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珪藻

って何?
 (珪藻早わかり)


珪藻(けいそう)とは水中にいる藻(も)の仲間のグループです。でもただの「藻」ではなくて「珪」をもっている藻なのです。珪とは珪素(ケイ素),珪石(けいせき)などに使われる漢字で,ガラスの一成分である珪素の意味があります。珪+藻で珪藻,これはガラス質の藻,珪素を持っている藻,そんな意味を表しています。珪藻は世界中の水のあるところにいるので,誰でも目にしたことがあるかと思います。たとえば,



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これが珪藻です。珪藻は「藻」ですから光合成を行う植物の一種と見なしてよいのですが,緑色の光でさえも有効に利用するために全体で茶色になるような色素構成となっています。大雨のあとの河川は石ころが石ころの色のまま見えていますが,しばらくすると茶色になるのは珪藻が一面を覆ってしまうからです。さて,珪藻は植物ですから光合成します。光合成が活発に行われれば酸素が発生しますが,これは目で見えます。



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こんな感じです。一枚目は川底の石についた珪藻から酸素の泡が発生しています。二枚目はの画像では,たくさん増殖した珪藻が酸素の泡で浮き上がってきたところです。見た感じでは汚いドロドロに見えますが,実は生きている珪藻の集団で,汚いものではありません。二枚目のドロドロを少しとって顕微鏡で覗いてみましょうか。



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このように見えます。顕微鏡で拡大しても茶色いものは茶色いです。拡大した分,重なりがなくなるので色は少し薄く見えます。これはメロシラ・バリアンスという名前の珪藻です。大きさは,0.03ミリよりも小さく,0.01ミリよりも大きいくらいです。細胞一個が茶筒のように,2個のパーツでできていて,それぞれの直径がほんの少しだけ違っていて,お互いにぴったりとはまっているのです。この珪藻はたまたま茶筒のような格好でしたが,ほかにもいろいろな形の珪藻がいます。川の脇にできた池から沈殿物を採取して顕微鏡で見てみると,



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こんなものが見えたりします。もちろんこれも珪藻です。これらの珪藻も,それぞれの形態の半分の殻がぴったり合わさってひとつの細胞を形成しています。珪藻の分類は,この珪藻の殻の形で行われるのですが,とても種類が多く,何万種もいるとされています。つまり,殻の形が何万種もあるのです。だから形態がとても多様で,奇抜な形があったりして面白いのです。大きさも多様で,最大でも約1ミリメートルくらい,最小では約0.003ミリメートルくらいです。珪藻はガラス質の殻を持っていますから,細胞の中身がなくなってしまっても,この殻だけはずっと残ります。このガラスの殻は皆さんもきっと見ていることと思います。例えば,



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これは日照りが続いて河川が干上がってきたところです。白いラインが引かれたようになっているのが見えますが,これは数日前の水際線です。ここに大量の珪藻が増殖していたのですが,水がなくなり乾燥し,強烈な直射日光で焼かれて細胞が空っぽになってしまったものです。この白い部分は珪藻のガラス質が集まっているもので,いわばガラスの粉をぶちまけたようになっているのです。これを少しとって洗ってから顕微鏡で見てみると,



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珪藻の山になっています。大きさは0.01ミリメートル前後で,まさに細かいガラスの粉といった感じです。このような具合で,珪藻は水があればどこにでもいるとても身近な生き物です。水は,淡水でも,汽水でも,温泉でも,海水でも構いません。では,こんどは海に行ってみましょうか。



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はい,海に到着しました。東京湾の千葉側です。水が茶色い感じで「青い海」とはほど遠い感じがしますが,じつはこの「茶色」も珪藻の色なのです。水を汲んで携帯顕微鏡で覗いてみましょうか。



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ほら,こんな感じですよ。珪藻だからやっぱり茶色いのです。そしていろんな形のものがいます。この珪藻,水に浮いているんです。浮きながら生活しているので浮遊珪藻ともいいます。珪藻は「藻」ですから,陸上でいえば雑草みたいなものです。とにかく空き地があれば雑草が茂るように,水があれば珪藻が生えてくるのです。雑草は昆虫が食べたり人が利用したり家畜の餌になったりしますが,珪藻も同じで,プランクトンの餌になったり,貝類の餌になったり,魚の餌になっていたりします。ほかにもいろいな珪藻がいますが,



