり方で行っています。よく使う10本ほどの天然仕上砥石は,ランダムにすり合わせて平面をつくります。どの砥石と合わせても,水膜が均一で滑らかに滑走するようなら,精度の高い平面が出ています。この方法の一つのコツは,鉋を一枚持っておくことと,ひじょうに硬い合砥を混ぜておくことです。

ひじょうに硬い合砥は,少しも弾力がなく,また摩耗も少ないので,凹凸がすぐにわかります。中硬くらいの砥石(丸尾山の硬口くらい)で完全に平面に研いだ鉋刃を,ひじょうに硬い砥石に当ててみます。もしその砥石の平面が出ていれば,1分もあれば,鉋刃全体に砥石がかかるでしょう。もしその砥石が少しでも狂っていたら,鉋の中央だけが研磨されるか,あるいは,鉋刃の両耳に近い部分が研磨されるかのどちらかでしょう。このひじょうに硬い砥石を平面にできれば,他の砥石は簡単に平面維持できます。

シャプトンオレンジは,目が粗いので,仕上砥とは別に平面維持します。こちらの維持には大きめの大村砥の表裏を使っています。とても相性がよく,サラサラと慣らしているうちに平面が出てきます。もっとも,中砥の場合は,面なおしと同じくらいに,平面を維持しながら研ぐことが大事です。そうしないと,砥石の大半を面なおしで削って消費し,捨ててしまうことになるからです。

中砥でも合砥でも,きちんと平面が出ていれば,研ぎ時間がかなり短縮されます。1分も研げば,全体がきちんと研磨されるからです。全体がきちんと砥石に当たるまでに時間を消費する場合は,砥石か刃物のどちらか,あるいは両方が平面になっていないものと思います。平面を維持するのは,結局,作業時間の節約になります。しかし楽しさはアップするので長々と遊んでしまいます(^^;

上の画像は筆者の試し研ぎ用の鉋刃と,ひじょうに硬い尾崎産合砥,それに丸尾山の千枚です。どれも大事な宝物です(画像/MWS)。








2011年8月18日


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筆者が切り出しを研ぎはじめたのは10年くらい前なのですが,特に必要だったわけでもなく,鋼材の感触を確かめたかったからなのでした。何しろ,刃物といえばホームセンターで買った格安の鉋,ノミ,ステンレスの安物包丁くらいしか持っていなかったので,いったい青紙一号という鋼材はどれほど素晴らしいのか,と興味を抱いたのでした。それで購入したのが,きょうの画像の切り出しです。

この切り出しは,はじめ二段に研いであって,裏は輪郭をなぞっただけのものでした。研ぎ直しをしてみると,全体が捻れていて,まともな裏をつけることができません。これはひどいなぁと,どんどん研ぎ減っていきました。しばらくしてからとうとう我慢ができなくなり,一度裏を研ぎおろしてベタ裏に近いところまで持っていき,それから,凸面にした中砥で長い長い時間をかけて裏を掘りました。そのとき作った形がけっこう気に入ったので,そのまま使っています。

研ぎ直しは#1000(シャプトンオレンジ)からはじめて,#3000(スエヒロ),丸尾山黄色巣板の順に研ぐことが多いです。そこから先はその日の気分で石が変わりますが,上の画像では,丸尾山新大上,丸尾山千枚の順に研いで仕上げました。この切り出しは主にプラスチックのバリ取りに使っていて,そのために切っ先を尖らせてあります。このくらい尖っていると,研ぎには添え棒を使った方が仕上がりが早く,指にもやさしいです(画像/MWS)。








2011年8月17日


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カバーグラスを500枚も清拭したので手がボソボソになってしまいました。こういうときには指先のリハビリにと,10分だけ切り出しを研ぎました。切り出しは簡単に研ぎ直しができて,切れ味もよく,姿もかっこよく(ここが大事),天然砥石で研ぐのも楽しいので,筆者のよき遊び相手です。そしてまた切り出しは,いい加減に研ぐと研ぎの汚さが露呈し,おのれの手抜きを鏡のように映し出します。たとえ10分でも,手抜きすることなく,きれいに面で研ぎます。

