珪藻は古くから顕微鏡対物レンズのテスト用試料に用いられてきました。英国のソリットという人が1841年に始めて以来なのだそうです(東條四郎『レンズ』による)。人間がつくれないほどの微細な周期構造の刻印があり,割と入手しやすいこともあって永く用いられてきたのでしょう。珪藻の刻印のサイズは種によってほぼ一定で,天然のミクロ定規といえます。顕微鏡が趣味として流行した19世紀後中頃では,顕微鏡光学は発展途上であり,職人の経験と勘による製品作りも行われていましたから,対物レンズの出来をチェックするための工程として珪藻によるテストは大切なものであったと考えられます。
いちばん上の画像は現在でも市販されている珪藻を用いたテストスライドグラスで,英国のKlaus D. Kemp氏の作になるものです。画像をみてわかるように8種の代表的なテスト用珪藻を高度な技術を用いて並べてあります。低い開口数の対物レンズを用いて暗視野照明で観察すると美しい干渉色が確認できます。珪藻の種によって色が違うのは,殻に刻まれている模様の周期が異なるからです。上の画像ではおおまかに,細かい周期構造の干渉色は青〜藍色で,相対的に周期構造が大きくなると黄色〜オレンジ色になっています。これらの珪藻の構造を観察して見える/見えないを基準に対物レンズの良否を決定するのです。
現代の研究用顕微鏡は品質管理が行き届いていますので,珪藻のテストスライドで落第するようなレンズにお目にかかるようなことはまずありません。ここでは対物レンズの品質管理に一役買ってきた珪藻たちの,その繊細な構造の妙を味わうこととしましょう。
なお,油浸対物レンズの検査用として名高いAmphipleura pellucidaを用いたテストスライド(テストプレパラート)はMWSから【RL-TEST】として供給されています。
8 species of the diatom
8 species of the diatom (dark field)