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このような感じのものもいます。どの珪藻も浮遊珪藻ですが,浮くために,殻を特別に薄くしたり,刺(トゲ)を生やて水の抵抗を増したりしています。このトゲのことを刺毛(しもう)といいますが,この部分のガラス質でできています。0.001ミリもない繊細なガラスの毛なのです。こういったものがふわふわと水に浮いていて,ほかの生物の餌になっているわけです。お魚さんを見てみれば,



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これはマイワシですけれども,これのフンを薬品で処理して,珪藻の殻(被殻:ひかく)を取りだして顕微鏡で見ると,



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このように珪藻がたくさん出てきます。繊細な珪藻は粉々になっています。大海原を泳いでいるマイワシ君は,珪藻を食べてまるまると肥えていくのです。珪藻を食べているのはマイワシばかりではありません。私もあなたも大量の珪藻をふつうに食べています。イワシを食べれば一緒に珪藻を食べることにもなりますが,ほかにもあるのです。それは何かというと,



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これです。これは海苔の上にいた珪藻です。海苔は内湾などで育つ海藻ですから,とうぜん珪藻も一緒に育っています。海苔に付着する珪藻もいるので,一緒に食べているわけです。手近に珪藻を探したかったら,家の中でも珪藻は見つかることでしょう。ちなみに,生きているときの姿は



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こんな感じの珪藻です。なかなか美しいのです。ほかにも,「もずく」を食べれば一緒に入っている珪藻を食することになります。もずくを洗って珪藻を取りだしてみれば,



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ちゃんと珪藻が出てきます。この画像は塩蔵品なので珪藻は死んでいますが,生もずくなら生きている珪藻が出てきます。ちなみに,珪藻は昆布やわかめといった海藻(褐藻類)に近縁で,食べても何の害もありません。大量に集めて乾燥するとコンブみたいな香りがします。

ざーっと珪藻というものを見てきましたが,ここでちょっとまとめてみれば,珪藻は水のあるところにはどこにでもいて,その量がやたらに多く,大量の二酸化炭素を吸収して,光合成で地球上の酸素の1/4も作りだし,ほかの生物の餌にもなっていて,珪藻がいない地球などおおよそ考えられない,というほどに重要な生き物なのです。我々の吸う酸素も,食卓に上るお魚も,珪藻なくしては存在しない,それほど大事なのです。でも,誰も知らない気にしない,学校の先生でもほとんど知らない,それが珪藻です。小さいばかりに,誰も気にしてくれないのです。

さーてさてさて,珪藻が面白いのはここからですよ。珪藻は生きている姿も美しいのですが,何しろ細胞壁がガラス質でできていますので,死んだ後も美しいのです。このガラス質はケイ酸という物質でできていて,身近にあるもので似ているものは「シリカゲル」です。せんべいの袋に入っている,あの乾燥剤です。水には比較的溶けにくく,いったん海底や川底,湖の底に落ちてしまえばさらに溶けにくくなるので,何百万年でも残ります。こういう古いものは珪藻化石と呼ばれます。

このガラス質の模様を美しく見るには,珪藻を薬品などでよく洗って,ケイ酸の被殻だけにすることが大切です。邪魔になるものは何もないほうがいいのです。



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これはコアミケイソウ(小網珪藻)の仲間ですが,生きている状態です。これを処理して珪藻の殻(被殻)だけにしてしまえば,



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こんなふうに殻の模様だけを観察することができます(生きているのとは違う種を撮影しています)。また,殻がきれいになっているので,顕微鏡用の標本(プレパラート)が作りやすく,珪藻をスライドグラスとカバーグラスの間に封じ込める封入剤がきれいに浸透するというメリットもあります。よい封入剤と高い技術で封入できれば顕微鏡の性能をフルに発揮することができて,



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こんなに細かい模様も練習次第で見ることができるようになります(これも違う種です)。この中央部の細かい模様は,0.0003ミリメートルくらいの間隔で,これは橙色の光の波長の半分サイズです。光の波長よりも細かい構造が見えているのです。

こういう風に奇麗にした珪藻の殻(被殻)を眺めていると,珪藻というものの不思議さ,デザインというものの意味,いろいろなことが自然に頭に浮かびます。だって,



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こんなものがいたり(ギョロメケイソウ)



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こんなものがいたり(クチビルケイソウ)



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こんな素敵な格好のものがいると思えば



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こーゆー格好のものもいるのです。これを不思議と言わずして何とやら。公園の池の泥から探してみれば,