購入時の切り出しや,骨董市で入手した切り出しは,ほとんどすべて,まともに研げてはいません。裏は適当になぞっただけ,全体によじれていたり,表は二段刃になっていたりと,ゴマカシのデパート状態です。こういった刃物をきれいな平面に研ぎ,きれいな裏を出しますと,一仕事終えたような良い気分です。作業自体は実に単純で簡単です。しかし気を抜くことはできません。もーこのくらいでいいかと,安易に仕上砥石に移ると,必ず失敗します。

筆者の経験によれば,切り出し研ぎの極意は,#600〜#1000程度の中砥の研ぎにおいて,刃先と切っ先まで完全平面になっていることを確認できるかにかかっています。砥粒が粗いので見てもほとんど分からないくらいの段差が残っていることがあります。これを見抜けないと,後で時間だけが消費されていくことになります。もちろん,中砥の平面をどれだけきちんとしているかが,大切になってきますし,手元が狂うなどは論外です。刃先を見てすぐに中砥に戻れる人は,たぶん研ぎの得意な人であろうと思います。全国221人の研ぎファンのことも考えつつ,そうやって筆者は指先のリハビリをしていたのでした。上の画像は筆者が持っている切り出しのうち,平面に研いでいるものです。修正中のものもあります(画像/MWS)。








2011年6月27日


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研ぎファンには周知のことですが,いちばん消耗が激しいのが荒砥石です。筆者の主な研ぎ物は包丁なのですが,刃欠け修正や変形した包丁の整形もこなしますので,荒砥の出番がかなりあります。肥後守なども最初は荒砥からはじめます。上の画像は残り少なくなった荒砥の一部です。ほかにもなくなってしまった荒砥がいくつもあります。むかしの荒砥は柔らかいものが多く,出刃包丁などの修正などやろうものなら,砥石ばかり減って何をしているのかわからないほどでした。最近はシャプトンをはじめとして,研削力の大きな,硬い砥石もありますので,作業はかなりやりやすくなったように思います。

小さくなった荒砥は,砥石の面直しなどに使います。コンクリートブロックで擦って荒砥の粒子を出し,それでほかの砥石を研磨します。大村砥はそのままでも砥石の面直しに利用します。この砥石は非常に粗い粒子ですが,粒の角がまるく,深いを傷つけません。なのでシャプトン#1000の面直しには欠かせないものとなっています。ほかに丸尾山の砥石を購入し,最初に使うときに平面を付け直しますが,このときも大村砥からはじめます(画像/MWS)。








2011年6月26日


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砥石は小さなかけらまで使えますから,捨てるところがありません。コッパを購入して,使いやすくするために石切り鋸で切断したりもしますが,その切れ端が有効利用できます。主な用途は,包丁のサビ取りで,タマネギなどを切ったときにできる変色を磨きとるのに重宝します。ほかに曲面の研ぎで,切刃を滑らかにする用途や,裏押しでカエリがとれたかどうかわからない場合に刃先をそっと撫でる用途にも使います。上の画像は手持ちのミニ砥石の一部で,新田巣板,丸尾山敷戸前,合さ,戸前,白巣板,カミソリ砥,浅黄の巣板などです。研磨力,硬さ,細かさ,研ぎ上がりの光沢など様々なので,用途により使い分けます。大きさがわかるように,ポケットアルカンを一緒に撮影しています(画像/MWS)。








2011年6月23日


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先日掲載した肥後守(ひごのかみ)ですが,まだ仕上げ途中のでたらめ斑目が気になっていましたので,それなりの霞仕上げになるように研いでいました。それで気が付いたのですが,肥後守といえば安価な利器材を利用した最低限の加工だけを施した刃物という印象なのですが,画像真ん中に写っているヤツは,地金と鋼の部分が波打っています。ふつうは,その下に写っているように,地鉄と鋼のラインが直線なのです。うーむ,ひょっとすると,少しくらいは鍛造した刃物なのかしらと,少し嬉しい気分です。ちなみに,波打っている方が「割込登録肥後隆義別打」で,その下が「ハリマ肥後」です。

全国231人の研ぎファンのことも考えて解説すれば,肥後隆義の方は,各種荒砥・中砥で研磨したあと,#3000の工具用人造砥石,次に丸尾山黄色巣板で全体を整形し,形ができあがったら,新田巣板で切刃を滑らかにします。このまま終わりでもいいですが,今回は撮影用に,丸尾山合さで切刃を軽く研磨しています。丸尾山の合さは地鉄を曇らせ,サビさせるのも早いので,水を滴下して,2cm×1cmくらいの合さの薄片で全体を素早く研磨し,十数秒放置して酸化させ,すぐに水洗いして拭います。この工程の加減具合で地鉄をほどよく曇らせ,鋼とのメリハリがつくようにしています(画像/MWS)。








2011年6月12日


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切刃を細かく研ぐと光を反射するようになり,鏡面と呼ばれているような状態になります。しかし筆者はこの分野に関してはあまり詳しくないので,どのくらい鏡に近ければ鏡面と呼ぶのかを知りません。研ぎが粗くても,切刃すれすれに光を入射すれば反射しますし,垂直に入射すれば拡散してぼけてしまいます。たぶん,研ぎにおける鏡面という言葉は,人それぞれの解釈のような気もします。でもまあ,鏡面の度合いを比較することならできそうなので,反射させる物体を決め,照明とカメラを固定し,同じように刃物を置いて撮影してみましたが…。これがまた,たいへんに難しい。ちょっとした角度や写し込む文字によって印象が変わります。ほとんどの仕上砥石では文字が写りにくいので,入射角を浅めにとる必要があります。

そんな中の一枚が上の画像です。京都・尾崎産の合砥で仕上げたもので,これなら鏡面と言ってよさそうです(画像/MWS)。








2011年6月10日


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形のできあがった鉋などをサラサラと研ぐのも楽しいのですが,ボロボロに錆びた古い刃物の再生はもっと面白いのです。使えないものが使えるようになる過程も良い気分ですし,ぴかぴかの金属光沢が出てくるのが精神衛生上たいへんよろしい。。ということで,疲れたときなど,ががーっと研ぎ物をしたくなるときがあります。筆者は子どもの頃から,ぼーっとするというのが苦手で,それがどういうことなのかが今でもよくわかっていません。脳みそが勝手に何かを考え続けてしまうのです。ですから幼少の頃から,布団に入っても2,3時間も寝られないなどという日々を過ごし,それが普通になってしまいました。今でもその名残が残っていますが,研ぎを覚えてからは,1時間以内には寝られることが多くなってきたような気がします。筆者の脳みそは,研ぎをしているときに休息しているのかも,と思ったりもしています。画像は,骨董市から連れて帰った肥後守です。まだ最終仕上げ前ですが,ここまで形を作っておけば,あとは楽チンです。ボロボロの刃物がここまできれいになるのに,10種類くらいの研磨用具・砥石を使いますが,脳みそはほとんど使っていない気がします…(画像/MWS)。



*1 子どものころからむずむず脚症候群の重症患者でもあったので,春から秋にかけての入眠困難はそこにも大きな原因があります。むずむず脚症候群も脳の病気とされていますので,やっぱし筆者の脳がおかしいという結論は変わりません…(^^;





2011年6月9日(2)


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ひじょうに目の細かい砥石で鉋を研ぐと,鋼は鏡のようにピカピカに光り輝き,地鉄は折り畳んだ模様が美しく浮かび上がります。これが楽しくて,筆者は観賞用の鉋を一枚持っていて,暇があれば砥石を変えて研いでいます。研ぎ上がりは砥石の種類や研ぎ方,水の量,水分の拭き取り方などによって様々に変化します。とても研ぎにくくて,コツが見つからない砥石があると思えば,サラサラと楽に研げて素晴らしく美しい研ぎ上がりになる砥石もあります。

きょうの画像は,手持ちの砥石でもっとも細かいと思われる,産地不明(中山かも…)の古い(手挽き)砥石で研いだ鉋と,丸尾山の名品『合さ』で仕上げた鉋です。古い砥石の方は,カッチリと合わせるのが難しい,硬い砥石です。ひじょうに食い付きも強く,地もひきやすく,扱いの難しい石ですが,上の画像に示した通り地鉄の模様がくっきりと浮かび上がってきます。『合さ』は滑らかで柔らかいのに硬さもあり,粗い研ぎ感なのに細かさもあり,泥っぽさが多少あるのに粘りすぎないという,まことに不思議な砥石です。じつに気分良く研ぐことができ,簡単に良い刃がつきます。仕上がりは,下の画像にように,しっとりとした感じの地鉄に仕上がり,鋼とのメリハリが出てきます。全国227人の研ぎファンのことも考えつつ,こんな違いを筆者は楽しんでいるのです(画像/MWS)。