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こんな珪藻たちが見つかったりします。ここで見たのは全体の姿ですが,顕微鏡をよく調整して,高倍率で注意深く検鏡すると驚くほど細かい模様があることがわかります。例えば,



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こんな具合です。これらの珪藻の微細構造は比較的観察が容易ですが,もっと難しいものもあって,



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これはアミバリケイソウ(Amphipleura pellucida)という種ですが,この構造を光学顕微鏡で解像できる人は達人レベルです。珪藻学者は最高級の顕微鏡を使う人たちですが,ほんの一握りの人しか,この構造を写し止めていません。もっとも現代では,顕微鏡を勉強して技量を磨けば誰でも見ることができます。日本では主にトップレベルのアマチュアがこの構造を撮影することに成功しています。



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こちらは先に採り上げたギョロメケイソウ(Auliscus sculptus)の目の部分の拡大です。このレベルになるとさらに難しく,世界中探しても,この構造を光学顕微鏡で撮影できる人は,ほんの一握りでしょう。もちろん,電子顕微鏡を使えば簡単に見えるわけですが…。



というわけで,珪藻には顕微鏡でも見えない細かい模様があることがおわかりいただけたことかと思います。このような細かい模様を人間が作るのは難しくて,現在では電子線リソグラフィーなどで作ることもできますが,コストがかかりすぎますし,作れるパターンにも制限があります。珪藻はどこにでもいますので,それをつかまえて標本にすれば,人間にも作れないような細かい模様が入手できる,ということになります。

この細かい模様は顕微鏡の対物レンズをテストするのに向いています。あまりにも細かい模様があるので,その模様が見えているかいないか,どのくらいはっきりと見えているかを調べることにより,レンズの優劣がわかるのです。また逆に一本のレンズを付けたままにすれば,ユーザーの技術を暴き出します。19世紀に高性能の顕微鏡を開発したカールツアイス社は,新しい対物レンズが完成するたびに,専門家が製作した珪藻標本を検鏡して設計値の性能があるかどうかテストしていました。珪藻の細かい模様は高性能対物レンズの開発には,なくてはならないものだったのです。

近年では,珪藻の微細構造から人類が学ぶべきことは多いとして,ナノテクノロジーの研究者が珪藻の構造や殻の作られ方,成分や強度など様々な方面から研究を進めています。

さて,ちょっと話がマニアックな方向に走りました。ミクロワールドサービスが提供している珪藻プレパラートは学校教育用の顕微鏡や旧式の顕微鏡でも美しく観察できるように,コントラストの高い,大きい珪藻なども取り揃えています。例えば,



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こんな顕微鏡があります。大正時代のライツの偏光顕微鏡です。たぶん,1923年頃製作のものです。このような顕微鏡でも,もちろん珪藻はきれいに見えて,撮影してみれば



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このように写ります。旧式の顕微鏡は中古市場でとても安価に取引されていますが,レンズが汚れていなくて,メンテナンスが行き届いていれば十分に見えます。珪藻の連続した構造が見事です。一部の珪藻に色が見えますが,染色しているわけではありません。どうも干渉色(構造色)が出ているようです。



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こちらは高等学校で生物の授業に使われていた顕微鏡です。研究者が使うような顕微鏡と比べれば簡素ですが,性能は侮れません。よく調整して正しい照明を施して撮影してみれば,



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珪藻の持つ不思議さ,繊細さがじゅうぶんに見えています。珪藻はガラス質なので本来は無色なのですが,レンズを使って見ると色収差により多少は色づいて見えます。教育用の顕微鏡だとその度合いが大きいですが,それでもこのくらいに見えるのですから入門用としては十分な性能といえます。



さて,珪藻標本というのは,光学的に正しい位置に珪藻があることが必要です。適切な厚さのカバーグラスを用いて,顕微鏡で正しい像を結ぶような標本にしないとよく見えません。その点,ミクロワールドサービスの標本は安心です。ただ珪藻が載っているだけの標本ではなく,光学的な意味で顕微鏡観察用に調整してあるのです。このため,学校教育はもちろんのこと,光学機器メーカーが顕微鏡の出荷のための機器調整に用いたとしても万全です。実際に大手光学メーカがミクロワールドサービスの珪藻標本を品質管理用に採用しています。