2011年6月7日


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筆者の最初の研ぎ物は,たぶん中学生のときに腕時計を分解しようとして,精密ドライバーを細くしたのが最初だったかな,というのは以前にも書いた気がします。ではそれから数年後に何を研いでいたのかというと,きょうの画像の品物です。筆者は学生の頃に80386SXを使い始めた程度の中年オヤジなのですが,それでも,同年代で,この品物を何だか知っている人は相当に少ない印象です。以前,年末恒例大忘年会で披露したら,ほとんどの人が知りませんでした。この道具を,耐水ペーパーで研いで使っていました。

筆者がなんでこれを知っていたのかというと,高校生の頃,内田洋行のカタログがどこかに転がっていて,それの製図用品のページを何度も眺めていたからです。セット品などは,最高級の一眼レフカメラが買えるようなお値段で,カタログでみるのがやっとでしたが,デザイナーでもトレース屋でもないのに,何故か欲しくてたまりませんでした。今にして思うに,道具というものに興味があったんですね。そういえば中学校の頃にも,まともなピンセットが欲しくて,全財産を叩いて?HOZANのP-88(だったと思う)というピンセットを買った覚えがあります。これは実に使いやすくて,良い道具とはこういうものかというお勉強になりました。

それで結局,このカラスの口に似た道具は,ステッドラーやロットリングやPIGMAの細線が引けるペンよりも実用性が劣ると気づき,時代の遺物として保存されることになりました。いったいどのくらい役に立ったのかと思うと心許ない気もしますが,そのうちに思いもよらぬ新しい利用法を思いついて生まれ変わるのを待つことに(^^;しています(撮影/MWS)。








2011年6月5日(2)


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筆者の研ぎ歴は,おおよそ10年くらいで,天然砥石の使用歴もそのくらいです。でも,天然砥石の良さ,というのが今ひとつ分からずに長い時間を過ごしました。研ぎそのものはできましたし,切れる刃も付きましたが,天然砥石の良さ,というものが実感されなかったのです。ですから,硬い砥石を使ってみても,使いにくいなぁという印象でしたし,柔らかめの砥石でごまかして研いでいたという感じもしていました。

それが,あるきっかけで こちら の先生から,優れた天然砥石の現物を示してもらい,筆者の目から大量のウロコがはがれ落ち,天然砥石に開眼しました。

どういうことかというと,「これは優れたものなんだ」と信じて研ぐことにより,その砥石の性能を引き出して使うことができたということです。筆者に必要だったのは,その「ひとこと」だったのです。

その言葉のおかげで,手持ちの石も優れた天然砥石であることが明らかになりました。職人の「これはいいものだよ」という何気ないひと言に秘められた,経験の積み重ねに気付かされた出来事でした。

上の画像は,7,8年くらい前に購入したセール品のコッパです。硬くて使いこなせず,切り出しを研いでも傷だらけにしてしまい,よくない砥石と思っていましたが,地鉄の柔らかい鉋を研ぐと,非常に目の細かい素晴らしい仕上がりになります。使いこなせるようになるのに時間がかかりすぎましたが,いまでは宝物です(撮影/MWS)。








2011年1月14日


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年末に仕入れた砥石をようやく使うことができました。全国の研ぎファン(^^;が待っていることも考え,今回は砥取家から入手した「八ノ尾(巣板ぎわ大上)」という石で切り出しを研ぎました。砥石は見た目もそれぞれ個性がありますが,刃物をあててみると,それ以上に石の違いが感じられます。この石も独特の研ぎ感で,丸尾山の石ではないことが伝わってきます。驚くほどの研磨力がある石で,どのような刃物にも向いているように感じられます。この石も京都・亀岡地方のものですが,本当に京都の山というのは宝が眠っている山だと思いました(撮影/MWS)。






2011年1月3日


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今年も全国の研ぎファンに面白い画像をお届けしようと年頭所感を持つ次第です。そのための入荷も続いていますので,今年も,ますます研ぎを究める「研究」の年にしたいと考えます。全国の研ぎファンのみなさま,本年もよろしくお願い申し上げます。画像は砥取家の誇る高品質な砥石群で,割と最近入荷したものです。合さの色が素晴らしく,黄色巣板の均一性に惚れ惚れし,新大上の詰まった石質に感動します。小さな八ノ尾のコッパは,いったいどんな研ぎ味なのかと,石を見るたびに楽しくなります(撮影/MWS)。







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