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製作しているもののひとつは散布スライドといって,珪藻を含んだ溶液をカバーグラスに垂らして広げ,それを封じたものです。多種類の珪藻を含んだものからピュアなものまでいろいろ取り揃えています。珪藻が賑やかで楽しいものが多いです。視野を移動して探せば,珪藻単独の姿を撮影できることもありますし,傾いた珪藻を探して全体の形を考えたりすることもできます。コントラストが高くなるような封入剤を使っているので初心者でも見やすいと思います。

もう一つ製作しているもので,人気があるのがJシリーズです。Jの意味は特に定めてはいませんが宝石のJでもありますし日本のJでもあり,楽しさ,喜びのJでもあります。このシリーズの標本は,珪藻をきれいに洗って乾燥し,そこから無傷で汚れていない珪藻被殻を探し出して拾い集め,ひとつずつ並べて封入したものです。



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こんな感じの作業になります。すべて手作業で,ひとつひとつ拾い出すわけですから,その作業量は膨大で,高度な専門性が要求されます。しかしながらその見返りとして,目的の種類をある決められたデザインに並べることができ,学術上も,鑑賞品としても数段,価値があがります。製作物の一例は,



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このようなものがあります。珪藻に色がついて見えますが,これは珪藻の微細構造があまりにも整然とした周期でしかも細かいため,光が特定の方向に回折して分光してしまうことと,また細かい構造を原因として干渉が起こるということもあるようです。回折の方はCDやDVDの裏側に白色光を当てると種々の色が見えるのと似た現象です。で,これらの色の出方は照明方法や使うレンズによっても変化するのですが,その関係を整理しておき,美しい色が出るように設計して珪藻を並べています。

ところで,こうやって出来上がったものを見てみると珪藻の大きさが分からずに簡単に作れそうにも思えてしまいますが,



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実際には米粒と比較してもこれほど小さく,恐らく10万個集めても米粒一個分にもならないでしょう。芥子粒よりも小さな,吹けばどこまでも飛んでいくガラスの殻なのです。これを拾い集めるだけでも大変なのに,並べるのはもっとたいへんなのです。でも,並べるというのはよいことです。並べるというのはキレイに見えるという効果も生みますし,コンパクトに収納するということにもなりますし,使いやすいということにもなります。仕事でたくさんの品物を扱う人は,みんな並べているでしょう。並べるというのは人間にかかせない動作なのです。



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これはJシリーズの技術で製作した珪藻テストプレートです。顕微鏡対物レンズの性能試験に適した珪藻を整然と一列に並べています。このため珪藻を探す必要がなく,高度に平面に保たれたカバーグラス上に貼り付いた珪藻を無収差の状態で検鏡できます。ステージをずらして珪藻を移動させてもピントの変化はほとんどありません。アマチュア顕微鏡観察家の練習用としても最適で,多くの方にご愛用頂いております。また光学メーカーさんや,研究所,大学などでもご利用いただいております。



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Jシリーズの技術を適用すると珪藻の向きも変えられますので,正面方向,横からの向きと並べることで珪藻の立体構造が一目瞭然です。このような標本は珪藻類の導入教育や,研究施設等の一般公開などにおけるデモ展示にも活用でき,すでに多くの採用例があります。

さて,かけ足でみてきました珪藻ツアーも終わりにさしかかりましたのでいくつかの珪藻を観賞いただきましょう。



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ミクロワールドサービスで珪藻プレパラートをお買い求めになった多くのお客様は,お買い上げのプレパラートの種類に関係なく,「一生の宝物にします」「宝石のよう」「久しぶりに時間を忘れて夢中になった」とメールを下さいます。仕事疲れを取るのに最高だとのお言葉も頂戴しています。中には,珪藻プレパラートを先にお買い求めになり,それから「顕微鏡はどれを買ったらいいですか」と相談に来られたお客様もいらっしゃいます。とても素敵な考え方です。



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人類は昔から美しいものを追い求めてきました。珪藻も顕微鏡が発達した19世紀頃から常に観察家の手元にあって多くの人を魅了してきました。それは宝石を愛でるのと,絵画を鑑賞するのと少しも変わるところがないでしょう。きれいなものを眺めるのに理屈は必要ないのです。時代が変わっても人々の心を惹きつける構造の妙。それが珪藻です。皆さんも,美しいものをご覧になりませんか。



* 珪藻を見るための顕微鏡につきましても随時ご相談をお受けしております。これから顕微鏡観察をはじめたいという方もお気軽にご相談ください。



(2012年11月23日 1st.ver. 24日一部修正  このコーナーは常時書き直します)






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